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その18・担いで逃げて惚れられて(5)


その18・担いで逃げて惚れられて(5)


「ぬ……これは……?」

「ん……どうしちまったんだ、たしか、オレの剣が砕けて……」


「せいの、せいの、せいの」

(ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト!)


「うおっりゃー!」

(ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト!)


「あ、あれは……盗賊のねじ外れであるか! なんか身体がうっすら光っているような……?」

「なんだあの盗賊の小僧? 荷車に人を乗せてなんでここまで運んでくる?……え? ドラゴン? 頭上にあるのは光球……まずいぞこれ!」

「おいこらねじ外れ! Aとやら! これはどういうことじゃ!」

「よかった王女様! 起こせる人は全員起こしてあげて下さい! このままだと大魔法が炸裂してあの龍から半径2キロは消滅します! 多分衝撃波も来るから頑張って、遠くまで逃げて下さい!」

「なに? そうか……(わらわ)たちが気絶したのは竜の心声(ドラゴンボイス)が轟いたせいか」

「おい王女様、悪ィが一時休戦だ。死んじまったら元も子もねえ」

「仕方あるまい……おい、起きろ皆のもの! 竜である! 大魔法で死ぬぞ! 逃げるのだ!」

「おいお前等おきろ!! 走れ、死ぬぞ!(※F、仲間の顔をひっぱたく)」

「(E王女、Aの走り去る背中を見ながら)……しかしあやつ、あんなちっちゃな身体であの場にいたものを半分近くここまで運んできたのか? そんな力があるようには思えぬが……身体を覆っているあのうっすらした光のせいか? それともそれを放つ力があの少年にあると?」


「うおっりゃー!」

(ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト!)


「せいの、せいの、せいの」

(ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト!)


「あの坊主はあんたの手勢かい?」

(いな)。あれは……妾を誘拐(ゆうかい)しにきた者だ」

「へ?」


「ん……あ、A? どこ?」

「おい盗賊娘」

「E王女!」

「ふふ……お前はいい相棒を持っておるな」

「え……?」

「見よ」

「ドラゴン? あの頭上にあるのは……大魔法? あんな大きさは……」

「妾も見るのは初めてじゃ。本来なら剣に封印されていた以上、われらは竜の心声(ドラゴンボイス)を聞かされ、気絶したままとっくに焼き尽くされておる」

「認めたくないが……どうやらオレたちはあの坊主に助けられちまったみたいだ……見ろよ、ひとりであんなにしゃかりきになって……」

「A!」

「あ、行っちまった……相棒だもんな。羨ましいぜ」

「うむ、まったくだ……さて、お互いに部下を起こそう」

「しかたねえな」


「せいの、せいの、せいの!」

「A! なにやってるのよ!」

「だめだってB! 離れてなくちゃ!」

「何言ってるの! あんな大魔法がいつ炸裂するかもしれない中で……」

「いいから! 元の場所に戻るか手伝うかして!」

「…………んもう! 判ったわよ!…………っと、せいっ、うわ鎧つけたままだから、みんな重い……っ」

「せいの、せいのせいの、せいの…………!」

「A、あんたそんなに力持ちだった?」

「知らない! わかんないよ! でもこのままだとみんな死んじゃうんだ!」

「…………」

「さあ、荷車限界! B、押して!」

「え? あ、ああうん!」


「うおっりゃー!」

(ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト!)

「な、なんでこんなに早いのよ! 20人は乗っけてるわよ、この荷車!」

「無駄口叩かないで押して!」

「押してる暇が無いぐらい、あんたが早く走ってるんじゃない! すこしはスピード落としてよ!」

「急ぐんだ! まだ半分も人が残ってる!」

(ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト!)


「よし、皆のもの、これより仲間たちを助け出してここまで駆け戻る、よいな?!」

「くそったれ王女様と同じ真似なんかしたくはねえが、オレたちショージ・ガ・イシャー様直属『片眼の旅団(ワンアイ・ブリケイド)』も同じく仲間たち、いや誰彼構わずあの戦場で気絶してる奴らを助けてここまで駆け戻る、時間がねえ! 金目のものやなにやらには目をくれるな! 急げ!」


(※全員「おう!」のかけ声)


「ナビさん! あとどれくらいある?」

「もう9分30秒、ってところですね」

「まだ何人のこってる?」

「あと150人、ってところでしょうか?」

「半分か……間に合うかな?」

「そ、それは……」


「ゆけー!」


「え? 王女様?」


「かかれー!」


「あら、傭兵のFさんですね」


「そうか、気絶から目覚めて…………ってなんで逃げないの?」

「彼らにとっては仲間ですからね。負傷者と仲間の回収は戦士にとって優先事項です」

「えらいなあ」

「(小声)偉いのはあなたですよ」

「え?」

「それよりも警告しなくていいんですか? あと9分ですよ?」

「そうだった! おーい! 手伝ってくれるのは有り難いけど、あと7分で爆発するぞー!」


「承知したA殿!」


「わーったよ、坊主!」


「9分ですよ?」

「こういうとき少しでも余裕を持たせたほうがいいと思う」

「なるほど、あなた追い詰められると頭が働くタイプですね」

「どうも!」

「(※空中に話しかけてるようにしか見えないAを見て)人が変わったかと思ったけど、相変わらずそういうところは安心するわねAは……とにかく王女様たちが他の人たちを引き受けてくれるから、あたしたちはこれで最後よ!」

「そうだね、とにかくこの人たちを運んだらみんなが引き揚げてくるのを待とう!」


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