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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第2期「カツモンたちの夜」
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第13四半期「祭りのはじまり(後編)」

 あくる朝、あかがね色の本を捲ってみるシズナを前に、リョウはひどくおびえていました。


 夜店があんまり気がかりで、物語のほうはきのう、まったく捗らなかったからです。百ページどころか、ただの一行だって書けていません。


 どんな罰が待っているだろう。そう思ったのに、シズナは軽くため息をついただけでした。そして、


「じゃあ今日は、二百ページ!」


 そう言って出ていきました。


 リョウはさすがに不審に思って本をひらいてみました。


 甘いかおりがほのかに漂いました。


 そこには、リョウの書いたおぼえのない物語がびっしりと、なんなら百五十ページぶんくらいも加えられていました。


「『オレは雨に打たれてたたずんでいた。雨季をむかえたジャングルの、あの馬鹿で図太いスコールじゃねえ。秋の夜の細い、つめたい雨だ。そいつがやけに、ハリのようにチクチクしやがる……』?」


 およそ、リョウの書きそうな文体ではありません。


「『シケた硝煙の匂いが鼻孔をくすぐりやがる。そう、オレは仲間を殺した。オレが殺した。おまけにその記憶を、蜜みたいにしゃぶりつくしているときたモンだ。所詮オレは、ファックなジャンキーさ……』」


 リョウは唖然としてしまいました。これ、なに?


 こんな言葉はとうていじぶんからでてきません。


「型抜き」を終えたリョウには、それがすぐにわかりました。これはオレの物語じゃない。知らぬ間に書いたものでもない。

 じゃあ、いったい? ……金魚すくいで「ながれ」に身をまかせることをおぼえたばかりなので、深く考えることをやめました。


 ――「ハード・ボイルド」でやってみたぜ。


 弟蜂は誇らしげに報告していました。


 ――なるほどね……。


 と、ソリューニャン。


 ――武勇伝のストックなら、まだいくらでもある。いまは書きたくて、書きたくて、たまらねえんだ!


 真夜中、リョウが部屋を抜けだしたすきに、弟蜂が、ハリの先っぽにインクをつけて、代筆をしていたのです。うってつけの仕事に思えました。けれども――。


 ――もうちょっと……彼らしく書けないかな?


 ――そいつは無理な相談さ。次作は「バイオレンス」に決まってるからな! どうだいオレのこの個性。けっきょく人間は、自分以外の何者にだってなれやしねえのさ!


 ソリューニャンはため息をついて、


 ――まあ、蜂だけどね。



 こんなことが毎晩、毎晩つづきました。



 ――お化けは恐いものだっていう、その「常識」を! 疑うんですの! そして暗い迷路に迷ったときは! 壁を、ぶち壊す! それが文字通りの「ブレイク・スルー」ですのよ!


 ――歌は、そして自己PRは! こころだ! 度胸だ! そしてハッタリだ! 考えるな! 叫べ! 叫べ!! 叫べ!!!


 ――世にありとあるもの、森羅万象これリンゴあめの如し! 甘くうつくしい偽りの膜を食い破り、固く芳醇な「核」をとらえるのじゃ!



 ひととおり遊び尽くしてしまうと、今度はリョウの番でした。


 物語を語りたい。みんなに聴いてもらいたい。そんな気持ちが、少しずつまた湧いてきたのです。


 はじめ、カツモンたちはお義理に聞いているだけでした。


 ――物語って肩が凝るから好かないけどな。まあこれも就活生のためか。


 ――眠たくなっちまわないように、エナドリでも飲んどくかねえ。売りモンだけど。


 ところが、いざ聴いてみると、どうでしょう。みんな、


 ――ちょっと! どうしてネズミが、ねこより弱いんですの!


 ――クマはそんなに乱暴じゃないよう!


 ――ライオンだって、時には泣きますよ。そういうものですよ。


 ――恐竜は不滅だ!


 こんなぐあいに熱っぽく注文をつけはじめたではありませんか。


 するとリョウは時に無茶とも思える勝手勝手な意見にきちんと耳を傾けて、じっくりと考えて、たくみに筋を変えたりするものですからこれにはいよいよみんな夢中。


 ――物語って、棄てたもんじゃないね!


 ――明日は、どうなるんだろう?


 ――リョウはすごいなあ。いいところで終っちゃったなあ。


 それからなんにもない草地のうえで、文字盤みたいにまあるくなって、なんにも話さないで寝転んで、暁の空のたくさんの星のなごりを見ているわけでもない、べつになんにも見ているわけでもないただの時間――。


 永遠、ということが気恥ずかしさぬきに、大まじめに、頭の中をよぎっていくのをリョウは感じていました。


 けれどもこうしている間にも選考の日は少しずつ、少しずつ近づいているのでした。


 そして、ある日のことでした。


 姿見がわりの湖を眺めながら、もうどこからどう見てもシズナになったじぶんの姿に惚れ惚れしているキツネクタイが、たまにはシックに決めようか、それともいっそウェディング・ドレスなんか、なんて考えているとき、のそのそと近づいて来るものがありました。


 ――御無沙汰しておりますじゃ。


「コン?」


 ――それとも、はじめまして、でしたかな?



 コンサルタートルでした。


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