領主②
「少し取り乱し失礼しました。」
「今後は私が蒼太さんの担当をさせていただきますね。よろしくお願いします。」
ウエンディが微笑みながら俺に挨拶してくれた。
マリーは・・・、あ、ダメだ。既に灰になっている。
「マリーさんは、蒼太さんに対する言動をギルドマスターに注意されてしまって・・・、さすがにアピールが過ぎるというか・・・」
「そういう事か・・・、別に何とも思っていなかったけどな。」
「それはそれで、マリーさんも可哀想ですね。まぁ、さすがにストーカーまで堕ちる事は無いとは思いますけど・・・」
「ウエンディも酷い事言うな。あのタイプは意外とタフだから大丈夫だろう。」
「改めて、ウエンディ、こちらこそ。よろしく頼むよ。」
「でもさぁ・・・、ウエンディはもう結婚しているんだろ?ギルドを辞めて家に入ることはしないのか?」
「はい、最初はそれも考えていたのですが・・・、主人が頑張っていますから、私もギルドで出来る限りサポートする事にしました。子供が出来るまでは頑張ろうと思います。」
「良い奥さんだな。ゴンザが羨ましいよ。」
「そ、そんな・・・、恥ずかしいです・・・」
ウエンディが照れている。さっきまで俺は彼女は普通の常識人だと思っていた。しかし、あの光景で俺は確信した!
彼女は間違いなくフローリア側の人間だ!フローリア程ではないと思うが、かなりというか相当重いぞ・・・
ゴンザよ・・・、俺みたいになるな。う~ん、もう遅いか・・・
一度、ゴンザと2人っきりで酒を飲みに行きたいな。同じ境遇の心の友として・・・
「それでは、ギルドマスターのところにご案内しますね。」
【渚、ちょとギルドマスターのところに行ってくる。】
【分かった。私はしばらく下僕にご褒美を与えておくよ。】
【程々にしておいてくれな。これ以上中毒者を増やされてもたまらん。】
そして、俺は今、ギルドマスターの執務室にいる。
「やあ、久しぶりだね。ずっと連絡がなかったから、君が他の街に引っ越してしまったかと危惧していたもので・・・・確認の為に使いを出したのだが、連絡が取れて良かったよ。」
「俺はこの街を気に入っているし、余程の事がない限りこの街を出て行きませんから安心して下さい。」
「そう言ってもらえると助かる。それでだが、例の塔の件だが・・・」
やはりこの話しか・・・
「あ、あれは事故みたいなもので・・・」
ヤバイ!どう言い訳すれば納得してもらえるか・・・、あの惨状は『規格外で』と言って済まされないし・・・
「あれだけの大きさの塔そのものが消滅していて、塔を中心として一帯は焼け野原になっている。周りの木々は広範囲に亘ってなぎ倒されているから、どれだけの衝撃があったのか推測も出来ない程だったみたいで、森のあちこちからモンスターや魔獣が森の外に溢れてきたよ。まぁ、そんなに強い魔物は出てこなかったし、近隣のギルドが集結して討伐したから被害は出なかったのが、不幸中の幸いだったかもしれないね。」
ギルドマスターは一度話を止めて、ため息を吐いた。
「調査として、各地のギルドの冒険者が現地に入ったが、原因は全くの不明だったよ。各ギルドマスターが頭を抱えてしまったが・・・」
厳しい表情で俺を見ながら話していたが、急に表情が柔らかくなる。
「しかし、領主様から私に君達の事を教えてもらったよ。おかげで納得出来た。今までの色んな事も含めてね。」
「私は君達はただの強い人間だとしか思っていなかったからね。おかげで全て理解出来た。」
「何で俺達の事を領主が知っている?面識どころか、俺は領主の名前すら知らないんだぞ。」
「これ以上は私の口から言えない。そして、領主様は君達に会いたがっているよ。いや、是非とも会ってもらいたい。お互いの為にもね。」
「何か、胡散臭い話だけどな・・・」
「そこは私の顔を立てると思って欲しい。」
「分かった。ギルドマスターには色々と世話になってるしな。俺達を罠に嵌めるような事はしないと信じるよ。」
「ありがとう。」
ギルドマスターはそう言って地図を広げた。
「ここから南東に向かっていくと、テルビールという街に着く。ここに領主様がいらっしゃる。」
「馬車で5日ほどの距離だが、ドラゴンで直接来ても良いともお話している。」
「何故、ドラゴンの事を知っている・・・」
「そう警戒してしないで欲しい。それを含めて領主様とお話しすれば全部分かる事だよ。」
領主は俺達の事を色々と分かっているみたいだ。警戒すべきか・・・
でも、本当に俺達を罠に嵌めるつもりなら、こんな話はしないだろう。何も知らないフリをして、油断を誘ってから行動する筈だしな。
ここは乗ってみるか・・・
「分かった。今日は準備をして、明日の朝に出発する。」
「それと、今回は馬車を使って行ってみたいが、俺達は馬車を持っていないんだが・・・」
「それなら心配ない。馬と馬車はギルドで貸し出しも行っているしな。それなら問題ないはずだ。」
「色々と助かる。それじゃ、領主様に伝えておいてくれな。」
「分かった。街に着いたら門番にギルドカードを見せてくれ。そうすれば領主様のところに案内してもらうように話をつけておくよ。」
「ありがとう。それでは明日な。」
受付に戻ると・・・・
渚が人間ピラミッドの上に座っていた・・・
しかも、すごく晴々した顔だ・・・
そして、人間ピラミッドになった男達の幸悦した顔・・・
俺は誓った!絶対にあんな男達の仲間にならないと・・・
渚が俺を見つけるとピラミッドの上から華麗に飛び降り、駆け寄って腕を組んできた。
顔が上気している。
「旦那様・・・、久しぶりに本能を解き放てる事が出来て、もう最高の気分でした・・・」
「そ、そうか・・・」
人間ピラミッドの方を見ると、いつの間にか見事な整列をしていた。
渚がスッと男達の前に出る。
「下僕ども!最高か!」
「「「「「最高です!」」」」」
「更なるご褒美が欲しければ、下僕としてもっと精進しろ!」
「「「「「はっ!渚様!」」」」」
「それでは、このギルドの為に頑張れ!そうすれば、またご褒美をあげるぞ!」
「「「「「渚様~~~~~!」」」」」
一体、何なんだ、この光景は・・・
頭が変になりそう・・・
「旦那様・・・、どうですか?私なりに考えて、旦那様のお役に立てるよう頑張りましたが・・・」
「幸せを与えてくれたお礼です。これでも私は義理堅いのですよ。」
「お、おぅ・・・」
「そう言えば、あいつら『渚』と呼んでたけど、大丈夫か?」
「それは問題ありません。彼らは完全なる下僕と化していますので安心して下さい。」
「あ、あぁ・・・」
渚・・・、気持ちは分かった・・・、でも、方向性が完全に違ってるぞ・・・
見ろ!あのウエンディも引いてるし・・・
「あ、あんな技術が・・・、今夜、ぜひ試してみなくては・・・、腕が鳴ります。」
おい!違うのか!
ゴンザは・・・
ウエンディと何かアイコンタクトしてるぞ!今夜の合図か?
ゴンザが駆け寄ってきた。
「旦那!我がパーティーを渚様に屈強な軍団に変えていただきました。これからはバリバリ依頼をこなしますよ。期待して下さい!」
かなりカオスになったと思ってたが・・・
一応、良い方向に行ったみたいだ。
ただなぁ・・・、このギルドの行く末がとても心配になる・・・
明日の準備をする為に家に帰って、みんなと打ち合わせを行った。
ギルドの惨状を話すと、春菜と千秋は腹を抱えて笑ってるし・・・・
「いやぁ・・・、ギルドもとうとう変態の巣窟と化してしまったか・・・」
「千秋、それは大丈夫だ。躾は完璧で、普段は紳士的な態度だぞ。しかも、戦闘時はアドレナリン全開になるようにしたから、下手なモンスターや野盗よりは遥かに強くなっている。この辺のギルドの中では最強の軍団を作ったつもりだ。」
本当に大丈夫かは明日行けば分かるか。渚の言葉を信じよう。
「ところで、領主の件はどう思う?」
「そうですねぇ・・・、普通に考えると非常にきな臭い予感しかしませんが、ここまでオープンにしていると逆に信用できる話かもしれませんね。」
「それに、ドラゴンの話まで出して、それを恐れていないなら、仮定ですが、領主様は我々神族か天使の関係者の可能性も高いです。」
「春菜もそう思うか・・・」
「ですが、我々、渚さんも含め5人は蒼太さんの決定に従います。」
「そうか・・・、責任重大だな。」
「よし!俺はあえて領主の誘いに乗ってみる。お前達は俺が全力で守るからな。」
「「「「はい!」」」」
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