その4・暗殺者は全裸
その4・暗殺者は全裸(マスク以外)
「…………で、僕あなたみたいなメタ存在じゃないんでよく分からないんですが」
「ああ、そうでした。転生し終えてるから見られないんでしたね。まあ早い話、あなたは転生前に事前ペナルティを選びすぎたので、ここの世界そのものがバグの修正どころかシステムエラーを起こしかねないから、まー、もちっとイージーになるように私が助言をしようというわけです。あ、早速仕事をしますと、あなたが12歳からスタートしたのはその選んだペナルティの一貫です」
「はー」
「ご納得いただけましたでしょうか?」
「あなたはつまるとこ、マニュアルって感じ? それとも攻略本? チュートリアル?」
「そうですね、毎週更新される攻略サイトってところでしょうか」
「なんかセコい……」
「しかたないんですよ。世界は常に動き成長して形は定まらないので、攻略情報も刻一刻と変化するのです」
「それって発売してからパッチがゲームのデータよりも重い、みたいな話ですか?」
「……」
「まあいいや、じゃあとりあえずステータス画面見せてください」
「んな便利なもんがあったら、とっくに見せてます」
「あら、意外と使えない……」
「うっ」
「こういう『世界の管理者』が出てくるタイプの転生もののお約束みたいなもんでしょ、こういう場合のステータス画面」
「無茶いわんでください。そんな風にパラメーターとかステータスとかが判るんだったら転生者を使って世界の調整とかしませんよ。世界のデータってアホみたいに膨大で、それこそ作った神様が人格亡くすぐらいの情報量なんですから」
「じゃあ具体的には何が出来るんです?」
「あなたの能力の発動方法とか、あと……あなたの背後に暗殺者がいるとか教えられます」
「へ?」
「三秒後に多分、窓から突入してきますよ。武器とったほうがいいと思います」
「わーっ!」
パリーン!
「え? なに? ぽ、ポニーテイルでマスク以外全裸? 全裸の暗殺者? しかもきょきょきょ巨乳! ああ、こっちも腹筋いい! しかも格好いいお尻! 逞しき太腿! ししゃもみたいなふくらはぎ! しかもこんがり褐色の肌! 美しい!」
「……一応マスクは着けているんですね。ウィザードリィのニンジャみたいですな」
「なんでそんな知識あるんですかーっ!」
「あー、注意してください。彼女はこの辺で一、二を争う暗殺者Cさんです。首から下全裸で、ぬらぬら光るオイル塗ってるのは無敵であることの誇示と、格闘戦のさい掴み所がなるべく無いようにするため、あと、あなたみたいな童貞やスケベェな人が目をとられてすぐ仕事が終わるから、という合理的意味合いですねー」
「わあっ! お、おおおおおおおお大事が、お大事が丸見え! おへその下になんか翼を広げたみたいなタトゥーがあるけど、それ以外なんにもない! なんにもないまったくなんにもない!」
「ウマレーター、それともウーマレイターだったかな? あなたには必要ないですが、この世界の言葉で、翻訳すると無毛症ですな。首から下はなんにもないんですよ」
「見えてます見えてます!解説いらないー!」
「その代わり刺青があちこち入ってるでしょ? ちなみにそれも魔法の回路の一種で、隠密能力や、治癒能力も高めてます。あ、三秒後に剣抜いたほうがいいですよ」
「えあ、はいっ!」
「はい右に思いっきり剣ふってー」
「!(必殺の気合い)」
ガキーン!
「ひいっ、な、なんとか餞別の短刀で受けたぁっ!」
「あと、ご注意しておきますが、彼女が持ってるその片手剣には毒が塗ってありますよ、多分」
「……死ネ」
「いや多分じゃなくって絶対! 刃がヌラヌラ青い液体に光ってます! □□花の蜜の匂いするう! これって▲▲系の毒物でしょう!」
「……?(何喋ッテイル、コイツ?)」
「あ、当世記憶のライブラリが起動してますね、結構なことです。私も仕事がひとつ減ります……ま、怪我したら死ぬので頑張って支えてください」
「知ってます!軽く肌についただけで吐き気と目眩で一週間七転八倒して、怪我したりとかして、血液と結びついたら死んじゃううっ!」
「……?」
「あー、そろそろお気づきだと思いますけど」
「なんですか?! この非常時に!」
「暗殺者の彼女に私、見えてません。というかこの世界であなた以外の目に私映らないのでそのつもりで発言と行動してくださいね。運が悪いと電波に見えるので」
「そんなところだけパターンなんて!」
「富野アニメみたいですね、その言い回し。えーと、私が手を叩いたら右手を時計回りに捻りながら思いっきり突き飛ばしてください……せえの、ハイ!」
「とおりゃあ!」
がちゃん!(重なっていた刃同士が一瞬打ち合って外れる音)
「!(動揺)」
「ほら、相手の機先を制したでしょ? あなたの肉体はまだ鍛錬が足りないので、相手の力の入れるタイミングを読んで指示しますから、上手くやってください。あ、あと股間は気をつけて、彼女それ潰すの得意だと思います。さっきも上手く裁かなかったらきっと足の付け根がくるみ割り人形」
「嫌な情報ありがとう」
「……ていうかやっぱりステータス見えてるんじゃないんですか!?」
「ステータスじゃなくて、これは単なる資料。あと動きが判るのは、私にはこの世界の生き物全ての攻撃技発動の動作フレームの前提モーションが見えてると思ってくださいな。昔格ゲーやってる人で達人と呼ばれる人はみな出来た技能です」
「意味不明ー!」
「はい、右に飛んで短刀突き出し、すぐ引っ込めてぐるっと右回り! かがんで転がって……起きて!」
「???」
「戸惑ってる!」
「まあ自分の動きを全部読まれるとは思わないでしょうからねえ。ふふふ」
「見てるだけの人はいいなぁ!こんちくしょー!」
(※階下から駆け上がる足音、ドアが開く)
「A! どうしたの!」
「B! 来ちゃ駄目だ!」
「!」
(B、腰の後ろから両手にダガーを抜く)
「お前……聞いたことがあるわ、全裸の殺し屋、Cね!」
「有名なんだ……」
「私ノ姿、ミタ、生カシテオケヌ」
「あー、多分彼女はポニーテイルの付け根に隠した鞘から2本の毒手裏剣を抜いてお二人に投擲しますよ」
「え?」
「かなり細いから、私が合図したらあなたの足下にあるイスを蹴り上げてください、思いっきり」
「B!手裏剣が来る!」
「そうはさせるもんですか、盗賊魔法『アルセーヌの閃光』!」
「いまです! イス!」
ぴかーっ!
「ヌ!」
かかっ。
「手裏剣がイスに刺さりました、彼女、逃亡しますよ」
ぱりーん
「逃げちゃった……?」