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訪問記録・X

 ――お疲れ様です。本日は、貴重な御時間を頂戴いたしまして誠に有り難うございます。


 ????(以下、敬称略):……。


 ――さっそくですが、お名前を教えていただけませんでしょうか。


 ????:……。


 ――もちろん、わざわざお答えいただくまでもなく、あなたのお名前くらい、わたくしは存じ上げております。


 ????:……。


 ――ですが、わたくしは他ならぬあなた御自身の口から、あなた御自身の声で、それを聴きたいのです。


 ????:……。


 ――弱りましたね……。このような場の流儀を心得ていない? ()()()()()()()()()()と讃えられる、あなたほどのおかたが。


 ????:……。


 ――あなたの半生について、伺いたいのですが。


 ????:流儀、か。それをわきまえていないのは、そちらのほうではないかね。


 ――なぜ?


 ????:まず自分自身、名乗ってみせるといい。



 ――わたくしは……。


 ????:できないだろう。名乗ることなど。


 ――なぜ。


 ????:実体のない存在だから。


 ――誠に残念ながら、そこには少々、事実の誤認があるように思われます。わたくしが誰でもない、実体のない存在であるのなら、あなたもまた、誰でもない。いまがいつでもなく、ここがどこでもないように。


 ????:……。


 ――いつでもない時間、どこでもない空間。もしあなたがあなたのことについて、「わたし」と名指すのに抵抗がおありでしたらどうぞ、「彼」とでも、あるいは、「あなた」とでも。なぜならわたくしは、あなた自身でもあり、あなたこそ、わたくしであるかもしれないのですから。


 ????:それは、言葉遊びだな。


 ――天才ビジネス・パーソンであるあなたにとって、言葉遊びに費やす時間などありませんね? それは、わたくしも同じこと。改めまして、早速、開始させていただきたく存じます。宜しくお願い致します。


 ????:勝手にすればいい。


 ――あなたは、「天才」と称えられています。あなたは就活生として、ビジネス・パーソンとして、およそこの世界で考えうる最高の成功を手にしたお方ですね。ちがいますか?


 ????:……。


 ――(暫し、沈黙が続く)


 ????:「彼」は……。


 ――そうきましたか。


 ????:彼は、天才と称えられている。


 ――彼はすべてを手にしたわけだ。地位も、名誉も、富も。ぜひ、教えていただきたい。どういうお気持ちです? どうすれば、彼のように、栄光に満ちた人生を送ることができるのでしょう? 若者たちに、メッセージをいただけませんか。なにかひと言でも。


 ????:……。


 ――教えてくださいよ。


 ????:ないさ。栄光など。


 ――ご謙遜を。


 ????:……。


 ――そうですね……。では、質問を変えましょう。彼(21)は、いったいどのような就活をしたのですか? どのような就活生だったのですか?


 ????:若かった。何も知らなかった。それだけだ。


 ――地位、名誉、富、については、まだご存知なかったにしても、なにも知らなかった、ということはないでしょう。彼が志したのは、ZAKURO社だったのだから。まして彼は大学を首席で卒業している。


 ????:なるほど、秀才にはちがいなかった。そう言えるかもな。


 ――秀才? 「天才」の間違いでしょう? のちに、あれほど独創的な発明をして、就活の世界を一変させたのは、彼ですよ。


 ????:志望は、ZAKURO社だった。


 ――なぜ? 志望動機は?


 ????:……彼は……。


 ――どうしました?


 ????:……。


 ――もう、昔のことなので、忘れてしまいましたか?


 ????:……許されなかった。それ以外の、生きかたは。


 ――……。


 ????:とにかく志望は、ZAKURO社だった。


 ――一次選考は、グループ・ディスカッションでしたね。当時の就活は、まだ……。


 ????:まだ、「戦い」だった。


 ――当然です。「バトル」は、……「カツバト」は、彼こそが創ったのだから。


 ????:……。


 ――当時の就活は、まだ「戦い」だった。つまり……命を落とす恐れがあった。命がけだった。そうですね?


 ????:と言っても、今の若者がどう考えているかは知らないが、当時にしても、過激行為に走る者はほとんど存在しなかった。それが実際のところだ。


 ――しかし、暴力行為程度なら見過ごされることが多かった。そうですね?


 ????:暗黙のラインが存在した。つまり、この程度ならば黙って見過ごされるという、いわゆるグレー・ゾーンがね。それはむしろ明文化されないことで、効力を発揮していた。優秀な就活生ほど、黒と白のあわい、灰色の地帯を適切に見定めて、狡猾で、残忍な就活をしたものだ……。


 ――それが、できないものは……。


 ????:そのラインを見誤るものは、往々にして踏み外した。つまり……。


 ――人を殺める者もいた。


 ????:……就活中の殺人は、「就活法」で裁かれる。就活法であれば刑事法よりも総じて罰は軽い傾向にある。また、就活生というのは……いかに二流、三流の手合いであっても口が達者な者が多い。


 ――コミュニケーション能力に富んだ者が。


 ????:弁護士、検察官、裁判官、陪審員。誰であろうが、たやすく論破され、あるいは懐柔されてしまった。これは大きな問題だった。最も悪質な手合いとなると、弁舌を尽くして、日頃気にいらぬ相手を就活に誘い込み、そこで故意に殺害する、といった者さえいた。


 ――そうすれば、適用されるのは刑事法でなく就活法だから。罰といってもせいぜい、自己啓発本の筆写百冊、みずからの短所を千個列挙、あるいは、パイプ椅子にはりつけ等。なるほど、「狡猾な」やりかたです。……そのことに、彼は、義憤を感じていた?


 ????:……。


 ――だって、そうでしょう。「カツバト」開発のきっかけは、そういったところにあるのではないですか?


 ????:……。


 ――あなたは、グループ・ディスカッションを戦った。そこであなたは、卑劣な行為を目撃したのではないですか? あるいは、あなた自身が、標的になってしまったのか……。


 ????:第一次選考は、グループ・ディスカッションだった。


 ――四名の就活生が、テーブルについていた。


 ????:そう、――そうだ。そこにいたのは四人だった……。


 ――懐かしいですか?


 ????:……思い出したくもない。


 ――なぜです? あなたは既存の「グループ・ディスカッション」に囚われなかった。リーダー、書記、さらにはタイム・キーパーもひとりで兼ねるという革新的な就活をおこなった。まさにあなたの独壇場だ。事実あなたは……。


 ????:「革新的」? いや……。


 ――事実あなたは容易に選考を突破されたじゃありませんか。


 ????:「革新的」とは、言えないさ。


 ――そこに、こだわりますね……?


 ????:それは……模倣だ。いわば……。


 ――模倣?


 ????:模倣。あくまで……。


 ――誰の?


 ????:……。


 ――しかしあなたは、勝利した。成功者だ。そのことに変わりはないでしょう?


 ????:……まあ、そうだな。


 ――そうでしょう?


 ????:まあ、……血塗られた勝利といったところさ。


 ――あなたの血ですか?


 ????:彼は、一滴の血も流すことがなかった。そして汗も。そして、涙も。


 ――では、いったい……。


 ????:……人を、殺めた。


 ――あなたが?


 ????:……。


 ――……まさか、今さら、罪の意識に苛まれていらっしゃるのですか? あなたはこれまで、今の地位に辿り着くために数知れぬ人々を闇に葬り去って来たでしょう?


 ????:……。


 ――あなたは……一体何のために、そこまでするのです? 富ですか? 名誉ですか? 


 ????:……。


 ――では……「()()()()()()()()」?


 ????:……。


 ――あなたが……わかりませんね、あなたという人間が、数えきれないほどの他人の命を引き換えにしてまで成就したい計画……。それは一体?


 ????:……。


 ――あなたはZ()A()K()U()R()O()()()()()()()()にまで上りつめたのですよ? この上何を、そんなに求めていらっしゃるのです?


 ????:……。


 ――……承知致しました。それはまたの機会に伺うことにしましょう。今、問題になっているのは若かりし日のあなただ。話を戻しましょう。あなたは、人を……殺めた?


 ????:……。



 ――なるほど……。わかりました。しかし、そうでもしなければ、あなたはZAKURO社に入社することができなかった。


 ????:許されなかった。それ以外の生きかたは。


 ――……。


 ????:許されなかった。


 ――……ともあれ、あなたは一躍、時代の寵児となった。天才就活生として、大いに持て囃された。ちがいますか?


 ????:私は、……なるほど、たしかに賞讃されたさ。「秀才」として。


 ――「秀才」……? あれほどの就活をして、なお?


 ????:……模倣だったからだ。なにもかもが。


 ――あなたはまだ()()を知らなかった。だから、優秀な、けれども凡庸な就活生にすぎなかったということですか?


 ????:そうだ、私はまだ()()を知らなかった。私は優秀だった。きわめて優秀な就活生だった。しかし、秀才にすぎなかった。模倣だったからだ。なにもかもが。


 ――それは……さきほど伺えなかった点ですが……教えていただけませんか? 模倣というのは、いったい誰の模倣なのです? 誰がほんとうの天才とよばれたのです?


 ????:……マサシ。


 ――マサシ?


 ????:マサシ(21)。その男こそ、ほんとうの天才だった。



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