その71・夜露を凌ぐ前に
▼その71・夜露を凌ぐ前に
「それはともかく、今夜の寝床を用意しないと……と」
(※A、作業用の短刀を取り出すと器用に木の枝を切ったり枯れ枝を拾ったりして簡易シェルターを作る)
「あたしも手伝うわよ、あんたの身体の大きさで作ったら三人分でも窮屈なんだから」
「ありがと、B」
「んじゃあたしは夕食でも取ってくるかね」
「お願いします」
(※F、弓矢を構えると放つ)
(※命中して落ちていく鳥)
「んじゃ、あと二羽ぐらい仕留めてくるわ」
「……お願いします。凄い」
「ははは。最近ライフルばかり使ってたからこれでもだいぶなまったけどな♪」
(※去って行くF)
「……」
(※黙々と作業するAとB)
「……ねえ、A」
「なに?」
「あんたさ、これが終わったらどうすんの?」
「終わったら? そういえば考えたことなかったけど……そうだな、また盗賊見習いに戻るんじゃない?」
「…………本気でそう思ってんの?」
「うん。だってさ。僕そんなに成長してないし」
「……バカなの?」
「かもしれない」
「…………ちったぁそこ、反駁しなさいよ!」
「んーだってさ、E王女を掠って云々、っていう試験が始まってからせいぜい1、2ヶ月ぐらいでしょ? そりゃ確かに修羅場はくぐったけど、運が良かった以外、僕は何もしてないよ? 難しい判断はE王女や君や、他の人たちがやってくれたわけで。僕それに従っただけだもの……根っこは昔と何にも変わらない」
「ヘクトパスカルからみんなを助けたでしょ?」
「あれはギリ上手くいっただけ、ヘクトパスカルが知識に興味がないような龍だったらそこでおしまい。でしょ? あれだって最後はみんなが手伝ってくれたから上手く行ったわけで」
「……」
「今だって、こうしてシェルター作ってるけど、つい自分の身体の大きさに合わせるから……あ、B、枝持ってて……」
「う、うん」
「えーとここを縛って…………と延長出来た奴をここで、こうして……あと一本交差させて……で、こうして縛ってまた延長して……と」
(※A,ドーム状のシェルターの骨組みを作って地面に固定、葉っぱのついた枝を上に重ねていく)
「松系の多い森で良かったねー。夜露凌ぐのに楽でいい」
「そうね…………ね、ホントに何にも変わってないと思ってる?」
「うーん、上の人は多分、それなりに僕らを遇してくれるとは思うよ。でも見習いは見習い、僕らはちょっと運が良かっただけ、だから生きてる。そこを思い上がると酷い事になる」
「……」
「なに? そんなにじっと見つめて」
「ちょっと呆れてる……っていうか、驚いてる。あんたそこまで考えるタイプだったんだ」
「んー、まあこれまでぼーっと生きてきたから、修羅場で脳が回るようになったのかもね(まさか、これまで15年間自動プレイモードだったんで、とは言えないしなー)」
「…………で、一人前になるための修行に戻って、なったらどうするのよ?」
「一人前に?」
「そ」
「そうだなあ。やっぱり装備の開発をする。盗賊王は君に任せた」
「…………それじゃ駄目だってば」
「え?」
「装備開発だけじゃなく、あたしの助手もやるの」
「あんまり役に立たないよ?」
「たつようになりなさいよ!」
「まあ、そういう考え方もあるか」
「あるか、じゃないの! 最初っからそういうもんでしょ」
「かなぁ……」
「さ、あとは中にも葉っぱのついた枝を敷いて……かまど作って」
「はいはい」
(※A、テントから少し離れた所に、荷物の中から小さなシャベルを取りだして穴を掘ってかまどを作る)
「…………」
(※B、葉っぱのついた枝を分厚く敷いて断熱材にしながらチラチラとAを見る)
「ホント、何考えてるんだろ、このバカ……立派に英雄の癖に」
「なんか言った?」
「そろそろ急がないと日が暮れるわよっていったの!」
「そうだね、えーとこれぐらいでいいかな?」
「いいんじゃない?」
「おーい、獲物取れたぞー。ついでにキノコも見つけてきた、食える奴」
「おお!」
「あと食べられる香草も生えてた……この辺例の猫耳エルフのお陰で猟師がしばらく入らなかったせいか、かなり楽に獲物が捕れるな……この香草も、普通はもう取り尽くされるやつだ」
「へえ……」
「えーと、とりあえず布鍋でいいですかね?」
「小川があっちのほうに流れてるぞ」
「はいはい」
(※A、荷物から革で出来た折りたたみバケツを取り出す)
「用意いいわね」
「今回、長い逗留になるかも、って思ってたから」
(※A、水を汲みに行く)
(※小川、A、水を汲む)
「もう一個ぐらい持って来れば良かったかな……」
「しかし、そろそろクライマックス、って感じですな」
「あ、ナビさん」
「この辺の量子アンカーの場所は判りました。E王女が軍勢を連れてくるのに大体三日ぐらいはかかりますかね」
「そうだね、大規模転移魔法で動かせる軍勢の数は決まってるから……それぐらいかな」
「大決戦になりますなあ」
「うん。なるべく誰も殺さない、死なせないでなんとか納まってくれるといいんだけど」
「しかし、いいんですか? そのやり方で? 少なくともBさんには伝えるべきでは?」
「うーん。あの子の性格からすると反対するか、自分がやっちゃうか、どっちかになるからなあ」
「意外と良くBさんの性格を把握なさってますね」
「さすがに2ヶ月近く過ごすと判るよ。自動プレイモードの僕を、見捨てないでいてくれただけでも、いい子だもの」
「ですよねえ。端から見れば、単に電波系の危ない人なあなたの幼なじみでいてくれたわけですし」
「だから、それだけに守ってあげなくちゃ」
「なかなかにヒーローですな、Aさん」
「今現在じゃ義理とか人情のたぐい。将来、ちゃんとそれが出来たらヒーローだけどね」
「冷静ですなー」
「浮かれて調子にのるには前世が長すぎました」
「なるほど」
ところで、最初の頃、主人公が選んだペナルティの中身を憶えてる人はいますかねー?




