フェンリル族の里⑩
ミドリ・・・、お前、いつの間にこんなモノを作ったのだ?
しかも、全編フルCGアニメだが、実写と思えるくらいのクオリティだ・・・
冷牙の顔は俺だし、男は凍牙、ミヤビはアイリス、クリアはミドリと、再現度もかなり高い。アイリスは「きゃぁ~、パパとキスしてるぅううう!」って顔を赤くして騒いでいた。
それに、プロジェクターとスクリーンもしっかり用意してから撮影していたしな。
ミドリが優秀過ぎて怖いよ。
「口で説明するよりも再現映像で説明した方が分かりやすいと思って映像にしましたが、これで始祖様がどのようにして覚醒されたか分かりましたね。」
ミドリがすごいドヤ顔になっている。
族長がかなり食いついている。
「ミ、ミドリ様!この映像は譲ってもらえないでしょうか?我が家の家宝にしたい。お願いです。」
ミドリが嬉しそうに頷いた。
勘弁してくれ!ずっと俺達の顔が晒し者になってしまう。ぜめて、顔は変えてくれ、ミドリ!
ミドリが説明を続ける。
「第二部の『始祖苦悩編』はさすがに間に合いませんでしたので、私が説明しますね。」
おい!シリーズ化するつもりだったのか?止めさせないと・・・
「こうして、3人はフェンリル族の里に戻り、里で結婚生活をする事になりました。最初はさすがに長老達の反対がありましたが、元ハンターの男の尽力と、冷牙本人のフェンリル族離れした強さ、剣化した冷牙を握ったミヤビの強さ、クリアのドラゴンとしての強さには里の誰も敵う者がいなく、3人は里の守り人として認められ幸せに里で暮らしていました。」
「そのうちにミヤビが冷牙の子供を身籠り、出産をした事が悲劇の始まりでした。生まれた子供は、白い髪のフェンリル族の男の子と黒い髪のスキュラ族の女の子の双子です。スキュラ族が男の子を、しかも、スキュラ族以外の子を産む・・・、里中に衝撃が走りました。」
「バ、バカな!そんな話は代々の族長には伝わっていないぞ!スキュラ族が男を、しかも他種族の子を産む話は神界中でも前例がないはずだ!そ、そんな・・・」
族長が信じられない顔でミドリの話を聞いている。
「信じられない話かもしれませんが、これは事実です。白い髪の男の子は『凍牙』、黒い髪の女の子は『ミツキ』と名付けました。そして、子供達が3歳になった時に悲劇が起きたのです。」
「凍牙は父の冷牙と同じ規格外の強さを持つフェンリル族であり、父と母に対して剣となる事が可能だったのです。父の資質をそのまま受け継いでいる事が分かりました。それに目を付けたのが長老達です。自分達の一族に冷牙を取り入れられないかと・・・、そうすれば、冷牙との間に出来た子は、冷牙と同じ様に規格外の最強のフェンリル族になれるのではないかと・・・、自分達の一族が里の最強のフェンリル族になれるのではないかと・・・、冷牙を巡る醜い争奪戦が始まりました。それからは、冷牙に自分達の娘や孫の縁談を数多く勧めてきました。」
「しかし、冷牙は『自分の妻はミヤビとクリアだけ』と言って全て断っていました。凍牙はまだ3歳ですから縁談なんて無理ですが、それでも凍牙目的の大量の縁談に冷牙は困っていました。」
「ミドリ様、冷牙様と凍牙様のように力が受け継がれると分かれば、そのように縁談が舞い込むのは分かります。我々フェンリル族は強さを求めますので・・・、縁談の殺到、もしかしてミヤビ様に何かがあったのですか?」
「いえ、悲劇の発端は娘のミツキの方にあったのです。彼女は3歳の時にクイーンとして覚醒してしまいました。」
「な、何!クイーンだと!タイミングが悪過ぎる・・・、ワシでもこの後の流れは読める・・・、そして、先祖が隠してきた過去も、スキュラ族との交流が無くなった理由も・・・」
「スキュラ族にとってはクイーンは絶対の存在です。里を治める女王として将来が決まってしまいました。このままクイーンであるミツキをここに匿っていても、バレてしまっては必ずスキュラ族が奪いに戦争を起こしてしまう。ミヤビはミツキを連れて里に帰る決心をしました。そして、冷牙も凍牙と一緒に付いて行くと言いましたが、冷牙と凍牙は今やフェンリルの里では絶対に手放したくない存在となっています。冷牙達がスキュラ族の里に行けば、今度はフェンリル族が戦争を起こすでしょう。」
「2人はお互いの里が争う姿は見たくありません。お互いに自分の里を愛していましたから。2人は駆け落ちも考えました。誰も知らない場所で過ごそうと・・・、しかし、そんな事をしても匿ったのではないかと、お互いの里が疑心暗鬼になってしまう可能性も考えてしまいました。そして2人は決心しました。冷牙は凍牙と一緒に里に残り、ミヤビはミツキと一緒にスキュラ族の里に帰る事を・・・」
「やはり、そうなったか・・・、何て悲しい別れだ・・・」
「始祖様の力を欲したフェンリル族の私欲の為に、このような決断をさせてしまうとは・・・」
「そして、2度と同じ様な悲劇が起きないように、そして、私欲に走ったフェンリル族の長老達の恥を隠す為に、冷牙とミヤビの結婚と出産の話は決して伝える事の無い話とし、フェンリル族はスキュラ族との交流を絶つ事にしました。その後、冷牙はクリア1人だけを妻として一生を終えましたが、クリアとの子供は残念ながら出来ませんでした。クリアはそのまま里に残り、里の守り神として過ごし、その身が朽ちた後は槍となって里を守り続けました。」
【ご主人様、彼女は残念でしたが、私達は必ず子供を作りましょうね。ふふふ・・・】
【ミドリ・・・、こんなところで念話を使うなよ・・・、誰にも聞かれていないといっても恥ずかしいよ。】
「そして、息子の凍牙ですが、成人後は何人もの妻を娶りましたが、能力を受け継ぐ子供は誰もいなく、この能力は伝説となりました。今の凍牙様や美冬様がなぜ今になって冷牙の力が復活したのかは、族長様、これで理由は分かりましたね。そして、吹雪様も・・・」
族長が涙を流しながら凍牙と吹雪を抱いている美冬を見ている。
「凍牙、美冬、お前達がなぜ白い髪で生まれてきたのか、今、分かった。今は亡きお前達の両親も結婚の時は大変だった。仲間意識だけではない、お互いを守り通す気持ち、それがお前達の両親から受け継いだ力の源だったとは・・・」
「そして、美冬の息子、吹雪よ。お前は蒼太と美冬の子供として誇れるな。お前の両親がどれだけお互いを大事にしているかの証明だ。お前もそのような立派な大人になるんだぞ。」
すきりした顔の族長が部屋から出ようとする。
「ジジイ、どこに行くんだ?」
「決まっておろう!2人を迎えに行くのだ。始祖様は幸せになれなかったが、氷河達は幸せになってもらいたい。もうフェンリル族やスキュラ族は関係ない。愛する者を裂くような真似は繰り返してはならんからな。」
しばらくすると1人の銀髪の若者が族長と一緒に部屋に入ってきた。
冷華に似た切れ長の目で、女性的な顔立ちのイケメンだ。この男が例の氷河だろう。
男が入ってくると、冷華に抱っこされている凍牙が手を上げて話し始めた。
「よう!氷河、久しぶりだな。相変わらずのイケメンで羨ましいよ。」
氷河と呼ばれた男がこれでもかと思うくらいに目を見開き、顎が床に落ちる音が聞こえた。イケメンが台無しだぞ・・・
しばらく硬直していたが我に返った。
「お、お前、凍牙か?一体、お前に何があった?冷華に抱かれているその姿は・・・」
「さすが氷河だな。すぐに俺と分かるなんて。ちょっと色々あって、こんな体になってしまったよ。」
「ところで冷華、いつまで俺はお前のぬいぐるみ扱いなんだ?いい加減、自由になりたい・・・」
冷華がすごく嬉しそうだ。
「良いじゃない。別に抱いていても減るもんじゃないし・・・」
「俺の自尊心がガリガリ音を立てて削れているわ!」
「ダメ!今日は一緒にお風呂に入って、それから、布団にも一緒に入って寝るか・・・」
「「いい加減にしろ!」」
サクラと雪のダブルハリセンが冷華の頭に炸裂した。凍牙は咄嗟に脱出したので無事だったが、冷華はヘッドスライディングで壁に顔面を打ち付けていた。
顔面を押さえてのたうち回る冷華を見て見ぬ振りをして、氷河は凍牙に駆け寄った。
「この不貞不貞しい態度、そして冷華がメロメロになっているんだ。凍牙に間違いない!よく生きていたな!死んだと聞いていたからな・・・」
「まぁ、色々あったからな。」
「それよりもだ!氷河、冷華が俺の事が好きだって知っていたのか?」
「知っているも何も、冷華の部屋の中は凄まじいぞ。お前のグッズだらけだし、お前のお手製人形まで作って毎晩抱いていたからなぁ・・・、自慢して部屋を見せてくれた時は余りにもサイコな部屋だった。我が妹ながら恐ろしい・・・、一度見てみるか?」
「いや、止めとく・・・、最悪ショック死するかもしれない・・・」
何か似た部屋を思い出したが・・・、凍牙!見たらダメだ!確実に精神がやられる!
隣を見ると族長が四つん這いになって落ち込んでいた。
「冷華・・・、何故ワシには部屋を見せてくれない・・・、氷河には見せているのに、何故だ・・・」
放置しておこう・・・
「ミドリ、フローリアママや私達以外にも同じ様な事をする人がいたんだ。負けられないね。私とミドリが作っているパパのコレクションルームが最高だと見せつけてあげないとね。」
おい!アイリスとミドリ!いつの間に拷問部屋みたいなモノを作っていたんだ?そういえば、2階に1部屋だけ開かずの扉があったな・・・、もしかして、アレか!
アイリスとミドリが俺を見てニッコリ微笑む。
「パパ、結婚するまでには完璧な部屋を作っておくから楽しみにしていてね。私達の愛の巣になるから念入りに作っておくから・・・、パパが私の隣にいて部屋中のパパ達に囲まれる生活・・・、1日中パパと一緒にいて、私はパパの事を『あなた』と呼ぶのね。隣にミドリが幸せそうに私とミドリの2人の赤ちゃんを抱いて微笑んでいる。そんな幸せな結婚生活が待っているのね・・・、ふふふ・・・、最高の幸せ・・・」
怖い、アイリスとミドリの笑顔が怖い!それにアイリス!元の世界に戻って来るんだ!あの2人だとフローリアの監禁部屋よりも強烈なものが出来そうだ。俺の精神が保てるのか・・・
しばらくすると1人の女性が男に連れられ部屋にやってきた。髪はオレンジ色で頭に犬の耳が生えている。スキュラ族の女だ。目がクリッとしてとても可愛い。俺の周りは本当にイケメンと美人ばかりだ。普通の顔の俺に対する当てつけか?作者よ!
氷河と女の目が合った途端にお互いが走り始め固く抱き合った。
「キョウカ!済まなかった!お前に辛い思いをさせてしまって・・・、もう2度と離さない・・・、親父がどんなに反対しても・・・」
「氷河・・・、いいのです。許されない恋をしてしまった私が悪いのですから・・・」
キョウカと呼ばれた女が族長をジッと見つめる。
「族長様!私はどうなっても良いです!氷河の事は許して下さい!どうか!」
「お前達、何を勘違いしているんだ。何の為に今、お前達を合わせたと思う。」
族長が温かい目で2人を見ている。
「「えっ!」」
「これからは、ずっと2人でな、この家で堂々と暮らしてもらう為に牢から出したのだ。」
「夫婦としてな。」
2人が信じられない顔でお互いの顔を見ている。
そしてポロポロと涙が溢れ、固くもう一度抱き合った。
「キョウカ!」「氷河!」
全員が2人を見守っていた。
しばらくして、族長が2人に話し始める。
「氷河よ、我らは忘れていたのだ。本当のフェンリル族の誇りを・・・、凍牙はいつも言っていたな。『フェンリル族は誇り高い種族』とな。ワシは今まで誇りとは『強さに溺れず自己を研磨せよ。』と思っていた。しかし、それだけではなかったのだ。愛する者を守る。それがどんな苦境でもな。その覚悟が眠っている力を呼び覚ますのだろう。凍牙達に教えられたよ。まぁ、凍牙は蒼太との友情もあるのだろうな。愛情だけで目覚めたら蒼太とアイツの関係は同性愛が確定になってしまうからな。」
凍牙は「俺は正常だぁあああ!」と叫んでいる。俺も正常だ!
「始祖様の力は我々に流れる血だけではない。本当に大事なものは心にあったのだ。そして、その力は我々フェンリル族全てに宿っていると考えている。」
「だから、氷河よ。お前は始祖様と同じ道を歩んではならん!フェンリル族とスキュラ族との懸け橋になる存在だ。我ら祖先の過ちを犯してはならないのだ。」
「お、親父・・・」
「族長様・・・」
3人がヒシッ!と抱き合い涙している。
「氷河よ、今夜は新しい家族も入れて4人で語り合おうではないか。亡きお前の母も喜んでいるはずだ。」
冷華が焦っている。
「えっ!私も?」
「当たり前だ!お前に新しい姉さんが出来るのだぞ。お前がいなくてどうする?お前はまだ婚約だから、しばらくはここにいるからな。仲良くしないといけないぞ。」
「いやぁああああああ!私は凍牙と一緒に添い寝したいのにぃいいいいいい!」
サクラがニコニコと冷華に微笑む。あの笑顔はヤバイ笑顔だぞ・・・
「残念でしたね。でも、最初から冷華さんは無理でしたよ。だって、今夜は私と雪お姉さんが凍牙お兄ちゃんと一緒に寝ますからね。もう両隣は塞がってますよ。」
「そ、そんなぁああああああああああああ!」
冷華の絶叫が部屋に響き渡った。
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