ゴーレム決戦②
翌日、ドラを呼び出してもらい移動を開始する。
さすがにドラの上では無理があるのでお姫様抱っこは諦めてもらったが、俺が胡坐をかいて座り、その上に座ってもらうようにした。
正面向きは恥ずかし過ぎて無理だ。もちろん、後ろ向きで座ってもらう。
「ソータ、お願い!」
「おぅ、分かった。」
「えへへ・・・、密着だ!」
「美冬・・・、お前、ちょっと変だぞ。何かあったのか?」
「違う!変なのはソータだよ。」
「俺?何で?」
「領主様に会ってから、ソータが難しい顔ばかりするようになった。色々と考えていると思うけど、いつものソータじゃない。だから私も不安になる・・・」
「そして、昨日のソータはもっと変だった。昨日は帰ってきてからずっと怖い顔してた。」
「そうだったんだ・・・、気が付かなかった・・・」
「美冬、悪いな・・・、気を遣わせてしまって・・・」
「大丈夫だよ。ソータはいつも元気でみんなに力を分けてくれる人なんだ。ソータが元気じゃないと、みんなが元気じゃなくなるからね。みんなも心配してたし・・・」
ランスの話で俺は無意識のうちの気負い過ぎていたんだな。
そして、昨日のギルドの話で・・・、美冬・・・、悪かった・・・
それから、美冬は俺に体を預けて気持ち良さそうにしていて、しばらく座って満足したのか、俺の膝の上から降りて離れていった。
その後、春菜が俺の隣に座った。
「春菜・・・、すまんな。みんなに心配かけさせて・・・」
「そうですよ。美冬さんが一番心配していましたよ。あの領主様とお会いした日から、夜、私達と一緒に寝る時に、あなたが1人でどこか遠くに行ってしまうのではないかとまで言っていましたし・・・」
「あなたの姿は、私達から見ても思い詰めている感じでしたよ。特に昨日は・・・、1人で抱え込むような事はしないで下さいね。」
「でもな・・・、こんな変な方法で訴えなくても・・・」
「あなたは自分が思っているよりも頑固なんですよ。普通に言っても聞かないと、美冬さんは思っていたのでしょうね。私もそう思います。」
「美冬さんがあんな提案した時、私達はすぐに察知しましたし・・・」
「それでお前達も美冬に乗ってきたのか。確かに、地球の時は周りからは頑固だと言われていた覚えが・・・」
そして、春菜が立ち上がり、俺の後ろに回って抱きしめてくれた。
「あなた・・・、私達は家族なんですから・・・、楽しい時も苦しい時も、みんな一緒です。もっと、私達を頼って下さい。相談されない事は、私達にとって最も寂しい事なんですから・・・」
「春菜・・・」
気が付くと、夏子と千秋が俺の両隣に座っていて、俺の手を握ってくれた。
「夏子、千秋・・・」
「旦那様、あんまり情けない事すると渚からお仕置きされるぞ。」
「そうなると、フローリア様もお仕置きに喜んで参加するかもな。」
「うわっ!リアルに想像してしまった・・・、そんな状況は勘弁だ。」
「ふふふ、私も想像してしまいました。あなたがフローリア様と渚さんにお仕置きされる姿を。」
「春菜、勘弁してくれ・・・」
チラッと美冬を見ると、美冬はニコニコした顔で俺達を見ていた。
みんなは俺から離れ、美冬はまた俺の膝の上に座った。
「美冬、悪かったな。」
「そうだよ・・・、凍牙お兄ちゃんもブルー様も私を置いて勝手にどこかに行って・・・」
後ろ姿でも分かる。美冬が泣いている。
「いなくなった・・・」
「だからソータ、勝手にどこにも行かないで欲しい・・・」
そうか・・・、俺の中にいる凍牙を美冬が『お兄ちゃん』と言っていた。まさか刀が兄の訳がない。凍牙は死んだんだ。死んで何かが起こり、刀となって俺の中にいるんだな。
そして、今、美冬が言った『ブルー様』は多分、俺の前世の事だろう。
美冬は肉親の別れを経験している・・・
俺が迂闊だった・・・
「美冬、ありがとうな・・・」
そう言って、俺は美冬を軽く抱きしめた。
「俺の間違いを、お前が教えてくれた。」
「何でも俺が1人でやるべきと考えてしまっていたよ。家族がいるのにな。美冬、もちろんお前も俺の家族だ。」
「約束する、美冬。俺は勝手にどこにも行かない。みんな一緒だ。」
「約束だよ。」
「約束だ!」
「分かった。ソータ、もう1つ約束して欲しいんだけど・・・」
「ん、何だ?」
「う~ん、今はいい。また話しする。」
「そうか・・・、分かったよ。」
「それと・・・、しばらくこのままでいて・・・」
「夏子、お前達の世界のゴーレムの事を教えて欲しいんだが・・・」
「俺の知っているゴーレムは想像の世界のモンスターだからな。」
「解説しよう。」
「我々の世界のゴーレムは、核を中心として、素体を周りに纏い活動する。核さえ潰せば活動は停止して、元の素材に戻る。ただ、この核が面倒でな、同じゴーレムでも核の場所は個体ごとにバラバラなんだ。元々、戦争用の無人兵器が始まりだったみたいで、同じ場所だと簡単に倒されてしまうからだろうな。」
「ほとんどが俺の知識と同じだぞ。」
「もしかして、誰か神界から地球に転生したヤツが、たまたま思い出して本にしたのかもしれないな。」
「その可能性はありうるな。」
「そして、ゴーレムの素体は一番多くが木を使ったウッドゴーレムだな。その次は泥を使ったマッドゴーレムだ。今回みたいなサンドゴーレムやストーンゴーレムは中級以上のゴーレム使いになる。最初から中級のゴーレムを使ってくるという事は、多分だが、相手は上級以上の使い手だな。やはり、神が関係しているのは間違いないだろう。」
「そうか・・・」
「それに、あの残虐性・・・、間違いなく邪神もどき絡みだな。」
「あぁ、私も間違いないと思う。それだけのレベルの神なら、金属系の素材を使ったゴーレムも必ず出て来るだろう。そうなると、我々の力でも厳しいものになるな。」
「夏子、ゴーレムは核が弱点と言ったよな。」
「そうだが。」
「ちょっと試したい魔法があるんだが、夏子はどう思うか教えてくれないか?」
俺はステータス・ウインドウを開き、魔法項目の設定を夏子に見せながら一緒に組み合わせてみる。
ステータス・ウインドウは俺とフローリア達しか見えないし、俺の脳内で表示も設定も可能だ。
しかも、ある程度なら魔法のカスタムもOKだ。
本当に便利な機能だよ。
「マップのマーカー表示をここにリンクして、指輪の念話機能と連動すればどうかな?」
「旦那様!これはすごい!こんな方法があるなんて思いも付かなかった。」
「これなら、かなり戦闘も楽になる。ヤツの驚く顔が見ものだな。」
「殺された彼らの敵討ちもしないとな。俺達は負けない!」
夏子と魔法の打ち合わせをしているうちに渓谷の街道に着いた。
モンスターが出現している事と、冒険者が惨殺された事で、今は誰も通らない。ドラで直接乗り込んでも問題無しだ。
「両側に崖が切り立っているけど、思ったよりも高くないな。これなら多少暴れても、落石や生き埋めになる可能性は低そうだ。でも、春菜、あんまり派手な魔法は使うなよ。」
「あなた、それくらい分かってますよ。あんまり言うと、間違ってあなたに魔法が飛ぶかもしれませんが・・・」
春菜がニコニコしている。しかし、雰囲気が怖い・・・
「春菜、悪い・・・、ちょっと言い過ぎた・・・」
「分かればよろしいです。」
「もう少し行くと、例の現場ですね。気を付けましょう。」
冒険者達が殺された場所に着いた。
「ここか?今のところは何も起きないな。もう少し進んでみるか・・・」
「何が起きるか分からないから、みんな注意してくれよ。」
「「「「はい!」」」」
しばらく進むと道の両脇に砂の塊がいくつか見えた。
「怪しいな・・・、ファイヤー・ボール!」
魔法を打ち込むと砂の塊が爆散したが、少しづつ集まって元に戻ろうとしていた。
「来るぞ!」
そう言った瞬間に大量のサンドゴーレムが現われた。
俺達の前だけではなく、さっきまで通った道のところにもだ。いわゆる挟み撃ちにされた状態だ。
「お出ましか・・・」
『きゃはははぁぁぁ!』
「子供の声?」
『ようこそ。僕の遊び場に。』
『普通の人間と天使ねぇ・・・、それと、変わった獣人もいるか・・・、少しは楽しめそうだね。』
「俺は遊びに来たつもりはない。お前も俺を狙っているのか?」
『さぁ、そんなの興味はないね。確か、一緒に来た神が「私がフローリアの夫になる」なんて言ってたかな。そんなの僕にはどうでもいい事なんだよ。僕は楽しければ何でもいいのさ。』
「そうかい。ならば、俺達がお前を遊んでやるよ。子供にはキツいお仕置きをしないとな。お前が本当に子供なら・・・」
『出来る訳ないよ。だって、僕は神だよ。たかが人間と天使ごときが僕に敵う訳がない。君みたいな人間が天使と一緒にいるくらいで調子に乗らないでもらいたな。』
『さて、僕が飽きるまで死なないでよ。』
『生きていたら研究材料にするからね。どっちみち死ぬには変わらないけど。』
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