その16・担いで逃げて惚れられて(3)
その16・担いで逃げて惚れられて(後)
【してなんだ、賢者A。命乞いか?】
「はい、そうです!」
【無駄だ、我の頭上にある光球は今にもはじけ飛び、この辺一帯を焼き付くさんとしている】
「でもそれは、あなたのコントロール下にあって、あなた次第で作動するんですよね?」
【ああそうだ。だが我を封印せし、こき使いせし連中にくれてやる慈悲はない】
「でも封印した人たちはとっくに死んでるわけで、理に適いません!」
【しったことか! 我の封印を解かず使い続けた連中も同罪だ!】
「な、なるほど……えーとですね、ではその、取引をしたいんです」
【取引? お前も竜が光り物を好きだという下らぬ噂を信じるほうか?】
「いえ、僕が知っているのはあなた方が好むのは光り物、ではなく光輝く知識、だと聞いています」
【ぬ……? その正しい答えを聞くのは7千年ぶりだ。先ほどの我の子供の頃の話といい、お前賢者Zの子孫か何かか? 仲間はおろかエルフ、ヒト、ドワーフ………多くの人間種族がおるが、言葉を話せるものでは、奴にしか話したことはない】
「えーとあなたと最後に親しく言葉を交わした賢者ですよね? 違います、僕はこの世界の外から来ました。鏡を2枚合わせた最も奥から数えて43番目ぐらいの世界から」
「……まあ、大体それぐらいですね、ここで説明するなら」
【ほう、面白いことを言う。だが頭の壊れた連中は皆似た様なことを口にするぞ?】
「嘘かほんとかは、竜なら……いえ、古龍なら判るはず」
【我らの心読みの力も知っておるか。ますます興味深い】
「偉大なる龍よ、僕の、異世界の知識と引き替えに、あなたの怒りを炸裂させるまでにここの人たちを助け出す時間を下さい!」
「(※腕組みして)あんまりお薦めしたくはないですが、現状、これ以外Aさんとあの古龍・ヘクトパスカルとで取引出来るものはありませんからねえ」
「(小声)古龍は賢くてえらくって、怒らせない限りは理性的な種族なんでしょう?」
「まあそれで5千年ぐらい前、色々あってえらく平均魔力が強くなってたころの英雄連中に好き放題利用されてた怨みが積み重なった現在があるんですけれどもねー」
【ぬ……お前の隣に何がおる? 我の感知出来そうで出来ぬ知性を感じる。亡霊ではないな?】
「えーと違います。僕のナビゲーター……っていっても分からないか、ナビさんのことってこの世界で通じそうな古い言葉じゃ何って言えば?」
「黒子でしょうかねー?」
「黒子です、はい」
【ふむ? まあお主の頭の中で知識を得れば良いか】
「ですです」
「Aさん威厳、威厳!」
「いやもう、どうせ向こう乗り気なんだから、威厳をつくろっててもしょうがないでしょ?」
【よかろう、乗ってやろうその話。われも千年の知識の欠落がある。お前が言うとおりの存在なら面白い】
「では、待って貰えますか?」
【うむ、だが待つだけだ。光球は炸裂させる。あれは我の怒りの塊。吐いたものは飲み込めぬ】
「うわー面倒」
【お前は道ばたに吐いた唾を、再び飲み込めるか?】
「なんとなくその例えで分かりました」
「吐いた唾飲まんとけよ、とはまさにこの状況ですな」
「あれは他人の暴走を、当人に忠告するときに使う言葉でしょ?」
【納得して貰えたか? ではお主の知識を貰うぞ……】
「え? な、なんで顔が迫ってくるの?」
【なに、頭を齧り取ったりはせぬ、我の牙をほんの少しお主の頭に当てるだけだ】
「え? いやあの心の準備がソノ! 頭に穴が! トレパージ!」
「ああ、穿頭のことですね」
「竜の牙で頭に穴開いたら死んじゃう!」
【そんなことはせぬ。今さらジタバタするな賢者よ。腹をくくったのであろう?】
「はい……(目を閉じる)」
【安心せい。先っぽをちょっと当てるだけよ、ちょっとな……】
こつ。
「!」
(※閃光)




