フェンリル族の里⑫
さて、早過ぎる先制攻撃をしてしまったからなぁ~、相手はどう動くか?残りは36万ちょっとか。
サテライトの衛星画像で確認してみよう。
ファンタジーの世界に地球のSF発想が入ると凄いな。本当に何でもアリになりそうだよ。
かつてのゾーダみたいに力に溺れないように自重しないとな。
「おっ!あちらさんもさすがに警戒し始めてきたな。3方向に分かれて進軍してきた。正面から20万の物量で押して、左右から8万ずつで追い打ちをかけるみたいだ。衛星画像からだからハッキリしないが、多分クイーンは正面の一番奥で陣取っているな。その他のスキュラ族やオーク族などが部隊長の役割で魔獣を引き連れている。」
「最初の一撃はガーベラに取られたけど、次は私が皆さんに力を見せますね。」
フローリアが右手を上げた。
すると、フェンリル族の男達から離れた場所に、20名くらいのスキュラ族が現れる。
「フェンリル族とスキュラ族は仲良くなってもらわないといけませんからね、スキュラ族の皆さんには悪いですが戦線から離脱してもらいました。オーク族やゴブリン族は女の敵ですから、旦那様、遠慮しないで殲滅して下さい。駆除しても次から次と湧いてくるゴキブリみたいな連中ですからね。」
「フローリア、よくオーク族達がスキュラ族と共同戦線をとるようになったな。」
「あれはクイーンの力ですよ。フェンリル族、スキュラ族も神獣ですが、クイーンの力は飛び抜けていますね。特に女に見境がないオークでもクイーンには逆らえません。他のスキュラ族に手も出せないくらいにビビッてますからね。」
「それでか、これだけのスキュラ族がオーク達と一緒にいても何も無かったのは・・・」
「それにしても、相変わらずフローリアは凄いな。こうやって簡単に転移させてしまうなんて、出来るのはお前だけだろうな。しかも、抵抗出来ないように軽く麻痺までさせているし・・・」
フローリアがドヤ顔になっている。
「ふふふ、旦那様に褒めてもらえると最高です。もう天にも昇る気持ちですよ。」
しかし、表情が急に真面目になる。
「しかし、クイーンだけはさすがですね。スキュラ族は元々魔法が得意な種族ですが、クイーンの魔力は桁違いです。本気ではない魔法でしたがレジストされて転送出来ませんでした。注意して下さいね。」
「分かった。」
転送されてきたスキュラ族が俺達を睨んでいる。その中の1人がキョウカに気付き叫んだ。
「キョ、キョウカ!あなた無事だったの!牢に入れられていたと聞いていたけど・・・」
キョウカが叫んだスキュラ族の方に走って行く。
「ミヤコ姉さん、ごめんなさい・・・、私の為にみんなに迷惑をかけてしまって・・・」
「私は自分の意志でこの里にいるのです。彼らは私を里に返そうとしてくれたのですが、私が帰るのを拒否してしまって、帰るくらいなら死ぬとまで言ってしまったもので・・・」
「キョウカ、あなた、何故そこまで・・・」
キョウカが微笑んだ。
「だって、好きな人とずっと一緒にいたいと思うのは当たり前でしょう?それに、私のお腹には彼の子供もいるのです。子供を産んで彼と家族になって一緒にいたい・・・、私は里に帰る意志はありません。」
ミヤコと呼ばれた女が唖然とした表情になったが、すぐに険しい顔になった。
「スキュラ族は男と結ばれ子供が出来ると、男と別れ里に戻るはずでしょう。我らスキュラ族は男と結ばれるのは子孫を残す為であり、男に対しては過度に惚れ込むような感情は無い筈よ。種を存続させるのが一番の義務なのです。だから、私はあなたが言うような里を捨ててまで彼と一緒になりたい気持ちは分からない。」
「あなた・・・、まさか、我らスキュラ族の伝承にあるクイーンの母で『悲劇の母と言われたミヤビ様』と同じ?相手が好きでたまらないという感情を持ってしまったの?在り得ない・・・」
「もしもだけど、あなたの生まれた子がクイーンになったらどうするの?それこそ悲劇の母親と同じようになってしまいますよ。好きなのに離ればなれになってしまってもいいのですか?そして、伝承にはそのクイーンにも好きな人がいて、母と一緒に別れさせられてしまったと・・・、あなたがその話を知らないはずがないでしょう?」
ミヤビとミツキの話はスキュラ族には伝わっているのか。まぁ、あちらにすればフェンリル族の都合に振り回された被害者みたいなものだからな。
それと、クイーンになったミツキにも好きな人がいたのか。一体、誰だ?
「姉さん、その話も分かっています。今はクイーンが存在していますから現れる事はないとは思いますが、万が一、私の子がクイーンに目覚めた時は・・・、その時こそ彼、氷河が次期族長の座を捨てて、私と一緒にスキュラ族の里で暮らすと、昨夜、族長様達とお話をして決めました。愛し合う家族を分けてしまった過去のフェンリル族の過ちは償わなくてはならないと・・・」
「ですから、私は里に戻らないとクイーンにはそうお伝え下さい。そして、無駄な争いは一刻も早く終わらせて欲しいと・・・」
ミヤコがうなだれている。
「キョウカ・・・、ここまで皆が決心しているなら、私はこれ以上何も言いません。姉として、あなたの幸せを願いたい。しかし、遅かった・・・」
「姉さん、遅かったとは・・・」
「それは、クイーンが過去のクイーン達が祀られている霊廟に赴いた時なのです。クイーンが急に泣き始め、フェンリル族を滅ぼさなくてはならないと言い出してしまって・・・・、最初は信じられませんでしたが、偵察をフェンリル族に放って調べると、キョウカ、あなたが牢に入れられいるのが確認出来ました。それで、クイーンはフェンリル族は宣言通り滅ぼす事を決めてしまったのです。クイーンは我々にとっては絶対の存在、全てにおいて優先する事は分かっていますよね。だから、今回の戦争が始まり、我々もこのように攻撃に参加していたのです。今となって思えば、過去のクイーンの悲しみが憑りついたのかもしれません・・・、悲しみがフェンリル族に対する恨みとなって・・・」
春菜、夏子、千秋、マリーがミヤコの前に行く。そして、春菜が優しく微笑み話しかけた。
「ミヤコさん、安心して下さい。私達は旦那様である蒼太さんと、その友人の凍牙さんに助けられ幸せになった者です。彼ら2人は死という悲しい別れを経験しましたが、その絆が奇跡を呼び再び会う事が出来たのです。その為、誰よりも失う悲しみを分かっています。絶対に悲しい終わり方はさせないと思いますよ。だから、安心して下さい。」
「あなた達は彼らを心から信頼しているのですね。」
「そうですよ。私達の旦那様ですからね。必ずハッピーエンドにしてくれますよ。クイーンもあなたもね。」
ミヤコが信じられない顔をしている。
「わ、私もですか?どうして・・・」
春菜がニコッと微笑む。
「ふふふ・・・、それは秘密です。でも、もう少しすると分かると思いますよ。」
春菜・・・、またフラグを立てたのか?誰が犠牲になるのだ?俺じゃない事を祈る・・・
春菜が俺に微笑む。
「あなた、それでは私達は左右の8万ずつの殲滅を行いますね。すぐに終わらせますよ。」
そして夏子達に指示を出す。
「夏子さん、千秋さん、美冬さんは右の集団の殲滅を頼みます。私は左側を殲滅しますね。マリーさんはそろそろクイーンからの魔法が飛んできますので、30秒後に防御シールドを里全体にお願いします。クイーンの魔法を防いでから私達が動きます。」
「「「「了解!」」」」
ピッタリ30秒後
「マリーさん!シールドを!」「分かったわ!シールド展開!」
その瞬間、里の上空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。魔法陣の中からいくつもの隕石が飛び出して落ちてくる。
「メテオか!クイーンは本気でフェンリルの里を滅ぼす気か!」
しかし、隕石は落下の途中で停止し消滅してしまった。
「マリーのシールドか?メテオまで防ぐなんて凄いじゃないか!」
マリーがドヤ顔になっている。
「そりゃそうよ。あの4人の地獄の攻撃に比べれば、あのメテオくらいならぬるま湯よ。私も頑張って強くなったからね。」
確かに・・・、春菜達の強さは尋常じゃないからな。マリーもさすがに何度も死にたくないから頑張ったのだろう。
「それに、春菜の予知は反則よ。小技の攻撃までは読めなくても、今みたいな大がかりなものは予知されてしまうから、こちらにとっては対処するのが楽ね。春菜を敵に回したクイーンには同情するわ。」
俺もそう思う。
「夏子さん、千秋さん、美冬さん右の方をお願いします。」
「「「了解!」」」
「吹雪!行くよ!」「分かった!母ちゃん!」
吹雪が金色に光り姿が消えた。そして、美冬の両拳に金色のカイザーナックルが装着されている。武器がレベルUPしているぞ。
「ちょっと試しに・・・、はっ!」
美冬が軽く足元の地面を殴った。拳を中心に3mほどのクレーターが出来てしまった。フェンリル族もスキュラ族も唖然とした顔で固まっている。
「吹雪、さすが。この前よりも攻撃力が上がっているね。これで殴られる相手には同情するよ。」
いや、美冬は素手でも十分な破壊力だから、殴られた方はどっちも地獄には変わらないと思う。
夏子が微笑む。
「それじゃ旦那様、行ってくる」
その瞬間、夏子達の姿が消えた。目にも止まらぬ速さで走って移動している。マップから右側の敵のマークがみるみる消えていった。
5分後、夏子と千秋が不満な顔で俺の前に立っていた。
「弱い・・・、弱すぎる・・・、これじゃ出番がほとんど無いと同じではないか・・・」
「そうだ、こんなにあっという間に片付けてしまうとなぁ・・・、蒼太さん、しばらく腕に抱きついているね。」
夏子と千秋が嬉しそうに俺の両隣りに立ち腕を組んできた。フェンリル族の男達の嫉妬の目が怖い・・・
美冬は吹雪と一緒に雪のところにいる。
「雪、彼女達があなたを指導する事になるわ。死ぬ気で頑張れば間違いなく強くなるよ。頑張って強くなろうね。」
雪が固まったままで、口から何か魂のようなものが出ている気がするが・・・
強さの次元が違い過ぎる連中だからな。人生を諦めた感じだ。合掌・・・
春菜が楽しそうに笑って俺達を見ている。
「ふふふ、夏子さんも千秋さんも更に強くなってますね。私もいいところを見せないといけません。」
「それでは・・・」
「グラビティ・フィールド!潰れなさい・・・」
左側の敵マーカーが一瞬にして全て消えた。
「春菜、一体何をしたんだ?一瞬で8万のモンスターの反応が消えたけど・・・」
春菜がいつもの笑顔で微笑む。
「広範囲の重力魔法で敵だけを押し潰しただけですよ。森には一切影響を与えない環境に優しいやり方です。」
族長達フェンリル族が冷や汗をかいて俺達を見ている。
「こ、これが噂に聞くフローリア様のロイヤルガードの力・・・、我々とは強さの次元が違う。いや、比較する方が彼女達に対して失礼かもしれん・・・」
アイリスとサクラが目を輝かせながら春菜達を見ていた。
「ママ達凄い・・・、このままだと私達の出番が本当に無くなっちゃうかも・・・、サクラ、私達も頑張るよ!」
サクラが頷く。
「それじゃ、私も本気でいきます!出でよ!エターナル・スタッフ!」
サクラの右手に神器が握られる。
「神器!解放!私に力を!」
サクラの神器が一際激しく輝き、サクラの姿が変わった。
「ふふふ・・・、ここまでの解放は初めてでしたが、私も大人になったらこうなるんだ。お母さんと同じくらい胸が大きいんだね。これで凍牙お兄ちゃんもメロメロになるかな?」
「どうかな?お兄ちゃん、私の大人の姿は?時間限定だけどね。」
サクラが大人になった。春菜によく似ていて、さすがに親子だな。俺の要素が全く無いのはちょっと悲しい・・・
「サクラ、ここまで神器の力を開放して大丈夫か?」
サクラが春菜とそっくりな笑顔で俺に微笑んでくれた。
「お父さん、大丈夫です。これ以上は危ないですけど、ここまでなら反動はありません。でも、数日は解放出来なくなりますが、この争いを今ここで終わらせれば問題ありませんからね。」
「そうか・・・、でもな、あまり無理はするなよ。」
「分かりました。それと、凍牙お兄ちゃん!」
サクラがショートワープで凍牙の前に移動した。いきなり目の前にサクラが現れて凍牙はビックリしていたが、サクラは凍牙の顔を両手でガッチリ掴んだ。
「お兄ちゃん、私の加護と愛を捧げます・・・」
ゆっくりと顔を近づけ凍牙にキスをした。
「サ、サクラァアアアアア!ずるいぃいいい!」ガーベラが叫ぶ!
「これが1番目の婚約者の特権なのぉおおお!」雪が四つん這いになって叫んでいる。
「あ”あ”っ!アイツはコロス!」冷華が袖から巨大なデスサイズを取り出し構える。ホント、何であんなモノが入っているんだ?
サクラが少し恥ずかしそうにしながら唇を離し凍牙を見つめる。
「ふふふ、私のファーストキスどうだった?お兄ちゃんのファーストキスもいただいたよ。」
凍牙は真っ赤になっているが、突然、全身が金色に光り始めた。
「な、何だ!サクラ、いつもの加護と違うぞ。全身に溢れる力が違い過ぎる。まるで、昔、ブルーと一緒にいた頃の一番強かった時のようだ・・・」
凍牙の輝きが収まった。
「と、凍牙・・・、その姿は・・・」
俺の目の前の凍牙は、いつもの子供の姿ではなく、今の俺と同じ感じの20代前半の青年の姿で立っていた。
髪は金色になっているが、その姿は俺がブルーの頃、一緒に戦場で暴れ回って最強と呼ばれていた時の姿だった。
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