フェンリル族の里④
美冬とサクラが呆れた表情で凄惨な現場の当事者2人に近づく。
「サクラ、雪が酷い状態だから洗ってあげて。」
「OK!美冬母さん。スコール!」
雪の上空から滝のような土砂降りの雨が降ってくる。
「あばばばばばぁああ!」
我に返った雪が叫んでいるが、お構いなしに雨が降り続いた。
「よし、これでだいぶキレイになった。ソータ、建物を出して。雪の服の血が取り切れないから、ミドリの服を貸すわ。背格好も同じくらいだから着れると思うからね。」
美冬に言われ、異次元収納からログハウスを取り出し設置した。
「アイリス、ミドリ、私と一緒に雪の着替えを手伝って。サクラはお兄ちゃんの介抱を頼むわ。ソータと吹雪は一応、周りの警戒を頼むわね。」
みんなが美冬の指示に返事をする。
出合った頃の美冬は見た目通り言動は子供っぽかったが、今では母親の貫録も出てきてしっかりしている。相変わらず野菜嫌いは直ってないけどな。
それから、美冬は気絶した凍牙を胸に抱いたままの雪に話しかける。
「雪、いつまで凍牙お兄ちゃんを抱いているの?このままだとお兄ちゃんが目を覚ましたら、また鼻血まみれになっちゃうよ。」
凍牙の顔を胸に挟んでいる事に気付いた雪が、真っ赤になって慌てて胸に抱いていた凍牙を離し、美冬が受け取った。
凍牙は気絶しているが、何だ!この表情は・・・、とても嬉しそうな顔で気絶しているとは・・・
まぁ、あの胸だ。男の本能に逆らえなかったか・・・
サクラの凍牙を見る目が怖い・・・、目が覚めたら、確実にサクラの説教コースに突入だろうな。
【マスター、羨ましいなら私がマスターにしてあげますよ。私のこの自慢の胸で天国に送って差し上げます。ふふふ・・・】
【クローディア、それは勘弁してくれ。俺はそこまで女に飢えていないからな。お前はとてもキレイだから、隣で寄り添っていてくれるだけでも俺は幸せだよ。淋しくなったら、いつでも俺のところに来て良いからな。】
【マスター・・・】
【それとな、クローディア・・・、アイリスとミドリがいるんだぞ。お前が俺にそんな事してみろ、あの2人にお前の存在そのものまで抹殺されるに違いないぞ。この念話の話だけでも2人にとっては有罪判決になるからな。オープンの念話でなく、直通の念話で助かったな。】
【パパ、クローディア・・・】
【【ア、アイリス!】】何故だ?どうしてアイリスが割り込んでくる?
アイリスとミドリを見ると、2人がニコニコして俺を見ている。
しかし、目が笑っていない・・・
ミドリもクローディアとの念話を聞いていたのか?間違いない!あの表情は分かっている表情だ!
【パパ・・・、ミドリが指輪の構造を解析して、パパの指輪にハッキング出来るようにしたの。私もミドリもパパの事をいつも気にしているからね。ミドリが頑張ってくれて、フローリアママの様にミドリの指輪にもパパの行動をトレース出来るようにしたの。ミドリの指輪から私にも情報が転送可能だからね。】
【【だから、私達には内緒の事は出来ませんよ。】】
アイリスとミドリの声がハモる。
そして、俺を見つめながらニヤリと笑った。
ミドリが会話に入ってきた。
【ご主人様、ハッキングが出来るという事は、こうして私達も会話に強制的に参加も可能なんですよ。今からの会話はアイリス様に聞かれないようにしていますので、私から少しお話させて下さい。クローディア様、あまりご主人様にエッチな誘惑をしないで下さい。女の姿に変化出来ても神器のはずのあなたが、行為だけは出来るのですね。クローディア様は処女なんですから、もう少し恥じらいを持たないといけませんよ。そして、たかがファーストキスをご主人様に捧げただけで、妻のように振る舞ってもらっては困りますね。私もご主人様に初めてのキスを捧げてからは、どれだけベッドで愛してもらいたいか・・・、この気持ちがはち切れそうになっても、アイリス様が成人になるまでは私も必死に我慢しているのですからね。抜け駆けは許しませんよ。そんな話はアイリス様の教育に悪いですし、影響を受けて、アイリス様がご主人様に迫ったら大変な事になりますよ。読者が許しても運営が許す訳がありません。本当に我々の存在自体が無くなったら大変どころの話ではなくなりますからね。そうなると、クローディア様、責任を取ることが出来ますか?無理でしょうね。ですから、迫る事に関してはエッチな事は自重して下さいね。クローディア様の為でもありますから・・・、ご主人様とアイリス様のご関係は、今は健全なお付き合いをされる事を、私は望んでいますからね。あっ!クローディア様に関しては、キスまでならOK、エッチな話は禁止とアイリス様が仰っていましたよ。ただ、アイリス様がOKしても、私の前で堂々とイチャイチャされると、私がどうなるか分かりませんよ。いきなり霞さんが飛んできても知りませんからね。それか、神器すら溶かす灼熱のブレスにあなたが包まれるかも・・・、ふふふ・・・】
ミドリの恐怖の話が終わると、アイリスの念話が入ってきた。
【それじゃ、パパ、ちょっとお手伝いに行ってくるね。】
【クローディア、変な事をしなければ、パパと一緒にいても大丈夫だからね。さっきの話は聞かなかった事にしておいてあげるけど、次は無いからね。】
クローディアが俺の隣に現れたが、冷や汗をかいてガクガクしている。
「マ、マスター、あの2人がすご過ぎます。まるでフローリアみたいですよ。そして、ミドリが特に怖いです。色々と・・・。それに、私のマスターとのキスがファーストキスだった事や、私が処女なんていつの間に調べたの?」
その瞬間、クローディアが真っ赤になった。
「マ、マスター!い、今のは聞かなかった事に!あの2人の事もありますから、この話は終わりにします!」
「クローディア、気にするな。俺もこれ以上のヤバイ話はしないよ。あの2人・・・、どうやら、第2、第3のフローリアとして完全に覚醒したみたいだ。俺も怖い・・・、特にミドリが・・・」
「今のあの2人を見ていると、お前が普通に見える。今からアイリス達は雪の着替えの手伝いに行くから、悪いけど、しばらく隣にいてくれ。お前と一緒にいるとホッとする。」
「分かりました、マスター。誠心誠意、心を込めて寄り添っていますね。」
クローディアが嬉しそうに俺に微笑んでくれた。
ミドリ・・・、昨日、指輪を渡してからいつの間に・・・、あの模擬戦の時から雰囲気も変わったが、変わり様が尋常ではない。ミドリの気持ちは分かったが、重過ぎて潰されそうだ。もしかして、フローリア以上の可能性も・・・、でも、アイリスの事もちゃんと考えて暴走しないようになっている分、フローリアよりも理性はちゃんと働いているみたいだな。
それに、アイリス・・・、お前、本当に8歳か?サクラといい、考えが子供ではないぞ・・・
フローリアに続いて、あの2人にも俺のプライパシーは丸裸か・・・
凍牙はサクラに膝枕されていたが目を覚ましたようだ。
「凍牙、大丈夫か?」
「あぁ・・・、一体、俺に何があった?雪に抱きしめられ告白されからの記憶が無いのだが・・・」
凍牙が必死に思いだそうとしているが止めておけ。思い出したらまた鼻血が出るぞ・・・
起きようとしたが、さっきの大量出血だ。まだフラフラしているので、サクラが強引に凍牙を膝枕させ満足そうな顔をしている。
「サクラ、しばらく凍牙を頼んだぞ。」
「分かった、お父さん。しばらくでなくてもずっとしていたい。」
「凍牙と相談してくれ・・・」
周囲を警戒していたが、マップにも敵の反応は無いな。俺達もしばらく休むとするか。
しばらく休みながらクローディアと吹雪と一緒に雑談をしていると、美冬がログハウスから出てきた。
美冬の後ろにミドリのメイド服を着た雪がいる。恥ずかしいのかちょっと顔が赤い。
ケモ耳にメイド服・・・、それに照れた顔・・・
似合う!似合い過ぎるぞぉおおおおおおお!
凍牙も俺と同じ気持ちなのか、ガバッと上半身を起こして雪をガン見している。サクラの凍牙を見る視線が怖いが・・・
美冬が俺の視線に気づいたみたいだ。
「ソータ、雪に見とれたらダメだよ。雪はお兄ちゃんのお嫁さんになるのだからね。何なら、私が今度メイド服を着てあげようか?ソータの前だけ限定でね。」
美冬!お願いします!
「それにしても、雪がこれだけメイド服が似合うとは思わなかった。雪、このままずっとこの格好でいたら?お兄ちゃんもすごく気に入っているみたいだしね。それに、このメイド服は春菜監修の戦闘用メイド服だから、このまま戦っても大丈夫だよ。防弾、防刃、魔法耐性も高いからね。」
雪が恥ずかしそうに凍牙を見ると、凍牙は少し赤くなって俯いてしまった。
青春だなぁ・・・
サクラが恥ずかしそうに雪の前に来た。
「雪さん・・・、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「サクラちゃん、どうしたの?」
「あのね・・・、雪さんの事、お姉ちゃんって呼んでいい?もう、お兄ちゃんと婚約したし、私達の家族みたいなものだからね。アイリスは一応お姉ちゃんなんだけど、私とそんなに歳が離れていないから、お姉ちゃんって感覚じゃないの。だから、雪さんが私の頼れるお姉さんになって欲しい・・・、ダメかな?」
雪が優しくサクラに微笑んだ。
「もちろんOKよ。私は1人っ子だったから兄弟には憧れていたんだよ。サクラちゃんみたいな可愛い妹なら大歓迎よ。でも、私はみんなみたいに強くないけど大丈夫?」
「そんな事ないよ!雪お姉ちゃんは、私にとって一番頼りになるお姉ちゃんだからね。」
サクラが嬉しそうに雪の胸に飛び込んだ。雪も嬉しそうだ。
「雪、弱い事は気にしなくていいよ。これからは、私達が鍛えてあげるからね。凍牙お兄ちゃんと一緒に戦えるまで強くしてあげるよ。でも、私達の訓練は厳しいから覚悟してね。」
美冬がニヤッと笑った。雪が大量の冷や汗をかいている。
雪、諦めろ・・・、アイツらのシゴキは本当に地獄だからな。心が折れない事を祈る。
休憩も終わり移動を始めた。
里に近くなってきたので、ドラゴンでの移動はマズイだろうとの事で徒歩で移動だ。
森の中だから移動するにはちょっと手間だな。
「はぁ、はぁ、みなさん速過ぎます。この森に慣れている私の方が付いてこれなくなるなんて・・・」
雪がぜぇぜぇ言って、やっとの状態で俺達の後に付いている。
「雪・・・、基礎体力から全くダメね。吹雪ならともかく、アイリスやサクラにも負けてるなんて・・・」
「フェンリル族として情けないよ。訓練のメニューはもっと厳しいモノにしないといけないね。」
美冬の言葉に雪が青くなっている。
しかし、、美冬が急に真剣な表情になった。
「ソータ、マズイね。」
「あぁ、マップにも反応があった。約1万の魔物が里に向かっている。」
「仕方ない、ミドリに乗って移動する。そのまま、奴等に絨毯爆撃を喰らわせる。」
「ワイバーンもいるけど、ミドリ、問題ないか?」
「ご主人様、問題ありません。たかがドラゴン族の中でも下位の亜種、最上位種の私に歯向かったらどうなるか教えてあげますよ。」
そう言って、ミドリが微笑む。本当に頼りになる存在になったな。アレさえなければ・・・
「アイリス、サクラ、お前達はやり過ぎないようにな。」
「アイツらには恨みは無いが、これも里を守る為だ。みんな、行くぞ!」
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