その11・処すぞお前等
その11・処すぞお前等
「……石の中じゃ、ない……良かった」
「…………とも言えないみたい」
ざざっ
「ははははは! きたな愚か者どもめ、お前等が脱出系魔法を使うことは承知! そういうわけで脱出系魔法捕獲の魔法陣をこの馬車の中に描いておいたのだ!」
「あの……なんか、すっごく豪奢な鎧つけた、えらそーな女の人が例の巨大馬車バックに立ってて、僕ら、檻の中にいるわけ?」
「捕まった、ってことを婉曲に表現するとそうなるわね」
「Bさん、以外に知的ですな」
「わ、ナビさん!」
「いやどうも、石の中じゃなくてよかったですね」
「よく着いてこられましたね」
「まあ、私はナビゲーター役ですので」
「で、あの人誰?」
「あれは例の000国のE王女様ですよ」
「えーと王女様ってこういう場合、普通十代では?」
があん!
「わ!」
「アン? なんじゃワレ、20代後半の女王じゃアカンのかい、こら、処すぞ、お前等」
「処す?」
「処刑する、って意味ですね。雅な言葉です」
「いやドー考えてもヤンキーですよ!」
「まあ群雄割拠時代の王侯貴族だの戦国大名だのはみんなヤンキーです。その中で損得勘定が上手くて幸運とか人徳とかずば抜けて高い人が出世して、あなたや私みたいなインテリはまあ、言いように使われて最後はぶち切れて裏切ったらもっと悪いヤンキーに後ろから刺されるのがオチですがね」
「なんですかその日本史の裏幕みたいな」
「最近の研究じゃ明智光秀も結構なヤンキーだったみたいですよ?」
「そういう豆知識いらないです!」
「……おい、この盗賊は妾の迫力に負けてとうとう、コレか?」
「まあ、こいつ、毎度こんなものなんで」
「お前、女盗賊なのに苦労しとるのぉ……その様子じゃ間違いなく噛ませ犬じゃな?」
「う…………」
「碌な装備もない、おまけに相方は、女のように可愛らしくて妾の好みだが、頭のねじが5、6本外れたようなやつ……となればどーみてもそうじゃろ?」
「頭のねじが外れてるって言われましたけど?」
「だからナビゲーターは上手く使いましょうって言ったでしょ?」
「言ってない」
「そでしたっけ?」
「……ホント、大丈夫かお主の相棒?」
「悪い奴ではないんです……時折この世界がどーたらとかいいだすもので」
「この世界は不便で、未発達で、もう少し何とかならないか、とか?」
「ええ、よくご存知で」
「……牢を開けよ」
「しかし姫!」
「お、智弘カイ先生が描くような美人騎士が抗議してますよ」
「…………っていうかなんかあの王女様、みこやん先生が描く系の美人なのはいいんですが、僕を見る目がちょっと怖い……」
「なんか品定めされてますねえ」
「のうお主。名前はなんという?」
「あ、その……Aといいます」
「お前、変な機械を知っておるだろう? これぐらいの占いに使うカードぐらいの大きさでありながら魔法水晶のように映像……それも動くを映し出し、楽団のような音楽を奏で、遠くの者たちとも一瞬でやりとりできるものや、座って用を足すと勝手に要所を洗ってくれるトイレや、空を飛ぶ機械、それと……女性の月のものを和らげ、望まぬ子を宿さぬ薬」
「……えーと多分、タブレットにウォシュレットに飛行機、あとは……」
「あー、大体童貞の僕でも判りますそれ」
「知っておるのだな?」
「まあ、はい……あのナビさん」
「なんでしょ」
「これっていわゆる、現実世界ノテクノロジーで異世界の僕もモテモテ、系の話なんでしょうか?」
「……あー、アレ楽ですもんねえ。タブレットがあったり銃があったりスマホがあったり、そういえば家一軒丸ごと持ち込んだ話もありましたし、学校丸ごと召喚ってのもありましたな」
「【魔王ションジ-・ガ-・イシャー】の手のものだな、お前等」
「え? 魔王? ショーン? が医者?」
「あー、この世界に確かに魔王はいますね。ただし、よくある国を構えての存在じゃありません。ションジー・ガー・イシャーって王女様が呼んでるのは犯罪結社【魔界】の王と呼ばれる存在直属のグループの名前で、あらゆる種族の犯罪者を統べるもの、いわばモリアーティ教授率いる組織みたいなもんですな」
「モリアーティ教授?」
「見たことないですか、ダウニーJrのシャーロックホームズとか」
「ダウニーJrってアイアンマン以外にも出てるんですか」
「……えーとじゃあ、カンバーバッチのシャーロックは?」
「ああ、シャーロックに出てきたあのサイコパスですか? それなら……たしかエージェント・コールソンと声が同じなんですよね。村治学さん」
「最近、その言葉も使えない出版社があるそうで……あと「ブラックリスト」のレイモンド・レディンドンみたいな犯罪コンシェルジュ、ってころですかね」
「あ、それ知ってます、大塚芳忠さんの声が格好いいんですよね」
「スターウォーズとかのアメリカンサブカルにまるっきり無頓着なくせに、微妙にオタクなサイバー捜査官のアラムには優しかったりするところがまた魅力的なんですよねえ」
「ですねえ……ああ、シーズン6の先はどうなっちゃうんだろう……って、まった! その『手のもの』? つまり仲間に見られてます? 僕ら?」
「正体を見抜かれて、驚くことはない。どうせお前たち盗賊都市の住人は奴らに通じておるのであろう? 邪悪な機械を駆使し、連絡を取り合い、空を飛び、金品を奪い、街を襲い村を、国を焼く。素直に仲間の居場所と連絡方法を吐けば見逃してやらぬでもない」
「じゃあ、そうしなきゃいけない貧富の差はどこからくるのさ、お姫さま!」
「あ、なんか重いテーマになってきた……」
「しかたないですね、階級社会ってのは酷いもんです20年もすると、丸山くがね先生の『オーバーロード』の主人公が元いた世界みたいな…………」
「簡単じゃ、民度の差よ、教育の差よ! 王侯貴族は報せず、下々は知ろうともせぬ、怠惰と無知と怠慢が渾然となって三拍子のリズムを取ってワルツを踊る限り、悲劇は終わらず、魔王のようなものも跋扈する」
「ガンダムWですなー」
「ナンですかそれ?」
「…………いえ、知らなければいいんです。そういや、あなたの世代はガンダムSEEDがファーストガンダムですもんねえ」
「だが、社会改革の前には対処療法が必要じゃ、悪に組するものには罰が下ると、思い知らせ、天下に轟く裁きの剣を打ち立ててから始まるのじゃ!」
「そのためにどれだけの血が流れてもいいっての?」
「現状維持で踏みつぶされていく者たちと、戦いで死ぬ者たち、どっちの血の量が多いかの?」
「うっ……」
「まあ、実際には戦争やって、そこで死ぬ人間の量が例え少なくてもその後の社会の混乱と動乱期に人はバカスカ死ぬんでやっぱり戦争はアホのすることなんですがね」
「いやそんなあっさり戦争がワリに合わないとか統計論的なこと言われても……」
「統計論? 随分と最新のことを申すではないか? おい、そこのねじ外れ。何かいってみよ」
「いやあのえーとこの人がいうには……」
「ふむ、なるほど? 戦争後の混乱のほうが遥かに大きいか。じゃが詭弁だろう。この世は数字で動いておる。我々は算木の珠のようなもの」
「あー、つまり神々の見えざる手で弾かれている?」
「洒落た言い回しを知っておるな、お前」
「まあ、最近その手の話は否定されてますけれどね、私の知る限り」
「余計な知識を僕に囁かないでください」
「ふむ、何かお前、声を聞いて折るように思える。神の声か?」
「とんでもねえ、あたしゃナビざまだよぅ」
「……なんですかそれ」
「まあ、あと5年もしたら知る人はいなくなるでしょうねえ」
「?」
「ふむ、お主。面白いな。妾の愛人になれ」
「え!」
「王女では不満か?」
「あ、いえ……」
「ところでAさん、どうもこの王女様、あなたたちを甘く見て、重大な失敗をしてますよ?」
「?」
「武器」
「!」




