その46・戦雲戦乱、嵐の中を(1)
▼その46・戦雲戦乱、嵐の中を(1)
「判りました。ではあなたが指揮権を取って下さい」
「え?」
「それぐらい、出来ますよ。多分、きっと」
「そんなぁ……」
「どうした、A」
「僕も、残ります。F」
「え? ちょ、ちょっとA!」
「B、王女様に付き添って」
「何バカ言ってるの!」
「Fは僕の……お、おんな、だ!」
「!」(※F)
「!」(※B)
「ほう……」(※E王女)
「だからその……その女を一人殿にして退くわけには行かないし、僕には考えが……そう、考えがある!」
「おいA……お前……そこまでしなくてもいいんだぜ?」
「勝てない戦はしない。見事に生きて帰る……E王女陛下、お願いがあります」
「なんじゃ?」
「いまから1時間だけ、僕に全指揮権をお譲り下さい」
「ほぅ?」
「それだけで損耗率を4割下げて見せます」
「言いいおるのぅ? 勝算があるのか?」
「王女陛下は恐らく撤退で4割の兵を失うと見ておられるのでしょう?」
「…………よく分かったの」
「3割以下に下げます。できれば2割」
「どうやって?」
「お任せください、一刻を争います」
「…………よかろう」
「姫!」
「構わぬ、負け戦だ。それに寝所でFを打ち負かした豪のもの。さらには我らを救った英雄に賭けてみるのも悪くない」
「ありがとうございます……あの宮廷魔導士さん、今からいうことを全軍に徹底させてください」
(※戦場、時間経過・魔王軍本陣)
「なんだ、異世界人どもめ、妙に連携が良くなったぞ?」
「第四作戦区、突破されました!」
「サーベルタイガー部隊、遠距離射撃でやられています!」
「ミノタウロス部隊、大規模魔法で半数消滅!」
「ドローンからの情報によると奴ら紡錘陣をつくってこっちに攻め込むつもりです!」
「馬鹿な?! 敵の数は」
「3000弱にまで減ってるはずです」
「二割以上を損失しているのにまだやる気か……昔のうちの国じゃあるまいし……よし、こっちも全力で迎え撃つぞ! 王女の位置は把握出来るか?」
「はい、目立つ甲冑が紡錘陣の最先端に!」
「狙撃で傷ついているんじゃないのか?」
「包帯は巻いてますが……」
「くそ、これだから異世界人は! E王女生け捕りは放棄、本社に作戦変更を報告、以後の指示は不要だとY崎課長に言っておけ」
「しかし……」
「あのなめくじ野郎の言うことを聞いてたら損耗ばかり激しくなる! ただでさえあのFのお陰で傭兵共が全員向こう側に寝返ったんだ、これ以上人員減らされてたまるか! 俺たちだって貴重な国民だぞ!」
「了解」
「狙撃隊で王女を討ち取れ、頭をなくせば胴体はどうにでも始末がつく! 魔法使いにも遠距離大規模攻撃魔法をぶち込めるように術式の完成を急がせろ!」
「了解」
「くそ……同じ現代社会相手のほうがよっぽど早く終わるってのに……異世界ってやつぁ!」
「魔法の仕組みが一緒だったら通信傍受もできるんですが……」
「泣き言を言うな、こっちが圧倒的に有利なんだ。ベトナム戦争のアメリカみたいに負けるかよ!」
(※戦場、紡錘形に陣形を固めつつあるE王女の部隊。最先端)
(※馬上のE王女のそばで魔法防壁が光輝き、銃声が後から轟く)
「うわ!」
(※E王女たじろいで一瞬幻影魔法が乱れ、Aの顔が映る)
「大丈夫だと判っていても心臓には良くないですね、あれ50BMG弾ですよ」
「えーと世にいう対物狙撃銃ってやつですよね? バレットとか」
「そーです」
「えげつないなあ」
「戦争なんてそんなもんです。だから国際条約で最低限のルールをというお題目が成り立つわけで…………えーと第八部隊にミノタウロスが突撃してきます。攻撃魔法で地面を掘り返してください」
「第八部隊にミノタウロスが突撃! 攻撃魔法で地面を掘り返して!」
「は、はいっ!」
「……てことは側面攻撃だから次は上空からですよね。さっき第三部隊の辺りを狙ってきたから第七、第六、第五部隊の上を重点的に防御しないと…………すみません、命令追加お願いします!」
「はい!」
(※Aの言葉を復唱する魔法使い)
「お、なんか戦場の流れが読めるようになってきましたか」
「なんかこう、ピンとくるって言うか……これもスキルですか?」
「ええ。戦場指揮能力と指揮官の直感ってやつですな。この世界流に言えば戦場霊感とでも名付けられるはずです」
「E王女とB、無事に逃げてるといいんだけど……」




