お父さんがやって来た③
意識が・・・
気が付くと、俺は真っ暗な世界にいた。
「負けたのか・・・」
これからフローリアに生き返らせられるんだな。悔しい・・・
「まだ、負けてないぞ!」
「誰だ!」
目の前に1人の男が立っていた。
いつの間に・・・
よく見ると、髪の毛が真っ白で頭に耳が付いている。そして尻尾も生えていた。
顔は超イケメンだ!でも、美冬に似ているぞ。
「も、もしかして・・・」
「そうだ、俺は凍牙だよ。この姿で会うのは初めてだな。」
「それにしてもなぁ・・・、一体いつになったら美冬をちゃんと貰ってくれるんだ?あいつもずっと待っているんだから、いい加減に覚悟を決めろよ。美冬は本当に可愛い妹なんだぜ。あれでもちゃんとした大人なんだぞ。それなのに、お前は子供扱いしてばっかりだしな。」
「お、おう・・・」
「凍牙、いくら妹が可愛いからといって、押し付けたらダメだろ。」
別の声が聞こえた。この声は・・・
そうだ!ゾーダの時に俺の中で聞こえた声だ!
「蒼太、俺がブルーだ。」
何じゃぁ!このイケメンは!こんなカッコイイ男なんて見た事ないぞ!あの2人はコイツに惚れてたのか!
これは惚れて当たり前だ。絶対に勝てない。
でも、よくこんな俺に惚れてくれたものだ。2人に感謝だ・・・
「お前はまだ負けていない。ここはお前の魂の世界で、時間が止まっているようなものだ。この世界が消えるとすぐにお前は元の世界に戻る。その前に、お前に渡したいものがあってな。」
「い、一体何を・・・」
「かつての俺は死んで、地球の神によって地球の人間に転生した。ただな、俺の魂の力があまりにも強過ぎて普通に転生出来なかったんだ。だから、俺の力と記憶を封印してから何とか転生させて、普通の人間としてお前が生まれた。」
「俺の人格は、転生した時点で消えてしまっている。今の俺は記憶から出来た疑似人格みたいなものだよ。だから、お前に力を渡すとこの人格も消えてしまう。だが、お前は負けたくないと思ったのだろう?俺も、特にレオ相手だと負けたくない。だから、お前に封印された力を渡そうと思う。今のお前の力なら大丈夫だろうな。」
「良いのか?お前の人格が消えても?」
「構わないさ。俺は既に死んでいる身だからな。」
「それに、俺は凍牙を失ってからは、仲間を失う事に恐れて逃げたんだ。その結果が、フローリアや美冬を長い間悲しませる事になってしまった。もう、アイツらの前には出る事は出来ない。そして、伝えてもらいたい。『済まなかった』とな・・・」
「そして、お前は違う。どんな相手でも恐れるどころか常に立ち向かっていった。特に、あのフローリアに対してもな。まさか、フローリアがあんな危ないヤツだとは思わなかったぞ。俺だったら確実に逃げたな。」
その気持ち良く分かります。あの重さは誰だって逃げだすよ・・・
「この力を渡せば、お前とはもうお別れだ。凍牙とは仲良くやっていくんだぞ。それと、フローリアに大切な事を言うのを忘れているぞ。終わったらちゃんと言えよな。」
ブルーが光の玉となって、俺の胸の中に吸い込まれていった・・・
2人とも、ありがとう・・・
「はっ!」
目が覚めた。目の前にレオの剣が迫っている。
咄嗟に凍牙を掲げて受け止める。
「ぐっ!お、重い!」
「ほう・・・、まだ受ける元気が残っていたか。だが、息子よ!これで最後だ!」
俺はゆらりと立ち上がった。
「いや、これからが本当の勝負だ。レオ・・・」
「な、何だと!それに、その雰囲気・・・、今までと全く違う・・・、お前は誰だ!」
「レオ・・・、分かってるだろ?俺は水上蒼太であり、前世のブルーでもある。」
「そして、全て思い出した・・・」
俺はフローリアと美冬を見つめた。
「フローリア、美冬・・・今まで悲しい思いをさせて済まなかった・・・」
「後で、ゆっくり説明するよ。」
2人がゆっくり頷いた。
「まずは、目の前にいるお前の親父さんに勝たないとな!」
レオに向き直り、集中して魔力を高める。
信じられないくらいに魔力が膨れ上がってきた。
金色のオーラが全身から噴き出す。あれだけの傷も完治していた。
「き、金色のオーラ!旦那様・・・、ついに神になられたのですね・・・」
「行くぞ!レオ!」
「今はお前の事はブルーと呼ぼう!来い!ブルー!」
「「はぁああああああ!」」
夏子が驚愕の顔で2人の戦いを見守っている。
「し、信じられない・・・、あれだけ高いレベルの剣技なんて見た事ない・・・、力押しでもトリッキーな動きでもない。基本的な剣術をあそこまで高められるものなのか・・・、まるで2人が仲良く踊っているように見える・・・」
「私もまだまだ修行不足だ・・・、なぁ、千秋・・・」
「そうだな・・・、私も蒼太さんの隣に並べるくらいに強くなりたい・・・」
「ははははっあ!楽しいなぁ!ブルーよ!」
「俺もだ!レオ!」
ギィイイイン!
二人が距離を取った。
「はぁ、はぁ・・・、ブルーよ、そろそろ最後といこうか?」
「あぁ・・・分かった。」
「ブルーよ!喰らえぇええええええ!アルティメット・エンドォオオ!」
視界を埋め尽くすほどのファイヤー・ランスとアイス・ランスが、全方位から襲いかかってくる。
その直後にも8方向からの広域殲滅魔法が続く。
この複合魔法だけでも生き残れるものはいないだろう。
そして、その後には・・・
「乱れ雪月花ぁああああああ!」
無数の突きと斬撃で、全ての魔法を切り払う。
ギィイイイイイイイン!
レオの神速の袈裟切りを、俺は切り上げの剣で受け止めた。
「よくぞ受け止めた!」
「1度見たからな。2度目は通用しない!今度は俺の番だ!」
「トォオオオールゥウウ!・ハンマァアアアアアーーー!」
「バカめ!それは敗れた技だぞ!また真っ二つにされたいのか!」
「これでも同じと言えるかぁあああああ!」
ハンマーが黄色に輝いている。
「何ぃいい!」
レオに向かって、思いっきり振りかぶり、振り下ろした。
「光になぁれぇええええええええ!!」
「くっ!舐めるなぁあああああああああ!」
俺の金色のハンマーとレオの神器が激突する。
「「おぉおおおおおおおおおおおお!」」
「「負けてたまるかぁああああああああああ!」」
激突による衝撃波で彼女達が吹き飛んでしまった。
「「「「「きゃあああああーーー!」」」」」
そして、静寂がその場を支配し、俺とレオが対峙したまま佇んでいた。
フローリアがすぐに目を覚まし俺達を見た。
「旦那様・・・、パパ・・・」
「ふはははぁあああ!絶対に折れる事のない神器が折れたか!この勝負、俺の負けだ!」
「ブルー!いや、我が息子よ!楽しかったぞ!」
「は、はい・・・」
「旦那様ぁあああ~~~!」
フローリアが泣きながら抱きついてきた。泣くほどのものか?
「旦那様、旦那様、旦那様ぁ~~~」
「フローリア、どうしたんだ?」
「ブルー様が亡くなった時の光景は今でも忘れていません・・・、さっきも同じ事になるのかと・・・、しかし、旦那様はそれを打ち破ってくれました。私の悪夢までも切り払ってくれたのです。こんなに嬉しい事なんて・・・」
「やっぱり、私の旦那様です!」
フローリアが思いっきり抱きしめてきた。
ちょ、ちょ、ちょっとぉおお!お前のバカ力で抱きしめてきたら・・・
い、息が・・・、背骨が・・・、肋骨が悲鳴を上げてる・・・
「ギ、ギブ・・・、死ぬぅ・・・・」
「フローリア・・・、お前が最強だったか・・・」
呆れ顔の創造紳だった。
「それでは、わしは神殿に帰る。楽しい時間を過ごさせてもらったな。息子よ、また戦おうぞ。」
老人バージョンに戻った創造紳が神殿に帰る事になった。
また戦いたいとは・・・もう勘弁して下さい・・・
「息子よ!フローリアと彼女達を頼んだぞ!」
「はい!」
「それでは、さらばじゃ!」
やっと帰ってくれた・・・
本当に疲れたな。
「旦那様、本当にすみません・・・、父の我が儘に付き合わせてしまって・・・」
フローリアは恐縮しているが、俺にとっては悪い事ばかりじゃなかった。
ブルーの記憶も蘇って、お前と美冬の気持ちも良く分かったしな。
俺も覚悟を決めたよ。
その夜、俺の寝室にはフローリアと美冬が一緒にいる。
「フローリア・・・、俺がお前に転生させられてから、こうやって一緒に暮らすようになったんだよな。最初からお前にグイグイ迫られて、俺に惚れてくれて本当に嬉しい。それが、前世の頃からの事が始まりとしてもな。」
「だ、旦那様・・・、確かに、私はブルー様に恋をして、最初は転生体であるあなたに近づきました。でも、人間としてのあなたを見ていると・・・、いつの間にか、私は水上蒼太と言う人間に恋をしてしまったのです。あなたの全てが欲しいと・・・、ダメですか・・・」
まぁ、あの部屋を見れば分かるよ。どれだけ俺に恋焦がれていたか。ちょっとどころか、かなりやり過ぎだと思うけど・・・
「フローリアの気持ちは分かっているよ。だけど、俺が言いたいのはそんな事じゃないんだ。こうやってお前と一緒に過ごしているが、俺はお前にグイグイ押されて流されて一緒になったようなものだ。俺からお前に対して、俺の気持ちをハッキリと言ってなかった事をブルーから言われたよ。」
俺はフローリアの前に立ち、彼女の目を真っすぐ見つめた。
「フローリア、大好きだ。結婚して一緒になろう。」
彼女の目から涙が溢れる。
「はい・・・、これからもよろしくお願いします。」
「まさか、この言葉が一番最後になるとはな。規格外の俺とフローリアらしいよな。」
「おわっ!」
彼女が思いっきり俺の胸に飛び込んできた。
「う、嬉しさのあまり、もう我慢出来ません!ママも孫を待っています!今すぐ!」
「ま、待て!フローリア!落ち着け!ハウス!ハウス!」
「まだ美冬にも話があるからな!頼む!落ち着いてくれぇえええ!」
「はぁ、はぁ・・・、分かりました・・・、でも、少しだけですよ!」
頼むから、そのままずっと落ち着いていて欲しいよ・・・
「美冬・・・」
美冬の方に視線を向けると、彼女が俺の前にやって来た。
「ソータお兄ちゃん・・・」
彼女の顔が真っ赤だ。彼女が望んでいる事を俺が言うのを待っているのだろう。
「魂の世界で凍牙に会ったよ。すごいイケメンでお前に似ていたよ。それでな、凍牙に言われた。覚悟を決めろ!ってな。」
「美冬、この前の約束は覚えているよな。」
「もちろん!絶対に忘れる訳ないよ!」
「だよな。だからな、美冬・・・」
「結婚しよう。」
「うん!」
彼女は満面の笑みだ。しかし、涙が溢れてきている。
「あれ!おかしい・・・?何で涙が止まらないの・・・?」
泣いている彼女を泣き止むまで抱きしめ、優しくキスをしてあげた。
「さて、まだ早いし、取りあえず下に行こうか。みんなんも報告しないといけないからな。」
「旦那様・・・」
「ソータお兄ちゃん・・・」
フローリア!お前は落ち着いたんじゃないかのか?
それに美冬!お前は何故、殺気を放っている!俺を殺す気かぁあ!
「もう!我慢出来ません!さぁ!愛し合いましょう!」
「ママも待ってますから、早く子供をぉおおおおおおおお!!」
「ソータお兄ちゃん!今から男と女の戦いだよ!絶対に負けないからね!」
美冬・・・、何か勘違いしていないか・・・
「美冬さん、あなたは私と同じ旦那様の妻になりますよね。だから、これからは、私の事はお姉さんと思っても良いのですよ。美冬さんが妹なんて・・・、何て素晴らしいんでしょう・・・」
「うん!フローリアお姉ちゃん!」
「それに、今の旦那様はブルー様の記憶も戻ってますよね。私と美冬さんもあの時からの想いもぶつけないといけませんからねぇ~」
「そうだよ・・・、私もどれだけ待ったか・・・、もう!心も体も待ち切れない!」
だ、ダメだぁ・・・、神界でも屈指の実力者2人だ。どうやっても逃げきれるビジョンが見えない・・・
ブルー・・・、俺もお前みたいに逃げたい・・・
2人がジワジワ迫ってくる。目つきが今まで見た事がないほど凶悪だ!
お前達!俺に一体何をする気だ!
「さぁ!美冬さん!今から旦那様を徹底的に蹂躙しますよ!旦那様!覚悟ぉおおおおお!」
「お兄ちゃん・・・、死なないでね!いくよぉおおおおお!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~!」
一応、最後までストーリーは出来ています。
あと少しお付き合い下さい。