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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第4期「流れる魂」
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第15四半期「コンビネーション」


 とにかく走った。


「――行ける!」

 タナカは言った。愛車はもうすぐそこだけれど、ちょっと、いのるような気持ちでもあった。


「――タナカ!」

 呼ばれて振り返ったタナカの腕は、急に、がむしゃらな力で引っぱられた。そのままふたりして、コンテナの陰に転がりこんだ。


「おい?」


 と不思議がるタナカに、問答無用で、リョウは覆いかぶさった。直後、大爆発。はげしい熱波が押しよせる。


「……ひゃあ……」

 タナカは腑抜けたような声をもらした。

「……サンキュ……」


「うん」

 うなずくリョウも、汗たらたらだった。


 頼みのトラックを見ると盛大に炎上していた。青い光をまとった誰かが「見える化」の異能をつかい、複雑な配置のコンテナを透かしてリョウたちに狙いをさだめたのだった。


 ――と、リョウはそこまで正確にわかっていたわけではないけれど、なんとなく、違和感があったのだった。


「――助かったぜ。さすが就活生、ってやつだな」

 リョウははっきりとうなずいた。就活生。そんなふうに呼ばれるだけで、前なら単純なよろこびでいっぱいになったものだったけれど――。


「車は……まあ、火の車ってやつだな」


「ごめん、タナカ」

 リョウはうつむいた。

「やっぱり、巻き込んじゃってる」


「だから、そんなこと言うなっての!」

 と、タナカはデコピン一発で相棒に顔を上げさせて、

「それより、シッポは?」

 後ろのコンテナによじのぼった。


「危ないよ、タナカ」

 そう言いながら、リョウもおんなじ気がかりであたりを見回していた。


 ……すると、


「――うわあ!」


 なにか巨大なものがうねうねと、ドラム缶やら貨物やら、フォークリフトやら跳ね飛ばし、横転すれすれに傾いて、こっちに突撃してくる。


「――シッポ!」

 二人の声が、合わさった。


 大型トラックは目の前でド派手に滑りくるいながら、それでもどうにか、停車した。ひきころさずにすんだふたりに、運転席からシッポが叫んだ。


「乗って!」


 いっときひるんだ社員たち、青い光の就活生たちも、可及的速やかに「気持ちの切り替え」を実行し、再度の攻撃を試みつつあった。


「シッポ、――でも免許は?」

 リョウはそこも心配だった。


「そんなのいいから!」


「代われ!」

 タナカが運転席に乗りこんだ。シッポは助手席にうながされた。

 リョウは、荷台に飛び乗った。


 タナカは鍵穴に目をとめた。

「お? ――タイピン?」


「キーの代わり!」

 シートベルトを締めながら、シッポは言った。


 タナカは感心して、

「行くぜ!」


「――どこに?」

 荷台から、大きな声が飛んできた。


 負けじとタナカも大声で、

「――わからん!」


 トラックは、急発進した。





 夜道をとにかくぶっ飛ばしている。

 リョウはタナカに、事情の説明を終えた。


「――なるほどな。じゃああの光が『マナ』ってエネルギーで……リョウ、お前はそいつを手に入れるために、バイトしてたって事だな」


 荷台・運転席間の会話だから、ずいぶん骨が折れそうだったが、タナカ愛用の無線機が役立った。なぜそんなものを? きっとアルバイトのためだろう。


「うん。――信じてくれるの?」


「そりゃあ、信じるよ」

 タナカはむしろ不思議そうに、

「どうしてさ?」


「だって、そんな……なんだか、物語みたいだから」

 カツモンだとか、マナだとか。

 レジェンド・リクルートのことまでは、言わなかったけれど――。


 タナカはミラー越しに、リョウの表情をたしかめようとした。でも、暗くてよくわからない。


「今さら、何があったって驚かないさ。――この間のバイト先に、火山の中に住んでるって爺さんが来てさ。もちろん、死火山だぜ? それにしたってさ――」


 するとリョウは、

「じゃあきっとそのお爺さんっていうのは、怒っちゃいけないんだよ。怒ったとたん、火山が大爆発しちゃうんだ。でもある日、不思議な女の子が迷い込んできて――」


 するとタナカは、

「女の子じゃなくて、ばあさんで悪いけどさ。前占い師のバイトした時、その師匠ってのがまた不思議なひとだったよ。水晶玉じゃなくて、氷の球で占うんだ。それが、じーっと見つめているうち……何か浮かびあがって来る前に、いっつも、溶けちまうもんだからさ。けっきょく未来のことはわからないんだが――」


 するとリョウは、

「駆け出し占い師・タナカ青年は未来よりも過去よりも今を占いたいんだけど――」


 ――なんてぐあいに、いつの間にか大応酬。


 リョウは、大笑い。

 タナカも大笑い。


 シッポだけ、呆れたように目をぱちぱち。

「……こんな時に、何の話してるんだよ?」


「おお、――そうだった、そうだった」

 タナカはふっと表情を引き締めて、

「……それで……どうするか、だな」


「帰る?」

 これは、シッポの提案。


「帰るにしたって、この車じゃ帰れないだろ? それに――」

 タナカはまたミラーを見て、

「リョウ、お前、どうする?」


 一瞬よぎった街路灯の光が、決意の表情を鮮明に照らした。

「マナの事、もっと知らなきゃ」


 タナカは頼もしげにうなずいて、

「――だよな」


 リョウも、うなずき返した。

 やらなければいけない気がしていた。それ以上に、やれる気がしていた。ひさびさに味わった、物語がしぜんと生まれてくるあの感覚が、このうえなくリョウを勇気づけていた。


 タナカはハンドルをにぎったままなにか考え込んでいた。

「……だけど……うーむ……」


「どうしたんだよ?」

 シッポが尋ねる。


「いや……相当やばいことに、なりかねないと思ってさ」


「何がだよ?」


「……その、『マナ』の事だけどさ。オレ、心当たりはあるんだよ」


「え?」

 リョウはがばっと、運転席に食らいつきそうな勢いで、

「どういうこと?」


「いや、ほらさっき、オレもお前も土砂の仕分けみたいな事やらされてたろ? 要は、あの土、どこから持ってきたんだって話でさ」


「あ……そっか」


「――だろ?」

 タナカは言った。

「つまり……採掘場ってのがあるわけなのさ。そこに行けば……」


「もっと高純度っていうか、高密度っていうか……」


「――の、『マナ』がある、っていうことなのかも知れん。ワカラン。オレは倉庫にやられる前、そっちでもバイトしてたんだが……末端だったからなあ」


「……行ってみたい」


「まあ……そうなるよな。だが――」

 タナカは難色を示している。

「……相当、やばそうな感じがしたぜ」


「さっきのより?」


「場合によっちゃあな。――なにしろ、深夜ったってフツウの港だぜ? そんなとこでドンパチおっ始めるなんざ、正気じゃねえ。花鏡院コーポレーションってのがどんな企業か、就活生でもないオレはよく知らんが、――イメージとかコンプライアンス云々とか、ありゃ、そこんとこどうなってんだ? 今後、あんまり関わりたくねえ企業のひとつだな」


「花鏡院醇麗……」


「とか、いうらしいな、あのトップの男」


「あ、そっか」

 と、リョウは言った。

「タナカは、見てないんだ?」


 リョウとタナカ、ふたりはべつべつの倉庫にいたらしい。


「見てないって?」


「オレのところに、来てたんだよ」


「花鏡院醇麗が? 何しに?」


「わからない……」

 そしてシッポの背中を見ながら、

「エリカも、いた」


「え!?」

 シッポは飛びあがって、頭をゴン。


「イテテテ……」

 と、タンコブ候補のぶぶんを撫でさすりながら、

「エリカ姉ちゃんが!?」


「あと、ゴーダっていう、オレの……知り合いも」


「何で? 花鏡院コーポレーションなんかに、エリカ姉ちゃんがどんな用事で?」


「詳しくはわからないけど……」


 商談、みたいな内容だった……?

 リョウはなんだか、身体の重たさを感じた。

 エリカはいつもリョウのすぐそばにいた。だから、なんというか……。

 なんというか、変わらない、そんなふうに漠然と思っていた。けれども――。


「――ん」

 と、タナカが張りつめた声をもらした。


 ミラーにちょっと、見まちがいであってほしいものが、うつっている。

 ものすごいスピードで、猛追してくる。


「――おいおい」


 トラックだ。

 「車中泊」という言葉が豪邸住まいを意味しそうなくらいの、超巨大トラック。

 それも、青い光の就活生、てんこ盛りの。


「――マジかよ」

 いくら教習所の出席態度が模範的だったからといって、こんな状況で運転する「かもしれない」なんて予測不能だった。

「……どうする? リョウ」


「……その『採掘場』が気になる」


「ぶっちぎるか? このまま」

 と、言ったってさっきから全速全開だ。それなのに、後続車はどんどん距離をつめてくる。


「――うん」


「シッポ、悪いな」

 タナカは横目を向けて言った。

「……行くぜ、オレたちも」


 シッポは負の遺産たるタンコブの教えを生かし、今度は拳だけ振りあげて、

「ガキあつかい、すんなよ!」


 リョウは立ち上がって、迫りくるぎんぎらのフロントパネルを見据えた――迎え撃つ格好だ。

 そして、凄まじいまわりの風みんな肺に呑んでしまうほど、すうううっと大きく息を吸い、


「――宜しくお願い!! ――致します!!!!」


 吐きだした挨拶の防壁が、乱れ飛んできた名刺全弾をみごと、空中に跳ね散らした。青い光の消えた名刺は、枯れ葉同然に道路に落ちかかっていく。


「……やるな」

 タナカは、つぶやいた。

 踏み込みすぎのアクセルペダルはちぎれそうだ。


「――リョウ! 頼んだ!」

 タナカはそれだけ言った。


「うん! ――タナカも!」

 リョウはそれだけ返した。


「オイラも、いるぞ!」

 と、シッポは思わず飛びあがり、ふたたび頭を、ゴン。


 就活生たちはとくに動揺もなく、次のフェーズに移行しようとしている。

 車体ぜんぶが、青く発光しはじめる。


 それを見て、リョウはもう作業着を脱ぎすてた。なりふりかまっていられない。

 軽くなって、すずしくなって、――そして、素顔になったわけだ。


「――初めまして!」


 名乗っておくのが、礼儀というものだった。


「わたくし、リョウと! 申しますッ!!」


 ――そのひと声が真夜中の就活カーチェイス、ローンチのお報せとしてこだました。


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