その10・スクロールは右内ポケット
その10・スクロールは右内ポケット
「……まったく、やっぱりあたしの担当なのね」
「(あ、やっぱり自動プレイモードの僕も彼女に頼りっきりだったか)で、どう?」
「ざっと調べたけれど、あの巨大馬なし馬車は」
「ほらね、やっぱりその概念でしょ」
「いーから」
「?」
「なんでもない、続けて」
「あのデカイ馬車はお城か砦だけど、それでも食事と中の人間の気晴らしは必要。で向こうが想定している警戒ラインはここから30キロ向こう」
「えーと、ナビさん。なんかさっきからラインとかキロメートルが出てますが」
「翻訳ですよ、翻訳」
「なるほど」
「…………?」
「で、30キロ向こうなんだね?」
「そう、だから今日までは王女様は外でお休みになられるってわけ。だからチャンスは今夜。天幕の周囲にはまず宮廷魔導士が3名、騎士が20人、弓兵が50人、歩兵が100人で囲むわ。その周辺の警戒は通常の軍隊。ちなみに食事も睡眠も三交代制……だから、食事に薬を盛って眠らせるわけにはいかない」
「なんで?」
「食事も3回に分けて作って、毒を盛られないようにするんですよ、頭いいなあ」
「……ということはどうするの?」
「人間の警戒心はどうしても緩む一瞬が出てくるわ……だいたい午前3時。習ったでしょ?」
「あ、はい。今思い出しました」
「そこを狙ってあたしが忍び込む」
「で、どうすんの?」
「当て身を喰らわせて王女様を担いで戻ってくるから、あんたはそれまでにこの辺から煙幕になるような木の枝と火の準備をして…………煙り玉は取っておくのよ、授業で習ったでしょ?」
「了解、頑張る」
「あと馬を2頭、あの中から失敬してくること。あたしがいったら3分後に陣地に侵入、騒動が起こるはずだからそこで馬にのって、火の準備をしているところまで一目散にくるから、合流したらあんたは火を付け、煙幕を張って逃げる。ほら時計合わせて」
「あ、これ懐中時計だったのか……似たデザインのボタンだとばかり」
「合わせた?」
「うん、なんとか。ところでB」
「なによ?」
「あのー、その間に弓矢とか鉄砲とか遠距離魔法が飛んできたら」
「当たることを考えていて、盗みは出来ないわよ」
「体育会系というかデタトコ勝負というか」
「なによ! そんなにいうなら自分でやりなさいよ! いっつもあたしに任せて!」
「B、声おさえて!」
「あんたがそうさせてるんでしょうが!」
(※ピカーンというSE)
「え? 今の何?」
「探知魔法よ、しまった、これ罠だわ!」
「なに?」
「(遠くから)襲撃者発見、十時の方角」
「弓兵隊、狙え!」
「わー!」
「Aさん冷静に。左方向に素早く4歩進んでBさんと一緒に伏せてください、なに闇夜の鉄砲です、頭低くしてれば当たりません。せーの、ハイ!」
「おっけー! B!」
「な、なに!」
(どさっ)
「撃てー!」
(銃声)
「!」
(着弾音)
(銃撃続くが、Bに覆い被さったAの周囲に着弾)
「……な、なに覆い被さってるのよ!(真っ赤)」
「いや、弾丸が飛んできて危ないから」
「鉄砲なんてもの闇夜で撃って早々当たるもんじゃないでしょ!」
「……とも限らないんですけれどもね、まあ最終的には確率論ですな」
「頼みますよナビさぁん!」
「いやーほら、確率まで操作はできないもんですからね」
「んなメタ発言いまはいいですから! どっち逃げたら安全ですか!」
「えーと、今右手のほうからやってくる騎士が20名の、左手のほうが10の……」
「真っ直ぐ後ろへ撤収するわよ!」
「あ、はいはいっ」
「まあ、それぐらいは判りますよねえ」
「捕獲砲、撃てえっ!」
「え? なに、捕獲砲?」
「あちゃー、そういえば宮廷魔術師がいるんでしたっけ。それだったら魔法で絶対狙撃が使えますね」
「なんですかその不吉なバルカン砲使う殺し屋みたいな名前!」
「ああ、リメイク版ですね」
どーん!
「わー!」
「ありゃ、魔法の網でしたか、手足は雁字搦め。良かったですね、殺傷系の武器じゃなくて」
「冷静に解説してる場合ですか、何とか脱出方法を!」
「くそ、虎の子だから使いたくなかったけど……A、あたしの……お、おっぱいの谷間に顔を入れることを赦す! だから中上着の右にある内ポケットの小巻物(を出して!」
「え?」
「おー、役得ラッキースケベ!」
「いやあああああのそういう趣味は!」
「このさい、OK出してくれる女性の胸の大小を気にしてると、この世界でも生涯童貞で死んじゃいますよ? ひゃっはー界隈で生きてきて、自動プレイモードでも童貞だったわけですし」
「いやそう言う問題じゃないでしょ」
「そうですね。でも今やらないと死んじゃいますよ?」
「ががが、頑張る!」
「ドサクサに紛れて、へ、変な所舐めたりとかしたら殺すからね!」
「し、しませんっ!ん……むむむ」
「お好きな方には溜まらない話なのに、もったいないことで……えーと、小巻物ってのは小指ぐらいの大きさの奴です。巻物というより短いタッチペンみたいな奴ですから」
「えーと、えーと(わわわわ、なんかいい匂いする!~」
「く、唇を胸に触れさせたら殺すわよ!」
「(ち、小さくてもこんなに柔らかいんだ女の子の胸って……)」
「む、無茶言わないで! えーっと、えーっと」
「あ、あった!……ていうか乳首の隣! うわ、綺麗なピンク色……」
「それ以上なんか言ったら殺すわよ!」
「ごごごごめん! 黙る……」
「そーっとだして、でも急いで」
「わかった」
「ついでに舌だしてなにか舐めたら、あんたの股間のアレを切り落としてホントに女の子にしちゃうからね!」
「無茶言うな……ん、とれた!」
「出したら、あたしの掌の上に落として!」
「良かったですねえ、Aさん。ここで定番なのがせっかく出した小巻物を……」
「!」
「……落とすというパターンなんですが、と言いかけたらこれですか」
「勘弁してよ!」
「ばか、どーすんのよ!」
「ふんぬっ!」
「おお、顔面から突っ込みましたか」
「はい、落とすよ!」
「ありがと!」
「おお、それは半径300メートル以内にランダムに転送されるってやつですな」
「まって、それって……」
「場合によっては【いしのなかにいる】という可能性もあります。その際はまた私の職場でお会いしましょう」
「わー!まてまてB!」
かちっ
「絶対脱出!」
(閃光)




