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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第4期「流れる魂」
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第17四半期「シッポの『勇気』」

 朝陽は、金色だった。

 そのなかでリョウはいま、こうごうしくそびえるひとつの影だ。うっとりと、シッポはため息をもらした。


 でも、当人はぼろぼろ。

 息が、荒い。腰が、いたい。あたまが、重い。


「……やった……」

 喉も、からからだ。

「……のかな……?」


 無線機から、声がした。

「――お疲れさん」


「タナカ」

 リョウは、じぶんだってそうとう疲れているはずの、運転席の親友の背中を見た。

「オレ……やったよ」


「ああ。――やったな、リョウ」

 タナカは、ミラーに目をやった。


「すごいや……アンちゃん!」

 シッポは、窓から身を乗りだした。もう泣きたい気持ちだった、くやしくて、まぶしくて。

 リョウが、シッポの――シッポの()()()スーツで、あれほどの就活を戦いきった。バトルなんかじゃない、ほんものの就活だ。


「だが油断できないぜ」


 もう完全に、人里は離れている。

 見わたすかぎり草っぱら、その奥には、山。どこまでも山。

 性格検査のひとつとして、画用紙に風景を描かせるものがあると聞いたことがあるけれど、もしこれがある就活生の心象風景だとしたら、いったいどんなパーソナリティが読みとりうるのだろう。

 明けがたの空の下、ほの暗い黄金の緑がびゅんびゅん飛び去っていく。


「あっちは確実にオレらの狙いをわかってる。――通報がいってると考えたほうがいいな」


「また、新しい就活生どもが?」

 シッポは高揚して言った。

「そしたらまた、アンちゃんが追い払ってくれるさ!」


「いや」

 ふたたびミラーを見た、タナカの声は冷静だった。おそらくリョウはもう戦えないし、戦わせたくもなかった。

「向こうの警備の連中に、さ」


「大丈夫」

 シッポは胸をたたいて言った。

「石ころのひとつやふたつ、オイラがバッチリ盗んでやるよ」


「ひとつやふたつで足りるのか?」

 タナカは、リョウに尋ねた。

 けれども、答えはない。無線機からは、せわしい息づかいだけが聞こえてきた。

 タナカは右足に思いっきり、ちからをこめた――もうメーターは、最高速度をぶっちぎっているのだけれど。


 前方に、夜の残骸みたいな、黒いかたまりが見えてきた。

 トラックは、そのまま森林地帯に突入していった。








「――見えてきたぜ」

 タナカが顎で示した、その先にでっかい岩山がそびえていた。

 リョウは顔をあげた。

 山道を数時間歩いて、体力は限界にちかかった。タナカに、肩を貸してもらっている。


「……うひゃあ」

 シッポの声もさすがに疲れ気味だった。


「山っていうか……壁だね」


「壁っていうか、洞窟っていうか……遺跡なのさ」


 赤茶けた岩肌に、おびただしい作業員たち。高所からのぞむと、こげた角砂糖に、たくさんの白アリが群がっているみたいだった。


「あの服」

 と、リョウは言った。

「持って来ればよかったね」


「いや、リョウ。今の状態じゃ、あのナリで登山なんてとても無理だし……それに、潜りこむとなるとちと、骨が折れるだろうぜ」



 なるほど、ここでは作業員同士はたがいをきちんと識別して、ときに世間話なんかも交わしているようだった。

「……まったく、アタマのいい人間の考えることはワカランね」

「え?」

「ちかごろの坊ちゃん、どうかしてるよ」

「坊ちゃんじゃなくて『醇麗様』だろ?」


 と訂正しながら、その男も、本気で注意したわけではないようだった。ふたりは――ゴーグルとマスクに覆われた――顔を見合わせて笑った。


「龍光様が生きていたら、なんと言ったかね」

「遺跡調査? ……まあ、怒鳴り散らすどころじゃなかったろう」

「『遺跡調査』なんて言えばまだ聞こえはいいが……土いじりだろ?」

「お庭にしちゃ、ちょっと広すぎるけどな」


 

 三人は手頃な岩壁を背に、聞き耳を立てていた。


「……遺跡って、就活遺跡かな」

 リョウはひそひそとタナカに問いかけた。


「っぽいぜ」タナカも小声で返した。「くわしいことはオレにもよくわからん。だが、何千年か前にゃ、オフィスビルかなにかだったみたいだな」


「……ボッチ島だけじゃないんだ」

 はるかなむかしにも、「業務」は存在したという、あのソリューニャンの話をリョウは思い出していた。すこし、こわくなった。


「しかし、どうする?」

 と、タナカ。

「アイツらの話だと、そこらで掘りだせるのはせいぜい土くらいみたいだな」


「奥まで行かなきゃ、だめなのかな」


「まあ深くに潜ったからって、鉱脈にぶちあたるとはかぎらんわけだが……」


「思ったほど緊張感がなくてよかったじゃんか」

 と、主張するのはシッポ。

「警備のやつら、ダラケてるんじゃない?」


「就活生たちが、……通報を、ためらったのかもしれない」

 と、リョウは言った。


「どういうこと?」

 シッポには、わからなかった。


「失敗を怒られるのが怖くて、連絡できなかったのかも」


「お? ――なんだリョウ、そりゃ、お前の実体験ってやつか?」

 タナカはどこかうれしそうだった。


 リョウは苦笑しながら、手を振った。それは失敗の味もわきまえた、りっぱな就活生の所作に見えた。そして――何度でも意識してしまうのだけれど、シッポの()()()スーツを着ているのだ。


 ほんとうに、どうしてオイラは、このアンちゃんのためにスーツ一着、仕立てきることができなかったんだろう。


 いまアンちゃんの着ているのが、オイラのつくったスーツだったら、どれほど誇らしいだろう。

 役に立ちたい。そうだ、オイラ、おとりにだってなれやしなかった。


 役に立ちたい。


 役に立ちたい――。


「――アンちゃん」

 シッポはひそめた声で言った。


「え?」

 リョウは悪い予感をおぼえた。


「――ここで待ってて!」


 ――石ころの、一つ、二つ……いや、十や二十くらい!



 そのままシッポは、なんと、岩かげから飛びだしていってしまったのだ。

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