鉄の森
地球上から魔法によって秘匿された土地にある第二東京。
外観は瓜二つでも、行き交う人々は魔法使い。
物が宙に浮かび、自動車が空を飛び、怪しげな魔道具が店頭に並んでいる。
その最中に聳え立つ第二東京タワーの真下にダンジョンはぽっかりと口を開けていた。
「貴方も魔法協会に所属していたんですね」
「うん、一年くらい前に辞めたんだけどね」
「ちょうど私と入れ替わりに。兵器開発部のエース、ですか」
「昔の話だよ。村崎と競ってた時期もあったけど、今やあいつは兵器開発部の部長だ」
螺旋階段を一段一段降りていく。
「辞めた理由は……やっぱり」
「そう。自作の武器を盗まれたんだ」
「魔法協会の内部で……それはかなりの大事ですね」
「あの時は本当にてんやわんやだったよ。結局、犯人はわからず終い、俺は責任を取って魔法協会を退職させられた。まぁ、お陰で夢だった武器屋を開けたから悪いことばかりじゃないよ」
階段を下り終え、外へと出る。
そこは限りなく広がる空と草原が広がるダンジョンの第一階層。
気持ちの良い風が冒険者を出迎えてくれる場所だ。
「ここはいつでも良い風が吹いてるね」
両手を広げて全身で風を感じるととても良い気分になれる。
髪を撫でていく風の感触が堪らない。
「ここからなら魔法で第三階層まで行けますけど、どうします?」
「うん、お願い。今の俺には権限がないから助かるよ」
「こんなことで良ければ幾らでも」
彼女の手を取るとすぐに視界が渦を巻く。
元に戻ると周囲の景色は一変し、爽やかな草原から幻想的なものとなる。。
ダンジョンの第三階層、鉄の森。
あらゆる金属が混ざり合い、植物の体を成している。
「ここからは歩きで。魔物も出るから気をつけて。って、貴方には言わなくてもいいか。かなりの手練れだって聞いてるし――あ」
しまったと言うように、櫻坂さんは手で口を塞ぐ。
「いいですよ、敬語は抜きで。それが執行部の流儀ですし」
「ごめんなさい。ダンジョンの中だとついくせで」
「情報伝達速度を考慮して敬語と敬称はなるべく禁止」
「でもそれは建前で、本当は親睦を深めるため」
「それに習うなら俺も新葉って呼ばないとかな」
「私も尊人って呼んでいいなら」
「じゃあ決まり。それじゃあ行こっか」
「えぇ、そうしましょう」
止めていた足を動かして鉄の森の奥地へと向かう。
風が吹くたびに鉄の枝葉が揺れて擦れ合い、金属音が鳴り響く。
草木の演奏会のように様々な音が鳴り響くここでは小鳥の囀りでさえ霞んでしまう。
「見えた、ベースキャンプ」
この鉄の森に用事がある際や、横断して第四階層に向かう場合に活用される拠点。
周囲にある潤沢な金属を使って作られた防壁を潜ると全貌が見えてくる。
流れる川での洗濯や、大きな鍋での調理、数多く立ち並ぶテント。
サバイバル生活に必要なものがここには何でも揃っているようだ。
「あぁ、いた。あそこに同僚が」
指差された方向へと目を向けると、冒険者の中に黒を基調とした制服を見る。
執行部の人を見付けられた。
「お疲れ様、状況は?」
「酷いもんだ。これから仏さんを地上に帰すところだよ」
テントから死体袋が運び出され、護衛と共にベースキャンプの外へと向かう。
その様子を重苦しい雰囲気で見送る人々は誰もが暗い顔をしていて涙を流す者もいる。
冒険者は死と隣り合わせ、誰もが死を覚悟しているという。
だが、こんな終わり方は想定していなかったはずだ。
なんとかして犯人を見付け出して、バーストバイトを回収しないと。
「犯人は?」
「さっぱり。元々、魔法による殺害は足が付きづらい。その上ここはダンジョンの中だ。逃走経路なら山ほどある。第二階層に登ったか、第四階層に潜ったか。まだ第三階層にいるかも知れない。正直、お手上げだよ」
「そう。困ったわね……」
ダンジョンでの殺人事件はよくある話だ。
なによりの利点は殺人と立証されにくいこと。
魔物という存在のせいで他殺か事故かの判別が付きにくい。
加えて死体を食われて骨一つ残らないことだってある。
そんな状況化で死体を地上に運べるだけマシなほう。
それが例え、黒焦げの見るに堪えないような状態でも。
「とにかく、死体が発見された場所に案内してくれる? 貴方もそれでいいでしょ?」
「あ、うん。いいいよ」
「なら俺が送ろう」
執行部の人の手を取り、視界が渦を巻く。
俺たちは一瞬にして殺人現場まで飛んだ。




