クローディア②
風呂場で大騒ぎがあった翌日の朝。
凍牙がフラフラしながら2階からリビングに降りてきた。
「う~、体に力が入らない・・・、血が足りない気がする・・・」
そりゃそうだろう・・・、あれだけ大量の鼻血を出していたんだからな。一体、あの体のどこにあれだけの血が流れていたんだ?不思議だ・・・
「お前と一緒に風呂に入っていて、洗い場までの記憶はあるんだが・・・、それからの記憶が無いんだよな。何かとんでもない衝撃的なものを見た気がするが・・・」
凍牙が思い出そうと頑張っているが、思い出さない方が良いぞ。思い出したらまた鼻血まみれになりそうだしな・・・
「それと、朝、起きたらサクラとガーベラに添い寝されてたし、慌てて抜け出してきたけど、本当に一体、昨日は何があったのか・・・」
あいつら・・・、やけに喜んで凍牙を運んでいったと思ったら、添い寝する為だったか。段々と凍牙に対する態度が露骨になってきた。凍牙・・・、頑張れ・・・
俺と凍牙がリビングのソファーで寛いでいると、春菜がアイリスを連れて降りてきた。
「あらっ!あなた、今日はみんな休日なのに早いですね。」
「フェンリルの里の事を考えていたらな、早く目が覚めてしまったよ。」
「そうですか・・・、やっぱり、私達もお手伝いしますよ。」
春菜がニッコリ微笑んでくれた。気持ちは嬉しいが、やはり無理はさせたくない。
「いや、大丈夫だ。凍牙も手伝ってくれる事になったからな。ただなぁ・・・、そうなると、サクラも一緒に行くと言って聞かないだろうな。春菜、すまんな・・・」
「サクラなら大丈夫でしょう。あの子はもう女神ですから、これも勉強になるでしょうね。あなた、サクラをよろしく頼みますね。」
「分かった。みんな無事に帰ってこれるように頑張るよ。責任重大だな。」
アイリスが右側に春菜が左側に座り、春菜が俺の左手を自分の両手で包み込んでくれた。
「必ず無事に帰ってきて下さいね。約束ですよ。」
「あぁ、約束する。」
アイリスが俺の腕に掴まっている。
「パパ、私も一緒に行く。絶対に!」
「ダメだ!お前は留守番だ。」
「嫌!絶対に嫌!サクラが良いのに何で私はダメなの?そんなの嫌!」
アイリスの目から涙が零れる。
「アイリス・・・、今回は普通の旅じゃないんだぞ。一歩間違えれば死ぬかもしれないんだ。そんなところにアイリスを連れていけない。頼むから分かってくれ。」
「だからだよ、パパ・・・、パパとずっと一緒にいたい。パパと一緒なら私も戦える。パパと離ればなれなんて考えたくない・・・」
アイリスが泣きながら俺の腕にしがみついて離れない。
「だから、パパが良いと言うまでずっと離さない。ご飯も食べない・・・、トイレも行かない・・・、絶対に離さないから・・・」
春菜がアイリスの頭を優しく撫でながら俺に微笑んでくれた。
「あなたの負けですね。アイリスはここまで覚悟を決めていますからね。」
「アイリス・・・、私からもお父さんにお願いしておきますよ。旅の間は、ちゃんとお父さんの言う事を聞くようにね。」
アイリスが涙でグシャグシャなった顔で、春菜の胸に飛び込んだ。
「春菜ママ・・・、ありがとう・・・」
俺もアイリスの頭を優しく撫でてあげる。
「アイリス、分かったよ。吹雪も連れて行く予定だから、お前がみんなのお姉さんだ。しっかり頼むよ。」
「うん・・・、パパ、ありがとう・・・」
「マスター、安心しな。私達がちゃんと守ってあげるからな。」
いつの間にか霞とクローディアが後ろに立っていた。
「うわっ!ビックリしたぁ・・・」
「しかし、お前らいつも突然現れるな。心臓に悪いぞ。」
霞がペロッと舌を出して笑う。コイツ、絶対にわざと驚かせて楽しんでいるな。服装通り忍者みたいなヤツだ。
「私とクローディアがいるんだ。この姿でも相当強いから、ちゃんと護衛の役目は果たせるよ。」
「それと、昨日のアレは何だったんだ?みんな裸で突っ立ていたからな。お嬢ちゃんは裸で仁王立ちだし、クローディアも裸でとんでもない姿で気絶していたからなぁ・・・、あんな姿を見られてしまっているから、もうマスターのお嫁には行けないぞ。」
「そして、妙ににやけた顔の男の子が血の海の中に沈んでいたし・・・」
「作者の文章力が下手だから読者には伝わっていないみたいだけど、詳細に表現されていたら運営から削除を喰らうぞ。そこまでお前はひどい恰好だったからな。」
おいおい、そんな内輪ネタを出すなよ・・・
「このツルペタ・・・、私が本気で戦えば負けてなかった。あれは事故みたいなものよ。」
「だから、マスター・・・、この傷付いた私の心を癒して・・・、さぁ!結婚しましょう!これで私の心は癒されるのよ!」
クローディアは俺に抱きつこうとしたが、アイリスが「ダメェエエエ!」と叫んだ。
彼女の動きが急に止まる。
「な、何で!体が動かない・・・、まさか!昨日のアレで子猫ちゃんが私の・・・」
霞がクローディアをニヤニヤした顔で見ている。
「あ~、やっぱりかぁ・・・、デカ乳、お嬢ちゃんがあんたの所有者になってしまったみたいだね。まさか、フローリアとお嬢ちゃんの2人が所有者になるとはね。」
「霞、一体、何が起きているんだ?俺にはさっぱり分からん・・・」
「説明するわ。」
「私とクローディアのマスターには2種類あるの。あんたは私とクローディアのマスターで私達の力を使えるけど、私達があなたに力を貸す事を認めているだけなのよ。だから、あんたは私達を縛る事は出来ない。私達は自由に行動出来る。それで、昨日みたいな大騒ぎになってしまったけどね。認めていた者が相応しくないと判断した時は、私達は所有者を断罪出来る権限を持っているのよ。それが、私達本来の神器の有り方なの。」
「分かった?」
「分かったよ。それで、アイリスが昨日、クローディアを倒してしまった事が、今のクローディアの行動と関係があるんだな?力をお前達に見せた事で・・・」
「よく分かったね。そうだよ。私達を実力で倒せた者は、私達の真の所有者になるの。所有者になる事で、私達に命令が出来るのね。そして、その命令には従わなければならない。ただ、悪い命令は受け付けないように母様にプログラムされているから、私達より強い人が現れても神器を悪用する事は出来ないの。さすが母様ね。」
「だから、アイリスがクローディアを気絶させてしまって、彼女がクローディアの所有者と認められてしまったの。まさか、所有者が1本の神器に2人存在するなんて前代未聞よ。」
「そうなんだ。フローリアは彼女の所有者でもあるんだな。だから、あの時、彼女をフローリアが止められたのか。でもなぁ・・・、フローリアが所有者となった時は悲惨だっただろう?」
「そうよ。あの子は本当に強いってものじゃないわよ。ボコボコにされているクローディアが本当に可哀想だったわ。当時、私は既にレオが所有者になっていたからね。心から彼女と戦わなくて良かったと思ったわ。」
「でもなぁ・・・、あの義父さんがお前を倒すような事はしないと思うんだよな。いくらバトルジャンキーでも、可愛い女の子に暴力を振うとは思えないし・・・」
「可愛いって・・・、嬉しい事言ってくれるね。レオは私に対して何もしてこなかったの。仁王立ちになって、ひたすら私の攻撃を受け続けていたわ。そして、彼は私の攻撃を全て受け切った。私は彼には勝てないと悟って所有者として認めてしまったのよ。今思えば、私はあの時からレオに恋していたのね。」
「そして、あんたに会って、あんたに惚れたデカ乳が騒いでくれたおかげで、私はレオと結ばれた。あんたには感謝してるよ。だから、いくらでも私が力になってあげる。そして、あんたの可愛い娘もね。」
「こらぁああああ!私を無視して2人で盛り上がるな!」
あ、忘れてた・・・
「デカ乳、今、フローリアの話もしていたけど、また、フローリアに挑戦してみる?」
クローディアが滝のように冷や汗をかいている。
「そ、その話は止めて・・・、あの地獄はもう思い出したくもない・・・」
神器でもトラウマはあるんだ。
アイリスが黒い笑みでクローディアを見つめているぞ。
「へへへ・・・、良い事聞いちゃった。私がパパと結婚するまでは、この姿になるとパパから10m以内に近づく事が出来ないように命令も出来るのかな・・・?、どうしようかなぁ・・・」
クローディアが慌ててアイリスに土下座した。
「こ、子猫ちゃん、いや、アイリス様!ど、どうかお慈悲を!これだと、フローリアから言われているマスターと結婚できる条件がぁ!このままだと、ツルペタだけがずっと幸せになって、私はずっと独身になってしまう・・・、ど、どうか・・・」
クローディアがとうとう泣き出してしまった・・・
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