フェンリル族の里③
「凍牙、お前の予想通りだったな。」
「あぁ・・・」
森の奥から先程のオークよりも2回りは大きいオークが3体現れた。
剣や鎧を身に着けている。明らかに今までのオークとは違っていた。
「美味ソウナ子供ト女ダナ。子供ハ柔ラカクテ美味イ。女ハ、ジックリ楽シンデカラ食ベルカ。」
「男ハ、イラナイ。コロス。」
「やはり上位種のオーク・ジェネラルか。60匹の数のオークが無秩序にいる訳ないよな。」
上位種だけあって言葉はある程度喋れるみたいだけど、やはり豚の獣だ。食う事と女を犯す事しか頭にない。
3体のうち2体が俺の方に向かってくる。俺の後ろにいるアイリスとミドリが目的だろう。
2体で俺を排除するつもりだろうな。残りの1体の方は女性陣と子供だけだからか余裕でいけると思っているか?俺より怖いヤツばかりなのに・・
「凍牙!美冬達のところに向かった1体は任せた!こっちの2体は俺が受け持つ!」
凍牙が頷く。
さて、クローディアをもう1度呼んで、さっさと終わらせるか。
「パパ!私が戦う!」
「ご主人様!私に行かせて下さい!」
アイリスとミドリが真剣な表情で俺を見つめている。
「アイリス、ミドリ、この前の模擬戦と違って、今回は実践だ!しかも、相手はジェネラルだぞ!あのアホ一族のパカ軍団とは違う。本当に危険だから下がっているんだ!」
しかし、2人は闘志を滾らせた目で俺の隣に立ち、オーク・ジェネラルを睨みつけている。
ジェネラルがニヤリと笑った。
「オ前達、ワザワザ餌二ナリニ来タカ。スグニハ殺サナイ。壊レルマデ楽シンデヤル!」
「お前達、遊びじゃないんだぞ!分かっているのか?」
アイリスが俺に微笑む。
「パパ、分かっている。これは遊びじゃない。本物の命のやり取りだと・・・」
「前にも言ったじゃない。私はパパを守るってね。だから、私もパパを守れるだけの力があるところを見せないといけないんだ。だから、見ててね。」
ミドリもアイリスと同じ表情だ。
「ご主人様、指示に従わない事はお許し下さい。ですが、どうしても許せないのです。私の大好きなご主人様に危害を加えようとする豚どもの態度が・・・」
「私も、ただ守られるだけのメイドではいたくありません。かつての春菜奥様のように戦うメイドになりたいのです。ですから、この実戦で私は真の意味で生まれ変わりたいのです。ご主人様の隣に並ぶ事の出来る妻の1人として・・・、お願いします。」
「分かった。もう止めないよ。お前達の好きにしな。だが、ちゃんと約束しろよ。絶対に無理をするな。」
「はい!」「分かりました!」
2人が俺に微笑んだ。そして、2人で何かこそこそ話しているぞ。どんな話なんだろう?
「ミドリ、良かったね。このままだと私達の出番が無くなってしまいそうだしね。凍牙お兄ちゃんのグループばかりに美味しい思いをさせる訳にはいかないよ。」
「ナイス判断です、アイリス様。出番が無くなると、私のご主人様への溢れる愛をアピールする事が出来なくなりますからね。思う存分、私の愛を見せつけないといけません!」
2人ががっしりと握手をしている。何の意味かよく分からんが・・・
アイリスが人差し指をオーク・ジェネラルに向ける。
「ギガボルトォオオオ!」
雷撃がジェネラル2体を襲う。全身がスパークして煙を上げているが、完全に倒せていない。
「コ、コノガキガァアアアアア!」
1体がアイリスに向かって動き始めた。
「出でよ!グングニールの槍ぃいい!」
アイリスが叫ぶと姿が変わった。背中に大きな白い翼が生え、青白くスパークする槍を構えていた。
「はぁあああああああ!」
オーク・ジェネラルに向かって飛び出す。弾丸のごとく地面を滑るように滑空し奴に迫った。
「必殺!パパ大好き神気爆砕突きぃいいいいいいいい!」
手に持った槍を相手の胸に深々と突き刺した。
「グアァアアアア!」
オーク・ジェネラルに刺さったままの槍を手放し、上空に飛翔してから俺の隣に舞い降りた。
アイリス・・・、技のネームングが恥ずかし過ぎる・・・、俺までダメージを受けるよ・・・
しかし、奴はまだ生きている。仕留め損なったのか?
「アイリス・・・、槍は刺さったが奴は生きているぞ。どうするつもりだ?」
アイリスが俺にウインクする。
「大丈夫!パパ!あいつはもう終わっているよ。」
右手を広げ前に突き出す。
「神気!爆砕!」
そう叫んで手を握り拳を作った。
刺さった槍が激しく光り放電を始め、オーク・ジェネラルは体の中から雷で焼かれている。
「ギャァアアアアアアアアアア!」
体中から放電が溢れ出し全身が雷に包まれる。直後に大爆発し砕け散った。
「ねっ!」
アイリスが俺にニコッと微笑んだ。
カッコイイ・・・、アイリス、何てカッコイイ技なんだ。技名だけが俺にとっては納得出来ない問題だが・・・
「ご主人様、次は私が・・・」
ミドリが既にドラゴニュートに変身し空に飛び立った。上空からオーク・ジェネラルを見据えているが、ミドリの視線がやたらと怖い気がするが、何故だ?
「この豚め!私がご主人様と密着して幸せな余韻に浸っている時を邪魔した罪は死に値する。ご主人様の温もりを直に感じるこの幸せ、ご主人様の優しい手の温もり、ご主人様に抱かれているこの至福の時を貴様等は邪魔したのだ!」
ミドリ・・・、俺はお前の背に乗っていただけなんだけど・・・、確かにお前の背に手を置いていたし、ずっと座っていると辛かったので、仰向けだけでなく、うつ伏せになって休んでいた事もあったが・・・
でもな、そんな言い方は誤解を招くぞ!ほら!雪が俺を汚いモノを見るような目で見ている・・・
「豚が私達を食べる?どちらが捕食者かハッキリ分からせてあげるわ。」
ミドリの爪が長く伸び、上空から急降下でオーク・ジェネラルに迫り、右手を振り下ろした。
「ドラゴン・クロー!」
オーク・ジェネラルは咄嗟に剣を盾にして防ごうとしたが、ミドリの爪は剣をバターの様に容易く切り裂き、そのままオーク・ジェネラルが悲鳴を上げる間も無く縦に千切りにされた。
千切りになったオーク・ジェネラルの目の前に着地し、すぐに左手を横になぎ払う。
そこには先ほどまでいたオーク・ジェネラルの姿は無く、細切れになった肉塊だけがあった。
ミドリが元の姿に戻り俺に向かって微笑む。
「ご主人様、今夜はオーク肉のステーキですね。私の愛情をたっぷり込めて作りますので、楽しみにして下さいね。うふふ・・・」
アイリスにミドリ、俺が思っていた以上に強い!まさか、オーク・ジェネラルを瞬殺するまでとは思わなかった。
でも、2人揃って段々と俺に対する態度が露骨になっているのが、ちょっと怖い気もする・・・
雪が向かってくるオーク・ジェネラルを睨んでいる。
サクラの前に立ち、短剣を構えた。
「サクラちゃん、ごめん・・・、このオーク達は私を追いかけていたの。私がうっかり奴等のテリトリーに入ってしまって見つかったから・・・」
「だから、私がサクラちゃん達を守るね。弱い私だけど、あなた達が逃げれるだけの時間は私が命に代えても作るから心配しないで。」
「雪さん・・・、何で会ったばかりの私達に対してそこまで・・・」
「だって、あなたは私が大好きな凍牙さんの許嫁でしょ。あなたに何かあったら凍牙さんが悲しむじゃない。大好きな人を亡くして悲しむ気持ちは、私が良く知っているからね。凍牙さんにはそんな気持ちになって欲しくない・・・」
「雪さん・・・、ありがとう・・・」
サクラが決意をした目でオーク・ジェネラルへ駈け出そうとしている凍牙を見る。
「待って!凍牙お兄ちゃん!アレをする!だから来て!」
「げっ!アレをするのか!みんなもいるし、勘弁して・・・」
凍牙が心底嫌そうな顔になった。
「ダメです!拒否は認めません!お兄ちゃんが来ないなら、私の方から行きますよ!」
「分かった・・・」
凍牙がサクラの目の前に来て背を向ける。サクラが凍牙の背中に抱きつく。
凍牙が呟いた。
「みんなが見ているから、恥ずかしくて死にそう・・・」
確かにみんなの視線が凍牙とサクラに集まっているな。コレは仕方ない。我慢してくれ。
サクラが呟く。
「凍牙お兄ちゃんに私の加護を・・・」
その瞬間、凍牙とサクラが白い光に包まれる。
光ったのは一瞬だが、光が収まると15,6歳くらいの少年の姿に成長した凍牙が立っていた。
サクラが満足そうに凍牙から離れる。
「お兄ちゃん、パワーアップ完了。後はよろしくね。」
「分かったよ。サクッと片付けてくる。」
凍牙はオーク・ジェネラルの方に駆けて行く。
サクラが雪を見ると雪が泣いていた。
「あ、あの姿・・・、凍牙さんが里から出ていった時の姿と全く同じ・・・、1日も忘れた事はなかった・・・」
「本当に凍牙さんなんだ。帰ってきてくれたんだ・・・」
美冬がサクラの隣に立ち微笑む。
「サクラ、ジェネラルくらいなら別に加護を与えなくても、凍牙お兄ちゃんだったら普通に倒せていたのに、どうしてわざわざ与えたの?」
今度はサクラが美冬に微笑む。そして、微笑みながら泣いている雪を見つめていた。
「それはね、ずっとお兄ちゃんを好きで一途に想い続けた雪さんへのお礼よ。私、雪さんならお兄ちゃんのお嫁さんになっても良いと思った。雪さんも私達の家族になると決心しているみたいだし。お兄ちゃんには絶対に断らせない。」
「あら、えらく雪の事を気に入ったのね。」
「うん!雪さんは最高のお姉さんだよ。雪さんも幸せになってもらいたいの。」
残り1体のオーク・ジェネラルが狼狽えている。
「何ダ、アノガキハ?急二大キクナッタ。」
凍牙がオーク・ジェネラルに迫る。
「お前はお呼びじゃないんだよ!すぐにここから出て行ってもらう!」
剣を振り上げたオーク・ジェネラルの脇を凍牙が一瞬にして通り過ぎ、振り返る。
「死体としてな。」
その瞬間、オーク・ジェネラルが上半身と下半身に鎧ごと真っ二つに分かれた。
凍牙がつまらなさそうに呟く。
「ジェネラル1体くらいじゃ、この体の慣らしにもならないな。」
「凍牙、そう言うな。この状態のお前に勝てるヤツなんて数えるくらいだからな。」
「それにしても、サクラの加護は凄いな。まぁ、お前だけ限定なのはアイツらしいよ。」
「凍牙さぁあああああああああああああああん!」
雪が叫びながら凍牙に抱きついてきた。
涙と鼻水でグチャグチャになった顔を凍牙の胸に埋めている。
流石に凍牙も一瞬嫌そうな顔をしたが、アイツは空気を読める男だ。そのまま優しく雪を抱きしめてあげた。
おや?サクラが邪魔をしてこないぞ。それどころか微笑んでいる。
そうか・・・、認めたんだな。雪が凍牙の妻になる事を・・・
雪はしばらく凍牙の胸の中で泣いていたが、とても嬉しそうな顔で凍牙の顔を見つめている。
「本当に帰ってきてくれたのですね。この奇跡に感謝します。私、もう待つのには疲れました。」
「凍牙さん・・・、好きです!一生付いていきます。」
さぁ、凍牙・・・、どんな返事をする?
凍牙が雪の顔を見ながら微笑んだ。
「雪・・・、ここまで俺の事を想っていてくれて嬉しいよ。分かった。結婚しよう。」
雪の表情が一瞬固まる。
「本当に良いのですか?」
「あぁ、本当だ。でもな、すぐという訳にはいかないぞ。サクラ達が成人してからでないと結婚は出来ない。それまでは婚約という事になる。それでも良いのか?」
雪が嬉し泣きをしている。
「今までずっと待っていましたからね。それと比べたら、サクラちゃんが成人になるまでの間なんてあっという間です。婚約者でも今は十分に幸せです!」
雪が感極まり更に腕に力が入って、凍牙に力いっぱい抱きついている。
突然、凍牙の体から煙が上がり、『ポン!』と音がすると、いつもの大きさの凍牙に戻ってしまった。
凍牙の顔が雪の大きな胸の中に埋もれている。みるみる顔だけでなく全身が真っ赤になり、盛大に鼻血を噴き出した。
雪の胸に顔を埋めてピクピクと痙攣して気絶している凍牙・・・
大量の凍牙の鼻血を浴び、状況が分からず呆然として、血だらけの状態で凍牙を抱きしめている雪・・・
傍から見ると、とんでもない光景だぞ!
さっきまでの俺の感動を返してくれぇえええええええ!
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