家族が増えた②
我が家がリニューアルしてから数日が経過した。
やはり、広くなると楽だし落ち着く。
特にお風呂と個室だな。
お風呂はゆっくりのんびり広々と入れるので、とても気持ちが良い。
しかし、乱入防止に結界を張っているが、時々無理矢理こじ開けようとしている輩が・・・
最初はフローリアかと思っていたが、全員が何とかして一緒に入ろうとしている事が分かり、さすがにちょっと焦った。
みんな、すまん・・・
しばらくは1人で入らせてくれ。もう少ししたら順番に一緒に入る許可を出すからな。
あくまでも予定だけど・・・
夜はみんなで一緒にベッドで眠るとフローリアが強引に決めてしまったので、夜は全員で寝るが、仮眠などは個室の方で1人で眠れるのですごく助かる。
ある日の夜・・・
「フローリア・・・、時々だが、夜、家の前に誰かが立っているみたいなんだが・・・」
「昨日、チラッと見えたが、どうも、ギルドの制服を着た女の子のに見えたんだけど、すぐにいなくなったし、気のせいなかな?」
「多分、気のせいでしょう。」
フローリアが微笑んでくれたが、どうも腑に落ちない。
はぁ・・・
ここが彼の家なんだよね・・・
明かりは点いているけど、中から音が全く聞こえないし、普段から一体何をしているんだろう・・・
私はギルドの受付嬢をしている。
だから、どの冒険者がどれくらい稼いでいるかも、おおよそ分かっている。
彼に対する報酬はとんでもないくらいに出ている。
私が今までに見た冒険者の中でも最高に稼いでいるのは間違いない。
絶対に金持ちだ!
だから、最初は彼に取り入ろうとしていたが・・・
「何で!全く私になびかないの?このギルドNo.1の私に!」
あの手、この手でアピールしても全く動じない。あれだけの美人の嫁達がいたら、私は眼中無しか・・・
その内に、ギルドマスターから受付の担当を外され、ライバルのウエンディが担当になった。
しかも、そのウエンディも結婚して幸せそうにしているのに、私は・・・
今までの冒険者だったら、私がちょっとその気にさせただけで、ホイホイ貢いでくれた。
そして、ちょっと難しい相手でも、私を抱けば完全に私に惚れてくれて、どれだけでも貢いでくれる。
おかげでお金には不自由どころか、贅沢な暮らしをしていると思う。
でも、お金があっても心が満たされない・・・
そして、彼に対しては何故かこんな手を使いたくないと思ってしまっているし、気になって仕方がない。
全く相手にもされていないのに・・・
何故だろう・・・
最近は彼の事を思っていると、いつの間にか彼の家の前に立っている事も多い。
そのまま、黙って帰ってしまう。
あと一歩が踏み出せない・・・
今夜も、気が付けば彼の家の前だった・・・
胸が締め付けられる感じがする。でも、これ以上は何も出来ず、ただ見ているだけ・・・
彼の家に背を向け、帰ろうとしたが、その視線の先に男がいた。
前に私に貢いでくれたクーズという名の貴族の息子だ。
「よぉ、マリー。最近は全く相手にしてくれないなぁ。俺以外にイイ男でも出来たのか?」
「クーズ。あんたとは別れたはずよ。たった1回私を抱いただけで、恋人面しないで!もう、あんたには興味が無いからね。」
男が下品な笑いを浮かべながら近づいてきた。
「マリー・・・、お前の過去を知らないと思っているのか?調べたら出てきたよ。」
「だから、簡単に男に抱かれるのも平気なんだよな。俺以外にも何人寝た!何十人か?何百人か?でもな、俺がずっとお前を可愛がってあげるよ。」
「ギルドにお前の過去をバラされたくなければ、俺の女に戻るんだな。徹底的に可愛がってあげるよ。」
「ぐふふふ・・・」
こいつはかなり変態な趣味の男だ。貴族の息子なのでお金は持っているが、女を痛めつけて喜ぶ男だ。私もお金と割り切って抱かれたが、その後で酷い目に遭って逃げた。
「お断りよ!ギルドに言いたければ言えば!あんたに抱かれるなら死んだ方がマシよ!」
「そうかい・・・、じゃぁ、死ね・・・」
クーズがナイフを握って、私の方に走り出した。
怖い・・・、体が動かない・・・
ドン!
クーズが私にぶつかった。
お腹が熱い!何で・・・
力もどんどん抜けていく・・・
クーズが私から離れていく。ヤツの手と腹には大量の血が付いていた。
そして、私のお腹にナイフが刺さっている。そして、大量の血が私の服を濡らしていた。
意識が少しづつ遠くなっている・・・
「ぐふふふ・・・、俺の言うことを聞かなかった罰だ!俺は貴族なんだよ。誰も逆らえないんだからな。たかが元娼婦が死んだくらいで、俺が罪になることはない。娼婦だった過去を恨むんだな。」
そう、私はギルドの受付嬢の前は娼婦だった。だから、男に抱かれる事に対しては普通の女の人と比べれば抵抗がない。お金の為だと簡単に割り切れた。
でも、1度でいいから好きな人に抱かれたかった・・・
彼が頭の中に浮かんでくる。
蒼太さん・・・
意識がなくなりそうになったが、急にはっきりした。
お腹の痛みも現実だ。痛くてたまらない・・・
「う、うぅ・・・」
そして、目の前に信じられないものを見た!
金色の翼が生えた女性が私の前に立っている。
「この愛の巣の前で殺人を犯すとは・・・、救いのない人ですね。」
クーズが空中に浮かんでいる。
体が段々と雑巾のように絞られ始めていた。
声が出せないのか、口だけがパクパクしている。
「名前の通りクズな男ですね。もう魂が真っ黒ですよ。転生して次の人生でも同じ事をするでしょうね。人間に転生する事がないよう永遠にミジンコに転生し続ける事にしましょう。」
どんどん男の体が捻れていく。最後は細い1本の紐のようになって消えた。
そして、翼の生えた女性は私の方を見つめていた。
あぁ・・・、この人は女神様なんだな・・・
私をあの世に連れて行ってくれるのだろうか?
もう、家族も誰もいない1人ぼっちの私は、この世には未練もないし・・・
でも、願うなら・・・
「残念ですが、あなたはこうなる運命でした。いくら私でも運命を簡単に変える事は出来ません・・・」
これが私の運命・・・
寂しい人生だったなぁ・・・
次に生まれ変わったら、普通に恋をしてみたい・・・
「フローリア、どうした?何かあったのか?」
「急にお前が消えたと思って、窓の外を見たら人が倒れているのが見えたんだけど・・・」
そ、蒼太さん!
た、助けてぇえええええ!
こ、声が出ない・・・
「マリー!どうしたぁあああ!い、一体何があった!」
蒼太さんが私を抱き起してくれた。
この人の腕の中で死んでしまうのか・・・
ダメだ!生きていたい!死にたくない!
「そ、蒼太さん・・・、助けて・・・」
「分かった!マリー!今、回復魔法をかけるからな!」
「旦那様!」
「これは、彼女の運命です。安らかに旦那様の腕の中で眠らせてあげて下さい。」
「フローリア!お前、何を言っている!マリーが目の前で死にそうにしているのに見捨てるのか!俺は認めんぞ!」
「旦那様・・・、分かって下さい。旦那様は神格を得てもう神です。神は勝手に人の運命を変える訳にはいきません。それがどんなに辛い事でも・・・、力を持っているからこそ、公正にならなければなりません・・・」
「フローリア!それでも俺は・・・、そんな見捨てる事を当たり前に出来るのは無理だ!それで神を続けるというなら、俺は神の座を捨てる!」
「旦那様・・・、そうすれば、神になる事を期待しているみんなを裏切る事になりますが・・・」
「く、くそぉおおおおおおお!どうすれば良いんだ!」
蒼太さんが神・・・、そんな・・・
私の為に神の座を捨てる・・・
「そ、蒼太さん・・・、私の為に泣かなくていいです・・・、私は運命を受け入れます・・・」
「そして・・・、今、ハッキリ分かりました・・・、あなたが好きになっていたと・・・」
「生まれ変わって、また会える事があったら・・・、私をお嫁さんに貰って下さいね・・・」
「さようなら・・・」
「マリィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
マリーが俺の腕の中でどんどん冷たくなっていく・・・
「フローリア!俺はお前を恨むぞ!そして神という存在にも!」
「神はこんな辛い事を続けなくてはならないのか!」
涙が止めどなく溢れてくる。
助けられるはずの命を助ける事が出来ない!それも、知っている人が目の前で・・・、運命という言葉だけで片付けるのか!
理不尽過ぎる・・・
「旦那様・・・、落ち着いて下さい。」
「そして、よく聞いて下さい。」
「何を聞くんだ・・・」
「マリーさんの運命はこの時点で終わりました。しかし、続きがあるとしたらどうですか?」
「続きだと?」
「はい。例え神といえ人の運命を勝手に変える事は許されていません。そうでなければ、世界中の至る所で運命の書き換えをしなければいけませんし、身内や知り合いだけ特別の扱いをする訳にもいきません。神は平等にしなければならないのです。その理を捨て欲望に走った神の成れの果てが邪神です。」
「ここまでお分かりですか?」
「あぁ・・・」
「そして、我々神には転生という奇跡を行使出来ます。今回は不幸な運命だったのを、次は幸せな運命に生まれ変わらせる事が可能です。そして、もう1つの方法があります。旦那様もご存じの筈ですよ。今は感情が高ぶって忘れているみたいですね。」
「あっ!」
「思い出しましたか?そうです、天使に転生させる事ですよ。そうすれば、今までの運命はリセットされて、新しい運命が始まります、そして、天使を含めた神々の運命は誰にも分かりません。例え創造紳様でも分からないのです。」
「ですから、我々には運命だという言葉は通じません。」
「だから、私達は私達の道を自由に切り開けます。その為の力ですし、尚更、自制しないといけませんが・・・」
「まだ、マリーさんの魂は体から離れていませんので、私がマリーさんにどうしたいのか聞いてきますね。来世か天使かどちらを選択するのか・・・」
「分かった・・・、頼む、フローリア・・・」
「それでは行ってきます。」
フローリアの体が金色に光り、マリーの額に手をかざす。
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