模擬戦⑧
メガネが固まっている。
神器のクローディアを見て、俺がフローリアの神器のマスターだという事実が相当ショックだったのだろう。
「メガネ、そろそろ最後にしよう。覚悟はいいか?」
メガネが我に返った。しかし、様子がおかしい・・・
奴の視線が俺ではなく、クローディアを凝視している。
「ク、クローディア様・・・、神器である貴女様がこんなにも神々しい御方だとは・・・」
「正しく、貴女様は私の女神様、理想の女性です。私の妻になって下さい。」
「いや!私の妻になるのが2人の運命なのだぁああああああ!」
ハアハアしながら、俺達の方にジリジリ歩き始めた。
はぁあああああああああああ!
こいつ!アホかぁあああ!
よく見たら、メガネの目がハートになっている。コイツはマジだぞ!
隣のクローディアを見ると・・・
全身にサブイボが出ていて、『何とかしてくれぇえええ!』というような目で俺を見ている。
「クローディア、良かったな。お前に好きと言ってくれる人がいてな。」
クローディアが大粒の涙を流しながら、俺の手を握ってきた。
「マスターァアアアアア!こんな時に変な冗談を言わないで下さい!このメガネが本当に気持ち悪いんですから!いくら私でもコイツはダメです!見るだけでもサブイボ出まくりですよぉおおお!」
「悪い、クローディア。お前にも苦手なものがあったのか。」
「マスター、本当に嫌なんですよ!意地悪したから、今度、2人っきりでデートしてもらいますからね。」
クローディアの言葉にメガネが反応した。
「ク、クローディア様・・・、貴女様はこのハーレム男と・・・、も、もしや?」
クローディアがメガネから目を逸らしながら話す。
「そう、私は彼が大好きなの。そして、彼とは将来を誓い合っているの。だから諦めて。」
「クローディアの言う通りだよ、メガネ。彼女は俺の婚約者だ。お前の出る幕は無いのさ。諦めて帰ってくれ。もう、お前の茶番は沢山だ・・・」
メガネが絶叫した。
「う、う、嘘だぁああああああああああ!」
「この世の全ての美よりも美しい貴女様が、こんな男の婚約者ですと!私は信じません!貴女様の夫は私が1番相応しいのですから。」
「貴様は消えろぉおおお!ダーク・フレアァアアア!」
メガネから巨大な黒い火の玉が飛んでくる。このままだとクローディアまで巻き添えになってしまう。
もう、まともな判断も出来ないみたいだ。
「この馬鹿野郎ぉおおおおお!」
魔力を拳に纏い、メガネへ魔法を殴り返す。メガネが自分の魔法で自分が焼かれている。
「ぐぎゃぁああああああ!」
炎が消えるとボロボロの状態になっていた。
しかし、まだジリジリと迫って来る。
「クローディア様・・・、我が妻に・・・、そして、フローリア様と一緒に、私のハーレムを・・・」
「いい加減にしろぉおおおおお!お前はフローリアにクローディアと、俺の大事な女にばかり惚れやがって!」
クローディアがポッと頬を赤くしている。
「マ、マスター・・・、私を大事だなんて・・・」
奴を見ると様子がおかしい・・・
ボロボロだった体が少しづつ元に戻っている。
いや!あれは変貌している!
顔が段々と奴の親父のようにガマガエルのようになっている。そして、体も表面がヌメヌメした皮膚の直立したガマガエルのようだ。
これは一体!
【旦那様!彼は闇堕ちして邪神化しました!】
【何だと!】
【まさか、クローディアに一目惚れして、その想いで邪神化するなんて・・・、いえ、彼は元々邪神化する要素はありました。旦那様のハーレムに憧れて、あの首輪を大量に集めてましたからね。それを使って神界の美女や美少女を奴隷化してハーレムを作る計画書も出てきましたから、いつかは邪神化したでしょう。】
【あいつはそこまでハーレムを作りたかったのか。奴隷化させてでも・・・、その根性だけは凄いが、完全に女の敵だな。邪神となってしまったから滅ぼすしかない。】
【お願いします。このままではどれだけの女の人が泣かされてしまうか・・・】
【分かった!】
奴がジワジワ近づいてくる。男の俺でもあのヌメヌメ姿は気持ち悪い。
「サテライト・キャノン発射ぁあああ!」
奴が蜂の巣になる。しかし、動きが止まらない。
「何故だ!急所に当たっているはずだぞ!まさか・・・、傷が治り始めている!邪神化して自己治癒力が自己再生能力に進化したのか!」
「チマチマ攻撃しても再生能力の方が上のようだ!一撃で滅ぼすしかない!」
「くそ!リザレクションを使い過ぎたから高威力の魔法を使うには魔力が足りん!次元衛星砲も再チャージに時間がかかる。」
「凍牙!頼む!」
凍牙を見ると深々と土下座をしていた。
「蒼太、すまん!いくら俺でも無理だ!あいつに触れるのだけは勘弁してくれ!」
凍牙は使えない。吹雪を見ると・・・、視線が合った瞬間、美冬にしがみついてイヤイヤをしている。
そうだよなぁ・・・、凍牙が嫌なら吹雪も同じだな・・・、俺もあのヌメヌメなガマガエルには触りたくない。
奴が近づいてくる。
「げへへへ・・・、フローリアとクローディア、この2人を始め、神界の美女、美少女を私の周りに侍らすのだぁあああ!毎日、休みなく愛してあげるよ。この私が一番モテる存在なのだぁああああああああ!」
「そんなの許す訳にいかない!喰らえ!フレア・ストーム!」
残り少ない魔力で魔法を叩き込む。
アイリスの方を向くとミドリと一緒に立って応援してくれている。
「アイリス!ミドリ!最大級の魔法の準備だ!俺の合図で奴にぶちかましてくれ!」
2人が頷く。
「これで最後だ!クローディア!何でも言う事を聞くから、1回だけ我慢してくれ!あのガマガエルの腹の粘液は蒸発させたから、あの部分にお前を叩き込む!ヌメヌメは付かないと思うが、念の為、後でちゃんと念入りに洗ってやるからな。」
「マスター!本当に何でも言う事を聞いてくれるのですね?本当ですね!」
「本当だ!約束する!」
「分かりました!約束ですよ!言質は取りました!」
「ヌメヌメが無くてもアイツに触れるのさえ嫌ですが、約束の為に頑張ります!」
さっきまで嫌な顔をしていたクローディアだったが、とても嬉しそうな顔になり大剣に変化した。
剣を握りしめ思いっきり振りかぶる。
「いっけぇえええええええええ!遥か彼方へ!特大ホームラン、いや!特大ピッチャーフライだぁあああああああ!」
剣の腹を奴に叩き込み、真上へと打ち上げた。
「アイリス!」
「はい!パパ!大~~~~~好き!ドラゴニア・プロミネンスゥウウウウウ!」
「ミドリ!」
「はい!ご主人様ぁあああ!愛していまぁああああああす!テラ・フレアァアアアアア!」
おい!2人揃ってどさくさ紛れに何を言っている・・・
「お父さん!」
サクラが真っ赤になりながら、何かを言いたそうにモジモジしながら目で訴えている。
「分かったよ、サクラ・・・、お前も叫んでいいぞ。」
「はい!凍牙お兄ちゃん!大~~~~~好き!結婚して下さぁあああああい!アトミック・レェエエエイィイイイイイ!」
サクラ・・・、とうとう言ったか・・・、覚悟していたが、やはり淋しい・・・
凍牙は・・・、真っ赤になって蹲っている。
そりゃそうだろうな。何百人の観客の中での公開プロポーズだ。視線が凍牙と隣のサクラに集まっているし、純情な凍牙にとってはある意味拷問だな。気を強く持てよ・・・
巨大な炎の竜が、巨大な青白い火の玉が、極太の光線が奴に向かって飛んでいく。
「私はハーレムの王だぁあああああ!ぐぎゃぁああああああ!」
轟音と共に空一面が真っ赤になったが、すぐに元の青空に戻った。
「ふぅ・・・、終わった・・・」
「邪神化してまでハーレムに憧れていたなんて、どれだけ女に飢えていたのだ?恐ろしい奴だった。」
みんなが駆け寄って、俺に抱きついてきた。
みんな嬉しそうな顔だ。無事に守れて本当に良かった。
「ふはははははぁああ!息子よ!良くやった!次はワシの番じゃ!」
「ぐぎゃぁああああああ!」
親ガマガエルが貴賓席から落ちてきた。
しかし、空中で回転し何事も無いように着地する。
体中からダーナの様に粘液が出てきて、おぞましい姿になった。
「ふん!」
〇オウverの義父さんも貴賓席から飛び降り着地し、ガマガエルと対峙した。
「息子よ、こいつは既に邪神化していたわ。今まで巧妙に隠していたが、母さんが見破ってくれたぞ。」
「さぁ、お前も息子の後を追うんだな。」
ガマガエルがギリギリと歯を鳴らしながら義父さんを睨み付ける。
「創造神、いや、レオ!お前を殺して私が創造神になってやる。お前さえいなければワシが頂点だ!」
「愚かな・・・、このワシに取って代わるだと?舐めるな!」
義父さんがガマガエルを睨んだ瞬間に、ガマガエルが硬直し倒れた。
義父さんが興味が無さそうにガマガエルを見ている。
「惰弱な・・・、ワシの殺気だけで死ぬとは・・・、これでよくワシと勝負する気になったものだな。」
そして観客席を睨むと、観客全てが倒れてしまった。
「神代からの掟により、邪神に与する者は全て抹殺だが、弱い、弱すぎるぞぉおおお!たった一睨みだけで全員が死んでしまうとは・・・、この滾る血を鎮めるのは、やはり!息子!お前しかいない!」
「ふはははははぁああ!行くぞぉおおお!」
マズイ!義父さんがバトルジャンキーモードに入っている!目がマジだ!
こんなのに付き合っていられるかぁあああ!
「あなた、いい加減にしなさい。」
「ぬおぉおおお!」
義母さんが上から飛び降り、義父さんにドロップキックをぶちかます。
「本当にこの戦闘狂は・・・、蒼太さん、スミマセンねぇ。」
「クローディア、少し力を貸して。」「はい、母様。」
「あなた、少し星になって頭を冷やしてきなさい・・・」
義母さんからの殺気がハンパない!あの義父さんがたじろいでいる。義母さんが大剣状態のクローディアを構えて振りかぶった。
「星になりなさぁああああああああい!」
惚れ惚れするような見事なフルスイングだ。義父さんが遥か上空へホームランにされて星になった・・・
「ぬおぉおおおおおお~~~~~~~~~~」
スッキリした顔の義母さんが隣に来て頭を下げた。
「蒼太さん、すみません、うちのバカ亭主がご迷惑をおかけしまして・・・」
「いえいえ、気にしてませんよ。あれもコミュニケーションの一種ですからね。」
とは言ったものの、もう正直勘弁してほしいのが本音だけどね・・・
予想外の模擬戦が終り、我が家に戻って来た。
最初は義父さん達に挨拶をしてから魔の森へ行くはずだったけど、あのアホ一族のおかげでそれどころではなくなったからなぁ・・・
さすがに、すぐ出発するには疲れ過ぎたので、今夜は大人しく我が家で休み、翌日出発する事にした。
そして、リビングでは凍牙が真っ赤な顔で、サクラとガーベラの前で正座していた。
「凍牙お兄ちゃん、それで私への返事はどうなのですか?ハッキリして下さいね。」
「サクラお姉ちゃん、ズルイ。私がいない時に凍牙お兄ちゃんにプロポーズするなんて・・・、私も凍牙お兄ちゃんと結婚するつもりなんだから。凍牙お兄ちゃん、もちろんOKに決まってるね?」
しかし、何だこの会話は、子供同士の会話じゃないぞ。
「サクラ、ガーベラ・・・、俺は・・・」
凍牙が話し始めたが、いつものお前と感じが違う。お前・・・、まさか断る気か?
凍牙が黙ってしまった。沈黙が怖いぞ・・・
「お前達の気持ちはずっと前から分かっていたよ。もちろんOKだ。サクラ、ガーベラ、結婚しよう。」
「「凍牙お兄ちゃん!」」
2人がとても嬉しそうに凍牙に抱きつく。
「サクラ、ガーベラ、良かったな。でも、お前達はまだ子供だから、成人になるまでは婚約だからな。」
サクラが俺に微笑んでくれた。
「お父さん、それは分かってるよ。でもね、ちゃんと結婚の約束が出来たのが嬉しいんだ。お父さんもお母さん達もみんな好きだから、ずっとみんなで一緒に暮らそうね。」
ガーベラもニコニコしている。
「お母さんからも言われてるの。あなたは絶対に幸せになりなさいってね。私は凍牙お兄ちゃんと一緒に暮らせるのが一番の幸せなの。だからお父さん、凍牙お兄ちゃんとの結婚を認めてくれてありがとう。」
凍牙は2人に抱きつかれて照れている。
「凍牙、俺の娘達を頼んだぞ。絶対に幸せにしてくれよな。」
まだ顔は赤いが、真剣な顔で俺を見つめる。
「蒼太、任せろ。今の幸せな美冬の様に、必ず幸せにしてやるさ。」
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