その38・年収1000万円だから敵
▼その38・年収1000万円だから敵
「……なに?」
「あれ? Aさん。顔色が変わりましたが……」
「年収1千万? ボーナス10ヶ月分?」
「あの、Aさん。美少年なんですからもうすこしこー、穏やかな表情を浮かべたほうが」
「お、おいA、どうしちまったんだ? こいつら、何か言ったか?」
「へいゆー、じしぃず・おくとぱーす!」
「あー『このタコ』っていいたいんですね?」
「男塾読みました!」
(A、電光の速さで男たちの持っていた拳銃を取り上げスライドを引いて弾丸を装填)
「|どーゆーらいく・らっしゃん・るーれーっと(ロシアン・ルーレットは好きか)?!」
「まて、自動拳銃でやるロシアンルーレットなんてねえぞ!」
(※銃声。Y田とT中の周囲ギリギリに三発)
「|あいらいく・らっしゃんるーれーっ。へいゆーおくとぱす、とーきんみー。うぇあ・いん・ゆあ・まざふぁか・べーす! とーきん!(※意訳・僕はロシアンルーレットが好きだ。オイこのタコ、喋れ、どこにお前たちのくそったれ基地があるんだ、喋れ!)」
「Aさん?」
「年収1千万ですよ! この人たち! オマケにボーナス10か月分、しかも年3回? 正直今、引き金を引かない理由があるとしたら、それはこの人たちが情報を喋るかも知れないという可能性です!」
「あ……そういえばAさんの生前年収は」
「221万2360円! 税込みです! ボーナスは年2回、5千円! 一万円じゃないですよ、5千円! それだって『無遅刻無欠勤』の条件付き! そこから保険だ税金だ、なんだかんだで手取り引かれて年収は残業代入れても180万以下ですよ! 家賃が都内ギリだから月2回帰るだけの場所になってても6畳一間で6万! ガス水道光熱費で月に2万! スマホのパケットと家でも仕事が追いかけてくるから、その回線費用で2万弱! 定期代が月2万!」
「ギリギリの生活だったんですねえ……その割には創意工夫溢れる最後を……」
「それ以外楽しみがなかったんですっ!」
「おちつけ、おちつけA……いまちょっとコイツらに話をするから…………(※Y田とT中のほうを向いて)何か判らないが、オレの仲間はお前たちが無法な報酬を大量に受け取って冷酷非情な侵略行為をしていることに怒ってる。お前等は人の命を金に換算するのか、とかな」
「Fさん上手い翻訳ですねえ」
「そんなやつら、撃ち殺してもあたしはいいと思うけど」
「Bさんも意外に過激ですな」
「こいつら、動くものは皆殺すわ。敵も味方も構わずね。でっかい爆裂魔法みたいな武器で町を一個吹き飛ばしたこともある……あたしの又従兄弟の親父さんはコイツらに焼き殺された。魔王軍への上納金を蹴った、っていう小さな国の城下町をひと晩で焼き尽くしたときに」
「……なんか、うらやましさに義憤がプラスされそうです」
「あーあー、止めたほうがいいです、怒りを抑えましょう。それ、ネットで炎上させるガワの人たちの心理と何ら変わりがありません。『小さな炎は必要だが、大きな炎は全てを焼き尽くす』って『天空の城ラピュタ』でもいってたでしょう?! 抑えて下さい、抑えて下さい! ダークヒーローじゃないでしょ!」
「……」
「(※F、やや早口)いいか、あいつの目を見ろ、冗談やごまかしが通じる顔じゃないぞ。あいつの隣にいる女の子の知り合いは、お前等の仲間に焼き尽くされたそうだ」
「あらFさん上手い具合に尋問を勧めてますねえ」
「…………あ、あれは俺達じゃない!」
「そそそそうだ、精鋭の24部隊がやったんだ! あの『レッドアームズ』がやりやがったんだ」
「レッドアームズ?」
「むむ昔のアニメの影響だよ、左腕に紅いマークをつけてる!」
「肩だったらむせる案件だ、これ」
「アニメ好きでも戦争はしますか……哀しいですなあ」
「やつらは基本給こそ俺達の半分だが一度出動すると一人頭2千万支払われる仕組みになってる! その分だけ腕が凄いんだ。あとエクソスケルトンやら何や等も装備してて……そうだ、魔法も使う!」
「魔法? おいおい、この世界じゃない魔法使いがお前たちのガワにもいるってのは本当なのかよ」
「重要機密だ、だからそのガキから銃を下ろさせてくれ! 頼む、何でも喋る!」
「A、そろそろ降ろせ。その引き金を引いたらお前の嫌いな拷問になっちまうぞ」
「……そうだね」
(※銃を下ろすA、安全装置をかける)
(※目を丸くするY田とT中)
「その銃の安全装置のかけ方をしってるのか……やっぱりロシアのスパイなのか……」
「な、なあ、F、あんた説得してくれよ、助けてくれたら正社員にするように隊長に口利きして貰うからさ!」
「ざけんじゃないの。あんたらの金より、今のオレはこいつの願いを叶えるほうに価値を見いだしてるんだ!」
「そういうなよ、お前も俺達も傭兵じゃないか。楽に勝ち組でやろうぜ、俺達は圧倒的な勝者なんだぜ?」
「そうそう、相身互いで」
「どうやら本当に上官が怖いみたいですね……いや、この場合は上司かな?」
(A、拳銃を置いてふたりに歩み寄り、中指を立てる)
「ふぁっくゆー、しぇいむ・おん・ゆー!」
というわけで本日二度目の更新です!
ちなにみに主人公の生活経費はともかく、年収とボーナスの話は実話です




