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その15・担いで逃げて惚れられて(2)


その15・担いで逃げて惚れられて(中)


「女の子見捨てては行けないです!」

「えーと、とにかく頭を低くして、これから多分電撃系の魔法がランダム放射になりますから、私が合図したらジャンプして、伏せて、でお願いしますよ!」

「Bは?」

「彼女の素早さなら大丈夫……ホラ飛んで!」

「わ!」

「ほら伏せて!」

「わ!」

「飛んで飛んで飛んで飛んで伏せて伏せて転がって! そこ一回転!」

「今楽しんでますひょっとして?」

「まっさかー!? はいそこ飛んで、右に一歩! 左に二歩!」

「笑ってるー!」

「気のせいですってー、ハイ飛んで! 伏せて!」

「うそだーっ!」

「さあ、そろそろ見えてきましたよ」

「あ、ダブルノックアウト」

「まあ、そうなっちゃうでしょうねえ」


【愚かな二つの脚で立つ毛長サルどもよ】


「わ、なに?」

「あー、古龍(エルダードラゴン)ですからね、思念波を出してるんです」

「テレパシー?」

「ええ、あなたはいいですが……Bさんが!」

「……!(※倒れるB)」

「マズイ!」(※慌てて支えるA。周囲でも戦っていた王女の部隊と魔王の部隊が次々と倒れて気絶する)


【よくも偉大なる我を封印し、千年もの間、下らぬ戦にこき使ってくれたな】


「あーAさん、なんかマズいことが二乗(じじょう)で起こってますよ?」

「B! しっかりして!」

「えーと多分テレパシーショックです。普通、怒り全開な古龍の思念波……竜の声(ドラゴン・ボイス)をこんな至近距離で喰らったら立ってられませんから、ソレより速く逃げたほうが……」

「なんで? 僕は平気なのに!」

「そりゃあなたは転生してる上に今必死なので、チート能力の一つ『竜耐性』が発動してますからね。私はこの場にいるようでいない存在ですし……だからはやく逃げないと!」

「え、あ……」

「早く! 多分この古龍、魔力放出でこの辺一帯を焼き尽くす気です!」

「……」

「どうしたんですか、周囲見回して!」

「じゃあ、この人たち、みんな死んじゃうんですか?」

「いやまぁ……そうなります」


【今こそ我の怒り、我の苦しみ、汝らに叩き返す時ぞ!】


「でも、今ならあなたとBさんとあと一人……そこのE王女ぐらいなら助かります!」

「……」

「ね、逃げましょう? 今からならふたりまでならあなたの腕力でも助けられます!」

「……」

「Aさん?」

「……いやです!」(※一瞬、Aの身体が竜の生み出した光球とは違う光で包まれる)

「Aさん、()()あなたは不死身でもなんでも……」


(※A、拳を握りしめ、周辺を見回す)


「みみみみ見て下さい! あ、あんなに腹筋のお姉さんたちがい、イッパイいるのに、こっこここ、これから腹筋爆乳になるかも知れない人たちがいっぱいいるのに、み、見捨てて行けますか!(涙目)」


「……本音?」


【さあ見るが良い二本脚の毛無のサル共! 我の力を! この光球が我より巨大になった時こそ、我は汝らを焼き尽くし、この世を全て破壊する!】


「え、ええええ、ほ、本音ですとも! びびび美人は全世界の宝です! 異世界だって宝です! BだってE王女だって傭兵のFさんだって名前の無いモブだってみんなみんな生きているんだ友だちになれるかもしれない! 僕のハーレムの一員になってくれるかもしれない!!」


「……あなた照れてるんですか、それともどうしようもない本音なんですか? 膝ガクガク震わせて涙目で言われるとどーも判断がつかんのですが」


【ふはははは、見よ見よ! 光球がみるみる育っていくわ】


「りょ、両方ですもちろん! だ、だって前の世界じゃなんにも出来なかったし、お年寄りに電車の席譲るのだって年に一回ぐらいしか出来なかったし! 怖い人に絡まれても逃げることも出来ないまま、財布差し出すしかないヘタレだったし! でも、でも、今、理想の姿になって、転生して、ヒーローになれるかもしれない立場と能力があるのに、見捨てて逃げるなんて恐ろしいことしたら、僕が死んじゃう!」

「……Aさん」

「せっかく転生したんだ! この前の人生では出来なかったことをする! そうしたいんです!」

「まあ……前世ではあーゆー死に方でしたしね」

「それいわないでー! びえーん!」

「いやいや、泣かないでもいいじゃないですか」


「びえーびえー!」


「ああもう! わかりましたよ、こういう場合の対処方法をナビればいいんでしょ?」

「いう゛ぇ、対処法(だいじょほう゛)(おぼ)いづいでいばず、補佐じで下さい!」

「なにを?」

「ずずっ……そ、それはですね……!」


(※風吹きつけ木々倒れる、光球の輝き、周囲を照らしていく)


【見よ、すでに我の半分になろうとしておるぞ!】


(※風吹きつけ地面裂ける、光球の輝き、ますます周囲を照らしていく)


【ふははは、もうすぐ、もうすぐだ!】


(※古龍の頭上の光球、ますます大きく)


【この古龍ヘクトパスカルが、汝らの見る最後の恐怖となるのだー!】



「あ、アノゥすみませン!(※声裏返っている)」


【ふははは、毛無しのサル共、死に絶えよ!】



「す、すみません!」


【さあ、これより我の生み出す地獄を……】


「だからすみませんってば! 古龍ヘクトパスカル様!」


【見せてやるのだ】


「ヘクトパスカル、こっち向いてくださいよ!」


【我の神をも凌ぐ怒りの雷を……】


「ヘクトパスカルこっちむけー!」


【いまこそ……】


「やいこの【ヘクチちゃん】!」


【!】


「生まれて4週目に、生まれて初めて見た雷に怯えて泣きじゃくって、しゃくり上げてクシャミしまくって母親龍に【お前は甘えん坊の竜だからヘクトパスカルじゃなくてヘクチちゃんね♪】って言われたくせに無視するな!」


【……そこの毛無しサル、なんで知ってる?】


「わ、こっち見た!」

「どうやらこちらの資料通りだったみたいですね」


【もう9千年も昔の話を……】


「わ……われは賢者A! 龍よ! 古の力の証、雷の象徴にして(ヘクトパスカル・)嵐すら喰らうもの(ミリバール)!」


【ほう、懐かしい名前で我を呼ぶな? だがお前の格好は賢者と言うより盗賊だが?】


「こ、これは偉大なる叡知を持つ古龍の言葉とも思えず、人の姿は衣装で変幻自在、故に龍なら我を見通すはず!」


【……】


(うわ……こっち見てるこっち見てるー!)


【……ふむ、おかしな奴じゃな。人のようで人でなく、でもちょっとだけ人な人……とは?】


「(小声)僕の正体ぐらい分かるかと思った……」

「(小声)彼が活動していた時期はまだ我々はここを見守っているだけで転生者を送りこんだことはなかったもんで」

「(小声)僕が最初じゃないの?」

「(小声)そんなこと言った憶えありませんよ?」

「……」


【おぬし、誰と喋っておるのだ、賢者A】


「あ、いえ何でもないでーす、チョー格好いい古龍のヘクトパスカル様、えへへへへ♪」

「なんかさっきと態度が変わりすぎです、威厳(いげん)もって威厳!」

「あ……そうでした」


【ふむ、チョー格好いい、か……よく分からんが響きが良いな。お前の畏敬(いけい)の念はなんとなく感じたぞ】


「ウケたみたい」


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