模擬戦⑥
サクラがスッキリした顔で戻ってきた。
「お父さん、ちゃんと教育してきました。あの男はもう私達に逆らう事はないと思いますよ。」
「そうだな・・・」
チラッと男を見てみた。
「ママ・・・、ママ・・・」と呟きながら親指をしゃぶっている。
心を折ったどころか、幼児退行までしているのではないのか?逆らう以前の問題だぞ。
我が娘ながら恐ろしい。凍牙、娘を頼んだぞ。
でも、サクラが凍牙の事を本心はどう思っているかも気になる・・・
「サクラ、ちょっと教えて欲しいんだけど、良いかな?」
「何、お父さん。」
「最近、お前は凍牙の事を堂々と好きだとか未来の旦那様とか言っているけど、本気で結婚したいのか?」
サクラの顔が一瞬で真っ赤になり、あたふたし始めた。
「お、お、お父さん!きゅ、急に何を言っているの!そんなの・・・」
サクラが黙って俯いてしまう。間違いない・・・
「ごめん、サクラ・・・、お父さんが意地悪だった。お前がOKなら、お父さんも考えてみようと思っている。今すぐ返事しろとは言わないし、お前はまだ7歳だから結婚なんてずっと先の話だからな。」
真っ赤な顔でサクラが見つめている。
「お父さん・・・」
サクラの頭の上に手を置いて撫でてあげると、気持ちよさそうな顔をしている。
「サクラ、今の話はこれで終わりだ。最後はお父さんの出番だ。かっこいいお父さんの姿をサクラに見せないとな。応援頼むぞ。」
「はい!お父さん、頑張って!」
可愛い娘からの応援が1番元気が出るよ。絶対に負けられないな。
「ソータ、頑張ってね。」
少し前に戻ってきた美冬がニッコリ微笑んで応援してくれる。愛する妻からの応援も元気が出る。
「パパ、頑張って!」「ご主人様、頑張って下さい。」
アイリスとミドリも美冬と一緒に戻っていた。
「アイリスもミドリも頑張ったからな。俺が無様な姿を晒す訳にいかないよな。俺が勝つところを見てくれよ。」
「ミドリ、お前は俺が戦うところを見た事が無かったから楽しみにしていな。」
ミドリがニコッと笑う。気絶する前と比べて余裕が出てきたな。
「はい。楽しみにしてます。私も少しづつ自信が出てきました。こうして、ご主人様と普通に話せるなんて幸せです。そして・・・」
「私が心から愛している大好きなご主人様ですから・・・、必ず勝ちます。」
一斉にみんなの視線がミドリに集まった。ミドリが真っ赤になっている。
美冬が嬉しそうにミドリに話しかけた。
「ミドリ、やっと言えたね。」
「はい・・・、みなさんのおかげで私も言える勇気が持てました。ありがとうございます。」
「これで絶対に負けられないな。奴らは卑怯な手を平気で使ってくるから注意しないと・・・」
「ところで、お前、まだいたのか?」
俺の視線の先にメイド服を着たミレニアがいた。
「な、何を言っているのですか!ご主人様ぁあああ!さっき言ったではないですか!美冬様に頼み込んで、メイドとして雇ってもらえたと言いましたよ!忘れたのですか?」
「すまん・・・、色々考えていたら完全に忘れてた・・・」
「わ、私の存在って、そんなに軽いんですかぁ?同じメイドでもミドリさんの方が遥かに美少女で、しかも大人っぽい。この服を借りましたけど、胸の部分はまだ余裕があって、ウエスト回りは少しキツイ・・・、私もスタイルには自信があったけど、ミドリさん、どんだけスタイルが良いんですか!性格も私から見てもすごく良さそうだし・・・」
「あっ!私がミドリさんに勝っているところが1つも無い・・・、ミドリさんがメインで私がその他メイドの位置付けで、いつの間にか私は消えていく存在なの?」
四つん這いになってミレニアが落ち込んでいた。何か、昔のマリーを思い出すな。
確かにマリーとキャラが被っている気がする。救済策を見つけないと本当に消えてしまう可能性が高いかも?
消える前に考えておこう。
「さて、陰険メガネにトドメを刺しにいくか!」
俺は陰険メガネと対峙している。
「これで頂上決戦だな。でもなぁ、陰険メガネ、これ以上やっても恥の上塗りだぞ。子供の遠足組にボロボロに負けてたからな。」
メガネがプルプル震えている。
「黙れ!私を変な名前で呼ぶな!私の名前はダーナだ!高貴なアホン神族のダーナ様だぞ!私とお前とでは血筋が違う。どこの馬の骨と知らぬゴミ虫が、創造神様の血筋に入る事自体が間違いなのだ!私こそがフローリア様の夫となり、更なる高貴な血筋を残す。そんな当たり前な事も分からないのか!」
「いやぁ・・・、アホ一族の血なんて誰も欲しくないと思うよ。みんな、どう思う?」
美冬達に声をかけたら、女性陣が全員☓マークを作った。ミレニアもしっかり拒否していた。
「まぁ、そいういう事さ。女にモテたかったら自分を磨く事だな。血筋で女は寄ってこないよ。」
「さて、茶番は終わりだ。お互い一対一、恨みっこなしで勝負しような。」
メガネがニヤッと笑った。
「そうだな、茶番は終わりだ。しかし、誰が一対一の勝負だと決めた?私はお前達と私達の勝負と言っていた。だから、私達48名全員と戦ってもらおう。」
メガネが手を上げると、控えていた男達全員が闘技場へ駆け上り、俺の周りを囲んだ。
「くくく・・・、No.1からNo.3まで倒されてしまったが、それでも全員が精鋭だよ。果たして、この人数で勝てるか?」
「いくらお前が強くとも、これだけの人数で一斉にかかればどうしようも無いはずだ。散々コケにされたのだ。お前だけは私の力全てを使って殺す!骨も残さずグチャグチャにしてやる!」
これだけの人数で勝てると思っているのか?甘いよ・・・
「勝てるかどうか確かめてみな!サテライト・リンク起動!」
視界に俯瞰マップが出現し、全員の位置が赤く光る。相手のマーカー以外に十字のマーカーが大量に出現した。
十字のマーカーが次々と全員のマーカーと重なり、全てのマーカーが重なった。
ロックオン完了!
1名だけを残してな。
「いっけぇええええええ!サテライト・キャノン!」
上空から無数の光線が降り注ぎ、男達が蜂の巣の様に体中を貫かれた。
闘技場の上は地獄絵図となってしまった。屈強な男どもが呻き悲鳴を上げている。
さすがにやり過ぎたか・・・
「エリア・ヒール!」
全員の傷が回復したが、俺に向ける目は怯えている。俺は男達を睨みつけた。
「まだやるか?今のはワザと急所を外したが、今度は全ての急所に当てる。確実に殺してやるよ。」
男達は我先と逃げ出してしまった。
闘技場にはメガネだけが立っている。そして、大量の冷や汗をかいていた。
「き、貴様・・・、一体何をした・・・、こんな魔法は見た事が無い・・・」
「知らないのは当たり前さ。これは俺のオリジナルだからな。」
「2年前、義父さんの依頼で機械神族の手助けをした時に、そこの族長と仲良くなってな。俺のアイデアと機械神族の技術で出来たモノだよ。マップ魔法の索敵能力と、遥か上空に浮かぶ大量のレーザー砲台をリンクさせて攻撃する。さすが異世界技術だ。俺の夢の1つが叶ったよ。」
「そして、あれくらいの人数で俺と戦うには全く足りないな。理論上では1万の敵でも一瞬で倒せるよ。普通の広域殲滅魔法よりも遙かに効率が良い。連射も可能だから10万、20万の数でもあっという間さ。」
「まぁ、説明してもお前だと全く分からないと思うけどな。」
「そして、お前1人だけを残した。その意味が分かるよな?陰険メガネ。」
メガネが睨み付けてきた。
「どういう意味だ・・・」
「お前達は俺の家族に手を出した。」
「あのハゲは俺の娘を俺の断りもなく自分のものにしようとしたしな。まぁ、アイツは凍牙が地獄を見せて再起不能にしたけど・・・」
「そして、お前の部下はミドリに手を出した。今はメイドではあるけど、俺の10番目の妻になる予定の大切な婚約者だ。それも返り討ちになったけどな。」
ミドリの顔が赤くなる。
「ご、ご主人様・・・、今の言葉・・・」
美冬がミドリの両手を握り微笑む。
「そうだよ、ミドリ。おめでとう!アイリスが成人した時、クローディアと一緒にソータのお嫁さんだよ。ミドリは頑張ったからね。夢が叶って良かった。私も嬉しいよ。」
「美冬様、ありがとうございます。幸せすぎて感情が抑えられません。気絶しそうです・・・」
ミドリがフラッとしたが、アイリスが慌ててミドリに駆け寄る。
「ミドリお姉ちゃん!しっかりして!一緒にパパの戦いを見守ろうよ。頑張って応援しないとね。」
「は、はい!頑張ります。」
「何か、慌ただしくなってすまん・・」
メガネが歯をギリギリ鳴らしながら顔を真っ赤にしている。
「何でだ!何でお前だけがそんなにモテる!美女、美少女が何でお前のところに集まって来るんだよぉおおおおおお!神界一と呼ばれるフローリア様や、フローリア様に匹敵するほどの美少女である春菜様、超絶美人の夏子様、千秋様が何でお前の妻なんだ!そして、目の前にいる美冬様も!」
「そんなの理不尽だろぅ・・・、モテていいのは私だけだ!」
「そして、私こそがフローリア様の夫に相応しいのだ!ハーレム男の妻なんて許さん!高貴な私の妻は神界一のフローリア様でないと釣り合いが取れないからな。」
「貴様はそんなに妻がいるのだから、フローリア様くらい別にいらないだろう・・・だから、私が貰ってやるからな。」
「お前・・・、いい加減にしろよな・・・、モテないからって、俺に当たるなんて小さい男だよ。」
「それに、フローリアは俺の女だ。しかも、俺には勿体ないくらい最高の妻なんだよ。お前なんかに渡すか!このボケェエエエ!」
「さっきも言っていただろう、俺の家族に手を出したらどうなったか?お前は俺の大切なフローリアに手を出した。心を折るなんて生温い。本物の地獄を見せてやる。」
メガネが急に冷静になった。
「ふう・・・、私とした事が、熱くなり過ぎてしまった。私がこれだの策でお前に挑んだと思ったか!所詮、あいつらは単なる次の策の餌だ。大して期待もしてなかったよ。」
その瞬間、逃げ出した男達の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「な、何だ・・・」「ダーナ様・・・」「我々に一体・・・」
男達はオロオロしているが、メガネはニヤニヤしながら魔法陣を見ている。
魔法陣が光り始め、すぐに魔法陣全体から巨大な炎が立ちあがった。
「ぎゃぁあああああああ!」
男達の断末魔の叫び声が闘技場全体に響いた。
巨大な火柱が徐々に人の形になっていく。
「どうだ!使えない部下達を生贄にして呼び出した炎の魔神だ!」
「いくらお強くても、単なる人神のお前では、この魔神の前では手も足も出まい!」
「お前が地獄を見る事になったな。ぐへへ・・・、さぁ、今までの鬱憤を晴らさせてもらおう。」
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