第7四半期「決戦!絶望のグループディスカッション」
――皆様!
の、ひと言で、アリーナにスポットライトが降りそそぎました。
――お疲れ様で、ございます! 本日は、わたくしどもZAKURO社の、本年度採用試験、その第一次選考、グループ・ディスカッション! 皆様、貴重な御時間を割いてお集まりくださいまして、――誠に! ありがとうございます!
爆発する拍手、歓声、そして、
――こちらこそ、貴重な観戦の機会を頂戴いたしましてありがとうございます!
――御社におかれましては益々ご繁栄のこととお慶び申し上げます!
――今後とも宜しくお願い申し上げます!
……など、各種挨拶。
その声はキリサキ専務専用席まで、じゅうぶんにとどろいてきます。
サカミの顔が、わずかにひきつりました。――それを、キリサキは見逃しませんでした。
「どうか、したのかね」
「いえ――」
もちろん、たしかにサユリの声です。あきらかに。サユリの声に、間違いありません。
――我ながら、情けない。神経質になっているようだ。
「――何も」
――さあて、ではさっそく、記念すべき第一試合! 就活生の皆様方に、御入場、願いましょう!
ラッパが鳴り、ゲートが開きます。
「どうぞ」
リョウは黒服の社員に促され、前室から、目くるめく大舞台にいよいよ進み出ていこうとしているのでした。
またも湧きあがる歓声、拍手、叱咤激励、貴重な御指摘、――などなど。
古代の円形闘技場さながらのアリーナには、四つのゲートが設けられていました。東・西・南・北のゲートひとつひとつから、ひとりずつ、就活生があらわれるのです。
真先にあらわれたのはリョウでした。
不思議と足はすくみませんでした。
が、まぶしく熱いスポットライトの下で、リョウの歩きかたは誰よりも不格好でした。
ブリキの兵隊みたいに、かくんかくんの動きで、右手と右足、左手と左足を同時に前に出しながら、目はぎんぎん、汗を垂れながし、中央の長机までどうにかたどりついて、椅子に腰かけるまで、顔は一度も上げることができませんでした。
「なんだ、あいつ」誰かが、言いました。「ほんとうに就活生か?」
「記念受験ってやつじゃないの?」
「馬鹿だよなあ。将来終わったようなもんだぜ。だって、世界中の企業から覆面――文字通りの――採用担当者が来てるんだぜ? あんなみっともない姿さらして、もうどこも採っちゃあくれねえよ」
エリカは、耳をふさぎました。
来るかどうか、ずいぶん迷いました。けれども……けれども、行かないということは許されない。そんな気がしました。
自分に、言い聞かせていました。
――そうよ。わたし、リョウのこと、応援しなくちゃ……!
シッポは横目でエリカを見やりました。なんだか、とても苦しそうです。が、言葉をかけることは、気恥ずかしいような、格好悪いような、重苦しいような気がして、なぜか、なんにも言えないのでした。
逸らしたまなざしを、今度はリョウに、いっしんにそそぎました。
シッポのスーツを着ています。
いえ、シッポの、ではありません。
ボタンのほかは、たんなる盗品です。
――アンちゃん、どう思ってるんだろう?
しんそこ自分に嫌気が差しながら、シッポはそう思いました。
あの時、受け取ったスーツをリョウは高く掲げてみたり、ひっくり返して裏地を検分してみたり、匂いをかいでみたりしてから……多分、こちらの思い過ごしではないと思うのですが、悲しそうに笑って、こう言いました。
――ありがとう、シッポ。
シッポは、白状することができませんでした。そばで見ていたエリカも、悲しそうな表情をしていました。エリカは、信じていたのです。シッポなら、自分の言葉で、リョウに本当のことを打ちあけてくれると。
しかしけっきょく、それは、できませんでした。
いま、容赦ない誹謗中傷は、リョウの服装にも向けられていました。
安っぽいジャケットだとか、格好悪いスラックスだとか、野暮ったい靴だとか……。
どうせ、あれはオイラのつくったスーツじゃない。すぐさま、そんな恥知らずな言いわけでこころの釣り合いをたもとうとする自分を、シッポはとても汚らわしく感じていました。
もし、今リョウが、ほんとうにシッポの仕立てたスーツで、初めての戦いに臨んでくれているのなら、
そうしたら、こうして見守る自分はどれだけ誇らしい気持ちだったでしょう。
そう考えると、やりきれない気持ちでした。
ふいに、会場の空気が一変しました。もう一切の言葉も拍手もなく、凍りついたように、静まり返ってしまったのです。
リョウは身じろぎもできませんでした。
ゲートのひとつからあらわれたのは、――そして今、こちらに向かって一歩、一歩、巨人のように堂々と歩いてくるのは、
「――朱雀!」
気絶者、続出でした。
先日、リョウとシズナに圧倒的な就活力を見せつけた――あの絶対内定者・朱雀だったのです。
「――なんで……ッ!!」
シズナは客席で、思わず、誰にともなく、つぶやきました。
「よりによって――」
――よりによって、一次選考から、こんな、絶望的な……?
これでは本当に、あのボッチ島の夜のように、奇蹟でも起こらないかぎり、絶対に勝てそうもないではありませんか。けれども手もとにはもう、あの本はないのです。
「最悪……!!」
しかし、もうやるしかありませんでした。
妙に自信を深めていた様子のリョウも、まさか実力で勝負しようとは思わないでしょう。
やるしかない。
……けれども、やれるでしょうか?
やれる?
――でも、なにを?




