フローリアの想い①
フローリアが何故ここまで蒼太に固執しているかの理由になります。
もっと後に掲載しようかとも悩んでいましたが、理由が分かればこれからのフローリアの脱線ぶりもご理解していただけるかと・・・
「行ってしまわれましたね。」
「蒼太様を旦那様と呼ぶ約束も貰えましたし、これで晴れて夫婦と呼んでも差し支えないのでは?」
「ふふふ・・・」
「神格を得られて戻られる時にはちゃんとした結婚式を挙げましょうね。」
そう言ってフローリアは両手を胸に置き、目を閉じ佇んだ。
長い沈黙の後に
「蒼太様・・・」
「ずっとお慕いします・・・」
「そして・・・」
「私の初恋の人・・・」
「ブルー様・・・」
かつての神界は戦乱に明け暮れていました。
それは創造神様がお亡くなりになられたからです。
その為に「創造神継承の儀」というものが行われる事になったからです。
その方法とは10名の候補者が選ばれ、最後の1人になるまで殺し合う儀式です。
なぜそのような儀式が行われるようになったのか起源は分かっていませんが、創造神となるには個人の能力以外にも人を纏める才も必要であり、各々の陣営を率いて戦をし個人、団結力、カリスマ等の総合的な人物を見出す為と言われています。
ですから、いくら個人の力が強大であっても人徳が無かったり誰も付いていかない候補者だと、多勢に無勢であっという間にふるい落とされる訳です。
私は今の創造神様である「レオ」様の陣営に所属して、当時はまだまだ見習い天使の身分でありました。
ある戦いの時に私は重傷を負い気を失いました。
目が覚めると、簡素な部屋のベッドに寝かされていました。
「・・・」
「ここは?」
「おっ!目が覚めたか?」
男の声です。
「っ!」
「私に何をする気だ!」
「そんなに噛みつかないでくれよ。折角手当したのに傷がまた開いちゃうぞ。」
「別に何もしないさ。」
確かに簡単ではあったが手当がされていた。
「嘘を付くな!」
「私を慰み者にする気に違いないだろ!」
この戦争時の女性天使の兵士の扱いは酷いものだった・・・
敵の男性天使に捕らわれでもしたら、散々陵辱され男どもの慰み者にされる運命だった。
運良く敵から助け出されても、慰み者とされた時の心の傷により、自殺の道を歩む天使の数も少なくない。
私の同僚天使も何人か自殺している。
その為、我々女性天使は敵に捕まって辱めを受けるくらいなら、潔くその場で自害するようにとの教育までされていた。
「本当に何もしないって!」
「まぁ、馬鹿な男どものせいで信用がないから仕方ないけど・・・」
「はぁ・・・」
「その傷だと体も満足に動かせそうにないし、気が済むまでゆっくりする事だね。」
その男は屈託の無い笑顔で私に向かって笑いかけた。
その笑顔を見ると、何故か心が安心してしまう。
不思議だ・・・
「それにあんたはレオのところの天使だろ?」
「あいつの部下ならちゃんと礼儀をもって対応しないとな。」
「なぜレオ様の天使だと分かる?」
「その鎧の紋章だよ。」
「この紋章はレオのものだからな。すぐに分かったよ。」
「そうか・・・」
そうして私は彼の好意に甘えることとなった。
本当に彼は私に何も変な事もせず、傷の手当てと食事の世話をしてくれた。
この時代に物好きな男もいたものだと、当時の私は思っていた・・・
会話らしい会話もほとんど無く数日が過ぎた。
私も少し慣れたのだろう、私の方から話しかけてみた。
「本当に助かった。」
「この戦争が終わった時にはお礼を言いに行きたい。名前を教えてくれないか?」
「名乗るほどでもないさ・・・」
その時の少し寂しそうな目が印象的で、彼もあまり身の上を探られたくないと思っているのだろう。
雰囲気が悪くなってしまい、少し慌てた私は無理に会話を繋げようとしてしまった。
「そういえば、あなたは1人しかいないが?他にも仲間はいるのか?」
長い沈黙の後
「今はいない・・・、昔はたくさんいたけどな。」
私を気遣ってくれているのか彼は笑っていたが、あまりに痛々しい笑顔だった・・・
彼の決して触れてはいけない心の傷を、私は無自覚に抉ってしまったのだと理解し、とても後悔した。
「その・・・、すまない・・・」
「えっ!何で謝る?」
「何だか・・・、その・・・」
長い沈黙に耐えきれなくなってしまったのか、彼が突然笑い出した。
「ははは・・・、あんたは何にも関係無いのに謝ってこられてもねぇ・・・」
「ありがとう。俺も何だか気が楽になったよ。美人さんの辛い顔はあまり見たくないしな。」
「えっ!はぁ!私が美人?そんな事はないぞ!」
「いやいや、あんたは本当に美人だよ。この神界1番だと俺が保証するし。」
「あなたの保証なんて当てにならないわ!そうやって私をたぶらかそうとしてるのでしょう?」
「やっぱり男なんて!」
「おいおい、怒らんでくれよぉ・・・、本当に俺がそう思っているんだから・・・、とほほ・・・」
私は今まで誰からも美しいと言われた事は無かったし、こんな歯の浮くようなセリフに免疫も無かったので、自分でもはっきり分かるくらい全身が真っ赤になっていたと思う。
しかし、私も女だ。そう言われて悪い気はしなかった。
「俺は確かに仲間を作らずに戦をしている。それが俺の信念さ。」
「仲間を作れば確かに良いかもしれないが、仲間を失った時の悲しさが忘れられなくて、どうしても仲間を作る気になれないんだ・・・」
「仲間を失う事も怖いが、もし仲間でなく俺が先に逝ってしまって、残された仲間の事も考えると・・・」
「やっぱり怖くてな・・・、怖いからそうならないように1人でも誰にも負けないように鍛えているのさ。」
確かに彼の体には無数の傷があり、致命傷になりそうな大きな傷跡もいくつかあった。
どれだけの修羅場にいるのか想像がつかない。
「こんなヘタレな男が戦をするっていうのは変なんだろうな。」
「そんな事はないさ。それだけお前が優しいって事じゃないかと私は思う。」
「私の知っている男の中ではレオ様の次に良い男だと思うな。」
「もしかしてお前を欺す為に優しくしているのかもしれんぞ?」
「ふふふ・・・、そんな正直な事を言う悪い男はいないさ。」
彼とこんなに会話したのは初めてだったし、屑な男達とは全く違っていた。
しかし、その後はまたもや会話があまりないまま数日が過ぎた。
彼はどうも私からわざと距離を置いて、必要以上に仲良くならないようにしている。
どうしてなんだろうと考えていたが、その答えはかなり後になって分かった。
あれから数日が経過し、私の傷もだいぶ癒えて陣営に戻る事になった。
「レオの軍勢はあそこだ。ここから近いし、無事に戻れるだろうな。まぁ、俺の事は内緒にしておいてくれや。」
「名前も知らない人の事なんか報告しようなないでしょうが。」
「ははは、そうだな。まっ、元気で頑張れや。」
あの屈託のない笑顔で言ってくれた。
そう言い残して彼はこの場を去ろうとした。
しかし、彼の姿を見て急に胸の奥が痛むような気がして、思わず彼に叫んでしまった。
「やっぱり名前を教えて下さい!気になって夜も眠れなくなってしまいます。」
彼は少し迷ったような素振りをしながら答えてくれた。
「ブルーだ。」
無事に陣営に戻る事ができ、みんな大喜びで迎えてくれた。
レオ様も「お前は俺の娘みたいなものなんだから、本当に心配で心配で・・・」
今までにないレオ様の姿で、私は本当に恵まれているんだと、みんなに感謝していた。
あれから月日が経ち、私は見習い天使からレオ様の側近までの地位に上り詰めていた。
彼が必死に強くなろうと頑張っていた姿が私の力の元だったのだろう。
どんな辛い鍛錬でも根を上げる事はなかった。
時折彼の事をフッと思い出す事があった・・・
思い出す度に私の胸の奥が痛かった。
あの頃は何も知らない私だったが、今の私ならあの時の気持ちはよく分かる。
私は彼に恋をしていたのだ。
当時は自覚は無かったが、間違いなく私の初恋だった。
そして、彼と思いもしなかった再開を果たした。
あ、今回はギャグが全く無かった・・・