エンディング・それは次回の講釈にて
▼その87・それは、次回の講釈にて
(※盗賊都市近くの森に出るAたち)
「あ、帰ってきた……?」
「そうじゃ。帰ってきたぞ」
「B、僕らが来るまでなにかあった?」
「全然、あんたが連れてきた女がFさんにデロデロにされたくらい」
(※あきれ顔で指差すB、「ごろにゃーん♪」とFに抱きついてるJ、男前な笑みを浮かべながら喉を撫でてるF)
「まったくあやつめ……好みの女とみるとあれじゃからなぁ」
「Fさんってバイセクシャルだったんですか?」
「愛は性別を超える。普通じゃろう?」
(※J、こちらに気付いて振り返り、真っ赤になるが嬉しそうな笑み)
「ここ、同性愛Okなのね?」
「まあ、ええ……」
「素敵! 嬉しい! 私の世界じゃ駄目だったの!」
「いや、世界を救った勇者でしょ? それぐらいは……」
「勇者だから『こそ』駄目だったのよ。君みたいな可愛い男の子ならいいけど、私のいた世界じゃムキムキマッチョ以外男じゃないッテ世界で! あげく無理矢理、むさ苦しい筋骨隆々な男と結婚させようとするから逃げようとしてね……あー思い出した! そしたら手引きしますっていう黒髪ショートカットの、私好みの凛々しい感じの女戦士があたしに近づいてきて、お酒飲んだら意識が無くなって……」
「あー、きっとY崎課長の女性型義体だ」
「ですねえ」
「まったく、パーティの面子はみんな内輪でくっついちゃうし、女王陛下はさんざん私に甘いこと言って、邪神と魔王の連合軍をぶったおしたから、ご褒美にベッドに誘おうとしたら『私には夫がいますので』ってすげなく逃げちゃうしさー。いっそ私が魔王になろうかって思ってたほどよ」
「……なんか勇者も色々なんですね」
「ですなー。まあ、勇者を世界を救うだけの戦闘装置、と考えれば、ひょっとすると彼女、元いた世界の王族たちと同意の下、差し出されたのかも知れませんね」
「うわぁ……黒い……」
「まあ何処の世界も既成概念に囚われがちな権力者は、力のありすぎる功労者を煙たがるモノです」
「さようなことを我が友にした場合、我が許さぬ」
「ありがとう、ヘクトパスカル」
「……そういえば言うのを忘れていた。友よ、感謝する。よくぞ我のために戻ってくれた」
「まあ、友だちだからね。はは」
「……生涯、我は汝の友だ」
「とにかく傷を癒やしてよ。人の姿になれたら、一緒に約束通り、からあげクン食べよう」
「うむ!」
「からあげクン? あれ全部この前食べちゃったんじゃないの?」
「あ、いや違うんだよB、そのあのえーと」
「やっぱり冷凍庫に在庫があるのね! あたしも食べる!」
「やれやれ……正妻には適わぬな」
(※遠くからE王女の軍勢がやってくる)
「姫ー!」
「王女殿下ー!」
(※E王女、微笑んで手を振る)
「皆無事か! 魔王軍はどうなった!」
「はい、王女殿下、先ほどから急に奴ら撤退を開始しました」
「念話で各地の軍の魔道士たちと連絡を取りましたが、同じ様にどこからも逃げ出しているようです」
「うむ、やはり本拠地が離れるに合わせて逃げ出したか……誰も異世界に放り出されたくはないものだろうしのぅ」
「ということは、殿下!」
「うむ、そこの勇者Aの力により、魔王ショージ・ガ・イシャーは永遠にこの世界から去った! 平和が戻ったのじゃ!」
(※どよめく一同)
「そして宣言する! 妾はこの勇者Aを婿とし、永遠の愛を誓う!」
「え!(※A、真っ赤)」
「え!(※青ざめるB)」
「へー(※笑うF)」
「!(※強張る表情のC)」
「私はH……遅れてきてしまった女……ズルイ、E王女……」
「あ、Hさん!」
「……少年、王女のモノになってもたまには貸し出しを希望する……わ」
「おう、H殿か、構わぬぞ、月一ぐらいであれば!」
「いやあの、本じゃないんですから僕!」
「なんじゃ? 不足か?」
「あ、いえあのえーと……それはその……」
「私はH……A、あなたの為に夜のプレイ用に香油を用意する……女……」
「おう、油でテラテラしたものがそういえばAは好きじゃったな? これからは毎晩、いや毎日昼夜を問わずデモよいぞ?」
(※A、思わずE王女とHのふたりの胸の谷間を見る。小麦色に日焼けしたE王女、真っ黒なHの盛り上がった二つの丘)
「香油……テラテラ……腹筋とおっぱい……(※A、うっとり)」
「どうじゃ?」
「どう?」
「わかりましたぁ……あはは♪」
(※B、Aの太腿をつねる)
「ぎゃああ!」
「ちったあ考えなさいよ、バカ! それに盗賊が王族と婚姻なんてどんだけムチャだか考えなさいっての!」
「いや、あの……はい、ごもっともです。あの王女様、今の無しです。そこに関しては暫く話し合いましょう」
「ふむ……やはり正妻には適わぬか」
「いえあの、せ、正妻とかそーゆーのじゃないって何度言えば良いんですかおお、王女様っ!」
「あー、だめだこりゃ、Aさんの弱点ですねえ」
(※あきれ顔のナビの横で、つねられた太腿をさするA)
「ところでA、本で思い出したが」
「はい、なんでしょう……イタタタ……」
「妾の全てはお前のモノじゃ、故にお前のモノも妾のモノじゃ」
「は、はあ……」
「よって、あの例の塔の中にある本、持って行くぞ」
「え?」
「特に技術関係の書物、あれはよい。鋼鉄炉や農業、司政においてもかなり参考になる」
「あ……マズイですよAさん! E王女が言ってるのは、あれです、最近流行りの転生モノに対処した文明復興とかチート用のマニュアル本のことですよ! 山北篤先生の奴とか!」
「あー! だだだだだめです、だめです、それはまだこの世界には速すぎます! 下手すると世界が滅びます!」
「何を言う、技術は生かしてこそ花じゃ。独占はせぬ、世界にばらまく! 写本をさせてしまえば良いのじゃ!」
「いやいやいや! だめですって!」
「ふむ、香油プレイだけでは駄目か? ではどうすればよい? BやF以外にも騎士団から選りすぐった者で多人数で……腹筋の浮いた鍛え上げた女子がよいのであろう? みな国の発展&英雄であるお前の子種が貰えるなら喜んで」
(※ほわほわとAの頭の上に浮かぶイメージバルーン、そこにはあられもない姿の艶肌&褐色or様々な肌の色の腹筋が浮いた美女の群れが)
「あ……あ……は、鼻血が……」
「Aさん!」
「どうしましょう、ナビさん、酒池肉林というか極楽浄土が」
「ここは異世界です、仏教用語は駄目ですって!」
(※B、Aの太腿を再びつねる)
「ぎゃああああ!」
「このバカ! あのビルの中身の危険性しってて、下半身に判断委ねてどーすんのよ!」
「ふむ、正妻殿は世界を変えてみたくないのか?」
「変えるにしてもちょっとあれは駄目です! そのままじゃ絶対に!」
「なんというか、世界に対する危機感はBさんのほうがよほどしっかりしてますねえ」
「妾の夢を叶えるぐらいは良いであろうに、のう、我が主殿? それとも妾ではあの中にある知恵は扱い兼ねるとかいうのかや?」
「いやいやいや、そそそそそういう意味じゃないんですぅっ! と、とにかく話し合いましょう、ちゃんと説明しますから……」
(※ワタワタとE王女に説明しようとするA、首を捻っているE王女、歓喜に沸いている軍勢)
(※少し離れたところで、幽体のような姿で上半身だけ人型に変換したヘクトパスカル、腕組みしてナビと並んでいる、側にはむすっとした顔のB)
「やれやれ……我が友の前途は色々と多難じゃなぁ、ナビよ」
「そうですねえ」
「…………ホントにあのバカ、なんで巨乳にあんなに弱いのかしら!」
「嘆くなB。お前もいずれああなる」
「ホントですか、古龍さま?」
「ヘクトパスカル……いや、これからはへっちーでよい。お前も又あのビルの中の本の意味を知る友だ」
「あ、ありがとうございますへっちー……あ、そういえばCは?」
「ふむ、そういえば見当たらぬな?」
(※場面転換)
(※どこかの室内、石造りの高い窓の部屋。全裸にマントのC、片膝を突いて頭を垂れている)
「戻リマシタ、オ館様、Aハオ館様ノ予見ドオリ魔王ヲ退ケマシタ。カノ軍勢ガ二度ト戻ルコトハナイデショウ」
「ご苦労でした、C」
(※Cの前に人影)
「……Aハ本当ニ、暗殺セネバ、ナリマセヌカ、オ館様」
「何を今さら言うのです、C」
(※Cの前の人影、高い天窓からの明かりの中へ進み出る)
「あの子は……Aは、この盗賊都市を滅ぼし、盗賊王を絶やすもの。私は見たのです。Aが、魔王を退けて世界に平和をもたらした後、盗賊都市を破壊するその瞬間を! 盗賊王となったものが一度だけ見ることが許される『予言の霧箱』の中で!」
(※現れ出たのは盗賊王G)
「Aは、この世界と、盗賊都市のために、死んで貰わねばなりません」
(※G、辛そうに天窓を見上げる)
「たとえ、親友の子供であろうとも……それは変わらないのです、C」
「ハ……」
「命じます、あの子と寝なさい。あなただけではなく、一族総出で」
「!」
「そうすれば一族に伝わる予言通り、永劫の血筋がお前たちに与えられる……そして、あの子は父親と母親に似て優しい。まして情を通じ合った者を疑う事も傷つけることも出来ない。だから、情を通じ合ったら、今から半年以内に殺しなさい。それが期限です。あの子が16になったら運命が動き出し、18までにあの予見は現実になる」
「……」
「いやですか?」
「……イエ、私ハ、暗殺者デス」
(※苦渋の表情で俯くC)
(ナゼだ……どうして私は、こんなに心が苦しい? これまでも何人も暗殺してきたというのに……あの夢の機械で見た夢のせいか? あの時に見た甘い甘い姉弟プレイの淫らな夢が……)
「そうすれば……私はお前に盗賊王の地位を譲りましょう」
「!」
「お前の一族の未来は、それで本当に拓けることになる」
「……」
(※場面転換)
(※何処かの山奥、まだ煙の立ち上る巨大な穴の中、人影が立ち上がる)
「……まったく、業務上の失敗がここまで重なるとは思いませんでした、うん」
(※人影、穴の中から飛び出す)
「最新型義体ですから30年はノーメンテで保つとして、その間に本社を再びここへ呼び戻さねば……それとあのA君への報復業務もしなければなりませんね、うん」
(※頷きながら人影、闇の中へ消えていく)
(※場面転換)
(※森の中、宴の用意で沸き立つ魔王討伐軍)
(※AとB、必死になってE王女を説得中)
「うーむ。まあ、お主らがそこまで言うのであれば、あの塔の接収はせぬ。中の本も、しばらくそのままにしておこう」
「良かった……」
(※安堵するAとB)
「まあ、急激な技術進歩ってのは、魔法と相まってこの世界そのものを全面戦争で滅ぼしかねませんからねえ」
「特に民主主義とサッカーは、ナーロッパ世界とは言え中世ベースの世界に広まったらホントに国が滅ぶ所の騒ぎじゃなくなっちゃいますからね」
「フーリガンが王族に現れたら、いえ魔法使いや神官、貴族や大商人がフーリガンと化したらホントこの世界手が着けられませんからねえ。化学肥料から毒ガスも作れちゃうわけですし」
「まあ、古龍を含めた他の龍も注意が必要だな、もはやさほど数はおらぬが、それでも彼等の知識への渇望とそこに填まったときのたちの悪い奴は残っておる。わ、我は違うぞ? 我はキチンと現実と空想の区別はついておるし!」
「いや、別に疑ってないって(笑)」
(※E王女、ナビの声が聞こえないのでちょっと怪訝な顔をして、気を取り直す)
「ただ、本は読ませて貰うぞ、王族は常に知恵あるモノでなければならぬ。そしてA、B、そなたたちにも手伝って貰う。これまで強大な魔王の軍勢を相手にしているからこそ結束していられた各国も、魔王がいなくなれば結束はなくなる。そうなれば我が国がまず生き残らねばならぬ」
「うわーシビア」
「おとぎ話と違って、現実には『めでたしめでたし』の先があるでな」
「……まあ、これから先、案外一番の強敵はE王女かもしれませんねえ」
「え?」
「彼女は勇敢で頭も切れて、政治力もある。あの顔はどう見てもあのビルの中の知識を諦めた顔じゃありません。何よりも巨乳で褐色肌で腹筋、あなたの弱点が固まってるような存在です」
「う……」
「これは、魔王軍やY崎課長を相手にするよりも難儀かも知れませんよ?」
「うそだぁ……トホホホ」
「まあ、そこいらへんはBさんと私とで協力しながらやりましょう」
「え? 残ってくれるんですか?」
「……残念ながら、あなたの勇者としての役割はまだまだ続くようなんですよ」
「そうなんですか? Jさんみたいなカンスト勇者いるのに?」
「彼女は彼女の世界の勇者であって、レベル的に上なだけで、この世界の命運に関わる運命はないんですよ。恐らく何らかの形で彼女は力を失うか、別の世界、あるいは元の世界に移る、という話がいずれ私の上司から来ると思います」
「……あらら、そうなんですか……Fさんと別れ別れになっちゃうのか」
「まあ、そこは愛の絆で案外Fさんもついていくかも知れませんね」
「あ、そうか……」
「ハーレムから人が消えるの、おいやですか?」
「いえ、ハーレムだなんて……成り行きでそういう形になってるだけで。皆さん幸せになるなら」
「まあ、あなたはそういうタイプですよねー」
「はい」
「んで、どうやら、私の残業の日々も暫く続くようです……」
「なんか、申し訳ありません」
「ま、仕方ないですよ。これはこれで楽しみも見いだしてきました。何しろ英雄のお手伝いですから」
「英雄かぁ……なんか果てしなく遠いですけれど、よろしくお願いします」
(※A、ナビに頭を下げる)
「ちょっと、何してるの?」
「いや、あのまあ、その……守護霊さんにお礼を」
「……あんたのそういうところだけは、多分生涯治らないのよねきっと」
「まあね……Bもよろしくお願いするよ、これからも」
「ば、バカじゃないの? あ、あたしたち相棒でしょ、当然じゃない!」
「そう言ってくれるの、凄く嬉しい」
(※しみじみ言うAに真っ赤になるB)
「ばか! もうなに改まってしみじみした顔してるの! ほらご飯食べよう! あたしもうお腹ペコペコなんだから!」
「あ、うん……」
(※A、Bに手を引っ張られて宴の中へ)
「ご飯食べて、よく寝て、それから考える! いいわね?」
「うん……そうだね、そうする!」
(※物憂げだったAの表情、ぱあっと明るくなる。焚き火の明かりに照らされるBの横顔をじっと見つめる)
「……綺麗だ」
「ん? 何か言った?」
「いやあの、なんでもない!」
(※宴の食事の列に混じっていくAとB、迎え入れるE王女たち……空に昇った月が、全てを見下ろしている)
※おしまい!
……というわけで「ペナルティ目当てで能力選んだらナビゲーター付き盗賊として異世界転生してました(仮)」ひとまずのお終いでございます。
とにかく行き当たりばったり、主人公の性的嗜好も含め自分の好きなもの、小ネタ全部叩き込んで、商業ではまず、絶対に通らないお話を書くのは凄く楽しかったです。
皆さんも楽しんで頂ければ本当に幸いなんですが。
あと、書籍化してくださるところがあれば喜んでお受けしますので!(笑)
続きがあるかどうかは皆様の反応次第と言うことで、一つ。
「小説家になろう」への投稿は今後も続けるつもりですのでまたお付き合いいただければ幸いです。
ではまたー!




