模擬戦⑤
みんなのところに戻ってきた。
「アイリス、着いたぞ。」
アイリスが抱きついたまま動かない。
「ん!眠ってしまったか・・・、仕方ない、あれだけの力をいきなり使ったからな。」
「ご主人様・・・」
ミドリが申し訳なさそうに立っている。
「ミドリ、目を覚ましたか。体は大丈夫か?」
「はい、問題はありません。ただ・・・」
ミドリの顔が真っ赤になっている。
「私、少しは覚えているのです。先ほどの戦いの最中に私が口走ってしまった事を・・・」
「ミドリ、あんまり気にするな。お前の気持ちはよく分かったからな。また気絶しても困るから、話の続きは終わってからにしよう。」
「それと、アイリスを頼む。眠っているからな。」
ミドリにアイリスを預けた。アイリスはミドリの腕の中でスヤスヤ眠っている。
それを見ていたサクラがニヤニヤして俺達を見ていた。
「サクラ、何だ?面白い事があったのか?」
「お父さん、こうやってミドリさんと並んでいるのを見ているとね、本当の夫婦のように見えるよ。ミドリさんのアイリスを抱いている姿も様になっているからね。こんな光景を見ていると私も早く結婚したいな。」
「こら!サクラ!大人をからかうものじゃない!なぁ、ミドリ。」「えっ!!!」
隣のミドリを見てみると・・・
頭から湯気を出して、アイリスを抱いたまま立って気絶していた・・・
「美冬・・・、2人を頼む・・・」
「うん・・・、分かった・・・」
「ここはいい雰囲気ね。私も混ぜて欲しいな。」
誰だ!
「あっ!さっき裸で立ってた痴女のお姉さんだ!」
吹雪が女を指差して叫んだ。5歳児が何て言葉を覚えている!
女が真っ赤になる。
「違う!痴女じゃなぁあああああい!間違えないで!私は好きで裸になった訳でないの!あの眠っているお嬢ちゃんに無理矢理脱がされただけよ!」
「こんな子供が痴女っていう言葉を知っているなんて、どんな教育してるの?」
「凍牙!」
凍牙が変化し刀になり、構えて女の様子を伺う。
「何をしに来た。」
女は俺を見つめている。
「安心して。敵対する気はないから。」
「それに、私は今、あなたの上着しか羽織っていないのよ。そんな格好であんな欲求不満な男だらけのところに戻ったらどうなるか分かるでしょう?可愛いウサギちゃんが食べられちゃってもいいの?」
「お前なぁ・・・、自分で可愛いと言うか?」
女がモジモジしている。
「だって、あなたが私を可愛いと言ったのよ。そして、私の裸を目の前で見たから責任を取ってよね。」
何だ、この女は・・・
「それに、私はもうあのメガネのところに居たくないの。周りの男はいつもいやらしい目で見てくるし、私みたいに戦う意思が弱いと、隷属の首輪を嵌められて無理矢理命令されて戦わされるのよ。もうゴメンよ。」
「でも、私の首輪はお嬢ちゃんが壊してくれたから感謝しているわよ。アレは自分じゃ絶対に取れない代物だからね。」
【隷属の首輪ですって!本当に!】
【フローリア、急にどうした?】
【す、すみません、旦那様。隷属の首輪はパパが創造神になってからは禁止されているアイテムなんです。今は重罪を犯した者だけを拘束する為にしか使っていません。相手を奴隷化して好きに操る事が出来ますからね。コレを使って悪い事を考えればキリがないですし・・・】
【これで、あのガマガエルの息の根を止められますよ。旦那様、お手柄です。】
【そ、そうか・・・】
【ガマガエル一族が使っていると分かれば、証拠集めにはそんなに時間がかからないと思います。この試合が終わるまでにカタを着けますね。ふふふ・・・、あのガマガエル、どうやって潰しましょうか・・・】
女がすり寄って来た。
「どうしたの、ボーとして・・・」
「もしかして、私の魅力に参ったのかな?そうそう、私の名前はミレニアね。どこにも行くところが無いから、あなたのところでお世話になりますよ。私の裸を見たんだから。」
な、何だ!このグイグイ来る女は!苦手だ・・・
「ちょっと待った!いきなり何だ!それと、今から娘の勝負があるからちょっと待ってろ。」
美冬が俺とミレニアの間に入った。
美冬・・・、殺気が少し漏れているぞ。
「変態露出狂、少し落ち着きなさい。さすがにこのままの姿でうろつかれるとねぇ・・・、ミドリの予備のメイド服があるからそれに着替えてちょうだい。着替えてから少しOHANASHIしようね。じゃあ、私について来て。」
ミレニアの頬に汗が流れる。美冬の殺気を感じたみたいだな。
「私は変態じゃなぁあああいぃいいい!」とミレニアが叫んでいたが、美冬が彼女の肩をがっちり掴んで、アイリスとミドリが休んでいる部屋に引きずりながら連れていった。美冬・・・、あんまり怖い思いをさせるなよ・・・
気を取り直そう。
「サクラ、大丈夫か?緊張してないか?」
サクラが春菜と同じ笑顔で微笑んでくれる。本当に春菜とそっくりだな。
「はい、お父さん。大丈夫です。今ので緊張がほぐれましたよ。助かりました。」
「凍牙、ちょっと来てくれ。」
「何だ、蒼太。」
凍牙が俺の隣に来た。
「サクラ、お父さんが許す。凍牙に抱きついても良いぞ。」
サクラがこれまでにないくらいの笑顔になった。凍牙はとても焦っている。
「お父さん・・・、本当に・・・」
「許す!心ゆくまで凍牙を堪能しろ。」
「お父さん、ありがとう!」
「凍牙お兄ちゃん・・・、私の愛を受け止めてね。」
サクラが凍牙に抱きつく。顔を凍牙の胸に埋めているが、何か変だぞ・・・
「スー、ハー、スー、ハー、最高・・・」
サクラが顔を上げると、うっとりした表情になっていた。まさか、凍牙の胸で深呼吸をしているだと!
「お兄ちゃん成分補給完了!これで私は無敵!誰にも負けません!」
サクラ・・・、何処でフローリアの行動を覚えた・・・、元気づける為にと思ってやったが、サクラの意外な一面を見てしまった・・・
凍牙の未来が見えてしまった気がする。
「それでは、お父さん、行ってきます。」
「サクラ、頼んだぞ。」
サクラは闘技場の中央で相手と対峙している。
相手は黒に近い青色のローブを纏っている。戦士系と思えるような体格の男だ。
「ふふふ・・・、これはサクラ様。お噂は聞いておりますよ。生まれながらに女神として目覚めており、戦女神フローリア様と母君である慈愛の女神春菜様の英才教育を受けて、並ぶ者なしと言われている天才だと・・・」
「私のような未熟な者とのお手合わせ、真に感謝します。」
男は深々と挨拶をした。サクラも頭を下げる。
その瞬間、サクラに大量の魔法が降り注いだ。土煙でサクラが見えなくなった。
「バカめ!既に勝負は始まっているのだ!目を離すとはな。いくら天才と言われても、駆け引きまでは出来まい!不意打ちには何も出来ないはずだ。」
土煙が晴れると、全くの無傷のサクラが立っていた。
「嘘だ!20の魔法の同時起動だぞ!これだけの魔法を無効化するなんて有り得ん!」
「もう1度だ!喰らえぇえええ!」
男の周囲に大量の魔法陣が浮かび、全ての魔法陣からサクラに向かって魔法が放たれた。
サクラは微動だにしないが、ニヤッと笑うと周囲に光の玉がいくつも回りだす。
光の玉を頂点とした三角形のシールドがいくつも展開され、相手の魔法を次々と防いでいった。
「シールド・ビット。お母さんから教えてもらった魔法よ。」
男の額に汗が滲む。
「バカな!あれは春菜様のオリジナル魔法・・・、術式が高度過ぎて春菜様以外に誰も取得出来ないはずなのに・・・」
サクラがニコッと微笑む。
「次はどんな手を使いますの?まさか、20個の魔法陣の同時起動が限界ですか?」
「当たり前だ!この数でも使えるのはごく僅かだ!それ以上は出来るはずがない!ハッタリを言うな!」
「俺は最強の魔法使いだ!この魔法師団No.1なんだ!お前みたいなガキに舐められるはずがないんだ!」
男が激昂した。
「そう・・・、No.1とはスゴイですね。」
サクラが呟いた途端に、サクラの周囲におびただしい数の魔法陣が展開した。
「な、何だ、この出鱈目な魔法陣の数は・・・」
「あなた、ちゃんと数も数えられないの?ピッタリ100の同時起動よ。」
「あ、有り得ない・・・、ば、化け物だ・・・」
「ちなみに、お母さんはこの10倍以上の展開も可能です。私はまだまだですけどね。」
「どの口がNo.1と言っているのでしょうね?あのレベルで?レベルの低い自慢はしない方が良いです。恥をかくだけですからね。」
「死になさい・・・、ミーティア・レイン!」
全ての魔法陣からおびただしい数の光の矢が現れ男に降り注ぐ。
「ぎゃぁあああああああ!」
土煙が晴れると、男がボロボロになって息絶えていた。
「リザレクション!」
男の体が光り生き返る。
「はっ!お、俺は生きているのか?」
サクラが春菜と同じ微笑で男を見つめている。
「いえ、あなたは死にました。私が生き返らせましたけど・・・」
「私が何度も殺します。そして、生き返らせてあげますよ。いつまであなたの精神が耐えられますかね?」
男の顔が恐怖で引きつっている。
「や、止めて・・・」
サクラがニコニコ微笑んでいる。
「止めません。あなた方は卑怯な方法で、私の大好きな凍牙お兄ちゃんを暗殺しようとしましたね。私は絶対に許しません。何度、あなたを八つ裂きにしても気が済みませんからね。覚悟して下さい。」
「フレア・ストーム!」
「ぎゃあああああ!」
「リザレクション!」
「グランド・クロス!」
「ぎゃああああああ!」
「リザレクション!」
「ゆ、許して・・・」
男が泣きながら懇願している。しかし、サクラはニコニコしている。
うわぁ・・・、アレは完全に怒っている。あの顔の時の春菜も容赦無かったよ。諦めてくれ・・・
合掌・・・
「私も不意打ちで殺そうとしてましたし、あなた方は本当に卑怯な男の集まりですね。ミレニアが逃げたくなる気持ちも分かります。もう2度とこんな気を起こさないよう、徹底的に教育しましょう。」
サクラの全身が光った。光りが収まると、春菜と同じ薄い桜色のドレス・アーマーを纏い、金色の杖を持った姿で佇んでいた。
男がサクラの杖を見て驚く。
「そ、その杖は!まさか・・・」
「分かりました?これは神器、エターナル・スタッフですよ。私が今のマスターです。」
「あ、あんな子供が神器に認められるだと・・・、この私でさえも無理だったのに・・・」
サクラがニヤリとしてから、男を見つめる。
「さぁ、教育の時間です。今までの行いを悔いて下さいね。今の私は大大大大大~~~~~~~~~~~好きな凍牙お兄ちゃんから元気を貰っていますから、時間無制限ですよ。覚悟して下さい。」
「ライトニング・ボルト!」
「ぎゃああああああ!」
「リザレクション!」
「蒼太・・・」
「あぁ・・・、凍牙・・・」
「あんな娘だけど、よろしく頼む。俺の想像以上に、お前に対する想いが重かった・・・、絶対にお前を離さないと思う。」
「蒼太・・・、お前が彼女達と結婚した時の気持ちが、よ~~~~~く分かったよ。俺も腹を括る・・・」
「婚約成立だな。この茶番の模擬戦が終わったらサクラに伝えるよ。一緒にガーベラも頼むな。」
「分かったよ。今のサクラを見ていると拒否する勇気はない。というか無理だ。」
「よろしく、義父さん。」
「止めてくれ、恥ずかしいぞ。」
いつ終わるかもしれないサクラの攻撃がやっと終わった。
スッキリしたのだろう、サクラの表情がすごく晴れやかだった・・・
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