第1四半期「リョウとシズナ」
リョウはいきさつの報告をおこなった。
ひさびさに話すからか、すこし緊張した。
「……そう」
目を伏せて、ただそれだけ、シズナは言った。
キョウカとの対話の件は、――打ちあけたものか、どうか。話がそこに差しかかったとき、正直まよった。ペンダントは、遺跡のどこか奥深くで、ひろったことにでもしようかと思った。
でも、ポーカープレーヤーとして優秀なリョウではなかった。シズナのほうから察して、こう言った。
「キョウカね」
「……あの……」
隠しごとをしようとした後ろめたさに、言葉がつまった。
「どうして?」
「……どうしてもなにも、こんな大きなマナの結晶が、そうあるはずもないし」
そして、すこし間を置いて、わずかに表情をほころばせて、こう言った。
「……なんてね。これ、……わたしがあげたものなの」
「え? ――シズナさんが?」
シズナは、うなずいた。
「わたしが、……プレゼントしたの。キョウカに」
そのときの思い出を、聴かせてくれるのではないか。そう思って、リョウは待っていた。けれどもシズナは、
「座ったら?」
と椅子に目をやってうながしたっきり、
「――悪かったわね」
聴きのがしかねないくらい小さな声で、そうつぶやいただけだった。キョウカの話は、それきりだった。
つぎに、話題はこう移った。
「カツモンたちにも、お礼を言わなきゃ」
リョウはシズナの真意をさぐった。知っているのだろうか、カツモンたちの最期を……? もしかしたら、そのうえで……? でもそれは、思いちがいだった。
「いろいろ、気をつかってくれたの」
――知らないらしかった。お礼、それは貢献に対してじゃないのだ。生きていると思っているのだ、みんな。またすぐ、当たり前に会えると思いこんでいるのだ。
「わたし、もっと、うまくやれると思う。これからはもっと……力を『使う』なんてかたちじゃなく、『借りる』っていう考えで――」
うぐっ、とリョウの喉がなった。シズナの言葉が、とぎれた。
「どうしたの?」
シズナは、不安そうに尋ねた。
リョウは、
「……シズナさん」
と覚悟をきめて告げかけてすぐ、いや、でも……と、心揺さぶられた。
もうすこし、待ったほうがいいかな?
いまこうして、話ができるくらいに回復してきてはいるものの、まだ万全の状態じゃないはずだ。
もうすこし、復調するまで、待ってから……。
けれどもシズナが、
「……ねえ。どうしたの……?」
と目を合わせるのも怖がりつつ重ねて問いかけたとき、突然、リョウに決壊のときがきた。
ぼたぼた、大粒の涙を溢れさせながら、リョウは無言で、物語の本を差しだした。
シズナも無言で、読んでいた。
くちびるに、きゅっと緊張がみなぎった。
「ちょっと」
シズナはようやく言った。
「ひとりにしてくれる?」
リョウはすぐに立ち上がった。
たっくさんのノート。
膨大な画用紙。
すみずみまで有効活用されたチラシの裏。
どさーっとシッポはぶちまけた。
かたっぱしから、あさりまくった。
使えそうなものだけ、ピックアップしていく。
作業台には、先日港でいただいたあの真っ白い作業服と、リョウの泥んこジャケットが、でろりと横たわっている。
――考えてみりゃ、変な話だよ。
ただの土いじりに、なんでこんな重装備が必要なのか?
なにか、ヒミツがあるにちがいない。
アンちゃんが、言ってた。「マナ」がどうの、光がどうの。
タナカの横で、シッポも説明を聞いていたはずが、くわしいことはぜんぜん覚えていない。きちんと聴けていなかったのだ。こっちの頭は、そのとき別件に占められていたから。
――オイラだって、やれるんだ!
無限枚ありそうなデザインをひとつずつ吟味しながら、シッポは内心声をあげつづけていた。
――やれるんだ! オイラ、作るんだ!
アンちゃんのための、スーツ。
二次選考に、間に合わせるつもりだ。
リョウは、世間一般の意味での「カツバトユーザー」ではないらしい。港で、荷台で、遺跡で、なにより一次選考で、バトルでない、ソウゼツな就活を戦っていた。そして、それは敵もおなじだった。
世界のいったいなにがどう変わろうとしているのか、シッポにはもちろん理解なんてできていない。するつもりもない。それはシッポの「仕事」ではないからだ。
シッポの仕事、それはカツバト以前の、いやもしかするとそれ以上に危険な就活を戦うリョウのための、強靭で、軽やかで、そして、できれば「スタイリッシュ」なスーツを仕立てきることだ。
――オイラ、できるかな?
できそうだった。だって、やってやるからである。
そもそも、シッポは一次選考の結果だってまだ聞いていない。聞きもしないうちに、二次選考むけのスーツをつくろうとしているのだった。その二次選考の内容だって知らない。――それはいい、どうでもいい、のかもしれない。できることを、じぶんの仕事をやるだけだから。
ただひとつ、もやもやするのは――。
――エリカ姉ちゃん。全然、来ないな。
それは、リョウも気がかりに思っていた。
二次選考の結果はいちおうメールで報告したけれど、返事がない。
電話をしてみても、つながらない。
シッポならなにか知っているかも、とも思ったのだけれど、部屋の前まで来たとき、
――トン、カン、トン、カン!
とあの快音が高らかだったので、邪魔するのははばかられた。
エリカ、どうしたんだろう?
シッポのところにいるのなら、それでいいのだけれど……。
でも作業中、シッポはエリカを部屋に上げるだろうか?
公園に行ったあの日、エリカは訪問を遠慮していた。
――考えすぎかな。
べつに数日くらい、音信不通になることは誰にだってあるだろう。つとめて、そう思いなおそうとした。
二次選考が、ちかづいている。胸さわぎは、しずめなければならなかった。
花鏡院には、胸さわぎなどなかった。
あるはずもなかった。
ただ、いらだちのみだった。
――あの、エリカとかいう女。
連絡がつかない。これがあの女なりの、拒絶の示しかたか……?
――いや。
あの女に、そんな大胆な真似ができるはずがない。
そんな度胸はない。だいいち、行くあてがないはずだ。
ウツロ教授も、なにも知らないという。嘘をついている様子もなかったし、虚偽の証言をするメリットもない。
ゴーダは慌てるばかりで話にならない。ほとんど錯乱状態だ。
かもめ亭にも、面倒事に発展しないよう、ものものしい表現は避けそれとなく探りを入れてみたが、匿っている様子もない。
――どこだ? どこに消えた?
許しがたい。
この、花鏡院醇麗の計画を遅滞させるなど。




