その29:カッコウの雛(中)
▼その29:カッコウの雛(中)
(※Aの家の屋根の上。B体育座り。明らかに落ち込んでいる)
「……」
「どうしたの、B」
「あんたのお父さんが悪い訳じゃないけど……ああいう、ぺこぺこするお父さんは嫌い」
「(ああ、よく分かる……前の人生では……)」
「ホント、あんたのお父さんが悪い訳じゃない。でも……この盗賊都市では上下関係は、実力じゃなきゃ覆せない。でも、お父さんはもう……足が悪いから実力であんたのお父さんの上にはなれない。今じゃギルドへの鉱物資源や道具類の流通でますますあんたのお父さんに頭があがらなくなってる」
「(……ああ、そうか、怪我するまでのBのお父さんはうちのパパに追いつけ追い越せでかなりイケイケだったのか……怪我は4年前かー。そりゃ12歳で自分の親が一転してペコペコする姿をみてたら辛いよなあ)」
「…………」
「あーえーと、大丈夫。その分、僕がBにペコペコするし」
「…………そうよ、そのはずだったのよ」
「え?」
「でもこの二日ぐらい、あんたまるで人が変わった、っていうか……あたしの知ってるAじゃないみたいに大活躍で……結局E王女もあんたが引っ張ってきたし…………あたしなんか……G様の前でのぼせ上がるし、全然ダメ」
「……あーえーと……こういう場合、どうしたらいいんだろう……ナビさん?」
「あらあら、どうしたんですか?」
「あ、食事中だったんですね、すみません……あの、こういう場合、どうしたらいい? 僕、女の子と深くお付き合いしたことはなくって……(小声)」
「…………困った人ですね。まあひとつだけ……こういうとき、言葉はNGです。それじゃ、まだ食事中なので」
「はい」
「……それも気にくわないのよ!」
「わっ!」
「いっつも空中にブツブツいって、変人でモヤシピクシーの癖に、どうして!」
「(わ……泣いてる!)」
「どうして、あんたが……あんたが……うわーん!」
「あわわわわ!」
「わーん! Aのばかーっ! あたしあんたのおねえさんなのにー! どーしてあんたが、あたしよりおにいさんにみえちゃうのよぉー!」
「ええ? あ、いやあの……」
「ばかー! Aのばかー! しんじゃえー!(※じたばた)」
「えーと、えーとえーとえーとあー、もう! G様の真似っ!」
「!」
(※A、Bの身体をぎゅっと抱きしめる)
「……よかった……泣き止んだ」
「ばか……なんでいつもと逆になっちゃうのよ……」
「えーと……その……そういう日も、あるってことで」
「……」
「えーと、ほら教官がいってたじゃないか。あの……実践は訓練通りじゃない、って」
「…………」
「偉大なるキャプテン・コールドも言ってたじゃない『計画を立て、計画を実行し、不測の事態が起こったら計画を捨てろ』って」
「くすっ……なにそれ、聞いたことない」
「(あ、笑ってくれた……ホッ)」
「だいたい、キャプテン・コールドって誰?」
「聞いたことない? 僕の中ではルパン三世と怪盗キッド、あと、かいけつゾロリに並ぶ泥棒なんだけどな…………正確には強盗だけど」
「あんたホントに変……まるで別の世界から来たみたい。いっつも変なこと言って、誰かにブツブツ呟いてて。オマケにヤワで女みたいで、全然強くない」
「まあ、ハイ。そうです……」
「でも……ありがとう。取り乱しちゃった。お姉さんなのに」
「少し安心した。Bでも取り乱したりするんだ、って」
「……ホントにあんた、Aなの?」
「そうだけど?」
「中身が入れ替わったみたいに思える」
「(まあ、当たらずとも遠からず……だけど)そうかな?」
「なんかこう、一昨日までのあんたと違ってまるで……なんていうのか、人形に魂が入って人になった、っていうか」
「はは、はははは……修羅場は男を成長させる、っていうかはははは」
「変な顔して笑ってる」
「そうかな? 元からこんなもんじゃなかったっけ?」
「……まあいいわ。ごめん。当たり散らした」
「いいよ、いつも僕がBに迷惑かけてるし」
「うん、そう。いっつも迷惑かけられてた」
「少し、それが返せて嬉しいよ」
「…………ばーか。なに調子に乗ってるのよ」
「そりゃのりますよ、任務に成功したんだもの」
「……やっぱり、ちょっと不思議。でもまあ、いいか」
「でしょ? そろそろ下におりようよ、お腹空いた」
「あ……そういえば一昨日からろくにナニも食べてなかったわね」
「そうそう、降りようよ」
(※ぐう)
「あ……」
(※ぐう)
「Bも……」
「もうばか! さっさと行くわよ!」
「はいはい」




