その19・担いで逃げて惚れられて(6)
その19・担いで走って惚れられて(6)
(※戦場の風景)
「大丈夫か?」
「うう……」
「起きろ、死ぬぞ!」
「走るんだ!」
「走りなさい! 逃げるの!」
「ああお姉様……」
「大丈夫?」
「妹よ……まだ生きているのか私は?」
「大丈夫です、さあ肩を」
「ほれ、こっちも貸してやるよ」
「姫様! こちらは総員確保!」
「姐御、こっちもでさあ!」
「うむ」「よし!」
「総員、全速力で撤収!」
(※全員「応!」の合唱)
(ガタゴトガタトゴトゴト……)
「ひい、はあ、ひい、はあ」
「大丈夫?」
「なんか、ちょっと……つらい……」
「まあ、往復4キロの、鎧着た人間という荷物を引っ張って一往復平均20人、その積み卸しを45分間ぶっ通しですからね、普通なら死んでます」
「でもまあ……これで全員……」
(※背後から歓声)
(※Aの横を過ぎていく兵士たちの群れ)
「A殿、感謝するぞ!」
「おいあんたAってのか? ありがとうよ!」
「あ、王女様にFさん……」
「へえ、オレの名前を知っててくれるか、光栄だね」
「みんなは」
「安心せえ、みな脱出だ」
「よかった……」
「身体の大丈夫な者はこの荷車を押してやれ!」
「はっ!」
「オレらも出来る奴ァ、コイツの荷車を押してやれ! 全員そろって逃げるぞぉ!」
「あ…………軽くなったぁ(疲れ笑い)」
「それーっ!」
(※がーっ! と疾走する荷車、みるみる安全地帯にたどり着く)
「ここまで来れば良かろう! 荷車の者たちを降ろせ!」
「はい! 陛下!」
「手伝ってやれ!」
「はい! 隊長!」
「ナビさん、あとどれくらい」
「そろそろですよ。5、4、3、2……1……ゼロ」
「みんなーっ! 伏せろーっ!」
(※閃光と爆発)
「!」
(※全員思わず腕で顔を覆い、あるいは地面に伏せる)
(爆風で吹き飛ぶブラックホークの残骸、王女の重軌道馬車も半分になってみんなの近くまで転がってくる)
「間に合ったぁ……(バタリ)」
「A! しっかりして!」
「だいじょうぶ……だいじょーぶ……」
「あらら、気を失っちゃいましたか。まあ能力『火事場のバカ力』はどうしても脱力と睡眠がつきもんですからねえ」
(※閃光が消え、全員が呆然とクレーターとなったかつての居場所を見やる)
(※そこにたたずむ巨大な古龍、傲然と羽ばたいて空に舞う)
【そこにいる愚かなる毛無しのサルどもに告げる、我は古龍ヘクトパスカル】
「!」
【本来ならば己ら全員、否、我の視界に入る全てを焼き尽くし、滅ぼすところなれど……我が友、賢者にして盗賊Aとの心ある説得と取引に基づき、怒りを収めてやろう……Aに感謝せよ、褒め称えよ。汝らが生きているはすべてその少年のお陰である】
「……なんと!」
「……なるほどねえ」
「……うそでしょ? だってAなのよ、こいつ?」
【さらに警告する……彼を裏切り、あるいは危害を加えんと志すものは、我こと古龍ヘクトパスカルの敵なり、我、Aの生涯のマブダチなり! 心せよ、心せよ!】
(※ヘクトパスカル、一同の上空を旋回して去る)
「マブダチとはなんであろうか…………それはともかく、古龍を説得したというか、このねじ外れ……いや少年が」
「…………へえ、大した坊主だねえ」
「A! 目を開けてよ、A!」
「ぐぅ……」
「やれやれ、どうするねお姫さま」
「汝らはどうする気だ、魔王の傭兵」
「オレは気が抜けた。今は竜の怒りから逃れられた幸運を噛みしめるよ。この坊主にも借りが出来ちまったしな(F、Aの頬を人差し指でつつく)……で、お姫さま、あんたはどうすんだい?」
「そうじゃな……おい娘、Bとか申したな?」
「何よ!」
「妾はそなたとともにいこうぞ」
「え?」
「虜囚とはならぬ。だが、命の恩人に報いるために、盗賊都市へ赴き、交渉のテーブルに着くことにしよう。お主等に命じたものたちも本来はそれが望みであろうからな」
「…………あ、いえあのその」
「混乱するは無理もない。妾ひとりで赴く。武装解除はせぬ………ほれ、そやつを貸せ」
「?」
「…………誓いだ、妾の」
(※E王女、Aにキス)
「えー!」




