闇に堕ちた女神⑥
思ったよりも長くなってしまいました。
待ってろよ、春菜・・・
俺は神殿内を走り続け外に出た。
もちろん服は着ているぞ。
目の前にフローリアと美冬がガーネットと対峙していた。
フローリアは金色の鎧を装着し巨大な大剣を構え、ガーネットは漆黒の鎧に死神が持つような巨大な鎌を構えていた。
「フ、フローリア!大丈夫か!」
「「だ、旦那様!」」
「お兄ちゃん!」
フローリアとガーネットが同時に叫んだ。
お互いの顔が般若のように険しくなる。
「ガーネット・・・、何であなたが私の旦那様を『旦那様』と呼ぶの・・・」
「フローリア・・・、今は私の旦那様なのよ。あなたは『元・妻』になったの。諦めて、さっさと尻尾を巻いて逃げたら?」
「やはり、あなたは性悪女神ね。昔っから、あなたは私が好きな物は奪わないと気が済まなかったみたいだし・・・」
「これは私の台詞よ・・・、この女狐め!常に私より目立つように、周りにアピールしてたでしょう・・・」
「何を勘違いしているの?あなたが私より魅力が無いだけじゃない。それを逆恨みするなんて・・・、やっぱり、あなたは性根が腐っていますわね。」
「その台詞はそっくり返すわよ。私より胸が小さいくせに、パットを入れて誤魔化していたのは誰?」
「ガーネット!パットの話なんて・・・、そんな昔の話を持ち出して・・・、あなたの昔なんて・・・
「フローリアこそ!私の黒歴史を掘り起こさないで!だったら、あの時のあれは・・・
おいおい・・・、とうとう口喧嘩を始めてしまったぞ・・・
美冬がどうして良いか分からなくて、オロオロしてるし・・・
今のうちに・・・、3人はどこだ・・・
いた!倒れているけど、大丈夫か?
慌てて3人のところに駆け寄った。
「夏子!大丈夫か!」
「あぁ、何とか・・・、しかし、相手が春菜だとやり難い・・・、情けない姿を見せてしまった・・・」
「それは仕方ないさ。今は休んでいろ。」
「千秋、マリーはどうだ?」
千秋がヨロヨロしながら俺に抱きついてきた。
「私も大丈夫だ。蒼太さん・・・、無事で良かった・・・、あなたに何かあったら、私は生きていけない・・・、今夜は愛してね。」
千秋が乙女モードになっている。余程心配させたみたいだったな。本当に済まなかった。
「ああっ!千秋!どさくさに紛れて何言ってんの!私が言おうと思ったのに・・・」
「マリーは問題無しだな。」
「何で私だけ扱いが軽いの!差別よ!」
「マリー、冗談だから気にすんな。もちろん、マリーも大好きだからな。」
「ちょ、ちょっと、みんなの前で恥ずかしいじゃない・・・、私も大好きだけど・・・」
みんな、大きな怪我もなく大丈夫みたいだな。
「みんな、少し休んでいてくれ。後は俺が何とかする。」
どうやって春菜を救出するか・・・、それが一番問題だ・・・
フローリアの方は・・・
「ガーネット!もう一度滅びなさい!」
フローリアが大剣を振り上げガーネットに切りかかろうとしている。
「あら・・・、あなたのバカ力で切ったら、この体がどうなるか分かってるわよね・・・」
「くっ!卑怯な・・・、さっきから春菜さんの体を盾にして・・・」
フローリアの動きが止まってしまう。
相手はガーネットだと分かっていても、春菜の肉体だからな。
でも、あの体はまだ完全に支配されていないはず・・・
「フローリア!俺が行く!」
「だ、旦那様・・・、大丈夫ですか?」
「フローリア、春菜の目を良く見てみるんだ。右目だけがまだ元の春菜の目だ。春菜はまだ戦っている、魂の世界の中でな。だから、チャンスはあるはずだ!」
「行くぞ!ガーネット!」
ガーネットがニヤリと笑う。
「旦那様、無駄ですよ・・・、彼女の意志はもう存在しません。もう、この体は私のモノです。そんな事を言って動揺させようとしても・・・、ふふふ・・・」
「どうかな?お前は余裕ぶっているが、本当は余裕がないんじゃないか?そんなところを見せない為に虚勢を張っているんだろう・・・、だから・・・」
「春菜ぁあああ!俺の声が聞こえるなら待ってろぉおおお!必ず助けるからな!」
ガーネットの体が硬直し、右目から涙が流れる。
やはり・・・
「あ、あなた・・・、待ってます・・・」
「分かった。約束する。」
「旦那様・・・、どんなに頑張っても無駄ですよ。もう少しで彼女の魂は私と同化し、完全に自我が無くなりますからね。それまでに助けられると思っているのですか?この私を相手に・・・」
「出来るさ!俺を誰だと思っている。お前こそ、俺を舐めるな。そして春菜の事も・・・」
「フローリア、美冬、俺がヤツに近づくまで援護を頼む!今のヤツは春菜が目覚めかけているから、焦っているに違いない。俺が春菜の魂を呼び覚ます。」
「分かりました。」「お兄ちゃん、分かった!」
「行くぞぉおおお!」
「はい!」「うん!」
俺達はガーネットにむかって走り出した。
「く、来るなぁあああああ!」
ヤツの周りに多くの光の玉が舞い始める。そして、その光の玉から大量の魔法が俺に向かって飛んできた。
ガーネット・・・、春菜の体を支配したからか、春菜の魔法も使えるのか・・・
「旦那様!ここは私が!」
「一刀両断!唐竹割りぃいいい!」
フローリアが大剣を思いっきり振り下ろす。凄まじい剣圧が全ての魔法を吹き飛ばし、光の玉までも消え去ってしまった。
「近づけさせません!」
新たに光の玉が舞い始め、魔法を放ってきた。
「お兄ちゃん!次は私!」
「ファントムゥウウウ・クラッシャッァアアアアアア!」
美冬が魔法に向かって左ストレートを放つ。拳圧が竜巻となり全ての魔法が巻き込まれ消え去った。
「ば、バカな!この私が押される!」
自分の攻撃が通じなくて、ガーネットが焦り始めている。このままヤツに近づければ・・・
もう少しのところで目の前に光輝く盾が現われた。
「だ、旦那様!あれはイージスの盾!私が何とかします!」
「いや!俺がやる!俺の気持ちを春菜に見せる為にもな!」
「壊れろぉおおおおおおおお!」
渾身の右ストレートを盾に放った。
「無駄だ!この盾は最強!誰も壊せない!」
「春菜ぁあああ!見てろぉおおおお!」
俺の拳が盾に当たって止まる。
しかし・・・、俺の拳を中心にヒビが入り始め、そして全体がヒビに覆われ砕け散った。
「ば、バカな!イージスの盾が拳で砕けるなんて!そんな・・・」
ガーネットが呆然としている。
もう少しで手が届く・・・
「はっ!舐めるなぁあああ!」
俺の接近に気が付いたガーネットが、大鎌を具現化して斬りかかった。
俺の脇腹が浅く切られる。
「ぐぁっ!」
「くそ!もう少しだったのに・・・」
「ふふふ・・・、残念でしたね。旦那様・・・、もう容赦はしませんよ。手足を切り落として肉達磨にして差し上げます。そうすれば抵抗なんか出来ませんしね。例え手足が無くても私の愛は変わりませんから、安心して下さいね。あぁ・・・、新しい楽しみが増えそう・・・」
ガーネットが大鎌を構え、邪悪な笑みを浮かべながら舌舐めずりをして、俺を見つめている。
狂気がオーラとなってヤツの周りに黒く纏わり付いていた。
「春菜!もう少しだからな!凍牙!頼むぞ!」
俺の手に凍牙が現われる。
「奥義!無塵斬!」
「無駄、無駄ぁあああああ!」
ガーネットが叫びながら斬りかかってきたが・・・
ガーネットの手に持っていた大鎌が塵となって消えた。
「そ、そんな・・・」
「春菜ぁあああ!今、助ける!」
今はガーネットになっている春菜の体に手を伸ばす。
「させません!」
ガーネットが手刀を俺の胸に突き出した。そして、俺の胸に手首まで刺さる。
「だ、旦那様!」「お兄ちゃん!」
フローリアと美冬が叫ぶが、構うものか!
「痛ってぇええええええ!だが、急所は外れている!春菜!待ってろぉおおお!」
俺は手刀が刺さったまま前進する。ガーネットの手がどんどん俺の胸に深く刺さっていき、背中まで突き抜けた。
「やっと捕まえた・・・」
俺は、ガーネットの腕が根元まで俺の胸に刺さったままの状態で抱きしめた。
痛い!死ぬほど痛いが、春菜はそれ以上にガーネットとの魂の戦いでもっと痛いはずだ。体の痛みに比べれば・・・
「春菜・・・、待たせたな・・・」
「あ、あなた・・・」
「春菜・・・、愛してる・・・、こんなヤツに負けないで戻ってこい・・・」
「わたしも愛してます・・・、もう、2度と離れません・・・」
「春菜・・・」
「あなた・・」
俺は春菜にキスをした。
『うぎゃぁああああああ!何だ!この波動は!』
俺と春菜の体が金色に光る。
そして、黒かった春菜の髪がどんどん元の色に戻っていく。
『ま、まさか!女神に覚醒したのか!』
『そ、そんな・・・』
俺の目の前にはピンクの髪と桜色の瞳の春菜の姿があった。
「春菜・・・、本当に戻って来たんだな・・・」
「はい・・・、あなた・・・、私の為にこんなになってまで・・・」
春菜がゆっくりと俺の胸から腕を引き抜く。一瞬にして傷跡も残らず回復した。
そして、もう1度抱き合った。
『お、おのれぇえええええ!また支配してやる!』
『何だと!支配出来ない!どうして・・・』
「春菜、この頭にキンキン響く声、何とかならないかな?」
「分かりました。今の私なら何とでも出来ますよ。」
『何だと!たかが女神に覚醒したばかりで、私に勝てると思っているのか!生意気な!』
「ガーネットと申しましたか?私は怒っていますよ。そして、私のお腹の中の新しい命も、あなたに対して怒ってます・・・」
『バカな!まだ胎児の状態で意思がある訳がない!そんな嘘をつくな!』
「私1人の力では無理でしたが、2人の力を合わせれば・・・」
春菜の体が金色に光る。そして、更に光が強くなった。いや、春菜のお腹が強く光っている。
『し、信じられない!胎児の状態で既に女神に目覚めているなんて!』
「この子を誰だと思っているのですか?蒼太さんと私の子ですよ。2人の愛の結晶ですからね。」
「思い知りなさい!あなたみたいな一方的でない本当の愛の力を!」
『うぎゃぁああああああ!』
春菜の体から黒いモヤのようなものが噴き出し、人らしい形を作り出した。
『お、おのれぇ・・・』
「あなた!あれがガーネットの本体です。それにしても、何て邪悪な魂なんでしょう・・・」
俺にも分かる。あれは凄まじい悪意の塊だ。あそこまで魂は邪悪になれるのか・・・
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