その6・盗賊都市の子としては
▼その6・盗賊都市の子としては
「当たり前でしょ? 何ヤワなこといってんの? チャンスは一度、これで引っ込んだらあんたの親父さんが恥かくのよ!」
「う……(弱った……今記憶見てみたけど、怖い顔してるけど、すっげーいい親父さんなんだよなあ、僕の本当の………いやもう今じゃ前世か……の父さんとは違って……)、しかたないか、これも異世界の義理」
「何意味不明なこと言ってるのよ」
「まあ、頑張ろう。でもさ、あの……無血状態で何とか出来る?」
「今の私に聞きました?」
「うん」
「そうですねえ、まあ私もあなたが血に狂ったりとか人殺しのトラウマでどーにかなってしまうのは心苦しいですから、やってみましょう。あれです、FPSのストーキングモードで一つ」
「よかった」
「でもイージーモード無し、ベリーハードでやり直しききませんよ?」
「まあ、しかたないです、すでに一度死んじゃってるし。葉隠にも『毎日朝死んでおくと諸々楽に出来る』とか書いてあるそうですし」
「何処で知ったんですかその知識」
「ウェブです、えっへん」
「あんた、何処向いて喋ってるの?」
「あ、いやちょっと精霊と……」
「あんたそういう才能なかったでしょ?」
「うん、まあ……」
「ホント大丈夫?」
「うん、さ、さっきの暗殺者で動揺してるだけ、そう、動揺してるだけさっ!」
「(心配そう)変に明るく振る舞わなくていいのよ?」
「どういう顔すればいいのかどーもわからなくって」
「あんたって、そういうとこ昔っから変わってるわよねえ」
「(なんかこの15年間の自動プレイモードってモロに今の僕そのもので反応とかしてたってことかー。まあ急に人が変わったとか言われるよりいいけど自分がエミュレートされてるってのはなんか複雑)」
「で、無血で王女様の馬車を襲って王女様を掠って(※300文字削除)するって? 無理よ無理。相手は最強の聖騎士団や護衛部隊が守ってるのよ? まあ忍び込んで護衛と宮廷魔法使い5、6人の首を切らなきゃ!」
「君、武闘派だねえ……」
「怪盗じゃなくて盗賊都市の子なのよ、あたしたち?」
「怪盗都市ってのもあるの?」
「隠れ里みたいにどこかにある、って盗賊学校で教わったでしょ? 大規模な怪盗魔法の結界で蜃気楼のごとく誰にも見えず、アルセーヌ帝国とかルパンドラと名乗ってるとか」
「へえ……まあそれはともかく、ひとを殺すのはいやだなあ」
「殺人はあたしだって嫌い」
「やったことあるの?」
「な、ないわよ! だってまだ17歳だもの!」
「そうなんだ……えーと2つ違い?」
「いい感じの年の差じゃないですか?」
「黙ってて」
「でもあたしたちがやらないとあの王女、この街を滅ぼすつもりだもの」
「え?」
「今回この辺を通るのは隣国三国と計らって盗賊都市を全部攻め滅ぼすつもりなのよ。悪の枢軸国だとか言ってるわ……あたしたちの任務は重大なんだからね」
「悪の枢軸国……アメリカみたいですな」
「そういう大事なことをボクらみたいな駈け出しにやらせる?」
「あたしたちは優秀だもの!」
「ホントに? 僕かなりポンコツっぽいけど?」
「あ、その認識は正しいですね」
「優秀なの!」
「わ!」
「A、あんたAの癖にあたしの言うことに文句ある?」
「……ありません」
「まあそれに、あたしらが失敗したらすぐに本隊が動くわ」
「つまり、噛ませ犬なのボクら?」
「……頭のいい馬鹿は嫌い」
「いやそう言われても……」
「これは賭けなの。あたしたちがちゃんとやっていけるかどうか。盗賊として、あんたは盗賊王になるために、それだけの器と運をもってるか。盗賊に必要なものは技術と運よ! 判ってるの?」
「今知りました」
「ま、そんなもんですな。盗賊もヒャッハーさんもしょせんヤ○ザの世界ですからねえ」
「というと?(小声)」
「まあ、ヒャッハーな人たちって基本、そうやって下を上手い具合に使って上がった成果を自分の手柄にして、使い潰れなかった奴を少しずつ美味しい目を見せて手なずける、って世界です。だから裏切ったり裏切られたりが横行するわりに忠義が大事、という表看板が必要ってわけで」
「そうなんだ……」
「だから、駈け出しの若造だからって、馬鹿にされないように、見返してやるのよ、あたしとあんたで!」
「……どうしよう」
「まあ、サポート&ナビゲートしますから頑張ってみてください。上手く行けばめっけものですし。まずは『盗賊王に俺はなる』ってことで頑張りましょ-」
「んなパクリっぽい目標掲げられても……」
「あ、それと私らから委託された業務はその傍らの並行作業、ってことで」
「……人生めんどくさい事になってきたなぁ」
「まだ一日も経ってないのに世捨て人みたいなことは言わないほうがいいですよ。ほら、幼なじみの腹筋、褐色の肌。大好物っしょ?」
「うう、それを言われると弱い」
「きっと広い世界にはまだ見ぬ腹筋褐色肌の女性がいますよ。そして未亡人も」
「え? な、ななななんで知ってるんです? そんなこと」
「(あ、そっか、忘れてるんでしたね)。あら、お好きですか? 未亡人?」
「好きで好きです大好きです!」
「褐色筋肉質巨乳の女性とどっちが」
「うーん、うーん、うーん」
「何腕組みしてるのよ! さっさといく!」
「あ、はい……」
「(あんなに真剣に悩むぐらい好きなのか……)」
「あのさ、B」
「なに?」
「僕、女装して潜入しようと思うんだけど」
「……」
「そ、そのほうが誰も傷つけずに王女様さらえそうじゃない?」
「…………」(Bの蔑むような冷たい目)
「……」(Aの沈黙)
「………………」(ナビゲーターの沈黙)