その14・担いで逃げて惚れられて(1)
その14・担いで逃げて惚れられて(1)
「それ!」
(※ぼぼん!)
「煙幕!」
「風だ、風系魔法で吹き散らせ!(※騎士の誰かの声)」
「それそれそれっ!」
(※ぼぼんぼんぼんぼんぼん!)
「えーとB? そんなにぶち込んで大丈夫?」
「風系魔法で吹き払われないようにするには、これぐらいいるのよ!」
「でももう隣にいる君の顔が見えないぐらいだけど……」
「あ、ちなみに私はちゃんとあなたたちが見えてますからご安心下さい」
「そりゃナビさんはいいでしょうけど……」
「ところで右に身体を捻ったほうがいいですよ、3、2、1……」
「わ!」
(※一瞬煙が切れて、Aの上着が一部千切れる)
「な、流れ弾?」
「正確には風系魔法を誰かがうっかり唱え間違えて『風斬丸』にしちゃったみたいですね。
「うわあ! 超能力の一種でしょ?」
「人間慌てると脳がバグるもんです」
「おっかないなあ……」
「あ、Bさんのほうにも来ますよ、右に飛んで押し倒してください3、2、1……」
「わー!」
(※一瞬煙が切れて、Aの上着の背中の一部が千切れる)
「な、なにするのよこのバカ! Aの癖に!」
「風斬丸が飛び交ってるんだって!」
「え?……あ、ホントだ……」
(仰向けになっているBにも、次々と一瞬煙が切り裂かれて星空が見える)
「ばかものー! 風斬丸乱発する奴がいるかー!(※遠距離)」
「す、すみませんっ!(※遠距離)」
がきーん! がきーん!
「うわ、FとE王女の剣がぶつかり合う度衝撃で煙が波打ってる……」
「気をつけて下さいね、今あのふたりの半径5メートル以内に近づくと、剣に込められた魔法の余波で肋骨ぐらいは砕けますよ。下手すると流れ刃で真っ二つです」
「うひい……」
「い……い、いつまで覆い被さってるのよ!」
「あ、ごめん」
(※B、起き上がって膝立ち)
「煙は上に登るから膝立ちになって半眼、なるほど何処でも盗賊の嗜みは一緒ですなー」
「解説どうも」
(※Aも同じ格好)
「うわ、なんか物凄く高速で動いてる何かの影しか見えない……」
「両方ともかなりの手練れね……下手に近づくと危ないから、今は様子見。A、周囲を警戒して。勝負がついたらさっさと行くわよ」
「でも、どうやって運ぶ? お姫さま重武装だからかなり難儀すると……」
「絶対脱出の大型スクロールがあるわ。今度はジャマー避け付きの本格的な奴」
「そんなのがあるんだ……」
「まあ、魔法と魔法を封じる魔法の関係は、レーダーとECMの関係と一緒ですからね。鍵と盗賊というか」
「こんだけ戦闘魔法がドカドカ撃たれてる状態だったら、逃走魔法は逆に使いやすくなるわ。威力を増すための増補魔法が過剰になるから封印魔法の類いはどうしても弱くなるもの」
「なるほど」
「さあ、Fよ、そろそろ決着をつけようぞ」
「王女様、あんた強いねえ……惚れそうだ」
「妾の後宮は女も歓迎するが?」
「あんたを叩きのめして、オレのハーレムで飼ってやる!」
「あ、そろそろ決着が付きそうですよ?」
「B!」
「判ってる、準備して……次の一合の瞬間に走るわ!」
「わかった!」
「……鋭!」
「応!」
がっぎゃーん!
「うわっ!」
「あ、こりゃどっちかの剣が折れましたね。ちょっと難儀なことになるかも」
「なんですそれ!」
「魔法が封じられてる刃物類って、破壊されると封じられた魔法や魔物が暴走を……特にあの魔剣ヘクトパスカルは竜が封印されてるという話ですよ?」
「わー! なんか天空に向かって迸ってる!」
「あれは…竜?」
「あ、指が四つあるから古龍ですね」
「え?」
「この世界の竜は形こそ西洋型の翼が生えてますが、年齢を重ねてえらくなってくると三本爪から最高で指が五本に増えていくんですよ。あれは四本指なんでもう古龍ですね」
「なんか不吉な予感しかしないんですけれど!」
「ええ、それもう的中です。魔法を使って剣に封じられてた竜って、基本、物凄く不機嫌ですからね。そりゃもー」
「……ということは?」
「ゴジラ映画って見たことあります?」
「ぎゃー! B! 逃げよう!」
「ダメ! 誘拐するの!」
「あーもう!」
「使命バイアスってやつですな。色々イッパイになってるんでしょう。まだ16歳ですし」
「ナビゲーションたのみます!」
「やっぱ行きますか…………男の子ですなぁ」




