その7・変態と拳銃
その7・変態と拳銃
「………………………………」
「…………」
「ねえ、何とか言ってよB」
「……変態」
「いやー、いまのは私も引きましたわー。よっ、変態」
「へ、変態って」
「あんた、たまーに姉貴たちのお古着けてクルクル回りながら鏡の前で笑ってたりするじゃない、どう考えてもおかしいわよ! 確かに変装はあたしたちの必須科目だけど!」
「え? そんなことして……ました、はい、しっかり記憶にあります……トホホホ」
「いやー、人間願望が叶うとイージーモード人格もしっかり反映するんですなーハハハ」
「あんたったら女装して、変な武器作って実験して……あそうそう、あの変な鉄の塊、持って来ちゃ駄目よ! 火薬の武器なんて五月蠅いだけであたしら盗賊には役に立たないんだから!」
「?」
「とにかく、その服着替えて、2分以内に支度して降りてきて。部屋は後で片付ける!」
「あ、はい……」
「完全に仕切るタイプの幼なじみですね」
「みたいだ、こっちの記憶にもそういう思い出しかない……鉄の塊……ねえ……あ、そうか、これか!」
(がさごそ)
「うわー、2年前の僕天才だ! 独力で薬莢式弾薬とセマーリンのロングバレル&ロンググリップ版作ってる!」
「セマーリンってあれですよね、手動で装填排莢する奴」
「ですです!(カチャカチャ銃を弄り、構えたりする) ああさっきの暗殺者の時にこれがあればなあ」
「始末屋ジャックのバックアップガンで、『アップルシード』の原作にも出てくる」
「ですです!(※聞いていない)」
「たしか『ライディング・ビーン』でも敵の親玉が使ってたような」
「なんです、それ?」
「80年代最後の年に作られた傑作OVAで、車の動画を実写のトレスで作ったってのは作画マニア的にはアレなんですが、作画と音楽が最高で……いえなんでもないです」
「以前ようつべでこれの特集見て、欲しいナア、モデルガンかエアガン、って思ってたんですよ!」
「あれまあ。えーとグリップに7発装填ですか。薬室に1発で合計8発。コルト・ガバメントと同じですな」
「しかも弾丸が……うわ20発、予備弾倉2本も入るブレストホルスター! 格好いい! いい仕事してるわイージーモードの僕!」
「自画自賛ですな」
「……なるほど、ファンタジー世界でオートマチックって、火薬のガス圧安定や、ガスシーリングが難しいもんなあ。あ、こっちはカート式に改良したレマットリボルバーの作りかけ! 僕はえらい!」
「どっちも良くできてますねえ。さすが」
「珍しく褒めてくれますね」
「私、銃の出てくる映画も好きですし、サバゲーもたまに仲間同士でやるので」
「え?」
「戦争ごっこは娯楽としては最高です。人が死にませんしね」
「…………ホントにあなた天使?」
「天使のほう、って言ったでしょ?」
「A! 何してるの! もう1分経ったよ!」
「あ、はいはーい!」
「この銃、置いていくんですか?」
「まさか? さっきの暗殺者がまた追っかけてきたら、またあなたのナビがあっても戦いたくないです!」
「まあ、でしょうねえ」
「ブレストホルスターで左胸の上に来るようになってる……これなら上から革のベストを羽織れば……よしよし、えらいなあ覚醒前の僕」
「さっきは自画自賛と言いましたが、あなたの実情からすると、自分で自分を誉めているよーでいないよーで不思議な感じですな。とはいえイージーモードの管理は私たちですから私たちのほうが、お褒めにあずかり、と感謝すべきですかね?」
「過酷すぎる夜には、男は、自分で自分を褒めて伸ばさざるを得ないことが、あるんです」
「まだ真っ昼間ですけれど」
「細かい事を気にしては駄目だと思います」
「ま、それもそうですね、そろそろ場面が動かないと面白くないですし。ささ、準備して下さい。行きましょ早く」
「……あの、ついてこられるんですか? あなた?」
「はい、あなたの後ろについていきますよ?」
「動けるんですか?」
「まあ、ナビゲーターですからねえ」
「な、なるほど……あの、すみません、その……」
「なんですか?」
「……」
「ああ、なるほど、先ほどビッグビッガービッゲストになったと知った、自分のお大事サイズを確かめるついでに、姿見に映る自分を対象に…………」
「わーわーわーわーそそそそそんなことシナイヨオ!」
「……声、裏返ってますよ?」
「……しません。だってあと30秒しかないんだもの(確かにサイズは確かめるけど)」
「ま、それもそうですな。では暫く姿を消します。身支度終わったら呼んで下さい」
「のぞき見したりしませんよね? 約束して下さい」
「わかりました、約束しましょう」
「ほっ……」
「……いないよね?」
(※そーっと)
「……うわー。うわー……」
「あ、そうそう忘れてましたけどAさん?」
「わざとらしく戻ってくるなー!」