家族が増えた③
真っ暗な世界だ・・・
そっか・・・、私は死んだのね・・・
本当に寂しい人生だった。
貧しい家に生まれ、口減らしの為に売られた。
売られた先は娼館だった。最初は雑用として仕事をしていたが、歳より大人びてキレイだったという事で、成人になる前から男に抱かれ続けた。
自由は無かったが、私は娼婦のなかではトップクラスだったので贅沢は出来た。
お金の為だと割り切って抱かれると思えば、そんなに苦ではなかった。
しかし、私がいたのは違法の娼館で、領主の依頼を受けたギルドにより摘発され潰れた。
今まで贅沢していたのに、一気に無一文になってしまった。
途方に暮れていたが、ギルドマスターに誘われギルドの受付で働く事になったが、お金が無くなる恐怖もあって給料をもらっているにも関わらず、冒険者や貴族を相手に私を抱いてもらい貢いでもらっていた。
私が信じられるのはお金。それしか無いとずっと思っていた。
私はこれでも見た目には自信があるし、私が目を付た男は誘って抱かせてあげれば簡単に貢いでくれた。
だけど・・・
お金はどんどん増えていったが、心はいつも寂しかった・・・
そして、私に全くなびかない男が現れた。彼は人間離れしている美女ばかりを連れていた。
一目で彼女達には勝てないと思ったが、それでも男なんてみんな一緒、私を抱くチャンスがあれば落とせる自信はあった。
しかし、彼のパーティメンバーだった彼女達が次々と彼の妻になっていく。
そして、男には全く興味が無いと言っていたウエンディも彼氏が出来たし・・・
気が付けば、私は誰からも相手にされていなかった・・・
そして、彼の妻の1人から散々言われた。
当たっていた。何も言えなかった・・・
一人ぼっちになってしまった。私が心から頼れる人は誰もいない。
何故か、彼の存在がどんどん私の心の中で大きくなっていく。
私も彼の妻達のように隣に並びたい・・・
でも、数えきれないくらい男に抱かれて汚れた私は、彼の隣に立つ資格はない・・・
でも・・・、でも・・・、恋がしたかったなぁ・・・
これで終わりだなんて、寂し過ぎる・・・
目の前が急に明るくなった。
思わず目を閉じてしまい、ゆっくり瞼を開けた。
目の前にはさっきの女神様が私にむかって優しく微笑んで立っていた。
どこかで見た覚えが・・・
お、思い出した!確か、彼の家に資料を持って行った時に、彼の事を『旦那様』と呼んでいた人だ!
彼は神、そして妻が女神・・・
最初から私ごときが相手にもならない訳だったのね・・・
何故だろう・・・、涙が出てくる・・・
そうか・・・、これが失恋なんだ・・・
「マリーさん、最初に謝らせて下さい。私のミスであなたは不幸の因子を取り込んでしまいました。今まで不幸な人生を送らせる事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
女神様が私に謝っている!どうして?不幸の因子?
「不幸の因子というのは、それを取り込んでしまった人を不幸な人生を送らせてしまうものなんです。すべてが回収出来ず、あなたの体に入り込んでしまいました。そうなってしまうと私でもどうにも出来ませんでした。そして、死ぬまで不幸が続く事になってしまい、あなたは不幸な人生を送ったという訳です。」
そのおかげで私は不幸だったの?神の都合で!許せない!
「この事に関しては、謝っても償いきれるものでありません。ですが、マリーさんが今、死んだ事により、因子が取り払われて不幸になる事は無くなりました。」
「本来ならば、あなたの魂は輪廻の輪に取り込まれ、記憶を全て無くし生まれ変わります。ですが、私からのお詫びで、あなたに2つの選択を与えましょう。」
「1つは全ての記憶を無くしますが、あなたの望んだ幸せな人生を送れるように生まれ変わる事です。幸せになる事は私が約束します。」
「もう1つは、天使として生まれ変わる事です。今の記憶、容姿そのままの状態で、天使の体として転生する事になります。」
何ですって!幸せになれる・・・、それも私が望んだ未来に・・・
もう一度、人生をやり直せるんだ。今までの不幸を忘れて・・・
でも、今のこの気持ちも忘れるのか・・・
「女神様!私は天使の転生を望みます。確かに今までは不幸でしたし、この原因が女神様というのは正直、腹立ちも覚えます。しかし、この今の気持ちが消えてしまうのも嫌です!出来れば、蒼太さんに告白するチャンスを下さい!お願いします!」
「分かりました。本当によろしいのですね?」
「はい!今の私のこの気持ちが消えてしまう事の方が一番嫌です。新しい人生でも恋は出来るのでしょうが、私は今、この気持ちで恋がしたいのです。この選択に後悔はありません!」
「でも、女神様が妻だと私は勝てませんね・・・」
「いいんです!絶対に私に振り向いてもらえるよう頑張ります!」
「あら!さっきまでの弱気なあなたは何処にいったのですかね。1つ教えてきますが、旦那様の妻には天使もいますからチャンスはありますよ。あなたの頑張り次第だけですけどね。」
「はい!頑張ります!」
「それでは天使に転生させますね。」
その言葉を最後に私の意識が遠くなった・・・
「マリー・・・」
「な、何だ!」
マリーの全身が淡く光っている。腹に刺さっていたナイフも光となって消え、大量に付いていた血も消えて無くなってしまった。
そして、マリーがゆっくりと目を開けた。
「マリィイイイイイ!」
俺は思いっきりマリーを抱きしめた。
「良かった・・・」
「い、痛い!私を殺す気!」
俺の腕の中でマリーが必死にもがいていた・・・
「す、すまん・・・、ちょっと力が入り過ぎてしまった・・・」
「ホントにゴメンだわ!折角、天使になって生き返ったのに、また死んでしまうところだったわよ!」
いつものマリーの姿だ。やっぱりマリーはこうでないとな。
「お詫びに、私と結婚しなさい!分かった!」
「分かった。」
マリーが固まった。しばらく硬直していたが、段々と顔が赤くなって、口がパクパクしてる。まるで、水から陸に上げられた魚みたいだな。
「えぇえええええええええ!う、嘘でしょ!色々と告白シチェーションを考えたのに、こんな簡単にOKになるの?あんた!もっと乙女心を考えなさいよ!」
「色々と考えた私がバカみたい・・・」
何か、マリーが少し落ち込んでしまっている。
「マリー、もう一回やり直すか?」
「もちろんよ!アレはノーカウント!勢いじゃなく、ちゃんと告白してOKをもらいたいの!分かった!」
「分かった、分かった。」
マリーが元気になって良かった。それにしても、元気になったり落ち込んだりと忙しいな。
さっきまでのあの雰囲気はどこに行った!ドラマの撮影の撮り直しじゃあるまいし・・・
まぁ、マリーが納得しているからイイか・・・
「それでは・・・」
マリーが俺の前に立ち、真っすぐ俺を見つめている。
「蒼太さん・・・、あなたが好きです。私をあなたの妻の1人にさせて下さい。お願いします・・・」
「俺もマリーがいなくなると思ったら、とても悲しかったし、俺もお前に対する気持ちが分かった。」
「俺もマリーが好きだ。結婚しよう。」
「はい・・・」
マリーの目から涙が溢れ、俺の胸に飛び込み泣き出した。
チラっとフローリアを見ると、優しく微笑んでくれた。
そうか・・・
フローリア、お前は全部分かっていて、あんな行動を取ったのか。マリーの気持ち、そして、俺に神としての心構えと覚悟を教える為に・・・
お前には敵わないよ・・・
「旦那様、最後の1個をお願いします。」
「あっ、あれか。」
「はい。」
俺は最後に残っていた指輪を取り出し、マリーの指に嵌めてあげた。
「これは?確か、ウエンディも似たような物を着けていたけど?」
「マリー、これはな、俺の故郷で結婚の証として身に着けるものなんだ。これで正式に俺とマリーは結婚した事になったのさ。」
「嬉しい・・・」
マリーが嬉しそうに指輪を撫でている。
そうか、最後の俺の運命の人はマリーだったのか・・・
でもな、マリー・・・、嬉しそうにしているが、これは呪いのアイテムだからな。プライパシーを丸裸にされる恐怖は体験した者でないと分からんが・・・
お前もいつかは分かるぞ・・・
「旦那様、マリーさん、もう遅いので家の中に入りましょう。マリーさんも1人で帰るのは危ないですし、一緒にどうぞ。」
「女神様、よろしいのですか?」
マリーが不安そうにフローリアに尋ねた。
「もちろんですよ。だって、あなたも旦那様の妻の仲間入りですよ。遠慮する事はありません。」
「それと、私の事はフローリアと呼んで下さいね。」
「えっ!あ、あの隣の教会に崇められている女神様と同じ名前・・・、ま、まさか・・・」
マリーが直立不動の姿勢で固まる。そりゃ、そうだよな。崇めている女神本人が目の前にいればな。
でも、それだけで驚いていたら、この先、本当にいくら驚いてもキリがないそ。
「さぁ、みなさんにマリーさんの紹介もしないといけませんからね。」
フローリアが、悪戯っぽい笑みで微笑んだ。
絶対、何か企んでいる顔だぞ。
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