クローディア③
「アイリス・・・、クローディアが泣き出してしまったぞ。どうする?」
さすがに泣き出してしまったので、アイリスも困惑している。
「う~ん・・・、パパ、どうしよう・・・、まさか泣いてしまうなんて思わなかった・・・」
クローディアが今度は俺の方に向かって土下座をする。
「マスター!マスターからもアイリス様に私が近づく許可を出してくれるように、是非!お願いします!」
「もう、今までみたいに調子に乗りません!だから・・・」
「お願いします・・・」
泣き顔の彼女が俺を見つめている。
何か、この状況に覚えがあるぞ。確か・・・
あっ!思い出した!夏子だ!夏子が俺に結婚を迫った時と同じだ!
クローディアがこれだけ俺に結婚を迫る理由は、もしかして・・・
「クローディア・・・、お前、もしかして淋しいのか?その淋しさをを紛らわす為に、昨日のような事をしたと・・・」
ピクッとクローディアの肩が震えた。やっぱり・・・
「マスター・・・、多分、そうだと思います・・・」
「私と霞は作られてからは、呼び出されない時はほとんど特殊な空間にいます。いつも霞と一緒でした。時にはどちらかが呼びだされて1人になる時もありますが、必ず戻って来てました。」
「でも、昨日、霞がレオの奥さんになってからは、霞はレオとずっと一緒にいて、私だけがその空間にいました。たった数時間1人でいただけなのに、この1人の時間が永遠に続くのかと思うと怖くなって・・・、私も霞と同じようにマスターとずっと一緒にいたい・・・、そう思ったら体が自然に・・・」
「今までは2人でいたので思っていませんでしたが、自我があるのがこんなに苦しいとは・・・」
そうか・・・、やはり夏子と同じで、孤独に恐怖を感じているのか・・・
「アイリス、どうする?」
「パパ、私、決めた。後は、パパと彼女の気持ちだけだよ。」
そして、アイリスはクローディアの目の前でかがんで、彼女の瞳を見つめた。
「デカ乳、いえ、クローディア・・・、本気でパパのお嫁さんになりたいの?」
クローディアが頷く。
「1人で孤独にずっと好きな人を想いながらいるのは辛いよね。何故か私もそんな気持ちが分かるの。不思議ね・・・」
「だから、クローディア、私が成人した時に一緒にパパのお嫁さんになろうよ。私より先にパパのお嫁さんになるのは許さないけど、私と一緒になら大丈夫。あなたも、それまでなら我慢できるでしょ?」
クローディアがアイリスに抱きつき、静かに泣いている。
「あ、ありがとうございます・・・、アイリス様・・・」
「それと、クローディア、お願いがあるの。命令でないからクローディアが自分で考えて欲しい・・・」
「もう、みんなに変な事はしないで仲良くなって欲しいの。どうすれば仲良くなれるのかをね。そうしないと、ずっとパパのお嫁さんになれないよ。みんなを見ていると分かるよね?」
「はい・・・、分かります。今までの自分の態度が間違っていた事も・・・」
アイリス・・・
お前はここまで考えていたのか。
俺に対してとても甘えてくる子供だと思っていたが、ちゃんと周りの人の事も考える事が出来るなんて・・・
そうか・・
お前はガーネットの時はずっと孤独だった。周りに対して誰にも心を開く事も無かったし、誰よりも孤独の辛さを分かっていのたか。
自分の気持ちを押しつけるだけで、相手の事を思いやれない。そんな事を続けていて、最後にはたった1人だけの世界に閉じ籠もってしまったからな。
いくら記憶が無くなってしまったといっても、辛かった時の気持ちは忘れていなかった。
だから、今のクローディアの気持ちも分かってあげて、助けたいと思っているのか。
単に受け入れるだけでなく、自分で考えて居場所をちゃんと作れるように手伝ってあげる事も考えているなんて・・・
偉いな、アイリス・・・
生まれ変わって、本当に良かったな。
「それと、クローディア。」
「は、はい!」
「私の事は呼び捨てで呼んでね。様付けで呼ばれると何か気持ち悪いし・・・」
「それと、もうあなたの事はデカ乳と呼ばないから。お互い婚約者だから、仲良くしましょうね。」
「はい・・・、アイリス・・・」
俺はクローディアの手を取り抱きしめてあげた。
「良かったな、クローディア。今はまだこれくらの事しかさせてあげられないが、お前もアイリスと同じで俺の婚約者だ。もう1人ぼっちにはならないからな。安心しな。」
「はい・・・、マスター・・・、こんな私ですが、よろしくお願いします。」
「そして、私の真のマスターになって下さい。今はフローリアとアイリスが真のマスターになっていますが、あなたもなって欲しいのです。あなたとの心の繋がりが欲しい・・・」
「パパ、いいよ。クローディアも幸せになりたいみたいだし、変に暴走した時もパパと一緒に止められるからね。」
隣でアイリスがニコニコ笑っている。
「春菜ママ、凍牙お兄ちゃん、霞お姉ちゃん、私達は後ろを向かないとね。でないと、パパとクローディアがいつまでもこのままだよ。さぁ、早く!」
「アイリス、何故、私がマスターにして欲しい事をを分かっているのですか?」
「想像すれば分かるよ。だって、パパが大好きなんでしょ?そして、パパが所有者になって欲しいとなればね。でもね、許すのは今回だけだよ。それじゃ、パパ、私達は見ないから。」
アイリス達が全員後ろを向いた。霞だけは無理矢理アイリスが後ろを向かせたが・・・
「クローディア・・・、本当に俺で良いのか?」
彼女がジッと俺を見つめる。
「はい。あなた以外には考えられません。」
そう言って彼女が目を閉じた。
「必ず幸せにしてあげるよ。」
彼女の柔らかい唇に俺の唇を重ねた。
少し長いキスが終わって、みんなの方を見ると・・・
全員がニヤニヤした顔で俺達を見ていた。
お、お前ら・・・、やっぱり・・・
クローディアが恥ずかしさのあまり、真っ赤になって部屋の隅で蹲っている。あんな純情な一面もあったのか。
アイリスと霞が一生懸命謝っているが、クローディアは当分復活しそうにないな。
俺はソファーに座っていて、隣に春菜が座っている。凍牙はまだ血が足りないのか、床で寝そべっていた。
「春菜、すまんな。もう、アイリス以外に嫁さんを増やすつもりは無かったのに・・・」
春菜が俺に微笑んでくれる。
「あなた、仕方ないですよ。あなたと一緒になって幸せになれるなら、私達は文句は言いません。それに、あなたはちゃんと平等に愛してくれますからね。私達が仲良くしていれば問題はありませんよ。」
「それと、ミドリさんが私に『みなさん仲が良いのは羨ましいですね。私も中に入れて欲しいなぁ・・・』と言っていましたよ。ミドリさんは子育てに忙しいララさんの代わりに、本当に頑張っていますからね。私は妻に迎えても問題ないと思いますよ。」
「そ、そうか・・・、みんなと相談してからだな・・・」
ミドリ・・・、春菜も攻略したのか?着々と外堀を埋めて、俺が断れない状況を作っているのか?
気が付けば、既にミドリと結婚する事が前提となった話になっているかもしれん・・・
直接、俺に何も言ってこないのが怖いぞ・・・
凍牙を見た春菜が急に困った顔になった。再度凍牙を見てから俺に話しかけてきた。
「今、凍牙さんの姿が目に入った時に、頭の中にイメージが浮かんできました。」
「まさか、予知か?」
春菜は女神に覚醒してから予知に目覚めて、高い確率で当てているからな・・・
まだまだ不確定でハッキリしなく、突然の閃いたりするから全ては当てにはならないが、意外と侮れない。
「多分・・・、ハッキリした事は分かりませんが・・・」
「凍牙さんの周りに複数の女性のイメージが浮かびました。サクラやガーベラの姿ではない気がします。フェンリルの里で何かあるかもしれません・・・、良い事か悪い事かも分かりませんし・・・」
「多分、里に帰ったら里の女性陣に言い寄られるかもしれんな。あいつは里ではかなりモテていたから、一目惚れで言い寄ってくるヤツがいるかもしれん。あいつがどんな反応をするか楽しみだよ。」
「そうですね。もしかして、幼馴染の人から告白されるかも?」
春菜・・・、間違いなくフラグが立ったよ・・・
「あら、みなさん楽しそうですね。」
義母さんの声だ。
声の方に視線を向けると、ドアの横に義母さんとぐっすり眠っているガーネットを抱いたフローリアが立っていた。
「義母さん、朝からどうしたんだ?」
「フローリアから、クローディアに良い事があったと言われて、話を聞いたのですぐに来ましたよ。」
「おめでとう、クローディア。アイリスが成人になるのはこの世界では16歳ですから、あなたの時間感覚ならあと8年なんてあっという間よ。あなたにもやっと春が来ましたね。私も嬉しいです。」
義母さんがクローディアに微笑んだ。
「母様・・・、ありがとうございます。」
真っ赤になって蹲っていた彼女だったが、義母さんの姿を見た途端に普段の状態に戻り、お祝いの言葉を言われ涙ぐんでいた。
「そして、私に自我を与えてくれて感謝しています。恋とはこんなに素晴らしいものだと・・・、確かに辛い事もありましたが、今は全てを前向きに考える事が出来ます。そして、この機会を与えてくれたフローリアにも感謝しています。」
フローリアも微笑んでいた。
「クローディア、おめでとう。」
「でもね、まさか昨日の今日で旦那様に認めてもらえるとは思わなかったわ。かなり苦労すると思ってたのにね。アイリスに感謝しなさいよ。」
「フローリア、ありがとう・・・、感謝してるわ。」
「当たり前でしょ、あなたは私のパートナーなんですから。大切な友人の幸せを願うに決まっているじゃないの。」
「これからは、春菜さん達と仲良くするのよ。分かった?」
「もちろんよ。私のマスターになってくれてありがとう・・・」
クローディアがガーネットを見つめながら微笑んでいる。
「それにしても、可愛いね。私は子供を産むのは無理だけど、代わりにこの子を私の子だと思って大切に育てたい。フローリア、私も育児に参加させてね。」
「あの空間で1人はもう耐えられないから・・・」
「もちろん手伝ってもらうわよ。私達はみんなで手分けして家族を支えているの。あなたは旦那様の婚約者なんだから、もう私達の家族みたいなもの。だから遊んでいる暇はないからね。しっかりと働いてもらいますよ。」
2人が笑い合っている。クローディアの笑顔が眩しい。あんな笑顔も出来るんだ。思わず見とれてしまった。
そして、フローリアがアイリスを呼ぶ。
「フローリアママ、何?」
アイリスがクーローディアの隣に来ると、フローリアが微笑みながら2人にむかって話す。
「本当は結婚の時に渡す予定だったけど、先に渡しますね。2人とも左手を出して。」
2人が左手をフローリアに差し出すと薬指が光る。光が収まると指輪がはめられていた。
「これは婚約指輪にしておきますね。これからフェンリルの里に行くのでしょう?お互いに連絡を取れた方が安全ですからね。旦那様の事を頼みましたよ。」
「「はい!」」
2人は嬉しそうに指輪を見つめていた。
義母さんは霞を呼んでいた。義母さんの前に来た霞の左手も光り、義母さんと同じデザインの指輪がはまっている。
霞がとても喜んで義母さんに抱きついていた。本当に嬉しそうだな。
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