その43・幸せと暗雲と
▼その43・幸せと暗雲と
(※朝。ベッドの上、呆然と天井を見上げているA)
「…………凄かったぁ」
(F、隣から顔を出す)
「凄かったのはおめーのほうだよ。処女ふたりにむちゃしやがって……あたたた……オレいなかったらどうなってたことか」
「あ、す、すみません」
「でもまあ、200年分を一気にこう、充填されたって感じがするねえ(ニカッ)」
「そ、そそそうですか? ひょ、ひょっとして誉めて貰ってます?」
「あったりまえだよ。まるでお前、竜みたいだったぜ?」
「あ、はい……」
「お前を一人で受け止められる女は……そうだなあ、オーガーぐらいだろうなあ。でもその細っこい身体でホントすげーのな」
「は、はい(真っ赤)」
「改めてホレそうだぜ、主殿」
「は、はい……(真っ赤)自分があんなに凄いなんて思いも寄らなくて、その……」
「二日間連続だもんな……ほんと、壊れるかと思った」
「はい……」
「でもまあ……Bの可愛らしいこと」
「……はい」
(※B、Aの腕にしがみついて眠ってる)
「私の名はH……こちらのことも気にして欲しい女……」
「あ、Hさん起きてたんですか?」
「ようやく……でもまだ腰の奥がふわふわしてる……男の子凄い……」
「も少し寝てろ、な……次にこうやって幸せに肌重ねられる時間、いつ来るかわからねえんだから」
「そうです……ね」
「そう……私はH、少年。幸せは噛みしめられるときに噛みしめておくもの……砂漠の水と同じ、次も同じ場所にあるとは限らない」
(FとH、左右からBごとAを抱き寄せる)
「お、また元気になってきたぞ?」
「あ、いやあの……これは……」
「三日目の夜の始まりね……まだ朝だけど……」
(※数百キロ彼方、森の奥E王女の陣)
「……まったく、ようやく軍の再編が叶ったと言うに、未だにAの行方は判らぬか!」
「やつらの空飛ぶ機械に連れ去られてそれっきりで……」
「なんか知らんが非常にイライラするのじゃ! 早く探せ! なんかこー、妾を除いてみんなイイコトしているような気がしてならぬ!」
(※E王女、天幕の内側に戻る)
「姫様、最近少し丸くなられたと思ったんだけどここ数日ヤケにまたカリカリしているな……」
「無理もない、思い人のA殿が行方不明なのだ。それにかの御仁はあの盗賊都市からの出向者、さらに言えば……我ら全員をあの竜から救ってくれた大恩人でもある」
「女と見まごう外見ながらあれほどの強運と剛胆の人物だ、きっとご無事だと思うが、それにしても魔王軍の飛行機械とは厄介な」
「あれは本当に困る、鳥のような形の奴も厄介だがあれは真っ直ぐしか飛ばぬ。飛行機械は縦横無尽、飛竜を使っても追いつかぬ」
「聞けば奴ら、そろそろ大軍となって我らに戦いを挑むやも知れぬとの話だ」
「だが、どうやって補給する? 今まで犯罪結社だから小規模の小競り合いはできたことであろう?」
「判らぬ。ただ……ひょっとしたら魔王たちは国を手に入れたのではあるまいか? あるいは先代の魔王の後を襲ったものとは何処かの国ではあるまいか?」
「おお、それはこの前姫様も仰っていた。あの時はまさかと思っておったが……」
「だが、どこの国だ? この大陸の全ての国を敵に回しておるのだぞ? あやつ等は」
「ひょっとしたらどこかの国が裏切っておるのかも知れぬ。いや複数の国が実は……」
「やめよ、疑心暗鬼は」
「あ、ひ、姫様、ここれは失礼をば」
「案ずるな。水を飲みに出てきただけじゃ……お主等の不安も判らぬではない。だが、あのような技術の国が何処かにあるとすれば必ずそれは何処かに伝わる、この数年で一気に技術が発展したとすればそれは必ず伝わる、だが数年前あの『大雷鳴』以外、何があった? 我らが王国の諜報機関は間抜けか? 否。いきなり魔王たちは勢力を強め飛行機械を使い始めた。どの職人に見せても、どの機械も我らの一〇〇年以上先を行き、どれも魔力に頼っておらなんだ。ほぼ錬金術のみで動いておる……つまり」
(E王女、真っ直ぐ曇り空を見上げる)
「やつらは別の世界から来た、そう考えることも出来よう……伝説の『魔界』とやらからな」




