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⑤マジックバッグを盗まれて大ピンチ(上)

今回は上と下で2話構成にしてみました。

よければ感想をお願いします。

 僕は、出雲暢気図書館に置いてあった汚れた本『召喚術(達人編)』を手にとって、読み始めた瞬間、目の前が真っ暗になり、気が付いたらシャイニアンの森の小屋にいた。手にあったのは、汚れた本と傘だけだった。

 冒険者ギルド「シャイン」のある町「スプリングタウン」を拠点として、特にかわらない生活をしていた。運よく報酬をもらえる機会が多く、金銭的には困っていなかったが、冒険者登録を維持する目的もあり、Gランク冒険者として低級の魔物討伐の依頼を受ける事で少しづつ武器の使用にも慣れて来た。


 中2の子供がこの世界で独りでやっていけるのかって疑問もあるかもしれないけれど、この世界では12歳になると自力で生活できるように独立することが義務づけられているみたいなんだ。

 おかげで、子供扱いはされるが、独りで暮らしていても何も問題はなかった。お金もあるしね。


 そして、今日も冒険者ギルド「シャイン」でGランクの討伐依頼を見に来ている。Gランクの魔物といえば、定番のスライムや野良のゴブリンだ。ゴブリンでもダンジョン内に群れているやつや村を作っている場合はもっと高ランクの依頼となる。


 まあ、僕には『召喚術(達人編)』があるので、どんな高ランクの討伐依頼で会っても達成可能だけど、あまり変なことをして目立つのも嫌なので、普通に剣と盾を使用して依頼を達成している。


「おい、暢気君。最近頑張っているみたいだね。よく、ギルドに来ているのを見かけるからな」

 と声をかけてくれた冒険者はCランクのトッチギーさん。彼も若くして冒険者となり色々と苦労を重ねてきたことで、新人冒険者に色々と助言をしてくれるお節介焼きさんなのだ。


 そして、彼の背中に背負った大剣はトレードマークと言ってよかった。それは、トッチギーさんはこの村では少ない大剣使いだったのだ。


 そして、トッチギーさんはいつも口癖のように「大剣は防御と1撃必殺の攻撃、その両方が出来るからね。ソロで冒険者をするにはちょうどいいのさ」と言っていた。


 僕には『召喚術(達人編)』があるから、最終的には魔法師になるだろうと思っている。

 でも、トッチギーさんを見ていると大剣使いもとてもあこがれる職業だなぁと思うことがよくあった。


「あっ、おはようございます。トッチギーさん。今日も依頼を探しに来たんですか?」

「違うよ。丁度、護衛依頼が終わったんで、その報告と討伐魔物の報酬をね。そうだ、この後少し時間があるけど、剣術の訓練を付き合ってあげようか?」

「いいんですか?ぜひ、お願いします」

 トッチギーさんは時間があると剣術の訓練を手伝ってくれる。僕の剣術の上昇はトッチギーさんのおかげでもあった。感謝、感謝である。


「そうだ。暢気君、君はマジックバッグをもっていたよね。ちゃんと偽装はしているのかい?」

「えっ、偽装はしてないですよ」

 訓練中にトッチギーさんがマジックバッグの偽装について話をしてきた。僕も、最近魔物の討伐をすることが増えてマジックバッグから討伐部位証明を出す機会も多くなってきていた。トッチギーさんとも順番待ちでマジックバッグから出すところを何度も見られていたが、特に気にしていなかった。


「そろそろ、暢気君も盗難対策をしていた方がいいかもしれないよ。受付のサニアさんに聞いたら詳しく教えてくれると思うから聞いてみるといいよ」

「教えてくれて、ありがとうございます」

 トッチギーさんにお礼を言うと、若い冒険者がマジックバッグをもっていると盗難にあうことが多いそうだ。ここは王都からも近いから、よそから来る冒険者の数も多い。だから、その辺の所を今後は気をつけておかないといけないと反省した。


 受付のサニアさんに尋ねると解体所の厳じいさんの所でも出来ると教えてもらったので、そのまま、厳じいさんのところでマジックバッグの偽装をお願いした。簡単な結界魔法で本人以外が中身を取り出せないように出来るということだった。


 ◇◆


 今日はスライムの討伐依頼を達成するために、シャイニアンの森にやってきていた。

 スライム討伐の目的はダメージを与えて弱らせてから、専用の袋に入れて置けばいいというものだった。スライムは汚物やごみの清掃用に各家庭で使用されているんだが、寿命が短いから定期的に納品が必要な魔物だった。


 スライムの討伐に夢中になっている時、後方から何かが走って近づいて来ていることに気がついた。しかし、気づいた時には体当たりを受けて押し倒された。そして、その拍子に肩からすっぽりと抜け落ちがマジックバッグを拾って、その男は逃げていった。


「返せっ!」

 大声で叫びながら追いかけた。マジックバッグ自体は召喚で何とかなるが、『召喚術(達人編)』の本がマジックバッグの中に入っていたのだ。これまではあることが当然だったのに、その本が盗られてしまったことで急激に恐怖が襲って生きた。


 必死で走って、追いかけるが、相手は体が大きな大人の冒険者だ。追いかけても、追いつくことはできないことは分かっていた。しかし、マジックバッグの偽装をしているから、中身が取り出せないとわかると、どこかで捨てるだろうから、追いかけていけば見つかると安易に考えていた。


 暢気はこの時にふと嫌なことを考えた。


 走り去った冒険者は男性で、フードをかぶりその顔は見えなかった。でも、肩から下げた大剣にはうっすらと見覚えがあった。


 ちがう、ちがう。

 あの人はそんなことするような人じゃない・・・。


 僕は嫌なことを考えたことを反省した。


 この時、一度、冒険者ギルドに戻って盗難と落とし物の届け出をしておけばよかったとこの後、後悔するのだった。


 ◇◆


 さすがに追いつくことが出来なくて、体力の限界もあり、半ばあきらめてゆっくりと息を落ち着かせながら歩いている時に、右上の木の上から殺気のようなものを感じた。

 そんなことを気づけるようなスキルも何もないので、本当にたまたまだったのかもしれないが、右上が気になってそちらを向いた。


 そこにいたのは、へび型の魔物だった。しかも、かなり大きい。地球で言えば、アマゾンにいるアナコンダくらいはあるのではないかと思った。自分位の大きさなら丸飲み出来る位のサイズだった。


 とっさに剣を抜いてそのへびの魔物に向けた。


 と、同時にそのへびがとびかかってきた。


 今の僕の強さではこの蛇に勝つことは出来ないと考え左手に持っていた盾を全面にだして、左に受け流して何とか牽制する事に成功した。トッチギーさんに教えてもらったパリィだ。


 あれ、もしかして何とか行けるかも・・・。


 剣を構えて、地面をスルスルと移動してくる巨大な蛇に向かって剣を振るった。ザクッ。首筋に一筋の切れめが入り血液が飛び出した。


 よしっ!手ごたえありだっ。

 これが大剣だったら、これで勝利できたんだろうに・・・。


 だが・・・・。


 スライムならこれで致命傷だ。巨大蛇のサイズを考えるとこれで済むはずがないと、気をつけていたつもりだった。


 しかし、正面にいた巨大な蛇はその傷をものともせずに、大きな口を開いて攻撃してきた。あまりにも動きが変わらなかったので、驚きで反応が遅れてしまった。


 それでも、とっさに手を上げて噛みつきはかわしたが、今度は右手に深手を負ってしまった。


「痛い、痛い、痛い、痛い・・・・」


 暢気はその場から離れるように全速力で走りだした。スルスルと追いかけてくる音が聞こえる。幸いに足は普通に使えるので右手の痛みをこらえながら走り続けた。


 とにかく、逃げる事が精一杯で自分が今どこに向かっているのかは分からなかった。


「マジックバッグ取られるし、痛いし、ちくしょぉ・・・一度ギルドに戻っておくべきだった・・・」


 走りながら、後ろを振り向いて巨大蛇を確認した。

 距離は離れているが、それでもまだ追って来ていた。スルスルと気持ち悪く移動しながら・・・。


 そうだっ、木に登ってやり過ごせば・・・。

 だめだ、最初は木の上から攻撃を仕掛けて来たんだった。


 はあっはあっと息が切れるが休みを入れて、息を整えながら何とか逃げ切ることが出来た。周囲を確認すると、森の奥深くで回りは木ばかりで確実に森の中で迷子になっていることに気がついた。


 くそぉ、マジックバッグがあればこんなところすぐに出られるのに・・・。

 ちくしょぉ。

 手痛いな。


 巨大蛇に噛み付かれた部分から出血していたので、上着の一部をちぎって出血部位に巻き付けた。

 出血を止めることが出来たが、このままでは意識をなくして死亡確定だ。


 背筋がぞわぞわと冷たくなり、いわれのない恐怖がおとずれて来たが、その時、ズボンのポケットの中の種の事を思い出した。

 それは、転生初日にドライアドからもらった種だった。完全回復薬と言っていたので、物は試しと思い食べてみた。すると、右手の傷の痛みが引いていき、出血が止まったように思えた。血で汚れた布を取り除くと完全に傷が治っていることに気がつき喜んだ。


 でも、なんであの時ギルドに戻ろうと考えなかったのだろう・・・。

 トッチギーさん・・・・・・だめだ、いまはそれどころじゃない。


 この森で日が暮れてしまった後に、あの巨大蛇に襲われたらひとたまりもない。幸い、今はまだ早朝だ。何か対策をたてておかないといけない。


 色々考えた結果、穴を掘って罠にはめる事にした。それからは、すぐに罠にかける場所を探して、それから穴掘りを行った。日が昇るまで掘り続けてそれなりの大きさになった。効果があるかどうかわからないが、竹やりを埋めて落下予想地点に設置した。


 そして、走ってきた道を戻りながら巨大蛇を探した。すぐに見つかった。もしかすると、あれからずっと僕の事を探していたのかもしれないと考えるとゾッとした。


 後は簡単だった。蛇を盾で威嚇して罠迄誘導するだけだった。途中巨大蛇がジャンプしてきたので、かなり焦ったが、ギリギリの所でかわすことができた。そして、目標の場所まで誘導してもう一度盾を使用して威嚇するとストンと罠に落ちてくれた。


 中をのぞくと運よく、巨大蛇にとっては運悪く、頭部から竹やりが飛び出ていた。


 朝から何も食べていなかった僕は巨大蛇を解体して火をおこし、遅めの昼食とした。というか、ほとんど夕ご飯といってもいい時間だった。食べ終わった後に残った肉は、葉っぱでくるんで木のうろに隠しておいた。


 当面の大きな危機が回避されたので、残された時間でもう一度マジックバッグが捨てられていないか周辺を探し回った。しかし、見つける事は出来なかった。


 日も暮れて来たので、近くで寝るところがないかを探していると、大岩の隙間から何かの動物の鳴き声が聞こえて来た。凶悪そうな鳴き声ではなかったので、こそっと覗いてみるとそこにいたのだ小さな子犬のような生き物が一匹横になっていた。


 おそらく怪我をしているのだろう。動くことが出来ないようだった。僕は蛇の肉を取りに行ってその子犬に分けてあげた。


「ほら、蛇の肉だぞ。焼いているから、お前が食べることが出来るかわからないが、ほら食べろ」


 そう言って、子犬の前に蛇の肉を差し出した。子犬は僕を見ながら警戒していたが、お腹がすいていたことと体の傷の為に空腹には勝てなかったのだろう。警戒を解いて食べ始めた。

 おそるおそる僕は子犬の側に近寄って、食べるのを眺めていた。食べ終わると、僕の側にやってきて眠り出した。


 この子犬目が鋭いな。でも、どうしてこんな場所に居たんだろう。不思議だ。


 ・・・・あの、冒険者は・・大剣使いは・・・スプリングタウンの村に戻ればわかるよね・・・


 僕は先日のギルドでの事を思い出していた。


 トッチギーさんはなんで偽装の話をしたんだろう・・・。


 夜遅くまで考えていて不安のままだったが、いつの間にか眠りについていた。


 日が完全にくれた後からずっと、森のどこかで、巨大な狼の遠吠えが何度も何度も鳴り響いていた。


(下)に続きます。

(下)に続きます。

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