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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第4期「流れる魂」
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第9四半期「カツモン大作戦」

 だれが呼びかけたわけでもなかった。



 ――あれ。

 ――よう!

 ――やあ。

 ――あら、まあ!

 ――おやおや。

 ――あら、あら。

 ――びっくり!

 ――御機嫌よう。

 ――コンコン! こんばんはだ、コン!



 じつは、看病――という言いかたは、本人は辞退するだろうけれど――につかれたリョウの寝息が、ベッド脇の椅子で立っているあいだ、カツモンたちがつどっていたのだ。


 ソリューニャン、ウケタマワリマウス、オソレイリマウス、ビー・トゥー・ビー、ロジックツリー、ダイエンジョウ、マトリックマ、リスクヘッジホッグ、時事ジラフ、オセジブラ、キツネクタイ……。

 とても、数えきれない。


 ――全員集合、かな?


 しぜん、リーダーシップをとることになったソリューニャンの言葉に、


 ――……いや、爺さんが。


 と、弟蜂が羽音を弱めて反応した。そう、コンサルタートルは、もういないのだ。オソレイリマウスの尾が、しょぼんと垂れていた。


 死者に黙祷を捧げるならわしなんて、カツモンにはない。そもそも、「死」なんて、知らなかったのだから。

 でも、誰もなんにも言わない数分間が、しぜんと、流れていった。


 だんまりが明けて、最初の言葉は、ずいぶん弱気なものだった。


 ――わたくしたちもだいぶ、……なんていいますの……そう、()()()()ですわね。


 そんなこと言うウケタマワリマウスを、すぐとがめたのはダイエンジョウ。


 ――よせ! そんな……縁起でもねえ。マナがなけりゃあ、菓子パンでも食やあいいじゃねえか!


 などと強がっておきながら、当のダイエンジョウ自身、火力はふるわない。


 ――お嬢様、本当に苦しそう。


 マトリックマがつぶやいた。いつものように絵筆を持ってみたって、この気持ちは、筆舌に尽くしがたい。


 リスクヘッジホッグも、同意する。


 ――リョウも、かなり疲れているみたいだ。危険だよ、この状態。


 だからといって、ブレイク・スルーはどこにあるのか、そんなもの、ほんとうに存在するのか、それは、誰にもわからない……。


 ――なあ、兄弟。

 景気づけとばかり、兄蜂が弟蜂をつっついた。


 ――なんだよ、兄弟。


 ――こんな時、部隊ではどうしたんだよ?


 しかし弟蜂の返事は、

 ――さあな。

 と、そっけない。


 時事ジラフにも、先読みの利かない状況。

 オセジブラだって、ポジティブな言葉のない事態。

 みんな漠然と思っていたことを、率先して口に出したのは、意外にもオソレイリマウスだった。


 ――こんな時……。ご老人が、いてくだされば……!


 遺恨が、あるはずなのに。


 キツネクタイも、わびしく、

 ――コン、

 とうなずいて、同意をあらわすのがせいいっぱいだった。あの時、コンサルタートルは、キツネクタイの目の前で――。


 ソリューニャンが言った。

 ――みんな、答えは、見つけられなかったみたいだね。


 ――答え、ですの……?

 ウケタマワリマウスは、もう、目を合わせようとさえしない。


 ――僕ら、あの時……選考前、少しもとの世界にもどって、いろいろ考えてみようって言ったじゃないか。彼が……いなくなったことの意味についてさ。


 ――意味とか答えとか。

 反応したのは、ロジックツリー。

 ――あるのかい? そんなもの?


 ――見つけられるかな、と思ったけど……。


 ――ないものを、見つけるのかい?


 そう言われて、ソリューニャンは言葉につまった。言いたいことはあったのだけれど、うまく言いあらわせなかったのだ。話を逸らしたわけではないが、そのまま、かたわらのシズナを見た。


 ――お嬢様、どうする?


 ――どうする、とは?

 と、オソレイリマウス。


 ――どうにか、できるものですかな?


 ――部隊では。

 と、弟蜂がまだ元気のない口調ではあるけれど、いつものようなことをつぶやいた。

 ――溺れる者に、溺れる者は、助けられん。それが鉄則さ。


 兄蜂はすこし安堵して、

 ――マナのないオレたちに、マナのないお嬢様は……っていう、ことだな? 確かに。


 ところがこの時、マトリックマが、なにげなくこんなことを言いだした。

 ――ほんとうに、ないのかな?


 ――あらクマさん。どういう意味ですの?


 ――おかしいなあ。ボクたちみんな、そこの彼に……。


 と、クレヨンの先っぽでキツネクタイを指して、


 ――マナをカンパした時、けっこう多めに、あげなかったっけ? あれ、あまってるんじゃない?


 みんないっせいにキツネクタイを見た。

 見られたキツネクタイは、萎縮している。


 ――あ、たしかに!


 と、リスクヘッジホッグも、矢印型に伸ばしたハリをキツネクタイに向けながら、便乗する。


 ――そもそもあれ、前払いじゃなかったっけ? でも実際にボクらがお祭りを開いたのは霧の夜までだから……作戦は予定より一週間くらい早く終わってるよね? あまったぶんはどうしたの?


 キツネクタイはかんかんに怒って、


 ――指さすなんて、失礼だコン!


 二匹は平然と答えた。


 ――ハリだし。

 ――クレヨンだし! ……話、逸らさないでくれるかな?


 ――オイラ、疑われてるってことが、悲しいんだコン! マナはぜんぶ使っちゃったコン!


 ――不正収支だ!

 リスクヘッジホッグは食い下がった。

 ――危険なかおりがするよ! 犯罪的だよ!


 ――なにが不正だコン!


 ――確かに。計算が合わないだろう?

 ロジックツリーとしては、別に問いつめるつもりもなく、正当な指摘をしたつもりだった。


 ――オイラ……オイラ、だって、ウェディング・ドレスだったから! だからだコン!


 コン、コン、コン。キツネクタイは、泣きだした。


 ――それがなぜ、マナを多く使う理由になるんだい?

 ロジックツリーは、やはりあくまで個人的な興味から、こだわっている。しかしキツネクタイにしてみれば、問い詰められているもおんなじだ。


 ――結婚式って、そういうものだコン! ドンドン、コンコンお金が嵩んでいくんだコン!


 みんな呆れたように、顔を見合わせた。


 ほんとうに、呆れてしまった。


 ……でも、なぜだろう。

 

 ――ふ、ふふふ……。


 慎み深く、口もとを覆って笑いだしたオソレイリマウスを筆頭に、みんな、笑いだした。

 手厳しい論客だったマトリックマや、リスクヘッジホッグも笑いだした。

 キツネクタイだけが、コンコン大泣きしている状況だった。


 ――なにが、おかしいんだコン! 可愛くなるって、大変なんだコン!


 ――わかりますわよ、キツネさん。


 と、ウケタマワリマウスがやさしい言葉をかけた。


 ――だってね、一生に一度ですものね。


 ――コン。


 ――お嬢様が、ウェディング・ドレス……。

 と、ソリューニャンは言った。

 ――まあ、ふだんは全然、似てなかったけどね。君のお嬢様。


 こんなことを言うのは二度目だった。でも、みんなの前で言うのはこれが初めてだった。


 ――あ! やっぱり?

 と、マトリックマはあえてちっとも似ていないシズナの似顔絵をお腹に描いて見せた。

 ――僕もそう思ってた! 全然、お嬢様らしくなかった!


 ――あれは危険だった! ヒヤヒヤしたね!

 うなずきながら、リスクヘッジホッグが言った。


 ――あの作戦、論理的に考えて、失敗の可能性しかないと思っていたから……。


 ――樹木さん! そんなこと、思ってたんですの?


 ――それは、そうだよ。でも一方で、論理的に考えてみると……そんなこと、口に出さないほうがいいだろう? だから、黙っていたのさ。

 ロジックツリーは愉快そうに言った。


 ――みんな、ひどいコン!

 キツネクタイはまじめに抗議したが、なぜだろう、気持ちはあたたかかった。


 ――リョウがさ。

 と、いつの間にか機嫌をなおしたらしい弟蜂も話に乗っかってきた。

 ――あの本、……ぶん投げちまったろ?


 ――ああ。

 しみじみなつかしそうに、兄蜂。

 ――あれは男だった。


 ――あれでこそ、男だよな。でもオレ、実を言うと、残念でさ。って言うのも……まだ、書きかけだったんだよ。次回作。


 そう、そう。弟蜂は物語作家として手腕をふるっていたのだった。

 そんなこともあった。


 ――え? あれがまだ、十日前くらい、なのかな?

 ソリューニャンは、めったに見せないおどろきの表情をあらわにした。


 ――あれは……がんばりましたなあ。ちからを合わせて。

 オソレイリマウスが、うなずいた。


 みんなも、そろってうなずいた。それぞれ、思い浮かべているのは、べつべつの場面だったかもしれないけれど……。


 ――なあ。

 新たに、口火を切ったのは兄蜂だった。

 ――オレたち、また……何か、でっかいことができるんじゃないか?


 ――大仕事か? 兄弟。


 ――そうさ、兄弟。


 ――お嬢様を、助けようってこと?

 リスクヘッジホッグは、ためらいながら言った。

 ――でも、……ほんとうかい?


 ――なんだよ、ネズ公。

 ダイエンジョウが食ってかかった。

 ――ハリだけじゃなく、水も差そうってか?


 ――ボク、ハリモグラ!

 と、お約束の反論をしてから、もっと深刻そうに、リスクヘッジホッグはつづけた。

 ――……ほんとうに、そこまでする必要が、あるのかな?


 ――どういう意味だよ?


 ――ボクたちに……。お嬢様を助ける理由があるのかい?


 ――そりゃ、……お前。

 と、ダイエンジョウは気焔をあげようとしたが、

 ――……マナが……なけりゃ、オレたち、……どうすんだよ。


 それはもっともな理由にちがいなかったが、……でもそんな口実しか思いあたらないのが、なんだか、とてもさみしい気がした。


 ――論理的に考えて……。それしかないね。


 ――まあ、わたくし……そういえば……お嬢様に……。……なにかしていただいたことが、あったかしら?


 ――しかし……。そうですな……。


 ――僕は……どっちかというと……うん……。


 だれも、シズナにこころからの親しみを感じているものはいないのだった。


 みんなの情熱は、ふたたび、しぼんでいこうとしていた。


 すると、その時だった。


「――いっしょに、考えてくれないかな」



 ――え!?

 ――嘘!

 ――何ですと?

 ――うわ!

 ――ギャ!

 ――おたすけ!

 ――コン!

 ――まあ!



 と、おどろいたの、なんの。

 いつの間にか、リョウが目を醒ましていたのである。


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