その72・裏切りの銃弾
▼その72・裏切りの銃弾
「せーの」
(※圧縮空気で火種を作るファイヤーピストンで火をおこすA)
「おー、器用だねえ」
(※燃え上がる焚き火)
「えーと、塩と胡椒……っと。ラジオ会館の1階にあるコンビニに色々残ってて良かった」
(※グツグツと煮えている布を枠に張っただけの『布鍋』中で煮えている香草と鶏肉へ、味塩コショーの類いをかける)
「カレー粉持って来りゃ良かったかな?」
「なんかさりげなく禁断のモノを持ち込んでませんか?」
「まあ、これぐらいは……しかし布鍋はホント、燃えないなあ」
「上手いこと思いつくわよね、昔の人は」
「水は一〇〇度以上にならないからねー。耐水布なら水も漏れないし。紙でも出来るってきいたことある」
「そんな勿体ないことできるのは王侯貴族ぐらいだと思うけどな……お、そろそろ煮えてきた」
(※F、煮えた鍋の中身をスプーンで木の椀によそっていく)
「そうか、この世界じゃ紙の量産とかむっちゃ難しいもんなあ」
「そういえばあのビルの中、冗談みたいに本がいっぱいあるけど、凄いわよね」
「なんだそりゃ、そんなお宝の山があるのか?」
「うん、まあね……多分、他にも色々あると思う」
「他にもって?」
「彫刻みたいなやつとか、まあ色々」
「ふうん……」
「というか、あの建物は武器だから」
「武器?」
「うん、たぶん。今の戦いが終わったら、あれは盗賊都市最大の武器になると思う」
「???」
「それちょっとわかんない……あれは武器にしちゃうといやだな、あたしは」
「……???」
「文化侵略ってそこそこに強力なんだ、うん……まあそれにヘクトパスカルも暗殺者のCさんもあそこがあると喜ぶし」
「そうね……」
「おいおい、あの暗殺者Cとお友達なのかよ?」
「あのビルの中だったら、だけどね」
「へえ…………まったくお前等、大した奴らだよなあ。どうだ、盗賊辞めて、いやそのまま傭兵ギルドに来ないか? 優遇するように上に掛け合うぜ?」
「え?」
「うちら傭兵だってさ、先の事を考えないとやっていけねえ世の中だろ? そのファイヤーピストンみたいにさ、色々大事だと思うんだよね。これからの世の中、色々動きそうだし」
「この先かぁ……考えたコトも無かったなあ。ふつーにまた盗賊見習いに戻るだけ、そうさっきもBと話してました」
「ま、そうしちまうような盗賊ギルドなら先は見えてる、ウチに来い。出世させてやるぞ」
「ちょ……」
(※怒りそうになるBの腕を掴むA)
「うーん、分不相応の出世はそれはそれで僕の望みじゃないですし、そこまで盗賊王のG様が愚かだとは思ってません」
「まあ、そりゃそうだろうが、大きな組織で、しかも商人とつるむと大抵、変な見栄だの年功序列だのが幅を利かせるからなー。そこんところはB、あんたも自覚してるだろ?」
「う……」
「まあ、あんたらヒト族はオレらエルフよりも寿命が短い。ろくに出世もさせてくれないところで、変な義理立てして使い潰されるようなら、ぽんと出てこい。オレはいつでも付き合ってやるぜ? 長く生きすぎるより、短く激しく生きたいからな、ハハハハ」
「ゴーカイさんですねえ。Fさんは」
「エルフとしちゃあ雑だがよ、相棒としてはBと同じぐらい頼りにしてくれていいんだぜ?」
「な、なんでそこであたしの名前が……」
「ん? 生まれた時からの幼なじみだろ? そりゃ普通最高の相棒じゃないのか?」
「そ、そういう意味なら判りますけれど……でも、コイツが従、あたしが主ですから!」
「そうなのか?」
「まあ、ハイ」
「ふうん……ベッドの上じゃ大抵……」
「わー! わー! わー! わー! わー!!」
「わーわー! わー! わー! わー! わー! わー!!」
(※AとBふたりとも真っ赤になってワタワタ)
「仲いいよなあ、お前ら、ホントに」(※呵々大笑するF)
「…………」
「……か、からかったんですね?」
「いや、今のは割と本気だった」
(※F、素早く銃を抜いて撃つ)
「!」
(※B、腹部を撃たれて倒れる)
「すまないね(※Fの口からY崎課長の声)」
「な……なんで? ナビさん!」
「すまないが、量子干渉でこの周辺にはもう君が頼りにする『天の声』はとどかないようにしたんですよ、うん」
(※Fの顔から全身がブロック状に分解し、Y崎課長に変形)
「さて、満腹時に人間が撃たれるとどうなるか、ご存知ですか? 特に胃の場合」
「…………いつすり替わった!」
「彼女が狩に行ってるときですよ、うん。君の『天の声』もそのあたりから遮断してますが、彼女との共同作業で気付かなかったようですね、うん? 油断大敵です、うん」
「…………」
(※ぎりぎりとAの奥歯が鳴る)
「さて、満腹時に胃を撃たれると人間がどうなるか? の答えです、うん。まあ大抵胃の内容物が体内に漏れるとそれだけで炎症を起こし、甚大な内臓への損傷を起こします。ショック死も起こりかねない…………まあこの世界の人間は我々よりも多少頑丈のようですが、それでもその身体からすれば出血と内臓へのダメージであと10分以内に手当てをしないと死にますよ」
「!」
(※治癒のスクロールを取り出そうとするA、銃弾でスクロールを吹き飛ばすY崎課長)
「これで治癒魔法は使えませんね、うん」
「貴様……」
「まあ、君があの『天の声』なしでは平々凡々な人間で良かった」
「取引だろう? でなければBをこんな目にあわせるもんか」
「そう、君にはお願いがあります、うん」
「…………いってみろ」
(※Y崎課長、笑う)
「察しのイイ人は好きですよ、うん…………」
「早く言え!」
「E王女を暗殺しなさい、うん」




