神器③
そして、冒頭に戻る。
本当に困る。勢いでこんな状況になってしまうとは・・・
俺も覚悟を決めるしかないか・・・
「息子よ、久しぶりの手合せだな。遠慮はせんぞ!死ぬ気でかかって来い!」
「義父さん、いつもの凍牙でないけど、この剣でも十分戦える事を見せますよ。」
「おぉおおおおおおおお!」
「はぁああああああああ!」
同時に走り出した。
「喰らえ!裂空斬!」
飛ぶ鋭い斬撃が俺に迫ってくる。
これは!当たったら簡単に真っ二つにされる。本気で俺を殺す気か!
「くっ!三花仙!」
下からの切り上げで斬撃をかき消した。
「ほぉ、息子よ、腕を上げたな。小手調べだったが、上手く相殺したな。」
「当然ですよ。フローリアにどれだけ鍛えられたか・・・、おかげで、この剣の技も幾つか使えるようになりましたよ。」
焦りは見せないようにしているが、あれで小手調べだと・・・、マズイ・・・
さすが義父さんだ。小手調べの技でも一撃必殺の威力だ。手数での勝負だと確実に負けてしまう。というか、物理的に確実に真っ二つにされる未来しか見えない。
一撃必殺に賭けるか・・・
「義父さん!手数では確実に俺が負けます。だから、この一撃で勝負を決めさせてもらいますよ。」
剣を肩に担ぎ腰を低くして構える。
「分かった!ワシも最大の剣技で受けて立とう!」
そう言って剣を下段に構える。
「おぉおおおおおおおお!」
気合と共に走りだし、義父さんの目の前まで迫り、大剣を振り上げた。
「はぁあああああああああ!」
「乾坤一擲!雲耀の太刀ぃいいいいいいい!」
「息子よ!見事だ!フローリア最大の技まで会得したとはな!だが、負けん!」
義父さんも構えから動き出す。
「おぉおおおおおおおお!」
「必殺!無月山水ぃいいいいいいいい!」
「「えっ!」」
「はい、お終い・・・」
義母さんが俺達の間に入って、お互いの剣を両手の指で挟んでいる!
一体、何が起きているんだ・・・
義母がニッコリ微笑んで、義父さんと俺を見ている。
「あなた、蒼太さん、可愛い孫の前で凄惨な殺し合いを見せるつもりでしたか?」
「うっ!そ、それは・・・」
「義母さん・・・、申し訳ありません・・・」
義父さんと俺の神器が光となり、人の姿になってお互いの横に立った。
そして、クローディアが義母さんに向かって地面に片膝を付き頭を下げる。
「手合せから殺し合いになるところを止めていただき感謝します。腕は落ちていませんね。さすが、初代戦女神フレイヤ様。」
「そして、我々神器の創造主様。」
えぇえええええ!義母さんがそんなに偉い人だったの!しかも、初代戦女神だと!伝説の女神じゃないか。一体、義母さんはいくつなんだ・・・?
「クローディア、私は今は単なる創造紳の妻ですよ。遠い昔の肩書なんて言わないで下さい。そんなおばあちゃんだと思われたくありませんからね。今後は絶対に言わない事。分かりました?」
「は、はい!失礼しました。」
クローディアがガチガチになっているよ。
「それと、霞・・・、あのまま蒼太さんの剣を受けたら、あなた、また折られてましたよ。」
「うっ!そ、そんな事は・・・」
「つまらないプライドは捨てなさい。何の為にあなた達2人に自我を持たせたと思っているのですか?」
「神器は強力な武器です。しかし、心の正しい神が使うとは限りません。そして、自我のある神器が1人だと考え方が偏ってしまうので、あなた達2人に全ての所有者の見極めをお願いしているのでは?あなたがそんな事ではどうします?もっとしっかりして下さいね。」
「は、はい・・・」
義母さんが神器に説教してるよ。やっぱり、クローディアが言った神器の創造主には間違いないみたいだ。
霞と呼ばれた子が俺を睨みながら前に来た。
まだ、恨んでいるのか?
「おい、お前・・・、私もお前のマスターになってやる。デカ乳にばかりいいところを持っていかれるのも嫌だしな。」
「それと・・・、内緒の話があるから、ちょっと耳を貸してくれ。」
「ん・・・、何だ?」
彼女の口元に耳を近づけたら、いきなり両手で俺の両頬を押えられた。霞の顔が近づいてくる。
そして、霞の柔らかい唇が俺の唇を塞いだ。
「フギャァアアアアアアアアアアア!」
アイリスが絶叫する。
「か、霞ぃいいい~~!何て事を!羨まし過ぎるぅうううううう!」
クローディアも叫んだ。
真っ赤になった霞の顔が俺から離れた。
「私のファーストキス、どうだった?さっきまでは本当にゴメン・・・、これくらいで、お前を殺そうとした私を許してくれるとは思わないけど、これが私の精一杯の謝罪だよ。」
さすがに、いきなりキスされるとは思わなかった。
「いや、別に怒ってもいないよ。義父さんが相手だとこうなってしまうのは予想出来たしね。だから、いつも逃げていたんだけど・・・」
「凍牙が使えない時はよろしく頼むよ。やっぱり刀の方が使いやすいしな。」
霞の頭を撫でてあげると、真っ赤になって俯いてしまった。
クローディアがプンプンな表情で俺に迫る。
「ちょっとぉおおお!私は使わない気なの!お手伝いすると言った私の立場が無いじゃない!」
「クローディア、そんなに怒るなよ。出来るだけ優先して使ってあげるから。フローリアの技も色々と試してみたいからな。」
ボソッと、彼女が呟いた。
「なら、いいけど・・・、あなたに取り入って、私が嫁入りする計画が台無しになるところだったわ・・・」
「んっ!何か言ったか?」
「イエイエ、何モ言ッテマセン・・・」
霞がクローディアの前に立って、真剣な顔で彼女を見つめていた。
「クローディア・・・、あなた、本気でマスターのお嫁さんになるつもり?私達は武器なのよ。人の姿にはなれるけど、子供を作る事も出来ない。それでも良いの?」
「霞・・・、私達は武器。そして、私達を正しく使える神を導くのが私達の使命。それは分かっている・・・、でもね、私はフローリアに会って変わったの。彼女は私を武器としてではなく、友人として扱ってくれた。そして、彼女の恋心も知ったの。私も最初は恋なんて分からなかったけど、彼女が彼の事を嬉しそうに話してくれるのを聞いているとね・・・、私も恋というものに憧れてしまったのよ。それからね、恋がどんなものか考えるようになったのは・・・」
「そして、彼女と彼が訓練しているのを見ていると、彼がどんなに彼女から倒されても諦めないの。そんな光景をずっと見ていたら、『私がずっと彼を守ってあげたい』、『ずっとそばにいたい』と思ってしまったのよ。最初はこの気持ちが何か分からなかった。でもね、彼の事を考えると胸が締め付けられる感じになったの。そして、分かったわ。これが恋なんだと・・・、そう自覚したら我慢が出来なくなってね。だから、こうして人化して彼の前に出たのよ。」
「そうか・・・、じゃあ、私の今の気持ちも恋なんだ・・・、武器の私でも恋をする事が出来るんだ・・・」
クローディアが義母さんに話しかけた。
「もちろん、そうですよね。母様。」
義母さんが2人に頷いた。
「ただねぇ・・・、こんなツルペタな胸だと、彼が振り向いてくれるか・・・」
「うるさい!このデカ乳女が!大きいからって勝ち誇ったような顔をするな!胸の大きさで勝負は決まらないんだ!デカ乳、私が勝つところを見せてやるからな。」
霞が走って義父さんの前まで行って、ジッと見つめている。
「えっ!ワシ?てっきり息子の方だと思っていたが・・・」
義父さんが慌てているよ。
「レオ・・・、いえ、私のマスター・・・、私はあなたと結婚したい。どうか、私を受け入れてほしい・・・」
「霞・・・、ワシには母さんがいるからなぁ・・・、お前の気持ちには・・・」
「あなた、霞を受け入れても良いですよ。」
「そ、そうか・・・、お前が良いと言うなら、ワシも霞なら受け入れても問題ないぞ。」
「レオ・・・、好き、好き、好きだよぉおお!もう、絶対に離れない!」
霞が泣きながら義父さんに抱きつき、義母さんが霞の隣に立っていた。
「霞、ようやく素直になりましたね。大切な人を守りたい気持ち、それがあなた達神器の力の源です。これでもう折れるような事はないでしょうね。これからも頑張ってね。」
う~ん、文章ならいい雰囲気なんだけど・・・
目の前の光景は、ガチムチ上半身裸の〇オウに幼女が抱きついて、隣にもう1人の幼女が微笑んで立っている。俺の1番好きなキャラのあんな光景は見たくないなぁ・・・
それにしても、義父さんは幼女に好かれる体質かもしれないな。
ふと、隣をみると、アイリスが俺の服を摘まんで、不機嫌そうに俺を見ていた。
「パパ、ずるい・・・、私にもチューして・・・」
「アイリス・・・、みんなの前だと恥ずかしくてお父さん無理・・・、帰ったらな。」
「本当に?」
「約束するよ。」
いつもアイリスは俺にねだってキスしてるのに、何で今はこんなに気合が入っているんだ?
「やったぁあああ!パパ、大好き!」
凄く嬉しそうな顔で、アイリスが俺の胸に飛び込んできた。
「じゃあ、私も!」
クローディアが唇をタコのように尖らせて飛びかかってきた。
いわゆる、ルパンダイブだ。美人がやる行動ではないと思うが・・・
「デカ乳女はダメェエエエエエ!」
アイリスが俺の腕を踏み台にして飛び上がり、クローディアの脳天に見事なかかと落としを喰らわした。
「ぐべぇっ!」
クローディアは変な声を出しながら、頭から地面にめり込んでしまった。
そして、アイリスは魔法で空中に足場を作り、1回転してからまた俺の胸に戻ってくる。
アイリス・・・、いつの間にこんな技を・・・
地面に頭がめり込んでしまったクローディアだが、地面から頭を引っこ抜き何食わぬ顔で立ち上がった。
そして、ニヤリと笑う。
さすが神器だけあって丈夫だ。
「子猫ちゃん、やるわね・・・」
2人の視線が火花を散らしている。あっちは円満なのに、こっちは修羅場になったぞ。
しばらく睨み合いが続いたが、クローディアが優しい笑みになった。
「今回は子猫ちゃんに譲るわ。」
「でも、私は諦めないから。必ずマスターのお嫁さんになりますからね。」
勘弁してくれ・・・、もう嫁枠は一杯だよ・・・、ミドリも怪しいし・・・
2人の攻防を見ていた霞が俺とアイリスの方に駆け寄ってきた。
「お嬢ちゃん、やるね。私の3人目のマスターになってよ。あのデカ乳女から彼を守りたいんだろ。私が力になってやる。どうだ?」
「ありがとう、お姉ちゃん!デカ乳女!絶対にパパを渡さないからね。」
「このツルペタ!自分が幸せになったからと思って・・・、ま、負けないわよ!」
クローディアがプンプンになっているが、何か楽しそうだ。
義父さんと義母さんが並んで俺のそばに来た。義母さんは嬉しそうに微笑んでいる。
「ふふふ・・・、あんな楽しそうな2人は初めて見ますね。やっぱり蒼太さんに会ってから変わったのでしょうね。フローリアの言う通り、蒼太さんの周りはいつも楽しい雰囲気に変わります。まるで、蒼太さんが望む事が実現するかのように・・・」
「義母さん、俺は何もしてませんよ。いつの間にか賑やかになってしまうのです。不思議ですね。」
「それは良い事ですよ。争いなんて何も生み出しませんから。その調子で、フェンリル族とスキュラ族の事も頼みましたよ。多分、蒼太さんにしか出来ない事だと私は思います。」
「期待に応えられるよう頑張ります。」
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