その86・汝、天国で悪魔と踊れ
▼その86・汝、天国で悪魔と踊れ
(※頬を深く切り裂かれるA)
(※バラバラになる鎧)
(※女の裸身が床に倒れる)
「お見事!」
(※手を叩くナビ)
「あ……え?」
(※両手の剣を交差するようにふり抜いたポーズのまま、固まっているA)
「え? 女の人? 男じゃなくて?」
「勇者に男女の別はありませんよ?」
「わわわわ!」
(※あわてて駆け寄るA)
「う……あ……きゃああああああ!」
「ああ、ごごごごごめんなさいごめんなさい!」
「い、いったいこれどういうことなの!」
「いやあのえーとですね」
「あー、大体判ったわ。きっとあなた、別の勇者なのね? 私をあのYカチョーウが騙して、きっと洗脳してあなたと戦わせたのね……まったく、私の世界を侵略できないモノだからこんな腹いせを!」
「あ、なんか勝手に納得してくれましたよ。さすが勇者、状況判断が速いですな」
「そういう話?」
「あの……えーとあなたは?」
「あ、Aと言います」
「私、元勇者のJといいます、済みませんけど何か服を下さい!」
「あ、はいはい!」
(※A、そこいら辺に倒れているドローン兵士の外装服をはぎ取る)
「これ!」
「あ、ありがとう」
「勇者までデデデデデ、タオシテテテテテしまうとは、こまった人ですねウンウンンンン」
「!」
(※振り向くA。埃まみれ汚れだらけの、四角い箱に棒状の手足がついたタコモドキの機械)
「……Y崎課長?」
「もう義体の替えが間に合わないナイナイナイのでデデデデ、しかたたたた、なく、このジェイムスン型ギタイギタイをををを」
「うわー、音声ディレイ起こしてる」
「しかたたたたたたた、ないのですすすすすす」
「…………」
「きみみみみたちちちちには、しんでもらわないとととと、この対勇者用……」
(※つかつかと剣を持ったまま歩み寄ったA)
「とりゃ!」
(※がす)
(※A、Y崎課長の義体を蹴っ飛ばしてひっくり返す。ジタバタするY崎課長、その装甲を一瞬で斬り飛ばして中身を露出させる)
「こういうとき、格好いいセリフって、なかなか思い浮かばなかったんですけど、今よーやく思い浮かびました」
(※A、ヘクトパスカルを持ったまま、E王女の宝剣を地面に突き刺し、胸のチェストホルスターからセマーリンを取り出す)
「天国で、悪魔と踊れ!」
(※引き金を絞るA。銃弾が内部構造を破壊する)
「さあ、あの装置をぶっ壊しましょう!」
「はい!」
「あの……あなた、ひょっとしてそのすぐ側の人と話し、してるの?」
「あ、見えるんですか?」
「うん……なんか、ぼんやりと。精霊?」
「似たようなもんです。はい」
「へえ、変わった勇者がいるのね……勇者いつも最後は一人なのに」
「まあ、半端物でして……たははは」
(※苦笑しながらA、二つの大剣を振りかざす)
「やるよ、ヘクトパスカル!」
「応!」
(※露出している重力アンカーのコア)
(※一瞬で×の字に切断される)
「さあ、ここから3分で帰らないと!」
「急ぎましょう、Jさん!」
「え? 一緒に行っていいの?」
「だって、ここ、多分広範囲で吹っ飛びますから!」
「あ、う、うん……でも私あなたたちを攻撃して……」
「利用されただけでしょ? 行きましょう!」
(※手をさしのべるA、躊躇しながらその手を掴もうとするJ、無理矢理手を取り、頭一つ大きな彼女をお姫さま抱っこして走り出す)
「!」
(※真っ赤になるAに構わず、彼女を連れて走るA)
「すげー、40倍の力って凄い!」
「まあ、今のあなたはその勇者さんよりも間違いなく強いです……が、あと1分で効力切れますよ」
「あ、忘れてた!」
(※A、懐から革紐を取りだし、E王女の宝剣の柄に結ぶとグルグル振り回し始める)
「何してるんです?」
「これ、来た時魔法で飛んできたでしょ? 今ならその残りと僕の膂力で飛ばせそうなんで、それに捕まって帰ろうかと」
「あ、そういえば今そういうスキルも発動中でしたっけ」
「でしょ? 我ながら冴えてる!」
「大丈夫だ、A、我も魔法を加えるのでちゃんと出来るぞ!」
(※剣となったヘクトパスカルからも魔力が宝剣にチャージされる)
「……あなた、剣はともかく……背後霊と話すの?」
「僕の軍師みたいな人ですから!」
「……(※呆れ)ここの世界の勇者は変わってるわ……」
(※グルグルぶん回す撃ちに刀身が輝く)
「そーら、王女様のところまで、飛んでけーっ!」
(※宝剣をE王女のいる方角へ投げるA、手首に結んだ革紐で引っ張られて飛ぶ)
「飛んでるーっ!」(※J)
「さすがだ、友よ!」
「大したもんですねえ……」
(※去って行くAたちの背後で光の粒子が渦を巻いて膨れあがっていき、壁や天井を押しつぶしていく)
『総員避難勧告、総員避難勧告、重力子アンカー装置に異常発生、異常発生、デルタ22~3334までの回想地区の職員は緊急待避、脱出カプセル使用を許可。くり返す……』
(※背後で鳴り響くアナウンス)
(※崩壊する施設と通路の中を飛んで戻ってくるA、寸前で手を離すと宝剣はE王女の手に納まり、Aは勇者Jを抱きかかえて着地)
(※魔法陣を防御してE王女仁王立ち、周辺は隙なくBとF、そしてCが銃を構えて警戒。周囲はドローンの残骸で死屍累々)
「戻ったな! A!」
「はい!」
「A、古龍さまは? どうしたの」
「ここにおるぞ、B(※腰で輝くヘクトパスカル)」
「え……」
「なんと……」
(※驚くB、E王女にF)
「諸事情あってな、しばらくこの姿だ」
「で、そこのタッパの高いねーさんは誰だい?」
(※F、面白そうな顔でJを眺める)
「(※真っ赤)あ、あのわ、私は……その……」
「説明は後じゃ、もう魔法陣が持たぬ! 皆、魔法陣をくぐれ!」
「行って! 僕は王女様と最後に行く!」
「あのねえ!」
「Fさん、Bを頼みます!」
「あいよ。じゃそこのお嬢さんも一緒に」
(※F、ふざけてJを抱き寄せる)
「ん~いい匂い♪」
(※J真っ赤になる)
「あ、あのお姉様そんなことをされると……私……私……」
「ふふふ、照れてるのかい?」
「F! お主久々に悪い癖が出ておるぞ! 女を口説くならここを出てからにせい!」
「はいはい、殿下の仰せのままに」
(※手慣れたプレイボーイの感じでJの腰を抱き寄せ、Bの手を取って魔法陣へと飛びこむF)
「よし、くぐったな、我らも行くぞ」
「はい、E王女さま」
「Eでよい!」
(※Aの手を取るE王女)
「はい、E!」
(※ふたり、そのまま魔法陣の彼方へ消える)
(※崩壊激しくなり、全てが崩れる)
(※空間を移動していくAたち。足下に広がる巨大な関東平野がみるみる遠のいていきながら、パズルのように分裂、やがて蜃気楼のように揺らめいて消えていく)
「さよなら東京、さよなら日本、か……」
(※それを空間内で飛翔しながら見ているA、BがAの手を掴む)
「なんか、変な気分……あたし、あそこで生きていたのって例の夢見る機械の中での嘘なのに……とっても寂しい」
「僕もだ……寂しいのが判る人がいるのは、こういうとき、いいね」
「うん……」
「しまった……」
「どうしたの、ヘクトパスカル」
「書泉を奪うことを忘れておった!」
「んもう! このまえキャーティアの子たちから色々貰ったんだからそれで我慢して!」
(※Aたちの背後に光。そして全てが真っ白くなって……)




