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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第4期「流れる魂」
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第18四半期「遺跡のネオ就活生たち」


 ――おい!

 ――シッポ!


 と、それぞれ、もちろんできるなら呼びとめたかった。けれども、こんな状況で、大声などだそうものなら……。想像力など強みとしていなくったって、どうなるかあきらかだった。


 シッポのすばしっこさといったら、さすがだった。うまーく見さだめた安全地帯の数々を、音もなく、隙もなくつたっていく。


 白い男たちは、相変わらずおしゃべりに夢中。気がつく様子もない。


 行けるかも、とリョウは思ったくらいだった。


 岩山の各所に、穴――きっとかつて窓や、排気口や、職員通用口だったのだろう――が、空いている。

 そのどれかひとつから忍びこみ、作業員、監視員の目さえかいくぐり、ごつっとしたマナのかたまりをみごと、拝借してくるかもしれない。それくらいのことが、ほんとうに、できるかもしれない。


 ――と、期待を抱きかけたほどだった。


 けれどもちいさなからだにのしかかった疲労は、本人の自覚以上にひどかった。というより、自覚するまい、というのがこのときのシッポのスタンスだった。


 ――やれる。オイラ、まだやれる! オイラ、役に立ちたい!


 シッポは、全監視の注意がそれたその一瞬、穴のひとつに飛び込んでいった。


 もちろん、リョウとタナカだって、ぼけっと見ているばかりでない。できるだけ、どの入口かとお近づきになれるよう善処してはいるのである。でもそこは、シッポみたいにはなかなかいきっこない。


 そのまま、数分が経ったころ――。


 ――ギャーッ!


 という悲鳴が、中から聞こえてきた。

 たちまち、けたたましいカナリアの声。おびただしい足音。そして怒号。


「まずいぜ!」

 タナカが立ち上がった。

「リョウ、オレたちも――」


「うん!」

 見すてられるはずもなかった。



 ふたりは、混乱に乗じて、かえってたやすく遺跡に入りこむことができた。見張り業務に従事していたものたちさえ、こぞって「侵入者」のもとへ駆けつけていたからである。


 それはなるほど、彼らがチームワークをニガテとしていることの証でもあった。


 しかしそうはいってもけっきょく多勢になんとやら。


 タナカ愛用の安全灯をたよりに石窟の廊下を駆けぬけ、そのいっちばん奥、うっすら青く光る壁の一室で、とうとう、もはや「集積の不利益」が懸念されるほど詰めかけた白装束の人びとと、無勢そのもののシッポを発見した。



「――アンちゃん!」

 白い人海のむこうに、ふたりの姿がちらりと見えた。

「……アンちゃん!」


 ゴメンよ、でも、許しておくれ、でもない、そんなあわれな叫びひとつが、しかしみなまで語りつくしている。


 当然のなりゆきとして、リョウもタナカも白い人びとに気がつかれた。もちろん、シッポが叫ばなくったって、見つかるのは時間の問題だったろう。


 白い人びとは、彼らをそう呼ばしめている作業服をいっせいに脱いだ。


 ざっと七、八十人? みんな、スーツ姿だった。


「――しまった!」

 タナカは言った。

「こいつらも、あの――」


 まさに、青い光の使い手だった。みな、ぎんぎんした目でこっちを見ている。さっきの男らの雑談から察するに、ストレスマネジメントがいまひとつなものも多いにちがいない。

 チームワークの欠如も、これなら説明がつく。ひとりひとりが、功名心のかたまりなのだ。


「――宜しくお願い」

 くちぐちに、就活生たちは叫んだ。


「伏せて!」

 リョウはタナカに言った。

 そしてじぶんは、――さっきのシッポとおなじく疲れに精彩を削がれてはいたけれど、お辞儀の姿勢のまま、なんと前方に両手を差し出し、そのまま人ごみにダイブした。


 ――名刺交換と、お辞儀を、同時に!?


 これにはたまげた、就活生たち。挨拶を完遂しそびれたものも多かった。しかし散発的な「――致しますッ!」は、タナカにおそいかかった。

 リョウの指示通り、タナカは姿勢を低くしていた。だから、声の大砲は真上を通りすぎていった。


 リョウは、

「――ごめん!」

 と言いながらシッポを突き飛ばした。たちまち、シッポは包囲から救われた。


 けれども、今度はリョウが囲まれる番だった。


 就活生たちの憎悪はすさまじかった。じぶんより頭のいい人間、体力の充実した人間、気力に富んだ人間ならばまだ、大目に見ることができるけれど、じぶんより独創的な人間、それだけは、どうしてもがまんならないのだった。だから、たったいま、()()()な就活を披露したリョウはたいへんに憎たらしかった。


「――青葉若葉の!!」

 まるで、地獄の犬みたいな声で彼らは吠えた。


 タナカは駆け寄ろうとした。しかし、青い光に跳ね飛ばされてしまう。

 シッポは食らいつこうとした。しかし、難なく抑え込まれてしまう。


「リョウ!」

「アンちゃん!」


 無力に叫ぶのが、精いっぱいだった。


 リョウは目をつむった。


 ――こんなところで、

 と、思った。

 ――こんなところで!


「――好季節でございますッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 およそ、八十人ぶんの挨拶、ぜんぶが束になってリョウにおそいかかった。

 直撃は、お辞儀返しでからくもまぬがれた。けれども背後の壁はかんたんにくずれた。

 その先は、ふかーい闇。


 声に遅れて、風がおそった。

 青葉若葉の、好季節。

 あらたまった手紙の冒頭にそよっと吹かすのを推奨される、()()というものにちがいなかった。

 でもこのひと吹きは、なかなかどうして、葉っぱを散らすくらいじゃすみそうにない。これだけひとまとまりに吹きつけると、立夏の空に、ご神木だって根こそぎ運び去ってしまいそうだ。

 

 リョウなんか、ひとたまりもなかった。ふわっと持ちあがった百七十一センチ、五十八キログラムの身体が、くずれた壁のむこうにあっけなくもっていかれるのを、シッポは見た。


「リョウ!」

「アンちゃん!」


 落ちていくリョウに、ふたりの叫びはしっかりとどいていた。











 たゆたゆと、なまあたたかい液体のおもてで、リョウは目をさました。


 水? ぬるま湯? いや――。


 光だった。

 青い光。それは、液状の青い光そのものだったのだ。


 こわごわと、リョウは身体を起こした。


 どこも痛くない。

 それどころか、疲れがぬけているような気さえする。


 それでも全身、軽くすくんだのは、気配を感じたからだった。

 だれか、こっちに来る。リョウは、闇に目をこらした。


 すがたを見さだめる前に、こんな声がした。


「レジェンド・リクルート」


 おどろいて立ちあがったリョウに、その声は、もう一度こう呼びかけた。


「――レジェンド・リクルート」


 キョウカだった。

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