その55・通気口にて
▼その55・通気口にて
(※響くサイレン、隔壁が閉まる)
『警告、警告。捕虜が脱走、捕虜三名が脱走』
『射殺許可出ました、射殺許可出ました、くり返します射殺許可出ました』
(※アナウンスの中兵士が走る)
(※通気口の中)
「ベタだけど、やっぱり人間、上は見ないものなんだなあ」
「オ前、ドウシテ・ココニイル?」
「捕まったの。竜から落っこちて」
「そういえば、魔法が途中でかき消されたけど、ここ、結界でも張ってるのかしら? 魔法で飛んでるくせに……」
「魔法じゃないのかもしれないよ」
「なら何なのよ?」
「技術。科学、そういう魔法に似た何か」
「……あー、なんかさっき眠らされてるときに色々見ちゃったから判る気がする」
「……恐ラク、オ前タチノ言ウコト、正シイ。私モ、見タ」
「あんたもあの変な夢見せられてたの? あたしはえーとコーコーセーとかいう身分になって、どこかの大商人が住むみたいな機械だらけの家で、機械だらけの街で勉強とかしてた」
「私ハ……ドウデモヨイダロウ? オ前タチハ、ココヲ出タラ殺ス」
「だったら別に聞かせてくれてもいいじゃない」
「B、ちょっと度胸良すぎ……」
「…………言ワヌ」
「ケチ」
「もう、いいじゃないか」
「A、あんたはどうだったのよ?」
「全て僕に都合がいい、薄気味の悪いハーレムみたいな人生だった。すぐ偽物だって分かったよ」
「あ、あたしも判ったわよ、すぐに!」
「だろうねえ……異世界の人間が現代社会の生活させられてたらそりゃあなあ」
「また変なことブツブツいって……ま、そのほうがあんたらしいけど」
「へえ、初めて肯定的に言われた気がする」
「ここが異常過ぎるからそれぐらいでイイのよ、たまには」
「はいはい……じゃ、そろそろ行こう」
「行き先判るの?」
「なんとなくね。こういう通風口は大体、どこかで上と繋がってる。地下施設の場合はかならず空気を何処かで出さないと二酸化炭素……じゃない、空気がよどんで何が起こるか判らないからね」
「炭鉱や鉄の採掘現場と同じでしょ? それぐらい判るわよバカ」
「はいはい。いつものBだ」
「私ハ、最後ダ、オ前タチ、先ニイケ」
「…………信用されてないなあ」
「殺すっていってたじゃない。どうする」
「今揉める必要はない、言うとおりにしよう」
「大丈夫なの?」
「ここで騒動を起こすほどバカじゃないよ……じゃ、ちょっと退いてね……暗殺者のCさん、と」
(※A、Cの上をすり抜けてA、Bの順番にならぼうとする。Aの股間がCの目の前をよぎる)
「…………御大事」
「?」
「ナンデモナイ(真っ赤)」
「??」
「…………さん、Aさん」
「あ、ナビさん」
「やあ、ようやく調整がきき……あららら……また……」
「えーとこっち向けばいいのかな?」
「あ、すこし……よく……したね」
「なんかAMラジオのアンテナ調整みたいですね」
「まあ……た……ようなもの……すね」
「でもホッとしますよ、あなたと話せるのは」
「わた……す……」
「オイ、アレハ何ダ?」
「うーん……このバカは時折、あーなるのよ」
「…………神声ヲ聞イテイル・トイウノハ、本当ノコトカ」
「神? どーもそういう風には見えないけどね。確かに時折神懸かってるんじゃないかって思う事はあるけど」
「…………」
(※C、考え込む)
(こいつがお館様の言うとおりの存在だとしたら……確かに神の声ぐらいは……だが、何故だ?)
(※C、ナビさんと話をしようとあっちを向いたりこっちを向いたりのAを見て赤くなる)
(何故だ、何故私は、あの奇妙な機械の中で、こやつを弟として甘い甘い新婚生活も描くやと言う近親相姦な日々を過ごしていたというのだ?! まさか、まさか……我が一族に伝わる、運命の相手との夢とはあれのこと……いや違う、あれは機械が見せたまやかしの夢だ!)
「じゃ、とりあえずナビさんが見えやすい、声が聞こえやすい方角へ進めば大丈夫っぽいですね」
(※A、何かに納得したように通風口の中を這っていく)
(確かに、神の子と私の世代の誰かが結ばれてその子が我が一族を再びもり立てるという予言を疑ったことはない……だからお館様も私を雇って下さったのだ……だが、だが……あんな、あんな可愛らしい……いや、あ、あんなひ弱な男が……男が……だが、だが……)
(※C、Bの肩越しにAの尻を凝視)
「どうしたの、あんた? なにかやっぱりAに怨みがあるとか?」
「違ウ、お前タチヲ狙ッタノハ、仕事ダ」
「じゃあ、やっぱり諦めてないの?」
「当タリ前ダ、私ハC、暗殺者ダゾ」
「……仕方ないか。でも、ここを抜けだしてあたしたちを襲う時は、ちゃんと言ってよ。ここでお終い、って」
「…………お前、変ナ奴ダナ」
「あのバカと一緒にいると、こっちも感化されるのよ……だって幼なじみの姉みたいなものだもの」
「姉……」
「どうしたの?」
「ナンデモナイ…………ワカッタ、ソウシテヤル」
「嘘じゃないでしょうね?」
「私ハ、暗殺者ダガ、詐欺師デハナイ」
Cが頭の中で考えているときは彼女の母国語(部族、あるいは一族の言葉)を使っている、という設定なので普通表記になります。




