ゴーレム決戦①
「何なんだ、こいつらは!」
「剣が通じない!」
男性が3人、女性が1人、モンスターに囲まれている。
そのモンスターの姿は、彼らの身長の2倍はあり、全身が砂の塊の様な人形だ。
男の1人が接近し再度切りつけるが、剣は空しく砂の人形の体をすり抜けるだけで、ダメージを与えた感じが全くしない。
「くそ!やっぱり手応えが全く無い!こんな砂だけで出来た人形のモンスターは初めて見るぞ!」
「デン!一旦、距離を取れ!何をするか分からんぞ!」
「分かっ・・・、何!ぐわぁぁぁ!」
人形がデンと呼ばれた男の顔を片手で鷲掴みにし、そのまま持ち上げる。デンが激しく暴れるが、人形はビクともしない。
「な、何だ!す、砂が口の中に・・・、や、止め・・・、ごぼぉ!」
持ち上げられていたデンの腹がみるみる大きくなる。しばらくデンは暴れていたが動かなくなった。しかし、腹はまだまだ大きくなっていき、大量の砂と内臓をぶちまけながら破裂した。人形はデンの死体を無造作に投げ捨て彼等に向き直る。
「デーーーン!」「くそぉぉぉ!」
他の男は叫ぶが、人形は全く変わらず彼らを囲んでいる。
「ミラ、お前はここから逃げてギルドに報告に向かえ。俺達の事は構うな。」
「で、でも・・・」
「お前はこの依頼が終わったら冒険者を辞めてビルと一緒になるんだろ。ここで死ぬ訳にはいかん!」
「俺の持っている魔法剣なら、切りつければヤツの動きは少しの間だけ止められる。多少はダメージを残せるみたいだからな。」
「だから、お前は必ず逃げ切れ!そして幸せになれよ。」
「死ぬのは俺達だけで十分だ・・・」もう1人の男も頷いた。
「分かったか!」
「ラ、ライ・・・」
どこからか声が聞こえる。
『困るなぁ~、狩られるウサギが逃げ出したらダメだよ。』
「ど、何処だ!」
『答える必要はないよ。だって・・・、君達はすぐに死ぬからね。精々、僕を楽しませてよ。』
「くそぉぉぉ!舐めるなぁぁぁぁぁ!」
ライが人形達に向かって駆け出し、剣を切りつける。切られた人形達の動きが止まった。
「ミラ!今だ、行けぇぇぇ!」
「はい!」ミラが駆け出し、人形の包囲網から出た瞬間だった。
『甘いよ。』
突然、ミラの目の前の地面が持ち上がり、中から砂人形よりも一回り大きい石像が出現した。
そのまま腕を振りかぶり、ミラを殴り潰すそうとする。
「ミラァァァァァーーー!」
もう一人の男がミラにタックルをして、ミラを突き飛ばした。
石像は、そのまま男を叩き潰した。その衝撃は激しく、地面は大きく陥没し、衝撃でミラは遠くに吹き飛ばされてしまった。
『あ!、ちょっとパワーが強過ぎたかな?』
ミラは数回バウンドし転がったが、ヨロヨロと立ち上がり、全身血だらけになりながらも必死で駆け出し、その場から走り去っていった。
『ちっ!逃がしたか・・・』
『仕方ないなぁ~、残った君で楽しませてもらうよ。君の顔が絶望と恐怖で極限まで歪んでしまうまでね。』
残ったライは砂人形に囲まれ放心状態になっていた。
『さぁ、楽しもうじゃないか・・・、きゃはははぁぁぁ~~~~!』
俺は今、ギルドの執務室の中にいる。ギルドマスターに呼ばれたからだ。
「蒼太様、お呼びして申し訳ありません。」
ギルドマスターが直立不動の姿勢から挨拶をしてくれる。
「ギルドマスター、色々と事情を知ったからといって、俺に対する態度を急に変えなくてもいいよ。偉い人に頭を下げられると、何かむず痒いし・・・」
「そう言われましても・・・、ランス様より最大の誠意をもって対応をするよう言われていますので・・・」
「そこは臨機応変にして、いつも通りの態度でいいと思うよ。さぁ、普通に座って!」
「蒼太様が仰るなら・・・」
「この感じなら落ち着くよ。マスター、ありがとう。」「恐縮です。」
う~ん、まだ固いけど仕方ないか・・・
「それで、呼びだした用件は?」
ギルドマスターは地図を広げた。
「ここの渓谷ですが、普段は安全に通行出来る街道があります。しかし、ここにモンスターが現われるようになり、被害の報告も出始めました。」
「それで、我がギルドからも4人の冒険者を派遣し調査に赴きましたが・・・」
ギルドマスターの表情が暗い。余程の事があったみたいだ。
「3人が死亡。1人が再起不能の重症です・・・」
「何だと!」
「生き残った彼女からの報告によると、出てきたモンスターは砂で出来た人形と大きな石像。そして、謎の声です。砂の人形と石像は、サンドゴーレムとストーンゴーレムで間違いないでしょう。しかし、このモンスターはこの世界にはいません。謎の声もしたとの事ですから、他の世界から持ち込まれたものと思われます。」
「そうなると、謎の声は神が関係しているのは間違いないな。」
「私もそう思います。」
「そして、ギルドから再度慎重に現地へ行き、3人の死体を回収しました。」
「1人は腹に砂を詰め込め破裂させ、1人は原型を留めない程に潰され、最後の1人は全身の骨を細かく折られ皮を剥がされる拷問を受けて死亡してました。」
「完全に快楽殺人だな・・・」
「それが邪神に堕ちた神の行動の基本です。自分の世界の人間を全て虫けらのように扱い、自分の快楽の為だけに殺して楽しむ・・・、中には人間同士で争いを起こさせ、ゲームのように戦争させ楽しむ。そのような邪神もいます。我が主のランス様の主人もそのような神でした。」
「ですが、邪神認定される前に蒼太様が倒してくれたおかげで、ランス様を始め我々が神より滅ぼされる事が無くなり、とても感謝しています。」
「偶然だったけど、みんなが助かって良かったと思っているよ。」
「そして、生き残った1人でしたが、この依頼を完了したあかつきには、門番のビルと呼ばれる青年と結婚する筈でしたが・・・」
「例え傷が治っても、もう彼女は普通に日常生活を送る事は出来ないでしょう。それだけの怪我です。幸せな未来が絶望に落とされるとは・・・」
「ビルは俺達をこのギルドに案内してくれた男だぞ。まさか、そんな・・・」
俺の心は怒りではち切れそうになった。
「絶対に、その神は許せん!神じゃなくてクズだ!俺が必ず倒す!」
「お願いします。」
「それと、彼女の治療を受けている場所を教えてくれないかな?」
我が家に戻り、ギルドの依頼の件で家族会議を開始する。
「話を聞く限り、今回は相当邪悪な神に間違いない。」
「かなり危険だと思うし、みんなを巻き込みたくないのが本音だ。出来れば、俺1人で行きたいと思っている。」
「あなた、そんな事言わないで下さい。」
「でも、危険だぞ!」
「そんな事、言わないで下さい。そう言うなら、あなたを縛って、私達だけで行きますよ。」
「そうだ・・・」
夏子がいつの間にか渚に変わっている。しかも、手に縄まで持っているし・・・
「わ、悪かった・・・、ちょっと熱くなってた・・・」
「そうですよ。」4人の視線が痛い・・・
「それと、こっそり黙って出て行かないで下さいね。」
うっ!読まれてる・・・
本当は夜中のうちにこっそりと行くつもりだった。
ドラが使えなくても、俺1人なら飛翔魔法で飛んでいけるからな。
「わ、分かった・・・」
「本当ですよ。」
「今夜はフローリア様は神殿で泊まる事になっていますので、私と夏子さんがベッドでずっと朝まで監視しますからね。」
「それでは話を元に戻します。」
「神レベルのゴーレム使いとなると、ストーンゴーレムが一番強い事はありませんね。更に強力な素材を使ったゴーレムが出てくるでしょう。気を引き締めていかないと・・・」
「春菜の言う通りだな。みんな、気を付けて頑張ってくれな。」
「「「「はい!」」」」
「それと、まだ馬車が届いていないから、今回はドラで行こうと思う。夏子、頼んだぞ。」
「任せろ。」
「ソータ、一つ提案がある。ドラで移動だと何もする事がないから、その間、少しだけでもいいからお姫様抱っこして欲しい。私だけまだだし・・・」
「はっ!美冬・・・、何を言うんだ・・・?」
え!何で?お姫様抱っこが何が関係あるの?
確かにドラの上に乗っているだけだから暇だけど・・・
あの塔の戦い以来、美冬が特に甘えてくるようになったしな。
まぁ、暇だから少しくらい付き合ってもいいか。
「それは良い意見だ。我々も順番にお姫様抱っこをしてもらおうじゃないか。」
おい!夏子まで何を言っている。
「「賛成~!」」
春菜も千秋も・・・、ピクニックじゃないんだから・・・
まぁ、それでみんなのやる気が上がれば良いことか・・・
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