闇に堕ちた女神⑨
あんな啖呵を切ったけど、もう限界に近い・・・
どうやって倒すんだ・・・
俺に止めを刺そうとガーネットがゆっくり近づいてくる。
本当に不死身なのか?いや!ヤツも限界のはずだ。
どうやって倒せばいいんだ!
「あなたぁあああ!」「旦那様ぁあああ!」「「蒼太さぁあああん!」」
春菜達の声だ。俺を呼んでいる。
みんなの方に振り向くと4人が手を繋いでいる。
そして、春菜が金色に輝いている。
「あなたぁああ!私達の力を受け取って下さぁあああああい!」
「チャージ・ビットォオオオオオ!」
春菜から発せられた金色の光の玉が、俺の体の中に吸い込まれる。
「な、何だ!この力は・・・、力が、力が湧き上がってくる・・・」
「みんな・・・」
「あなた・・・、最後は頼みましたよ・・・」
4人全員がへたり込んでしまったが、みんなにっこり笑って俺にサムズアップしてくれた。
「お前達の想いは受け取ったよ。ありがとう・・・」
「旦那様!私の力も!」
フローリアも金色の光の玉を俺に向かって放つ。そして、俺の胸に吸い込まれた。
「これは!更に力が・・・」
「ありがとう・・・、フローリア・・・」
「ソータお兄ちゃん!」
美冬の方に振り向くと、美冬の体が白く輝いている。
「私の中の凍牙お兄ちゃん・・・、お願い!ソータお兄ちゃんを助けて。短い間だったけど楽しかったよ・・・、さよなら・・・」
美冬のガントレットが光の玉に変わり、俺の胸の中に吸い込まれた。
「す、凄い・・・、これがみんなの力・・・」
俺の体が今までにないくらいに輝く。
その光がガーネットに纏わり付いている黒いオーラをかき消していく。
「ぎゃぁああああああ!何、この力!こんな力は・・・、私が消えていく・・・」
「い、嫌だぁあああああ!私だけが消えるなんて!死ぬ時は一緒でしょうがぁあああああああああ!」
「何なの!この力はぁああああああ!」
「ガーネット・・・」
「これが、俺達家族の絆の力だぁあああああああ!ガーネット!お前が絶対に手に入れられない力だ!」
「これで最後にする・・・」
凍牙を構えて走り出そうとした瞬間、突然、俺の頭の中に声が響いた。
【蒼太!俺を地面に突き立てろ!ただ倒すだけではヤツは滅ぼせん!】
こ、この声は!
「凍牙か!」
「分かったぁああああああああ!」
凍牙を地面に突き刺す。突然、凍牙が白く輝き始め、次第に金色の光に変わりだした。
あまりの眩しさに目を開けられない。
光が収まり目を開けると・・・
目の前に金色の巨大な狼が立っていた。
美冬が変化した時の狼の姿よりも遙かに大きい。
も、もしかして・・・
「よう!蒼太!現実の世界で会うのは初めてだな。」
「こ、この声!やっぱり凍牙か!」
「お前達の力が俺に肉体を与えてくれたよ。凄いな・・・、お前を想う嫁さん達の力は・・・」
「お兄ちゃぁああああああああん!凍牙お兄ちゃぁあああああああああああ!」
美冬が凍牙に駆け寄り脚に抱きつく。
「会いたかった!会いたかったよぉおおおおおおお!」
涙でグシャグシャになった顔で、美冬が凍牙の脚に顔を埋めていた。
「美冬・・・、済まなかった・・・」
「うん!いいよ!こうして会えたんだから・・・」
「でもな、美冬・・・、またすぐにお別れだ・・・、アイツを浄化したら俺は消えるだろう・・・、この体自体が仮初めの体だからな。」
「いや!いやぁあああ!凍牙お兄ちゃんに会えなくなるなんて・・・」
美冬が泣き叫んでいるが、俺にはどうしようも出来ない・・・
「美冬・・・、我が儘言うな・・・、お前はもう大人だろ?そして、俺よりもイイ男と結婚したんだ。蒼太の事を頼んだぞ。俺の可愛い妹・・・」
「う、うん・・・、凍牙お兄ちゃんの分までソータお兄ちゃんを大切にするね・・・」
「さすが、俺の妹だな・・・」
「蒼太!美冬を頼んだぞ!必ず幸せにしてくれな。」
「凍牙・・・、分かった。約束する。」
フローリアが驚愕の顔で凍牙を見つめている。
「う、嘘・・・、この姿は・・・、まさか!伝説の始祖のフェンリル!」
「神界最強であり、その力はどんな悪意をも浄化出来ると言われていた・・・」
凍牙が俺の方に顔を向ける。
「蒼太!最後の仕上げだ!」
「旦那様!」
「フローリア、どうした?」
「旦那様にこれを託します。手ぶらでガーネットに立ち向かえませんからね。」
俺の前にフローリアの黄金に輝く大剣が現われ、宙に浮かんでいた。
手に取り軽く振り回してみる。
「な、何だ!重さを全く感じない!フローリア、これは一体・・・」
「旦那様、これは神器に認められたからですよ。神器は意思のある武器です。認められない場合はとんでもない重さになりますが、旦那様なら必ず認められると思ってました。これで、心置きなくガーネットと戦えますね。」
「ありがとう、フローリア。」
「凍牙!行くぞぉおおお!これで本当に最後にする!」
ガーネットの体から黒いオーラが噴き出している。
どうやらヤツもさっきの光から回復したみたいだ・・・
ガーネット・・・
お前の負の感情は今、断ち切ってやる!
願わくば・・・、生まれ変わることが出来たら幸せになれよ。
「おぉおおおおおおおおおおお!」
俺は神器を握りしめ、凍牙と一緒にガーネットに向かって走り出した。
ヤツの残った左腕が俺の方に向く。そして、爪が高速で伸び迫って来る。
神器で叩き斬ったが、全て捌き切れず頬と肩をザックリ抉られた。
「ぐっ!、だが、こんなモノじゃ俺の前進は止められんぞぉおおおおおお!」
目の前までヤツに迫った!気合と共に神器を水平に構える。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「神器!横一文字切りぃいいいいいいいいいいいい!」
腹にある大口に向かって神器を横薙ぎに振り斬りかかった。
口の牙が神器を咥えたが、構うものかぁあああああ!
神器が止まったのは一瞬で、全ての牙をへし折りそのまま振り抜き、ガーネットの体を真っ二つにした。
「凍牙!」
「任せろ!」
凍牙の巨大な顎が二つになったガーネットを一気に飲み込んだ。
ガーネットが飲み込まれる直前、俺は見た。
彼女の醜悪だった顔が、最初に見た元の美しい顔に戻っていた・・・
そして、彼女の最後の言葉は・・・
「ありがとう・・・、やっと楽になれます・・・、こんな嫌な自分から解放されたかった・・・」
静かだ・・・
そして・・・、凍牙が光の粒となって消え始めている。
「凍牙・・・」
「心配するな。この体が無くなるだけで、またお前の中に戻るだけさ。剣となってまた一緒に戦える。」
「そうか・・・」
「お兄ちゃん!凍牙お兄ちゃぁあああああん!消えるのは嫌だよぉおおおお!」
「美冬・・・」
俺は美冬を抱きしめる。美冬も泣きながら俺を抱きしめていた。
美冬が感情のままに抱きしめているから、骨が悲鳴を上げているが、そこは我慢だ!
でも、気が遠くなりそう・・・
凍牙が光となって消え去った。
が!
「凍牙、何でこうなった?」
美冬がニコニコ顔で金色の赤ん坊狼を抱いていた。
「えへへ、凍牙お兄ちゃん、可愛い・・・」
「蒼太、俺も分からん・・・、消えずにどうしてこうなったのか・・・」
見た目は赤ん坊犬サイズだけど、普通に喋れるんだな。
春菜は赤ん坊を抱いている。
「あなた、この赤ちゃんも可愛らしいですね。私のお腹の子が生まれるより先に子供が出来ちゃいましたね。」
そう、凍牙は消えていなかった。
凍牙の立っていたところに行くと、小さく赤ん坊犬サイズになった凍牙と、背中に小さな羽が生えた1人の天使の赤ん坊がいた。
「フローリア・・・、これは一体・・・」
「さぁ・・・、私にも・・・」
「旦那様から聞いたガーネットの最後の言葉ですが、多分ですけど、最後の最後になって良心が甦って今までの自分を悔いたと思いますね。そして生まれ変わりを願った・・・」
「あくまでも予想ですが・・・」
「そうだよな。あいつも本心は俺達と一緒にいたかったのかもな?その願いが奇跡を起こしたのだろう。そう思った方があいつも救われる。」
「そうですね。」
「それにしても、凍牙まで肉体を持って復活するとは・・・、アイツも同じ赤ん坊だけどな。」
「ガーネットの置き土産かもしれん。今までの贖罪として・・・」
「私もそう思います。昔の彼女は本当に優しい天使でしたから・・・」
「あの美冬の嬉しそうな顔、当分、凍牙は美冬にオモチャにされそうだよ。頑張れよ、凍牙。」
「では、私は春菜さんのところに行ってきます。あの赤ちゃんが気になるので・・・」
「あぁ・・・」
俺は美冬の隣に行った。
「美冬、本物のお兄ちゃんが帰ってきたんだよな。ちょっと見た目は変わったけどな。」
美冬が今まで見た中で一番の笑顔で返事をしてくれた。
「うん!本当に奇跡が起きたんだ・・・、こんなに嬉しい事はないよ。」
「それに、こんなに可愛くなってるから、今度は凍牙お兄ちゃんが私に甘える番かな?」
「美冬、それは勘弁してくれ・・・、いくら見た目が変わっても、中身はちゃんとしたお前のお兄ちゃんだからな。兄としての威厳は守る!」
「凍牙、それは無理だ!甘える甘えないより、お前は美冬にオモチャにされる未来しか見えないぞ。」
「勘弁してくれ・・・」
凍牙が本気で落ち込んでいるぞ。でもな、相手があの美冬だからな、諦めろ・・・
赤ん坊を抱いた春菜が俺の隣に来た。
「あなた、この赤ちゃんですが、フローリア様と一緒に確認しました。やはり、ガーネットに間違いありませんが、記憶も力も全て失っていて普通の天使の赤ちゃんですね。本当に生まれ変わりを願って、このような姿に生まれ変わったと思います。」
「そうか・・・、やっぱり最後は自分1人が死ぬつもりだったか・・・、俺達の家族になる未来を願って・・・、あの頃に引き返したいみたいな事も言っていたし、俺に倒される覚悟を決めていたんだな・・・」
「あなた・・・、私がこの赤ちゃんの母親になります。私の子供として・・・」
春菜が途中まで言いかけたところで、みんなが春菜の肩に手を置いた。
夏子が優しい笑みで赤ん坊を見つめる。
「春菜、違うだろう。『私』ではなく『私達』の子供だ。そうだろ?」
千秋、マリー、美冬が春菜を見つめて微笑んでいる。
「そうですね。私達みんなで育てましょう。この新しい命を。今度は間違えないように愛情たっぷりに・・・」
「ちょっとぉおおお!私が抜けているわよ!みなさん!」
フローリアが慌ててみんなのところに駆け寄った。
少しポンコツなところがフローリアらしいな。
「おっほん!それでこの子の名前はどうします?ガーネットの生まれ変わりだとしても、同じ名前だとねぇ・・・」
「それなら俺に考えがある。元々は春菜の子供が女の子だった時に考えていた名前だ。」
「『アイリス』という名前を考えていたんだ。この名前は地球の花でな、地球には花に意味を持たせているんだ。その花の言葉の意味は『希望』だ。どうかな?」
「あなた、それは良いですね。正しくこの子に相応しい名前だと思います。この名前のように希望に満ち溢れた未来を願って・・・」
「私達も賛成だ。良い名前だな。」
夏子達が頷く。
「旦那様、私も賛成です。それでは、この子は『アイリス』、そう名付けましょう。」
「さぁ、ララも待っているだろうし、そろそろ戻ろうか?」
「「「「「「はい!」」」」」」
帰ってきたら凍牙にアイリスといきなり家族が増えて、ララもビックリするだろうな。
ララの驚く顔が楽しみだ。
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