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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第2期「カツモンたちの夜」
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第16四半期「再会」

 ――要するに、キツネが化かされたって話かい!


 立ちあがり、夜空高く言葉を噴き上げたのはダイエンジョウです。


 カツモンたちはいつしかみんな目を醒まし、夢中になって話に聴きいっていました。


 ――とんだ昔話だなあ。オレたちゃ、ここからどんな教訓を読み取りゃあいい? え?


 ――まあトカゲさん! わたくしね。昔話どころか、なかなかどうして! ロマンチックなお話だとおもいますわ、そう、ハーレクイン・ノベルみたいに……! それでその後三人は、どうなりましたの? この、悩ましい三角関係は!


 ――まあ……。


 と、ソリューニャン。


 ――まだ、つづきがあるのは、たしかだよね?


 コン、とキツネクタイはとうなずきました。





 リョウとシズナ、ふたりが少し距離を開けて、ゆっくり歩いていくのを、もとのキツネにもどったキツネクタイはこっそり見ていた。いきなり出ていって、リョウをおどろかせてはまずいと思ったから――。


 どんな言葉を交わしていたのかはわからない。


 が、コンサルタートルは、どこか、いきいきとしていた。


 そしてリョウのほうも、はじめ緊張していたようだが、しだいに表情がほぐれていった。


 気がつけばキツネクタイは姿をあらわす時機をすっかり逸していた。


 そのうちに、夜気はひときわひんやりとしてきた。


 ふたりの姿がぼやけて見える。


 ――オイラ、つかれているコン?


 さっき、いっしょうけんめい走ったから……? キツネクタイは目をこらした。


 すると……彗星のようなはげしい光が、しゅばっ。


 まぼろしのシズナの首が飛び、もとの姿にもどったコンサルタートルが、ものも言わず――なんの文字も甲羅に浮かべず――仰向けに転がるのが見えた……。






 カツモンたちは、顔を見合わせました。


 ――それから……?


 いつも冷静なソリューニャンの声も、さすがに震えています。


 ――それからオイラ、……命からがら……。


 ――逃げてきた……?


 ――コン……。


 キツネクタイは、弱々しくうなずきました。誰も責めるものはありませんでした。ねぎらうものも、ありませんでした。


 重苦しい沈黙のなか、つぎに発言したのは弟蜂でした。


 ――オレも、この霧はただごとじゃないと思ってね。どうも注意が散漫になっていたんだが……お嬢様もそうだったらしい。


 ――まさか、様子を見に来たのかい?


 ――ああ、危ないところだった。オレ自身は、どうにか見つからずにすんだが……。


 ――じゃあ……。


 ――面目ねえ。……からっぽの部屋と、本はそのままさ。


 ――カツモンも、死ぬのかい?


 ハリを立てるのも、穴を掘るのもわすれて、呆然と、リスクヘッジホッグが言いました。


 ――前例は、ないんじゃない?


 ソリューニャンが、歯切れ悪く応じます。


 ――前例が、ないからって……。


 ――それよりも、リョウ君です!


 リスクヘッジホッグの言葉をさえぎって、オソレイリマウスが声高に言いました。


 ――リョウ君は、どうなったんです?


 ――それは……。


 わからない、とキツネクタイは言いました。


 ――なるほど、わからない。


 オソレイリマウスはうなずきました。


 ――なにがおこったのか、いまいちわからない現状です。が、とりあえず言えるのは……。


 それから、オソレイリマウスは深く息をすいこんで、


 ――今度は、リョウ君が危ないのでは? まさにその現場にいた……いや、今も、いるのでしょう?





 リョウは、転がったまま起き上がろうともしないコンサルタートルに屈みこみました。


 そっと、手をふれてみます。まだあたたかみの残ったかたい肌が、恐ろしい勢いでつめたさに蝕まれつつあるのがわかりました。リョウは、ぐっと目をつむりました。


 かさかさ、――茂みがゆれました。


 リョウはゆっくりと目を開けて、立ち上がりました。


 夜闇よりも濃い、黒いスーツの女がぼうっと浮かびあがりました。


 もちろん、リョウは、驚いたのなんの。


 女の表情にも、一瞬、おどろきの波紋が立ったように見えました。が、その痕跡はすぐに消えてしまい、


()()()()()()()()()()


 平板な、いっさい感情をうかがわせない声で、女は言いました。


「え?」リョウは驚愕に目もくらみそうでした。「なんで、その言葉を?」


 女はしずかに距離をつめてきました。


「濃霧立ちこめる夜、いかがおすごしでしょうか」


 時候の挨拶をのべる女のまなざしが、一瞬逸れました。それはコンサルタートルの亡骸を見やったのにちがいありませんでした。


「わたくし」女はふところに手を差し入れ、「こういうもので、ございます!」


 両手をそろえてまっすぐ目の前に差し出し、軽く頭を下げたかと思うと、――なにかがリョウの後頭部すれすれをかすめ、背後で巨木の崩れる音がしました。


「見事でございます」


 女はあくまで、無感情な声で言いました。


「さすが、レジェンド・リクルート」


 リョウは深々と頭を下げたまま、硬直していました。もし今お辞儀、それも最敬礼をしていなければ――首が飛んでいました。


 縁日での経験の数々が思い出されました。この速やかで的確な判断。鋭く豪快なお辞儀。きっと、毎晩のたのしい努力の賜物にちがいありません。


 状況におよそふさわしくない、酔いしれるような、力強い充実感が込みあげてきました。


 リョウの姿勢がただされるのを待って、女は言いました。


「わたくしと、来ていただきます。レジェンド・リクルート」


「どうして」


「就活のためです」


 女は、はっきりと言いました。


「あなたには、ZAKURO社の内定を取っていただきます。レジェンド・リクルート」


 リョウは女の目を見ました。しかし、なにも読み取ることができません。


「オレは――」


 リョウは、きっぱりと言いました。


「行けない」


「理由を、お聞かせ願えますか」


「オレにはもう、エージェントさんがいるから」


「存じております。ですが――」


「それに」


 リョウはけわしい表情で、さっきのお辞儀を思い返しながら、手のひらで、コンサルタートルを示しました。今の自分には、戦う力があるという確信がリョウのなかに根をおろしていました。


 しかし女は、


「何のことですか?」


 夢でも見ているのでは、と言わんばかりでした。リョウはしかたなく、コンサルタートルの亡骸に目を向けました。しかし、


「え……?」


 そこには、何もありませんでした。ただ青い、ひかりごけのようなものが下草のあいまにちらちらと見え隠れするばかりでした。


「そんな――」


 女は、少しずつリョウに近づいていきながら、言いました。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 リョウは後ずさりしました。


「ご再考、願えませんでしょうか」


「就活のこと?」


 リョウはあらためて、言いました。


「それなら、嫌だ」


「あなたが雇っていらっしゃるという『エージェント』のことでしたら、ご心配なく。わたくしのほうから、お話をさせていただきます」


「嫌だ」





 ――そのときシズナは、あかがね色の本を携え森の中を走っていました。風に捲られたページが一瞬、シズナに行き先を示したのです。


 夜霧に蝕まれながら、喘ぎ喘ぎ走るシズナの腕の中で、カメの甲羅みたいな六角形の地図がゆらぐ焔のように浮かんだり消えたりを繰り返していました。





「条件面につきましても、よりよい内容を提示できるかと存じます」


「それでも、嫌だ」


「貴殿の目標についても、わたくしどものほうが、尊重して差し上げられるかと」


「やっぱり、嫌だ!」


「わかりませんね」


 女は戸惑いも見せずに言いました。


「現在の『エージェント』様に、そこまで固執なさる理由をお聞かせ願えませんでしょうか」


 リョウはゆっくりと口を開きました。


「まだ、なんにも知らないんだ、エージェントさんのこと」


 ――シズナは、立ちどまりました。


「だから、オレこれから、知ってみたい」


 シズナのまぼろしをまとった、コンサルタートルの笑い声が思い出されました。あの時、ほんもののエージェントさんもこんなふうに笑うのだろうか、とリョウは思ったのでした。


「交渉、決裂」


 女はつぶやきました。


「ただ今より、ソリューションBを実行いたします。――宜しくお願い、いたします」


 女の表情は怒りや憎しみに染まるわけでもありません。しかし、リョウは不穏なものを感じて、身構えました。


 が、女がふところから取りだした鋭い名刺の切っ先はリョウに向けられはしませんでした。


 女はまなざしをやることもなく、闇の中に名刺を放ちました。


 空を切る音だけがしました。


 リョウは思わず、そちらに目を向けました。


 すると――。


「ご無沙汰しております」


 女は言いました。


「シズナ」


 シズナは苦しそうに、ただひと言だけつぶやきました。


「――キョウカ」


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