領主④
何だと!何故それを知っている!
俺は最大級の警戒をし、彼女達はいつでも戦闘に入れるよう身構えた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫さ。こちらは敵対する意思はないからね。それ以上に敵対なんかしてしまうと僕達が逆に滅ぼされてしまうだろうしね。」
「本当にか?」
「本当だよ。でないと、こんな簡単に顔を会わせる事もしないし、こんな話もしないだろ?」
「本当に罠に嵌めるつもりなら、もっと効率的に行うものだしね。」
「そう言われば確かだが・・・」
相手のしゃべり方がチャラいので今一信用出来ないのだが・・・
「ここで立ち話も何だから、少し場所を変えて話をしようじゃないか。君も聞きたい事がたくさんあるだろうしね。」
俺達は領主達に着いていき応接室に通された。
「うわぁ~、豪華・・・、こんなの神界でもそう見ないですよ。」「同感だ。」
春菜達が目をキラキラさせて部屋の中を見渡していた。俺もここまで立派な部屋はそう思い浮かばない。
貴族って、そんなに儲かるのかな?
「これでも10代は続く家系だから、それなりに蓄えはあるからね。」
領主がドヤ顔で俺達にアピールしていた。
落ち着いたところを見計らって、領主が席を勧め俺達は座る。
領主ファミリーと向かい合う形に座った。
「さて、色々と話しをしたい事があるだろうが、まずは自己紹介をしよう。私はここの領主でランス・テルビールだよ。そして隣にいるのが妻のマーガレットと、娘のキャサリンだ。」
「君達の事は分かっているから自己紹介はしなくて大丈夫だよ。」
「この屋敷にいる間は、僕達に対しても敬語はいらないし、出来ればして欲しくないな。堅苦しいのは嫌いなもので・・・」
「分かった。いきなり聞くが、何で俺達の事を知っている。しかも、フローリアの事まで・・・」
「それはね、僕はデスブリンガー様の部下だからだよ。」
「あっ、今は元部下かな。」
「何だって!デスブリンガーだと!」
俺達は一瞬にして全員一斉に戦闘態勢に入る。
やはり、罠だったか?
「だから、そんなに警戒しなくても良いとさっき言ってただろ。落ち着いてもらいたいな。」
「あぁ・・・、でも普通は驚くだろ?」
「そうだね。その驚いた顔が見れて面白かったよ。予想通りの反応でね。彼程の神を倒したのなら、僕なんて簡単に瞬殺されてしまうよ。」
「部下であるという事は、僕も神族なんだよね。」
ランスはケラケラ笑うが、俺は笑えないよ。俺もあれから多少強くなった自信はあるが、彼の強さは全く分からない。こういうタイプは本当はかなり強いが、実力はしっかり隠しておくんだよな。
「まずは、ギルドの依頼のお礼を先に言わせてもらおう。娘の為に頑張ってくれてありがとう。」
「親としては子供の為に頑張るのは当たり前だし、それに応えられて良かったよ。」
「それがね、この依頼に関して、ちょっとマーガレットからかなり怒られてね・・・」
「どうしてだ?」
「実は、僕は昔、フローリア様に求婚した神の1人だったのさ。彼女の『私の伴侶になりたければ、私を倒してみろ!』との言葉で挑戦したけど、あっという間にミンチにされちゃってね。さすがに諦めてしまって、今の妻であるマーガレットと夫婦になったのさ。」
さすがフローリアだな。そんな古風な婿選びをするなんて・・・
というか、あのフローリアに勝てる神なんている訳ない!
最初から断る前提の無理ゲーだったみたいだね。
「神族は子孫を残す考えは薄いし、子供もなかなか出来ないんだ。だから、マーガレットと一緒になってからかなり経って、やっと私達にも子供が出来てとても喜んだよ。念願の親になれる。でもね、キャサリンが病気になってしまって、慌てて最高の薬を作ろうとしたら素材が足りないと・・・、それで依頼を出したんだけど、娘の病気は実は単なる風邪と分かったもので・・・」
ランスがバツの悪そうな顔をしている。
「最後は塔まで無くなってしまう、こんな大げさな事になってしまってね・・・」
「それは確かに大げさ過ぎだな。でもな、俺も子供に何かあった時は慌てる気持ちはよく分かる。それだけ愛情が深い証だという事だよ。堂々としてればいいさ。」
「そう言ってもらえると助かるよ。」
「これでも子供を3人育てたからな。当時としては俺は珍しいイクメンだったし、育児に関しては俺の方が先輩だよ。」
「キャサリンも良かったな。お父さんにこれだけ愛されているんだからな。」
「うん!」キャサリンが元気よく返事してくれた。
これだけ可愛い娘なら、超親バカになるのもよく分かる。でもな・・・、ランス、あんまり構い過ぎると逆に嫌われるぞ。特にこれからの時期の女の子は色々と難しいからな。
「話は変わるが、デスブリンガーの部下という事だったな。それにしては、かなり長い間、この世界にいるように感じるんだが・・・、俺はこの世界に来てから1ヵ月くらいしか経っていないはずだぞ。」
「その点に関しても説明するよ。」
「フローリア様がこの世界を作ってから、この世界の時間は千年以上経過している。」
「何だと・・・、どうして・・・」
「この世界が出来て君が来るまでの間に、フローリア様が時間軸をずらし、この世界だけが普通よりも早く時間を進めていたからさ。フローリア様くらいの神ならそれくらいの事は簡単だし、世界が出来ても、最初はどうしてもチグハグな部分が出てくる。君も経験してるだろ?バルムの街に入った時、変な事がなかったかい?」
そういえば、変な門番がいたな。急に目が見えなくなって悶えていたら、いつの間にか普通の門番になっていたが・・・
「その反応だと何かあったみたいだね。その為に世界を馴染ます必要があるんだ。時間を進めている間にデスブリンガー様を始め、何人もの神族がこの世界に来たという事だよ。ほとんどの神族は1人で来ているが、デスブリンガー様みたいに僕達部下を連れて来ている神族もいる。だから、僕は変身魔法と記憶操作を使って、この家の代々の当主を演じて今に至っているのさ。この屋敷の使用人は全て彼か僕の部下だから秘密が漏れる心配もないよ。それで、僕もこのように楽に話が出来るのさ。」
「ちなみに、君の街のギルドマスターも僕の部下の天使だよ。」
「そうなんだ。それで急に態度が変わった訳なんだ。理解したよ。」
ランスの表情が急に真剣になり、俺の目をじっと見つた。
「実のところ、デスブリンガー様はもう少しで邪神認定されて、粛正される一歩手前の状態だったのさ。それだけ自分の世界で悪さをしていたしね。戦った君も彼の邪悪さを実感しただろ。そうなると、僕達部下も一緒に粛正される。折角、僕に家族が出来たというのに・・・」
「そんなに神の世界は厳しいのか・・・」
「神の価値観は君達とは違うよ。世界が変われば価値観も変わるという事さ。君達のおかげで僕と家族は救われた。僕だけじゃない、彼の部下だった神や天使が全員救われたんだ。正直、みんな彼に付いていけなくなっていたし、彼が君に滅ぼされてみんな感謝しているくらいだよ。」
「そして、僕達はこの世界をとても気に入っている。神界を捨て第2の故郷にしたいと考えているくらいなんだ。」
ランスが急に静かになり沈黙が流れたが、決意を決めたような表情になり俺を見つめる。
「その為に君にこの世界の神になって欲しい。それだけの力もあると確信している。僕達全員のお願いだ。それを成し遂げられるよう出来る限り協力すると約束しよう。」
元々この世界に来た目的は、この世界で邪神もどきを倒し、神格を得てフローリアと一緒に神界に住む話だった。
確かにフローリアから、最終的にはこの世界の神になると言われていたが・・・
まさかのこの世界の住民から俺に神になって欲しいとの懇願だと・・・
つい1ヵ月ほど前までは、ただの人間だった俺にどうしてそこまで・・・
俺の頭では整理がつかない。
だからといって見捨てるなんて、どうして出来るか・・・
「ランスは俺の事を強いと言ってくれた。だが、今の俺の強さはフローリアからの借り物の力だ・・・」
「しかし、約束する。本当の力で強くなって、必ず神になると。」
「俺が目指すのは、みんなが笑いあい幸せになる事だ。」
「その幸せの中にランス達も入っている世界にしたい。」
2人はキャサリンを抱きながら泣いていた。
「ありがとうございます。この子の未来の為にも・・・」
その後、ランスは俺達を歓迎の食事会でもてなしてくれた。
一晩泊めてもらい、翌日、バルムの街に戻った。
みんなには悪いが、転移魔法で戻らせてもらったけどね。やっぱり、あの馬車の乗り心地はねぇ・・・
地球からちゃんとした馬車が届いたら、みんなで旅行に行こうな。
その夜
寝る前にベッドの隣にあるソファーに座り、フローリアと話をしていた。
フローリアの隣には千秋がいる。
「フローリア、神の世界って厳しいんだな。邪神に堕ちた神本人だけでなく、その配下まで一緒に滅ぼしてしまうとは・・・」
「そうです。我々神は力がありますから、常にその力を正しい方向に向ける義務があります。力に溺れた者には一切許す事はしませんし、それに加担した者も全て同罪に扱いますね。それだけ厳しくなるくらい、神の力は強力ですからね。」
「それにしても、俺が神になってみんなを幸せにして欲しいか・・・、神になって欲しいって、フローリア以外から初めて言われたな。約束したけど、本当に大丈夫かな・・・」
「大丈夫ですよ。旦那様の夢は叶いますよ。この私がいますからね。」
「そして、あの人の夢でもありますし・・・」
「フローリア・・・」
「す、すみません!ちょっと感傷に浸りました・・・」
「蒼太さん、私はあなたに救われた。次は私が手助けする番だ。」
千秋が隣に座り抱きついてきた。
「旦那様・・・」
「何だ、フローリア・・・」
「気付いていないようですが、旦那様が助けた人はみんな幸せになっているのですよ。そして、旦那様を中心に集まってきています。私や彼女のように・・・」
「千秋さんだけじゃありません。春菜さんや夏子さんもそうですし、教会やギルドも旦那様を中心にして変わってきているでしょ?」
「そう言われるとなぁ・・・、ギルドはちょっと違うと思うが、それでもみんな頑張るようになっているか。」
「それが旦那様の力なんですよ。」
フローリアが千秋と反対側に座り、俺に抱きついた。
「単純な物理的な力や魔力とは関係ない、人を引きつけ幸せに変える力・・・、それをこの世界中に・・・」
「そうか・・・、自覚は無いけどな・・・、頑張るよ。」
フローリアと千秋が俺を見つめ微笑んでいる。そして、そのまま時間が流れる・・・
「さて!充分に旦那様を堪能出来ましたから、千秋さん!これから2人だけで旦那様をもっともっと堪能しましょう!」
「フローリア様!了解です!」
2人の目が捕食者の目になっている・・・、さっきまでのいい雰囲気はどこに行った!
「ふふふ・・・、この雰囲気で素直に眠れると思ったのですか?甘いですよ!」
2人に両腕を極められたまま、ベッドに引きずり込まれてしまった。
「やっぱり、こうなるのか・・・、普通に眠りたい・・・」
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